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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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21 . September


消失ネタを書こうと思っていたんですが、隊長に負けました。
消失後のネタとかも結構描いたのがあるんですが、終わる気がしねぇ。

…ってか、兄さん美化しすぎてますので、ウザいプーが好きな方にはお勧めしない。








拍手[35回]





ソファに気だるげに寝そべって、手招きしたプロイセンにやれやれと思いながら、ドイツは歩み寄ると、プロイセンを見下ろした。
やや、眠たそうに瞬きした赤が融けるような色をしている。それにしても、酷く無防備だ。ほんの少し前まで、国家と形を失くしてはいたけれど、骨の髄まで軍国だったこの兄がこんなだらしのない気の抜けた姿を晒したことは暫しの別離以前はなかった。この手に取り戻してからは寝付いてばかりの日々を経て、漸く動けるようになったものの、まだ本調子ではないのだろう。でも、ドイツの兄であるプロイセンは不戯けることもあったが厳格であり、何よりも規制された秩序を重んじていた。そして、禁欲的で自分に厳しい規律を課しているような節さえあった。それはいつ失われたのか。ドイツはプロイセンを見つめる。
「…兄さん」
「…ん?」
伏せられた視線が上がる。焦点は合っていない。ドイツはそれを見つめた。
「何か、用があって俺を呼んだのではないのか?」
「…あ、うん…。今、言わないとお前に恨まれそうだから」
「何だ、また、何か壊したのか?」
気に入っていた食器を盛大に壊されたのが三日前だ。ドイツは眉間に皺を寄せた。
「…二十年、いや、百年ちょいか…本当に良く持ったと思う。でも、もう駄目みたいだ…」
ぽつりと呟くようにそう言って、血の気の失せた唇が弧を描く。
「…駄目とは、何だ?」
「…ガタが来てるとは思ったが、もう、目が殆ど見えねぇ。お前の顔すら見えないんだ」
すっかり細った指先が顔を覆おう。ドイツは目を見開いた。
「…いつからだ?」
「本格的に悪くなってきたのは二年くらい前からだ。…本当はこっちに帰ってきてから、靄が時折、かかるみたいに視界が悪くなってよ…」
いつもは喜んで出かけていた長年の付き合いがあるフランスやスペインの酒の誘いを断るようになったのは何時からだったか。思えば、その兆候は随分と前からあった。何にもないところで躓く。ぶつかる。今までは気にも留めなかった些細なこと。ぞっとドイツの背筋を冷たいものが撫でる。
「…時折、指が透ける。体がすげぇ、軽くなるんだ。…何時かは断定できないけど、俺はそう遠くない未来、」
顔を覆っていた指先が外れる。

「…消える」

その指は震えてはいなかった。淡々とした表情でプロイセンは焦点の合わない赤でドイツを見上げ、笑んだ。
「…何を言ってるんだ?」
何故、そんな恐ろしいことを口にして、穏やかに笑っていられるのか、声が上擦る。喉が急に渇いてヒリヒリする。そっと冷たい指先がさ迷うように伸びて、ドイツの頬に当たり、輪郭を滑るように指先が撫でた。

「…だから、今、言っとく」

焦点の合わない赤が穏やかな色をして、笑んだ。

「お前をずっと愛しているよ」

そんな言葉など、今、聞きたくはなかった。

 

 

 

 

 この二十年、淡々と粛々と、時間を見つけてはプロイセンは身辺を整理してきたらしい。膨大な歴史的記録と学者が涎を垂らしそうな地下の書庫にあった日記はすでに近年のものを残すだけで処分してしまったらしい。物持ちの良かったプロイセンは王国時代、公国、騎士団…と古いもの、信じられないような遺物を大事に大事に取っていた。それすら無くなっていた。残してあったのは、親と慕い、プロイセンが唯、ひとり愛した王の遺品。赤い裏地の青いマントとフルートのケース。マントに包まり、組み立てたフルートを吹くわけでもなく、ひんやりとしたそれを指先で愛しそうに撫でる。プロイセンはうつらうつらと夢うつつに微睡みのなかにある。まるで死期の近づいた老人のようだ。
あの戦場で、凄惨な笑みを浮かべ、敵軍に馬を駆って突撃していった頃の勇ましさは影を潜めてしまった。兵を鼓舞する為に叫び続け、掠れてしまった声で祈りの歌を小さく口ずさむのをドイツは苦々しい思いで見つめる。何もかも諦めた…と言うより、プロイセンはずっとこうなることを望んできたのか。衰えを隠そうともしない。ゆっくりと忍び寄る秋の気配が終端へと至る褪せた色でプロイセンを包んでいく。
以前から細かった食も落ちた。一口、二口、口にして、もういいとフォークを置く。薄かった体が更に痩せていくのが目に見えて、辛い。それでいて、穏やかに春の日差しのような笑みを浮かべ、焦点の合わない赤はドイツを見つめ微笑する。

