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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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08 . January


ハンガリーと子ども。
オーストリアとプロイセン。

Ⅵに入れ切れなかったお話。






拍手[21回]



 

 
「プロイセン、いいでしょうか?」


子どもを伴い庭に出てきたオーストリアにプロイセンは部屋へ戻るように、促した。既に夕暮れが迫り、厚い雲の隙間から覗く斜陽はあらゆるものを赤く照らしていき、その色と反するように空気は冷たく凍えていく。
「ルートヴィッヒ、悪いがハンガリーの相手を頼む」
「解った。…ハンガリー、こちらへ」
目を合わせもせずに、プロイセンと子どもは擦れ違う。それでも一瞬だけ、子どもの髪を梳くようにプロイセンの指先が触れ、離れていく。金色が小さく揺れて、階段を上がって行くプロイセンの背中を子どもの青い瞳が見送る。それをハンガリーは目に留めた。

「ねぇ、ルートヴィッヒ」

「何だ?ハンガリー」
「プロイセンが好き?」
唐突な質問に子どもは瞬きをひとつし、ハンガリーを見上げた。

「…解らない」

子どもの答えには、言葉を躊躇うような暫しの間があった。
「…外は寒かっただろう。温かいお茶を淹れて来る」
子どもは視線を伏せ、廊下の奥へと消える。それをハンガリーは見つめる。
(…あの乱暴者のプロイセンが信じられないわ)
見てしまった。そっと壊れ物を扱うかのように節くれた指先が子どもの髪を梳き、それを愛おしげに見つめるのを。…あんな顔が出来たのかと思う。自分の知っているプロイセンは残忍に笑い、屍を踏み越えて、兵の先に立ち、血を浴び、邪魔になるものを容赦なく斬り捨ていく酷薄な顔しか知らない。
(…ううん。私は知ってた…)
ずっともう色褪せてしまった記憶。まだ、プロイセンがマリアと呼ばれていた頃、彼は赤い目を細めて時折、やさしい顔をして、自分を見つめることがあった。そして、壊れ物を扱うように触れてきた。
(……何で、こんなこと思い出しちゃうんだろ…)


嫌いじゃなかった。
羨ましかった。
何もかもが、奔放で自由。
前しか見てない、マリア。
だから、憎かった。
だから、嫌いになった。

どうして、どうにもならないことで、私は彼を責めてしまったんだろう。
そして、彼はそれに何も言わなかったんだろう。

ずっと、信じてた。互いの背中を守りながら、一緒にいるんだと。

でも、私はマリアの手を振り払った。
離した手は二度と繋がれることはない。
 



「…ハンガリー?」

子どもの声にハンガリーは顔を上げる。青く澄んだ瞳がハンガリーを映す。
「何かしら?」
「お茶が入った。ここは寒い。客間に」
「…そうね。有難う」
ハンガリーは前を歩く子どもを見つめ、二階へと続く階段を見上げた。自分とは全てが違う、逞しく、生きることと強くなることそれだけのために略奪し、奪ったもの全てをその身の糧としていった背中を思う。
 




マリア、あなたは今度は絶対に離さない手を見つけたの?
 
 
 
 
 
