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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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29 . December


明治4年、岩倉使節団に同行した日本、プロイセンと出会う。


日本から昔話を訊かされるドイツ。






拍手[21回]





 そうですねぇ。私が師匠と初めてお会いしたのは、130年程前になりますか。
 
 アメリカさんがやって来て、バタバタと開国して。あのころの私は引きこもってた部屋から無理矢理引きずり出されて、大層、混乱しておりましたねぇ。
 浦賀に黒船が来航し国内も大混乱してましたから。やれ、今の幕藩体制を維持する佐幕だ、倒幕して尊王攘夷だ、いや開国すべきだと世論も混沌としてましたねぇ。出来れば引きこもっていたかったんですけどね。でも、時代の流れは自然に古いものから新しいものに流れて変革する時だったんでしょう。
 結局、アメリカさんに押し切られて鎖国を解いて、その結果、国内では矢継ぎ早に押し寄せる西洋文化に…散切頭(ザンギリあたま)をたたいて見れば文明開化の音がする…なんて、言ってましたけね。それが、ほんの百年前…本当に時代は目まぐるしい勢いで流れていきますね。その流れに乗り、アメリカさんや欧州の皆さんに負けないように列強の一員となるために、私も国民も一丸になってました。私は国ですから、国民を守る義務がありますし、植民地化される訳にはいきませんでしたからね。まあこの時点で開国し、世界を知った私は運が良かったのでしょう。後数年遅れていたら、私はここにはいなかったんじゃないかって、時々、思うんですよ。
 早く世界の皆さんに追いつくために、列強に倣い旧態然とした体制を改め、軍の整備や憲法の制定をすることになりました。私の家には国全体で守ると言う確固たる法律はありませんでしたから、他国の方に学ばせて頂きましょうと言う事になりまして、新しく出来た政府で各国に使節団を派遣することになりましてね、その中に私も一員として参加させて頂くことになりました。
 アメリカさんのところから、イギリスさん、フランスさんと…、その使節団で訪れた一国、プロイセン王国…当時はドイツ帝国に統一されていましたが、私が師匠と呼ぶ方の国でした。

「この度はお目通り頂き有難うございます。欧米各国の国家制度、産業技術、伝統文化などを視察させて頂きたく思います。現在我が国は開国したばかりで、産業や、政治制度、司法制度、社会制度など、学ばせて頂くことばかりです。ドイツ帝国はこの二年で領邦を纏め、ひとつの国となったと伺いました。私の国も小さな諸藩が集まり、未だ結びつきは弱く、そこをどうしていくのか。いかに国として今後、欧州の皆様やアメリカさんに追いつくかが課題となっております。国として必要なものは第一に軍備、第二、憲法と考えております。是非、貴国の…」

ベルリンの王宮の一室で他の使節団の皆と皇帝陛下に初めて謁見したときは、首相のビスマルク氏と師匠は御同席されてました。皆、師匠の容姿には驚いていました。まるで白兎のよう。欧米人はアメリカさん、フランスさん、イギリスさんと金髪碧眼という偏見が私にあったからなんでしょうが、銀糸に紅玉の赤い眼はとてもきれいで、こんなに美しいひとが存在するのかと一瞬、言葉が出てきませんでしたとも。そして、血のように赤い瞳に畏敬の念さえ覚えましたよ。ええ…。その後、師匠が滞在期間中は私の面倒を見てくださることになり、年甲斐もなく舞い上がってしまったんですよねぇ。近年稀に見る長口上で改めて挨拶したところ、師匠は、

「っしゅん!!」

話を遮るようにくしゃみをし、短く跳ねた髪を苛立たしげに掻き毟り、それに絶句した私を睨んでこう言ったんです。

「お前の話、長ぇ!!もっと、簡潔に話せ。俺はまどろっこしいのは嫌いだ!」

軍隊仕込み…いえ、もともと国家を要した軍隊と言われるような方に恫喝とはいきませんが、大きな声でそう言われ、驚いて声も出ません。でも、私も日本男児、ここで怯んでいては列強の仲間入りなど、夢になってしまいます。
 