「…お前、本当にいい子に育ったよな」

「何を言ってるんだ?」
食べ残した食器を片付ける。プロイセンはソファから耳だけを頼りにしているのか、音のする方へ視線を向ける。でもその目が像を結ぶことはない。微妙にずれて、違和感ばかりを煽る。ドイツはそれをいいことにプロイセンから逃げるように背を向けた。
「…俺の理想そのものだ。強健な体。ゲルマンを体現した金の髪、空の青…俺はずっと、仕える王を探して流離っていたような気がする。…一度は得て、でもそれを愚かな俺は自分が強くなることが忠義なのだと思っていた。…その愚かさが、兄様を殺してしまったけれど…」
「…神聖ローマのことを言っているのか?」
問えばそれにプロイセンは頷いた。
「…兄様がいなければ、俺は当に蛮族に滅ぼされただろうしな。…俺が「国」でなかったことは知ってるだろう?」
「…ああ。あなたはひとが欲した軍事力の具現だ」
「…そうだ。俺はな、望まれなければ生きていけねぇ。「国」と言う形を得たけれど、結局、戦うことでしかその形を保つことが出来なかった。…あの頃は良かったなと思う。明日をも知れぬ切羽詰った戦況にあっても、俺は生きてるって実感をもてたし、こいつの為なら死んでもいいって思えるような王を上司に出来た。…俺はひとに恵まれてたって思う。何度も死にそうになって、体が瓦解しそうになっても誰かが俺の命を繋いでくれた」
「あなたは国民に愛されていたな」
それは、彼の大王であったり、フランスに対しプライドを捨て、助命を願った美しい王妃だった。そして、ドイツが帝国として立った際、誰よりもプロイセンを愛した皇帝は自分を見ることはなく、自分を立てた宰相は最後まで「ドイツ」を認めようとはしなかった。
「…それが、俺の誇りだ」
そして、大戦に突入したあの日も兄を慕っていた者は制圧されても尚、「偏見のない理性的で現実的な、公正明大な国家」、「古き良きプロイセン」を取り戻そうと足掻いていた。プロイセンの敷いたレールをそのまま歩いていれば良かったのだろう。でも、新しい時代の流れは、そんなものを望んではいなかった。他国を圧倒する強さと隷属を。この世界の頂点に立ち、君臨する…荒唐無稽な夢を見ていた。それを侵略することで国家として成り立った軍国プロイセンは良しとはしなかった。反目し、自分の元から去っていたボロボロになった兄を次に見たのは、大戦に敗れ解体宣言の出された会議場だった。死刑宣告に等しい宣言を受け入れ、裂かれた東側を担うべく名前を変えた。一度たりともあの赤は目を合わすことがなかった。それが、どれだけ辛く、苦しかったか。…自らが招いた自業自得の結果ではあったけれど、自分が負う罪科を兄は何も言わずにその身に負ったのだ。
「…どうして、俺はそれをお前に与えてやることが出来なかったんだろうな。…そうすれば、きっと……いや、こんなこと、今更、言っても仕方がねぇよな」
戦争が終わった反発は一気にこの身に襲い掛かった。怨嗟と覆うような悲しみはこの身を酷く苛んだ。でもそれが、罰だったのだ。国民を愛したことのない国家が国民から愛されるはずもなかった。

「…でも、もう、大丈夫だな」

プロイセンは赤を細める。それをドイツは見つめ、顔を歪めた。

 大丈夫?…何がだ…?俺がどんな思いで、四十年もあなたのことを思い続けたか。そして、この二十年、あなたの存在の意味を重さを、噛み締めてきたというのに、…何故。

 ドイツは唇を噛む。プロイセンは柔らかい微笑を湛えている。

初めて、憎たらしいと、今までにプロイセンに対して抱いたことのない感情にドイツは堪えるように眉を寄せた。
「…俺には、まだあなたが必要だ」
必要だ。まだ、失えないと思う。
「…言っただろう?俺は軍事力の具現だ。お前にそれは必要ない。俺の役目は終わったんだよ。ルッツ」
ただ、それだけを自分が求めていたなら、見送ることが出来たのだろう。でも、出来ない。確かにプロイセンの存在は軍事力の具現だ。あの時代、力無くして生きては行けなかった。弱いものは虐げられ、強いものが世界を支配する。国体を保つには揺るぐことのない力が必要だった。…でも、それだけだったならば、この兄は当に滅びていたはずだ。

「……何故、国民があなたを愛したのか考えたことがあるか?」

深く、心の奥底に刻み込まれたのは憧憬。自我に侵食するように染みこんだそれを切り捨てることが出来るならば、どれだけ楽になれるだろう。でも、それを望んではいない。そうしてしまったら、本当に失ってしまう。

「?」

「…あなたは本当に何も解っていない。消える?…それを、俺が許すとでも?あなたがもし消えたとしたら、俺は必ず追って、その手を掴む。二度と離してなんかやるものか。…さよならなんかは言わせないぞ。兄さん」

プロイセンの本質は「慈愛」だ。遠い昔、彼が自我を持った頃、触れた聖母の祈りはプロイセンの根幹に深く残ったのだろう。それがなければ、きっと、自分はここにはいなかった。歴史も大きく変わっていたはずだ。その根幹に触れたからこそ、国民はプロイセンを愛したのだ。

「…俺も、あなたを愛してるんだ」

あなたを失ったら、きっとまたあの悪夢を見る。満たされなくて、認めて欲しくて、渇いていたどうしようもないあの頃に戻ってしまう。

「……流れは止められねぇぞ」
「止めて見せるさ」
「…俺はお前の中に還るだけなのにか?」
「ここにいて、俺を見ていて欲しい。俺はあなたにもっと触れたいと思う」

ずっと、触れたかったのだ。そうすれば、きっと満たされた。ドイツはプロイセンの頬に触れる。赤が伏せられ、血の気のない唇が吐息を零した。

「…馬鹿だなぁ。俺がお前に融けてしまえば、お前はずっと強くなれるっていうのに」
「このままでいい。…あなたとひとつに何かなりたくない」
「…ひでぇな。…お前はひでぇよ」

嘆く赤を見下ろし、ドイツは微笑を浮かべる。頬を撫でれば、委ねるように頬を摺り寄せた。

 

 


「…俺はお前の忠実なる僕だ。すべては王たるお前の御心のままに」

 

 

 

 

落ちる唇に全てを諦めたプロイセンは目を閉じた。

 

 

 

おわり






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