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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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30 . December

ドイツ連邦発足前。

水と油なオーストリアとプロイセン。子どもの処遇を巡って、バチバチ。






拍手[10回]




給仕が下がり、テーブルを挟んで向かい合ったオーストリアとプロイセンは互いの顔を見ないようにと手元の調印文に目を落とす。

…いつまで、続くのかね。この妥協が。

戦争で領地を獲得したものの、戦費が嵩み、それを取り戻すにはどこの国も時間がかかる。プロイセンは目を閉じると、調印書に自分の名前を書き付けた。
「…書いたぜ」
妥協があの子どもの利になるならば、納得いかずとも飲み込む。…これを利用するつもりでいればいい。あの子どもに相応しい舞台が整えば、連邦など脱退すればいいだけのことだ。
「私も署名し終わりました」
優雅な仕草でテーブルを滑った書類を引ったくり、プロイセンは立ち上がる。仕事は終わった。なら、ここから早急に立ち去りたい。オーストリアのお高くとまった顔などいつまでも見ていたくはないし、豪奢な調度品で飾られた部屋は居心地が悪かった。
「じゃあな」
「お待ちなさい。プロイセン」
軍靴の踵を蹴って、書類を片手に部屋を出て行こうとするプロイセンの足をオーストリアが止める。プロイセンは歩みを止め、嫌々、振り返った。
「何だよ、坊ちゃん」
「…あなた、子どもを引き取ったそうですね」
どこから、そんな情報を手に入れたのか…。プロイセンはフンと鼻を鳴らした。
「それが何だ。お前には関係ないだろ?」
「本当にそうですか?それが私たちと同じ存在ならば、あなたの手元に置いておくわけにはいきません」
紫玉を上げ、レンズ越しに見据えるオーストリア。プロイセンは目を細めた。
「…仮に国の子どもだとして、俺の手元に置いとくのが駄目なら、お前の手元に置いて、また飼い殺すのか?」
赤い目を向け、オーストラリアの紫玉を睨む。睨まれたオーストリアは訝しげに眉を寄せた。
「どういう意味ですか?」
「そのまんまだ」
プロイセンは素っ気無くそう返し、再び、テーブルへと着いた。
「その子どもはベルリンで死に掛けてた俺を救った。俺を選んだんだ。お前にはやらねぇよ」
「あなたの言い分などどうでもいい。国の子どもならば、しかるべきところで教育を受けさせるべきです。あなたの手元になど置いては置けない」
「ハッ、お前の手元にいて神聖ローマはどうなった?ヴェストファーレン条約後、神聖ローマの姿を見た奴はいねぇ。なあ、オーストリア、神聖ローマはどこに行ったんだ?消えたのか、まだ生きているのか?知っているなら、言ってみろよ」
テーブルに身を乗り出し、プロイセンはオーストリアの紫を見据える。紫は高貴な色だと言う。その紫は赤に怯んだように色を変えた。
「…昔からそうだ。自分の保身のためなら、平気でお前は色んなものを切り捨て、妥協する」
「あなたに言われたくありません!」
「俺は自分の保身のために大事なものを捨てたことはない」
保身に走り大事なものを失うくらいなら、自分が犠牲になった方が万倍マシだと思う。…だから、自分はこの時代に生き残っているのだ。信念を失った者は淘汰されていく。
「…っ!」
唇を噛んだオーストリアに溜飲を下げ、プロイセンは身を引いた。
「…なあ、あの死亡診断書な条約後、お前のところの上司がナポ公に脅されて退位して、…その160年間、生きながらにして死んでいくってのはどんな気持ちだったんだろうな?」
 




子どもは夜になるとひどく魘され、夜中に悲鳴を上げた。その悲鳴に部屋に駆けつければ、見開いた瞳一杯に絶望を映し、小さく開かれた唇からは延々と引き攣れた叫びが漏れる。
 その小さく震えるその子どもを抱きしめてやれば、漸く、子どもは我に返ったように暗い瞳を向け、

「…マリア」

と、古く懐かしい名で自分を呼んだ。
「…久しぶりだな。神聖ローマ」
「…ああ。…イタリアで一度会ったな」
「覚えてんのか?」
「…覚えてる。お前の姿は異端だったから…」
暗い瞳を瞬かせ、神聖ローマは僅かに微笑んだ。
「お前が羨ましかった。お前は何にも縛られず、自由だった。オーストリアはお前を野蛮だといったが、その奔放な野蛮さが羨ましかった…そうすれば、あの子も…」
「あの子?」
「…あの子…。あれ?…誰、だった…んだろう…大事な…あんなに…大好き…だったのに…」
瞬いた瞳の色が変わる。幼かった自分が初めて見たどこまでも青く晴れた異国の空の色。その色が浮かび、急速に褪せていく。

「…もう、寝ろ。そばにいてやるから」

うつらと閉じかけたその瞳に声を掛けてやると、子どもは小さく頷いて目蓋をそろりと落した。緩やかに聴こえ始めた寝息にプロイセンは小さく、呟く。

「…どうして、俺を選んだ?…神聖ローマ…」

その呟きに答えるものはなく。夜明けの鳥が鳴き始めるまで、プロイセンは子どもを抱いていた。
 
 
 





