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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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11 . January

冷戦下
終わらない仕事に忙殺されるプロイセンと、構ってもらいたいロシア。






拍手[24回]




「重ぇよ!!俺の上から、とっとどきやがれ!!」
「え~?重くないよ。それより、プロイセン君、かまってよ~」
 
 薄ら寒い、暖房などそんな上等なものあるはずない寒い寒すぎる事務室にはお粗末なただ板きれを組み合わせたような棚とその棚に入りきらない書類が溢れ、ダンボール箱が詰まれている。後は年代物のスチールのデスクと軋む椅子があり、そこにはプロイセンがいるだけである。
どさりとロシアが持ち込んだ目の前に置かれた書類の山にプロイセンはこめかみを引き攣らせたものの、何も言わずにその書類の束に物凄い速さで目を通し、サインをし、上司に提出するものと再提出の判を押して仕分けていく。プロイセンの仕事を増やすべく書類を持ってきたロシアはのんびりとそれを観察していたが、早々に飽き、プロイセンの背後に回ると圧し掛かってきた。それに、プロイセンは冷たい机面から顔を5センチ浮かせ、今にもへばりそうな腕の力だけで、体勢を維持し、視線だけをロシアに寄越し、噛み付いた。

「お前に構ってるヒマなんかあるか!大体、仕事持って来たのはテメェだろーが!!」

「そうだけど。僕を構うのもプロイセン君の仕事だよ?」
ぎゃんぎゃんと犬のように吠えるプロイセンにおっとりとロシアは返し、微笑んだ。
「んなの、俺の仕事じゃねぇ!!構ってもらいたきゃ、バルトか姉ちゃんか、妹んとこ行きやがれ!!」
「えー、ヤダよ。プロイセン君、構ってよ」
ぐっと体重を掛けられ、その圧力に屈し、プロイセンの頬はぺたりと机に張り付く。
(…何なんだよ?…っとによ)
北に来てからと言うもの、異様なまでにロシアに懐かれている。最初は戸惑うばかりだったが、今やすっかり慣れてしまった。慣れざる得なくなった…と、言うべきか。…何だか、ぐったりと疲れて、プロイセンは息を吐く。その吐息すらも白い。この部屋、一体、何度なんだよと思いつつ、背中にべったりと張りついて離れないロシアをプロイセンは見やった。
「仕事、片付けたら構ってやるから、取り敢えず、どけ」
「やだ。今、構ってよ」
べったりと張り付かれ、ロシアの首に巻かれた褪せたベージュのマフラーの擦り切れた端っこがプロイセンの頬を掠める。ロシアが片時も離さないそれ。プロイセンはちょっとくらい構ってやるかと僅かに身じろいだ。
「…お前さ、そのマフラーいつもしてるよな。かれこれ、数百年くらい?」
押し潰されたまま、そう訊ねればロシアの拗ねたような口がやんわりと緩む。それが可愛いと思えなくもないが、プロイセンにとって一番に可愛いものは昔の面影もなくムキムキに今や成長した西にいるドイツだけである。
「うん。僕の宝物なんだ」
プロイセンの意識が自分に向けられたのが嬉しいのか、ロシアは笑うと身体を起した。…でも、プロイセンの肩へと回った拘束の腕が緩んだわけではない。それでも、先程の押し潰されそうな重圧が掛かるよりはマシである。プロイセンは体力の落ちた我が身を嘆きつつ息を吐いた。
「へー。誰かにもらったのか?」
「うん。お姉ちゃんがくれたんだ」
「姉ちゃんか。良かったな」
「うん」
解れた部分は何度も繕われている。大事に大事にしてきたのだろう。
「ねえ。プロイセンくんは大事にしてるものある?あ、…弟君って、言うのは無しだからね?」
プロイセンの短い頭髪を弄り、ロシアが訊いてくる。
「…大事なもんねぇ」
プロイセンは眉間に皺を寄せる。大事なものはすべて西側に置いてきた。ずっと肌身離さず着けていた鉄十字も物心付いたときから着けていた日記も、大王の形見のフルートも思い出の品は全部。大事なものなどもう自分には必要ない。それはすべて、託してきたし置いてきた。ここにあっても奪われ、失くしていくだけだ。
「…何もないな」
「えー、何もないの?」
「ないな。ドイツにやったし、お前が持ってるし、俺が大事だったもんは」
ドイツの名前が出た途端、一瞬、ロシアの身体が強張ったのに気付かぬフリをして、プロイセンは話を続ける。ロシアにドイツの名は禁句だ。盛大に拗ねられると機嫌を取るのがかなり面倒くさい。
「お前のもんになっちまった俺の大事なケーニス…いや、カリーニングラード、もうちょっとどうにかしてくんねぇ?たまに、心臓がすげー軋むんだけど」
「…え、うん。ごめんね。僕もどうにかしたいとは思ってるんだけど」
間を置いて、ロシアは答える。そして、ひんやりと冷たい指先をプロイセンの左胸へと滑らせた。それに一瞬、身を竦め、プロイセンは意識してゆっくりと身体の力を抜いた。…この身体はすでに、この男のどこかに繋がれてしまっている。それを断ち切ることなど今の自分に出来るはずもない。なら、身を任せていくしかない。

「即急に頼むぜ。俺の大事なとこなんだから」

この身体を維持し、西に全てを返すその日が来るまでは。

「うん。そうだね。君の心臓だもんね」

骨と薄い肉、皮膚の守るその上を、繊細なものを撫でるように這う指。ぴたりと鼓動を確かめるように押し当てられたどこまでも冷たく、凍えた手のひら。

…怖くはない。だから、大丈夫だ。

その冷たさに竦みそうになる身体に言い聞かせ、プロイセンは何事もなかったかのように、書類へと手を伸ばす。
「ロシア、今日の夕飯、何?」
「姉さんがボルシチ作るって言ってたよ」
「そりゃいい。あったまりそうだ」
忙しなく仕事を再開したプロイセンの薄い背中にロシアは耳を押し当てる。




…やっぱり、君がもっと全部欲しいな。





偽ることすらやめたプロイセンのやさしさは酷く心地よく、ロシアの耳に響いた。
 
 
 





オワリ
補足※カリーニングラード
元プロイセン領ケーニヒスベルク。東プロイセンの古都で元ドイツ騎士団領でもあった。今はロシアの飛び地。バルト三国とポーランドに挟まれてる。冷戦下、軍事都市、ソ連側にとって不凍港、バルト艦隊の主要軍港でもだったこともあり、外国人の出入りが厳しく規制された閉鎖都市であった。やがて、ソ連の社会主義の崩壊と共に、その煽りを受け、経済が崩壊、治安が悪化した。現在は某上司の奥様の出身地と言うこともあって、かなり復興している模様。
 





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