「貴国の軍備と憲法を学ばせてください!!」

あんなに大声を出したのは何百年ぶりだったでしょうか…。頑張りましたよ、私は。…恐る恐る、師匠の顔を窺いますと、師匠はあの赤い目で探るようにじっと私を見ておられました。
「…イギリスとフランスからちょっとだけ、お前のこと聞いてるぜ。東洋のちっせー島国だが、順応力が高く、物凄い速さで色んなものを吸収し、成長してるってな。…そういうのは嫌いじゃねぇ。俺に教えられることなら何でも教えてやるぜ」
ケセセ…と不思議な笑い声を立てる師匠が背中をばしんと叩くので私、転びそうになりました。黙っていれば繊細な外見を裏切りざっくばらんな方で、仰った通り、私のつまらない質問にも何でも答えて頂きました。知らないことはその場で知らないと一蹴されましたが、几帳面な方らしくわざわざ調べて、後日、私に教授してくれることもありました。

 前年、私の国で海軍をイギリスさんに、陸軍をフランスさんに倣う準備をしておりましたが、師匠が同年に起した戦争でフランスさんとの戦争に勝利し、その結果を考え見て、師匠から軍備を学ぶことにしたのだと言うと、師匠は笑いながら私に言いました。

「ドイツ統一のためには、血と鉄が必要だった。フランスには悪いことしたが、まあ、どっこいどっこいだろ」

どっこいどっこいが…ナポレオン戦争のことを言っておられたのだと解ったのは随分、後になってからです。私、そのころ絶賛引きこもり中でしたしね。その流れで、どう軍を率い、フランスさんに勝利したのかを聞きました。情報戦だったと師匠は言います。戦争では情報を掌握し、自在に操るものが勝機を握ると。それが外交にも通じるのだと。このときのお話は大変、参考になりました。でもこの戦争の理由がドイツの統一であり、ドイツさんに全てを譲る為だったと、師匠の口からそのお話を伺った時には私は驚きました。

 国にとって、代代わりとは衰退。死を意味します。

それは国である者にとって、漠然たる恐怖です。現に師匠はドイツ帝国の盟主でありながら国家としての意識を徐々に失っていき、プロイセンの住民はプロイセン国民であるよりもむしろドイツ帝国臣民であることを誇るようになっていました。それは国としての意義を失い緩やかに衰退していく最中でした。それを構わないのだと師匠は笑って言うのです。
「…いいんだよ。俺は昔、ドイツに死にかけてるところを助けられたからな。その恩返しだ。…それに、ドイツはもともとドイツのものだったんだ。それをドイツに還す…それが、俺の使命だったんだろう」
そう言う師匠の眼は穏やかで、慈愛さえ滲ませていました。

「…まあ、俺はもともと騎士だしな、ドイツを王と仰ぎ、従うのが性にあってんだよな」

そう言って笑った師匠の目に消えゆく国の悲壮感は全くなく、寧ろ、あなたが国として成り立ったとの誇り高く思っているようでもありました。…兄と言う存在は、寧ろ私にとっては疎ましいものでしたが、師匠のような方もいらっしゃるのだなと思ったものです。
 
 
 そうそう、あなたには一度だけ、お目にかかることが出来ましたねぇ。

あの頃のあなたはひとで言うと齢14、5歳と言ったところでしょうか。絵画に出てくるような美少年で…これが、あのムキムキドイツさんになるだなんて、…ああ、すいません。でも、いくら想像豊かな私だって想像出来ませんでしたよ。あなたがこんなに立派な青年になるなんて。師匠の薫陶の賜物ですかねぇ。

「…ライヒ、どうした?」

師匠に憲法の骨子を教授頂いている最中でした。控えめなノックの音ともに茶器を盆に載せたあなたが入ってきたのは。あなたは真っ先に私に丁寧に自己紹介をしてくれましたね。それに眼を細めた師匠は鬼教官の顔から明らかにやさしいお兄さんの顔になっていましたよ。
「兄さんが日本に憲法のことについて、教授していると訊いて。…おれも同席しても構わないだろうか?」
師匠とは対照的な青く澄んだ蒼玉に蜂蜜色の金の髪。白磁のような白い肌。師匠と並ぶと対照的です。全てが鏡合せ、銀と金、赤と青。思わず見惚れてしまいましたよ。ええ。
「日本が構わないなら、俺はいいぜ」
「…日本、おれも同席させてもらって構わないだろうか?」
「はい。私は構いませんよ」
いや、あの時間は至福で眼福ものでした。右手にあなた、左手に師匠。まさにハーレムでしたねぇ。…え、話を元に戻せ?…ああ、すみません。年な所為か、直ぐに話が飛んでしまいます。
 
