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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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30 . December

子どもとプロイセン。
騎士の誓いを立てるプロイセンとそれを許す子ども。






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「フン」
 
一度、机上に投げ捨てた書簡を掴むと、プロイセンは椅子を軋ませ立ち上がった。
 
 
 

以前は王宮に住んでいたが、王宮を管理するメイド長に、

「国家殿、お部屋のがらくた類を整理していただけませんか?雪崩を起して死人が出ます」

と、言われ、長いこと生きてるお陰で溜まりに溜まったその時代時代の思い出の品や、物心ついたころから付け始めた日記は既に膨大な量になっている。仕方無しに、プロイセンは王宮からそう遠くない場所に小さな屋敷を求めた。専ら書庫代わりに使うつもりでいたのだが、弟が出来てからは人を雇い、手入れさせたお陰でかなり住み良くなった。
自分が使っていた書斎は本が好きだという子どもの為に譲り、倹約を旨としている訳でもないが、国から出る給金のようなものが溜まりに溜まっていたので、一度散財しとくかと思い切って書斎を改装し、プロイセンは子どもが興味を示したもの、ありとあらゆる知識と叡智の詰まった書物を、見たこともない色使いの異国の画集を取り寄せた。これが子どもにとっての最高の贅沢らしい。感激の余り言葉を詰まらせた子どもに抱きつかれて、何度もお礼を言われた。それを思い出し、プロイセンの口元は自然に緩んだ。

「ルッツ、いるか?」

重厚な樫のドアを叩き開くと、採光の為に大きく取った窓から、レースのカーテンを通して柔らかな冬の日差しが降り注ぐのが見えた。部屋の壁一面には本棚。みっしりと詰まった革表紙の本はプロイセンが所有し、数百年時を経た本もあれば、何冊もある聖書に奇書、かの大王の書きかけの楽譜や手書きの原本らしい随筆が無造作に詰め込まれていた。室内はお世辞にも片付いたものではなく、未整理で雑多であったが、子どもの一番のお気に入りの場所だ。
「…兄さん?」
新しく本棚を増やしたものの棚に入りきらずに溢れた本は床に平積みにされ、山がいくつも出来ている。大量の本のインクの匂いが微かに鼻につく。本に埋もれ姿の見えない子どもの姿をプロイセンは捜す。積み上げられた本の間から金糸が覗き、山を崩さないようにと気づかいながら、大きな本を抱えた子どもが出てきた。
「読書中、悪いな。…これを」
子どもが抱えていた本を取り、手にしていた書簡を手渡す。子どもは丸められた紙を広げた。


 

明後日、そちらに伺います。
 

ローデリヒ・エーデルシュタイン
 
 
一行だけの短い文面に子どもは顔を上げた。
「ローデリヒとは兄さんの知り合いなのか?」
「古い顔見知りだが、虫唾が走るほど嫌いな奴だ。……ローデリヒって言うのは、オーストリアの社交上の名前だ。私事の用件にはアイツはこの名前を使う」
「………オーストリア。……兄さんにも、名前があるのか?」
「ああ。俺にはギルベルト・バイルシュミットって名前がある。お前は俺の弟だから、ルートヴィッヒ・バイルシュミットになるな」
「…ギルベルト・バイルシュミット…その名前は兄さんが自分で付けたのか?」
「いや、俺が一人前の騎士になったときに当時の騎士団団長が付けてくれたんだ。…ってまあ、その話は今度してやるよ。それより、これだ」
プロイセンは紙を弾く。
「……オーストリアは兄さんに会いにくるんだろう?」
「違う。オーストリアはお前に会いに来るんだ」
「おれに?」
不思議そうに首を傾けた子どもに、唯一本に浸食されていないソファに座るようにプロイセンは促し、その傍らに自分も腰を下ろした。
「お前が本当に「ドイツ」と成り得るかどうか…、アイツは見定めるつもりなんだろうよ」
「………」
「心配するな。俺がいる。オーストリアなんぞにお前の…俺の邪魔はさせねぇよ」
いずれ機を見て、連邦を脱退し、オーストリアとは一戦を交えることになるだろう。ドイツの統一に盟主は二人はいらない。赤い瞳を光らせるプロイセンを見やり、子どもは何か言おうとして、本能的に言葉を飲み込んだ。

おれがドイツになったら、兄さんはどうするんだ?

ドイツの北の地を領有するのは、この目の前の青年だ。自分がドイツとなれば、青年の居場所はなくなるのではないか?それとも、青年は自分を傀儡とするつもりなのか?