「……条約後、神聖ローマは体調を崩し、床についてました。…でも、ある日突然、姿を消しました。行方を捜させましたが、どこを捜しても、彼はいなかった。…私が知っていることはこれだけです」
「その後のことを教えてやるよ。あいつは自分の惨めな死に様を晒したくなくて、一人でシュヴァルツヴァルトの奥深く荒れ果てた古城で自分が死ぬのを待っていた」



 
 

「…兄さん」

ドアを叩く音に目を開け身体を起せば、ドアを少しだけ開き、燭台を手にした子どもが立っている。それにプロイセンがこちらに来るようにと手招けば、子どもは直ぐに寄ってきた。
「…どうした?…汗、びっしょりじゃないか」
夜は夏場と言えども肌寒く冷える。子どもの頬は冷たい汗に濡れている。その汗を拭い、着替えさせるとプロイセンは寝床へと子どもを引き入れた。
「…怖い夢を見たんだ…」
「夢?」
「…黒い森の奥深くの荒れ果てた古城で、…真っ暗で日の明かりも届かないくらいに暗い中、来ない夜をおれはずっと凍えながら震えながら、焦がれるように待ってるんだ。それでも夜が来るのが怖くて、でも、夜がくれば、楽になれるって知ってるのに、夜になるのが嫌で。暗い中、ずっと、おれは誰かに会いたいって思ってる。でも、それが誰だったか、思い出せないんだ。…そして、もう、目を開けているのか閉じているのかも解らなくなった頃、…やっと、夜がおれの息を止めてくれた…」
子どもの語る言葉は、非現実的だ。でもその言葉がこの子どもにとっては空想でもなんでもなく、その身に起こった現実だったのだろう。
「…怖かったな」
湿った髪を梳いてやる。子どもは体温を欲しがるように冷えた身体を甘えるように擦り寄せてきた。
「…うん。でも、もうこの夢は見ない気がする」
「どうして?」
記憶に深く刻まれた恐怖は消えることはない。記憶は何度だって、繰り返される。それが悪夢なら。
「…兄さんがいる。…おれの夜は明けたから…」
薄く晴れ渡った青が緩む。小さな子どもの手のひらがプロイセンの目元を撫でる。

「兄さんの目は、夜明けの色だ」
…お前の目は、夜明けの色だな。マリア。

そう眩しそうな顔をして言ったのは、誰だったか?…古い記憶を手繰る。
「…夜は明けた。…だから、もう夜の夢はみない」
「…そうか」
小さな身体を抱きしめる。子どもは安心したように息を吐き、目蓋を閉じた。
 
 
 




「…知っているかのように、話すのですね」
「…本人から聞いたからな」
「え?」
オーストリアが息を呑み、自分を凝視するのをプロイセンは見やり、机を指先でコツリと叩く。
「…今はもういねぇ。…消えた。残ったのは、新しく生まれた「ドイツ」だ」
「…ドイツ」
その言葉にオーストリアは顔を上げた。
「本当にその子どもは神聖ローマなのですか?」
「神聖ローマじゃない。あの子どもは、ドイツだ」
もう彼は消えてしまった。あの瞳はもう、彼が恋焦がれ愛し過ぎて染まったあの空の色にはならない。二度と。
「…なら、尚更、あなたには渡せません」
眦を吊り上げたオーストリアを一瞥し、プロイセンは息を吐く。
「お前、俺の話訊いてたのか?ドイツが選んだのは、お前ではなく俺だ。お前じゃない」
「それがなんですか?関係ありません。その子ども、引き渡してもらいましょうか?」
「寝言は寝て言え。もう一度言う。ドイツが選んだのは、俺だ」
「プロイセン!」
席を蹴るようにして立ち上がったプロイセンを紫玉が睨む。それを見返し、赤い目は笑う。
「お前、二度も殺したいのかよ?…ゆるゆると真綿で首を絞めるようなやり方で」
「っ!、侮辱ですか、それは」
「…侮辱?お前がそう思うならそうなんだろうよ」
怒りを湛えた視線を受け流し、今度こそこの場を辞するべく、プロイセンは二角帽を被った。それに怒りを殺した声が追う。
「…ドイツ連邦の盟主は私です。私にはその子どもを養育する権利があります」
「…フン。早速、盟主面か。…勘違いも互いにしろ。今回はお前の顔を立ててやっただけだ。それと、お前にも俺にもあの子どもをどうこうする権利はねぇよ。あるとしたら、ドイツにだ」
プロイセンはオーストリアを見やる。
「…ドイツがお前を選ぶと言うなら、俺はそれに従う。…ドイツに会いたければ、ベルリンに来い。歓迎はしねぇけどな」
今度こそ、プロイセンは踵を返し、振り返ることなく部屋を後にした。
 
 
 
 
 

オワリ





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