 私にとって、師匠は本当にいい先生でした。

「憲法はその国の歴史・伝統・文化に立脚したものでなければならない。じゃあねぇと、根付かないし、国民に受け入れられねぇ。一国の憲法を制定しようというからには、まずお前がお前自身の歴史がどうだったのかを振り返らないとだな」
…と、具体的なアドバイスを頂き、親身になって草案の骨子を考えて頂きました。そして、出来上がった憲法は半世紀以上に渡って立憲政治を確固たるものにしてくれました。他の方々も色々と親切にして頂きましたが、師匠には私を利用してやろうとかそう言った思惑が一切感じられなかった。…まあ、東洋の小さな島国には興味がなかっただけなのかもしれませんが、あなたが成長し立派な国になることだけを思っておられるようでしたから、…それが羨ましく思えました。

 私はあなた達ふたりの、師匠はあなたを弟と呼び、あなたは師匠を兄と呼ぶ、そんな関係が羨ましかったし、眩しかった。…だから、私も師匠の特別になりたかった。でもまあ、師匠にとっての一番の特別は弟であるあなたがいますし、弟になるにしても私の方が師匠より年上ですからねぇ…ならせめて、二番目の特別、せめてプロイセンさんと師弟関係になれるならと思い、私はプロイセンさんを、

「師匠とお呼びしてるんですよ」

日本は眼を細めて穏やかに笑う。ドイツは日本の顔を眺め、当に冷めた湯のみへと手を伸ばす。…以前から気になっていたことを訊いたら、そこに行くまでにとてつもなく長い話を訊かされた。…見かけによらず、日本が年上で年若い自分などはひ孫ぐらいに思われている節がある。それ故、昔話を孫に聞かす老爺のように話が長くなってしまうのか…ドイツはこっそりと溜息を吐いた。

「…そうだったのか」

「はい。今でも、私はドイツさんが羨ましいですよ」
「…羨ましい?…日本は兄さんを美化し過ぎていると思うが」
「師匠は立派な方ですよ」
「…直ぐに部屋は散らかすし、騒ぐし、煩いし…」
思い出せば、兄、プロイセンに対する愚痴は尽きない。ドイツは溜息を吐く。
「おやおや。まるで師匠は子どものようですねぇ」
「丸きり手の掛かる子どもだ。いい年しているのだから、いい加減、落ち着いてくれないものか」
「師匠が落ち着いてしまったら、あなたは心配なさるでしょうに」
急須の茶葉を取替え、お湯を注いだ日本が小さく笑う。それにドイツはどう答えるべきか迷って、眉を寄せた。

「…やっぱり、私はあなたが羨ましい」

二番よりは一番。誰よりも特別に。注がれる愛情は均一にはならないのだ。

「日本は何が羨ましいんだ?」
唐突にぽつりと日本の口から発せられた言葉にドイツは一層、眉間の皺を深めた。
「…私は、師匠に恋していましたが、恋した時点でもうフラれたも同然でしたからねぇ…」
「は?」
問うたこととは別の返事を返され湯飲みを手にしたまま固まったドイツに、口元を裾で隠した日本はコロコロと笑う。
「待ってくれ!フラれたも同然って、兄さんには好きなひとがいるのか!?俺は知らないぞ!」
「おや、ドイツさんご存知ないんですか?」
「俺は知らない!日本は知っているのか?」
「…えぇ」
むうと眉間に皺を寄せ、ぶつぶつと考え始めたドイツに笑みを零し、もう直ぐ散歩から帰ってくるであろうドイツの兄の為に、
「今日のお夕飯は師匠とドイツさんの為に、じゃが芋のフルコースにでもしましょうか」
日本は呟く。

 私が今も慕う彼の人の愛情は、余すことなく過分に目の前の青年に今も注がれている。
 それに青年が気付くのはいつの日か…。

 日本は柔らかい笑みを浮かべ、湯飲みの茶を啜った。
 
 
 
 
 
オワレ





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