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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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15 . August



爺と普で日本の夏。







拍手[14回]





「明日、早起きして、私とちょっと出かけませんか?」

日本に寝る前にそう言われ、起こされたのは六時前。プロイセンは眠い目を擦り、ざっとシャワーを浴びる。持ってきた筈のラフな着替えはどこにいったのか?…辛うじてあった下着だけを身につけ、脱衣所を出る。日本を探せば、布団を片付けた日本が紙に包まれたものを取り出していた。
「俺の着替えがねぇんだけど」
「片付けました。これを着ていただきたくて」
紙を広げ、見せられたのは黒地のしじら織りの浴衣一式。それにプロイセンは眉を寄せた。
「着方、解らねぇぞ」
「私が着付けますよ。羽織って頂けますか?」
さらっと素肌を生地が滑る。その感触にプロイセンは目を細める。日本はそれに目を細め、てきぱきと着付けていく。帯を腰でぐいっと締められ、一瞬、プロイセンは顔を顰め、ぴったりとサイズの合ったそれに首を傾けた。
「…これ、お前のじゃねぇな?」
「私のものだと半端になってしまうでしょう?馴染みの呉服屋で反物を見て、似合いそうだと思ったので、師匠用に仕立ててもらったんです」
「俺用?」
「はい。思った通り、お似合いです」
見上げてくる日本の目が細められるのを見下ろし、プロイセンは袖を掴んだ。
「…サイズ、良く解ったな?」
袖の長さも裾も自分に合わせてぴったりだ。それに日本は更に目を細め笑った。
「師匠の体のことは何でも知っているつもりですので」
艶めいた笑みでそう告げられ、プロイセンは眉を寄せた。…知らないはずは…確かにない。全部、お互いの古傷がどこにあるのかいえるくらいには体を重ねていた。

「…さて、準備も出来ましたし、出かけましょうか?」

すっと立ち上がった日本にプロイセンは頷いた。

 

 

 昼間の凶暴な日差しとは裏腹に朝の日差しはまだ柔らかく清々しい。早起きな小鳥の囀りと蝉の声に、プロイセンは目を細める。日本の夏の思い出にはいつも蝉の声がある。
「どこ、行くんだ?」
「近所のお寺さんで朝顔市をやってるんですよ。お連れしたことがなかったなと思いまして」
ゆったりとしった足取りで歩く日本の隣を歩き、プロイセンは赤を瞬いた。
「アサガオって、お前の庭にも咲いてる昼になると萎む花だよな?」
「はい。昔、私も変化朝顔の栽培に凝ってた時期がありまして」
「変化?」
「花弁に凝ったものやら、難しい黒や黄色の花を作ろうとしてましたねぇ」
懐かしそうに日本は目を細める。
「お前、凝り性っぽいしな」
「ええ。望む花弁や色を作るのは難しくて、種を撒いてはいいものを一株、それから採れた種をまた他のものと交配させて…の繰り返し。珍しいものはそれはもう、家を一軒買えるような値段で取引されていましたね」
「何か、オランダのチューリップみたいだな」
「そうですね」
「すげー、高い値で取引されてたぜ。球根ひとつが金と同等の価値を持つとか有りえねぇっての。親父はその球根ををコーヒーの代用品にしようとしてたけどな」
「まあ。…お味のほうはどうだったのでしょう?」
「不味かったから、諦めたらしいぜ」
「そうですか。ちょっと、興味がありますねぇ」
「やめとけ。まだ、タンポポの根っこを煎じたヤツの方がまだマシだ」
「一時、わが国でも一時期、ブームになりましたよ。タンポポコーヒー」
「マジかよ?」
「一時的なブームでしたけど」
「ま、そうだよな」
他愛のない会話を交わし、短い距離を歩く。見えた寺の境内へと続く沿道は既に人影が多い。
「皆、早起きだな」
「ドイツさんのところは皆、早起きでしょう?」
「俺は十時まで寝てるけどな」
左右にずらりと朝顔の鉢が並ぶ。変化朝顔は種類が多い。そして、取れた種から同じ花が咲くとは限らない。そこが面白いとも言える。日本は花を広げた鉢を見やる。花を見やる日本と同じようにプロイセンもしゃがみ込み、花を見やる。
「…ルッツの目と同じ色だな。あっちのはフランスの目の色みたいだ」
「青い色ですね。この花は師匠と同じ色ですね」
「そんなにきれいじゃねぇよ」
日本が指差す色鮮やかな赤い朝顔に目を細め、プロイセンは立ち上がり、犬でも撫でるように日本の髪を梳いた。
「花びらの変わったやつがあるな。これが変化ってヤツか?」
さらりと落ちた前髪を払って、日本は立ち上がるとさっさと移動して、縁台を覗き込むプロイセンの隣に立つ。
「獅子咲きのものですね」
「獅子咲き?」
「花びらの先が獅子の尾みたいだから名前が付いたんですよ」
「へぇ。何か、朝顔じゃないみたいだな」
「そうですね。漏斗の形をしたものが一般的ですから」
「色んな形があって面白いな」
「気に入っていただけましたか?」
「ja」
並んだ店を一通り巡り、最初の店で日本が指し示した赤い朝顔の鉢をプロイセンは買い求めた。
「気に入られたんですか?」
「ん?まあな」
プロイセンは曖昧に言葉を濁す。それに日本は何も言わず、歩き出す。来たときとは違う少し遠回りな道を散歩がてらに歩く。家に帰り着く頃には萎んでしまった花を見やり、プロイセンは僅かに眉を寄せたが、それをずいっと日本へ差し出した。
「師匠?」
それに、眉を寄せた日本にプロイセンは口を開いた。
「…俺は明日帰らねぇとなんねぇ。暫くはこっちには来れねぇから夏が終わるまではそれを俺だと思って、面倒見てくれ」
その言葉に日本は目を開き、それからそっと鉢を受け取った。
「責任重大ですね」
「重大じゃねぇだろ。ちゃんと水やれよ。種が付いたら、来年、一緒に植えようぜ」
「はい。じゃあ、一緒に観察日記でもつけましょうか?」
「観察日記?何だよ、それ?」

 


日本のくすりと小さく笑う声とプロイセンの声に蝉の声が負けじと大きくなる。夏の朝のこと。

 

 

 

おわり

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