…訊かなくてはと思う。

でもそれは禁忌であり、寄る辺のないこの身に縋れるものは目の前の青年しかいない。でも、その青年の口から、その返答を訊くのを恐ろしいと思う。…どちらの答えを訊いても、自分は絶望するだろう。

「…で、オーストリアのことなんだけどな」

「あ、…ああ」
プロイセンの声にハッとして子どもは顔を上げる。それに、プロイセンは子どもの額を指先で小突いた。
「ひとの話はちゃんと訊けよ」
「すまない。ちょっとぼーっとしてしまった」
「…具合悪いのか」
ざらついて硬くなった手のひらが前髪を掻き上げる。額をこつんと合せられて、赤い目が間近になる。その近さに子どもの心臓は小さく跳ねた。プロイセンはいつも躊躇いなく自分に触れてくる。その近さを擽ったくも嬉しくも思う。
「…んー。熱はねぇみたいだけど」
「大丈夫だ。…で、オーストリアがなんだ?」
首を振り、続きを促す。赤色が遠ざかる。手のひらが髪を梳いて離れていく。流れの所作はいつもやさしく慈愛に満ちていて、いつもの乱暴で粗暴さを感じさせるプロイセンの同じ手とは思えない。恭しいものを、壊れ物にそっと触れるような仕草に子どもの胸はいつも詰まった。

おれはプロイセンを利用しようと思っている。

そう。自分は目の前の青年を利用して、国になる足がかりを作ろうとしていた。気に入られるために、息も絶え絶えな青年を気遣い看病したりもした。…確かに最初はそうだった。この青年を踏み台に国に成り上がる。…そういうつもりでいた。だから、近づいた。…でも、プロイセンと言う青年を知るにつれ、成り上がるとか、利用するだとかそんなことはもうどうでも良くなってしまっている。見た目の言動とは裏腹にプロイセンはひどく、やさしい。一緒にいると安心する。この青年のそばにいれば自分はずっとその温かさに甘えることが出来る。そして、青年がいとも容易く、その甘えを許すことも解ってしまった。
 
「お前に選択肢が俺だけなのも、なんつーか不公平な気がしてよ」
「不公平?」
「オーストリアはいけ好かねぇ奴だが、社交性に長けて、外交上手だ。…それだけで、ここ何百年も修羅場潜り抜けて来てるからな」
認めたくねぇけど…と付け加え、プロイセンは暫し黙り、子どもを見やった。
「俺は戦争のやり方しか知らねぇ。…でも、これからの時代は大きな戦争は徐々になくなっていくんじゃねぇかと俺は思ってる。…まあ、紛争や小競り合いはあるかもしれねぇけど、国同士が領土を利害を巡ってっていうのはなくなるだろうな。…だからだ、」
プロイセンは言葉を区切って、子どもの青を見つめた。
「オーストリアのところに行ってみねぇいか?」
その言葉が子どもの心にじわりと広がる。
「…それは、おれが兄さんにとって邪魔だから、追い払いたいということか?」
伝えられた言葉に胸が切り裂かれたような錯覚。自分で言った言葉に目が熱くなるのを堪えようと子どもは唇を噛む。それに慌てたよう、プロイセンは首を振った。
「違ぇ!!お前の世界を俺の色に染める訳にはいかねぇだろ!お前が俺と同じになったら、意味がねぇ。お前にはもっと広い視野で物事を見、それを自分で判断し、行動できるような奴になって欲しいんだよ!…邪魔だとか思う訳ないだろう。…お前は俺の王なんだからな!」
真正面に膝を着き、覗き込む赤。その目を見つめる。その赤は真摯で、言葉に嘘はない。この青年が自分に語る言葉はいつも、真摯で誠実だ。

「…おれが、兄さんの王?」

「ああ。俺が傅き、忠誠を誓うのは、お前だけだ。…ライヒ」
目の前で片膝をつき、恭しく子どもの右手を取り、その手の甲にプロイセンは額を押し当てた。

「…俺はここに誓う。…ドイツ、お前を王と仰ぎ、お前の身が危機に晒されたときには、この身を持って守ると。未来永劫、お前が俺の王である限り、俺はお前に尽くすと忠誠を誓う」

その見上げる視線に嘘は見えない。子どもは言葉に詰まり、ただ足元に跪くプロイセンを見つめた。
「…にいさん」
口内が酷く乾く。赤い目がうっとりと笑う。
「…お前は一言、許す、と言えばいい」
まるで狡猾な悪魔が何も知らぬ子どもを誑かすように濡れた甘い声が囁き、赤い目がまだ見ぬ恍惚に細められる。

…許す…。

その一言が、この関係を変えてしまう。口にしたことを後悔するかもしれない。それでも、望まずにはいられないのは国としての性か、それとも人ゆえの本能か。抗うことの出来ない渇望と得体の知れない恐怖にぐるぐると思考が回る。

…怖い。でも、この青年のすべてが、おれは欲しい。

「…許す」

その言葉に目の前の赤がゆっくりと色を変える。赤から青へ、そして青から赤へ。再び、プロイセンは額を手の甲に押し当てた。
「よし。…俺はお前のものだ、ドイツ。お前の為に俺は誠心誠意、お前に仕える」
「…ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
「…おれが国になっても、ずっと…?」
「ああ、お前が許す限り、ずっと…」
すとんとプロイセンの言葉が胸に落ち、子どもの胸に密かにあった不吉なざわめきは安堵を得て、静まり返る。

…約束が欲しかったのか、おれは…。

子どもはそっと、身を屈める。前髪の色素の薄い金の髪を掻き上げ、その額に口付ける。

「ずっとだ。…約束だぞ、兄さん」
「騎士の誓いは絶対だ」

怖いと感じた思いは青年との約束に霧散して消えていく。其処から新たに生まれた不安を子どもはまだ、知る術もなかった。
 
 



オワリ





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