「にいさま」
と、おれを呼ぶ。気がつけばいつもそばにいるのだが、おれの邪魔をするでもなく、おれがやることを興味深げに見ているのを見ると、エルサレムで蛮族と剣を交え、暴れまくっていたとは思えないほどだ。
「なあ、それおもしろいのか?」
「なかなか、興味深いぞ。お前も読むか?」
「…ん。いい」
「そうか」
いつの間にか寄ってきてたマリアはおれの背により掛かるようにして座り、おれのマントの裾を弄り始める。それを許しながら、背中のあたたかさを心地よく思う。背中越しにマリアの体温を感じながら、ページを捲る。読み進めていくうちに背中が重くなった。振り返るとずるりとマリアの体が滑る。それを慌てて受け止める。
「…寝るな」
おれのマントの裾を掴んで、マリアはすうすう寝息を立てている。そのマリアの腹の上にはどこから来たのかうさぎが一匹。足元にはオーストリアが飼っている犬が二匹寄り添って、うとうととしている。マリアは何故か小動物に良く懐かれている。
…神羅の前では猫被って、お行儀良くしているマリア。オーストリアさんにはすぐに「フーッ!」てなるんだぜ。
という電波を受信した。…ってか、デカいプーがちっさいにいさまにごろにゃんしているのもまた、萌。
「兄上!欲しがってた本、買って来たぜ!」
騒々しく開いたドア。マリアは本当に騒がしい。その騒々しさに慣れてしまえば、静かな方がどうしたのだと落ち着かなくなるので反対に困るのだが。
「ありがとう」
受け取ろうと差し出した手から、マリアは本を遠ざける。それに訝しげに眉を寄せれば、マリアは口を尖らせた。
「マリア、早く寄越せ」
それに眉を寄せ、マリアを睨む。
「…俺、すげー、兄上の為にベルリン中の本屋を探したんだぜ」
「そうか。苦労をかけたな」
「…そーじゃなくてさ」
ぷぷっと頬を膨らませたマリアの外見は二十歳を越えた青年だが、どうしようもなく子どもっぽい。困ったことにおれはそれを可愛いと思ってしまう。
「ここに座れ。マリア」
傍らに座るように促せば、マリアは拗ねた顔のままソファに腰を下ろした。ようやく縮まった距離にマリアの頬を突けば、ぷすっと空気が漏れた。
「いい歳をして、拗ねるな」
そう言えば、また頬が膨らんだ。
「拗ねてねぇもん!」
ああ、本当に子どもっぽい。
「ありがとう。嬉しい」
そう言って、わしゃわしゃと淡い金色の髪を撫でるとマリアの膨らんだ頬は萎んでゆき、尖った口元が緩んだ。
「もっと、撫でろ!」
抱きついてきたマリアにおれは心の中、溜息を吐いた。
犬か、プー。きっと大きな尻尾がフル回転してるな。