 
 招いた書斎のランプを灯し、プロイセンは背後を見やる。雑多な室内を見回し、オーストリアはプロイセンを見やった。

「凄い本の量ですね」

「お前のとこ程じゃねぇけどな。ま、そこにでも座れ」
唯一、物の置かれていないソファを顎で指し、プロイセンは机に凭れる。それを見やり、オーストリアは口を開いた。
「ルートヴィッヒのことですが、私が面倒をみます」
それにプロイセンは頷き、口を開いた。
「…いいぜ。その代わり、条件がある」
「条件?」
眉を顰めたオーストリアにプロイセンは赤い目を向ける。
「偶数月はお前のところ。奇数月は俺のところに返して貰う」
どんな難題を言うかと思えば…。プロイセンのことだから、即座に拒否を返してくるだろうと思っていたオーストリアは探るようにプロイセンを見やる。
「…嫌だと言ったら?」
それにプロイセンはただ、目を細めた。
「嫌だと言うんなら、連邦を抜ける。…そうなると困るのは、誰、だろうな?」
プロイセンをオーストリアは見つめる。…プロイセンの案はプロイセンなりの譲歩らしい。もし、それを蹴れば連邦は崩壊。それが崩れれば、北と南から色々と痛くもない腹を探られることになるだろう。それは得策ではない。プロイセンの軍事力には利用価値がある。
「…解りました」
頷いたオーストリアを見やり、プロイセンは視線を逸らすと背後の大きな窓の外を見やる。既に夜の帳が落ち、群青に空は染まり始めていた。それを同じようにオーストリアは見やる。
「…プロイセン」
「何だよ?」
視線を返す。ランプの明かりにオーストリアの影が揺れる。

「…どうして、あの子は再び、あらわれたのでしょうか?」

殺して欲しいと口にした神聖ローマ。この世界から、消えてしまうことを彼はずっと望んでいた。それを知っていたのは自分だけだ。なのにどうして、再び、彼は目覚めたのだろう?
「…遣り残したことでもあったんだろ」
「…そうですね。…そうかもしれません」
呟き、それきり黙りこんでしまったオーストリアをプロイセンは見やる。そして、思う。

…オーストリアではなく、どうして、俺を選んだ?

あの子どもは強くなりたいと言った。そして、強くなる為にはオーストリアの元では駄目なのだと。

プロイセンと言う国は人造国家だ。人が寄り集まり、それが国家と言う形になった。自分は領土も民も持たずに、この世界に放り出された異端者だ。

その異端者は領土を略奪することで、国となった。だが、本当に果たして自分は国という存在だったのか?

今でも、プロイセンには自分が何者であるのか解らない。ただ、自分の存在を国だと思い込もうと、自分の存在をこの世界に定着する為に足掻いてきただけではなかったか。

人によって造り上げられた、模造の国。
 国という真似事を自分はしているだけなのか…それに、何か意味があるのだろうか?

あるとするならば、その意味を知っているのはあの子どもなのだろうか。




「プロイセン」




控えめなノックに返事を返せば、ドアがゆっくりと開く。

「どうした?」
「オーストリアの迎えの馬車が来ている」
その言葉にオーストリアが立ち上がる。
「帰ります」
「ああ」
それにプロイセンは鷹揚に頷き、書斎を出、階段を下りる。迎えの御者がドアを開く。既に馬車にはハンガリーが乗っている。オーストリアは手すりに白い手袋に包まれた指先を添え、子どもを振り返った。

「…ルートヴィッヒ、偶数月は私のところにいらしてください」

「どういうことだ?」
意味が解らないと首を傾げる子どもにプロイセンが口を開く。
「偶数月はオーストリア、奇数月は俺のところでお前の面倒を見る…そう話をつけた」
「…そうか。解った。オーストリア、世話になる」
「はい。待っていますよ」
微笑んだオーストリアに子どもは小さく頷く。オーストリアが馬車に乗り込み、ふたりを乗せた馬車が遠ざかっていくのを見送り、子どもは口を開いた。

「…ずっと、オーストリアのところに行かされるのかと思っていたんだが、おれは兄さんのところに戻ってきてもいいのか?」

「当たり前だろ。お前の顔がずっと見れないままじゃ、寂しくて死んでしまうだろうが、俺が」
唇を尖らせ拗ねたようにそう言えば、子どもは僅かに目を見開き、苦笑するようにそれでも嬉しそうに笑った。そして、そっとプロイセンの手を握り、プロイセンを見上げる。

 
 
「兄さん」


 
 
ああ、今度こそ、絶対に俺はこの手を離さない。
 
 
 
 



オワリ






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