忍者ブログ
「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

12 . January


犬に嫉妬する弟と鈍感な兄。
独→普な感じ。







拍手[42回]






「………またか」

 
ラグの上に毛布一枚包まって、その傍には飼い犬三匹が寄り添い兄さんに抱き着かれ身動きの取れないベルリッツが俺に気付いて、尻尾を振った。それに溜息を吐く。
「兄さん、起きてくれ」
厳寒の地から帰ってきた兄さんは酷く寒がりになり、その癖、薄着で部屋をちょろちょろして寒いと騒ぐ。揚句に自分の部屋ではシーツが冷たいと言って、床に敷いたラグの上、犬たちを侍らせて暖を取る有様だ。寒いと言うから、新しい毛布も出してやったし、ヒーターも買ってやった。なのに、兄さんがそれを使うことはなく、起きてくればリビングで褪せた毛布に包まりベルリッツの毛皮に顔を埋め、寝息を立てている。何だか、とってもそれを腹立たしく思う。
「兄さん」
肩を揺するとようやく、兄さんは目を開けた。
「…ん?」
「兄さん、お早う」
「…ん。おはよ~」
ふぁあと大きな欠伸をひとつして、眠たげに目を擦る。どこか子どもっぽい仕草に、昔の兄さんの面影はない。昔の兄さんはそっと部屋に忍び込んでも気配で直ぐに目を覚ますような神経質なひとだった。そして、やっと兄弟一緒に暮らせるようになってからの数年もやたらと人の気配に過敏で、枕元に忍ばせたナイフを身構えられ、何度、殺されかけたか解らない。でも今はそれがない。…平和になったと言うか、ここが安心できると解り気が抜けたのならそれは嬉しく思うのだが、だがな…。
「お前らも、おはよ」
兄さんは順に飼い犬たちにキスをしていく。…俺より、犬が先なのか?

「ヴェストぉ~」

起してくれと伸びて来た腕を掴んで、引き寄せる。昔に比べ一回りも小さくなった身体はすっぽりと腕に収まった。
「おはよ」
両頬にキス。同じように返すと兄さんはへにゃりと笑った。
「今朝も寒ぃな。ムキムキの温かさが見にしみるぜ~」
「寒いのか?まったく、薄着でこんなところで寝るからだ。風邪を引いたらどうするんだ。寒いなら、これでも着てろ」
羽織っていたカーディガンを脱いで、シャツ一枚の薄い肩に羽織らせると何が嬉しいのか兄さんは頬を緩めた。…昔の兄さんはこんな顔で笑うひとじゃなかった。だからと言って、今の兄さんが嫌だと言う訳ではない。元から、本当はこういうひとだったのだと思う。甘ったれで寂しいがり屋でそのクセ、意地っ張りで…、そんな兄さんを俺が嫌いになどなる筈がない。
「…アスター、ブラッキー、ベルリッツ、戻れ」
躾のなった犬たちは、所定の場所へと戻っていく。それを兄さんは見送り、だぶだぶなカーディガンの袖を引き上げた。
「飯にしようぜ。腹減った」
「そうだな。兄さんは着替えてから、コーヒーを淹れてくれ」
「ja!」
肩も袖も余るその背中を見送る。…あんなに兄さんは小さかっただろうか?…それとも、俺が大きくなりすぎてしまっただけだろうか?…それが俺の所為だと思うと心がぎゅっと痛む。でも、同時に庇護欲を酷く掻き立てられた。今の兄さんに縋れるものは俺だけだと思うと、それだけで心が満たされる。そう思うことがいいことではないのは解っているが、再会した瞬間から芽生えた感情は日に日に大きく重くなっていく。…いつか、その想いが溢れて、その想いが兄さんを傷つけることになりはしないかとそれが一番、怖い。…国になって成熟したつもりでも、兄さんに庇護されていた幼い未熟な頃のように、兄さんに呆れられ、嫌われることが未だに自分は怖いのだ。

「おーい、ヴェスト、早く飯にしようぜ?」

言われた朝の仕事を終えた兄さんが俺を呼ぶ。薄いシャツの身体を俺のカーディガンが包み、余った袖から覗く指先…。あの指を噛んでしまいたい。…って、俺は一体何を…。

「どうした?」

ぶんぶんと首を振った俺を不審に思った俺に兄さんが小さく首を傾げる。…かわ…っ!?…今、何を思った?俺…。それは、思ってはならないことだ。家族にそんなことを思ってはならない。俺は感情を殺し、平静を装った。決して、兄さんにはこの想いを気付かれてはならない。

「…兄さん」
「何だ?」
「寒くて寝られないなら、電気毛布を買おうか?」
ダイニングに移動し、席に着く。兄の淹れるコーヒーは絶妙な味加減だ。今日は砂糖が少々にミルヒが少し。それに口を付け、俺は口を開いた。
「んー。いらね」
黒パンを頬張り、租借し飲み込んだ兄さんが言う。提案を即拒否され、俺は眉を寄せた。
「寒くて寝られないんだろう?」
「…寒くても寝れる。…けどよ、何か人肌恋しいんだよなぁ」
兄さんはスンと鼻を啜った。

「は?」

人肌恋しいだと?…なら、何故、俺のベッドに来ないんだ?

「あっちじゃ、ずっとひとりだったしな。たまにロシアの野郎が添い寝せがんでくるんで仕方なく、一緒に寝てやったりしたけど、アイツ、温かくねぇし。寧ろ、冷たいし。あっちで温かいのって、ロシアの屋敷で飼ってたサモエドくらいでさ。これが超可愛くてよ。よく、ベッドに連れ込んでもふって……あれ、お前、何、怒ってんの?」
…まったくもって聞き捨てならないこと訊いてしまった。ロシアに添い寝をせがまれて、仕方なく、添い寝してただと?眉間に皺が寄るのが自分でも解る。兄さんは不思議そうに首を傾ける。自分がどれだけひとを不穏にさせる言葉を放ったか自覚がないらしい。兄さんはこういう人だ。

「…俺にはしてくれないクセに」

思わず不満が口を吐いた。
「何、言ってんだよ、お前、イタリアちゃんに添い寝してもらってるじゃん。羨ましすぎるぜー。俺にもしてくんねぇかなぁ。イタリアちゃん、すっげー、いい匂いするしふかふかしてるし、いい夢みれそうな気がすんだけどなぁ」
うっとりと恍惚に瞳を潤ませた兄さんの言葉にまったくもって下心はないのは解っている。…でも、何か、…何と言えばいいんだろうか…理不尽だ。
「…アイツが勝手に忍び込んでくるんだ」
「いいなぁ、いいなぁ!!イタリアちゃん、俺のベッドに忍び込んで来てくれたらいいのにな!」
他意も悪意もないのは解っている。解っているが、俺は犬やロシア、イタリアに劣るのか?

「でもまあ、お前のちっちゃい頃が可愛いし、いい匂いするし、やわっこくって、添い寝には一番だったけどな!ケセセ!」

兄のその言葉に何かが俺の中でガラガラと崩れる音がした。…そうか、兄さんは俺が小さければ添い寝してくれるのか。…そうか。…上機嫌に笑う兄に、俺は立ち上がった。
「あれ?ヴェスト、どこ行んだ?飯、まだ残ってるぞ?」
「あー、兄さん、帰ってから食べる。俺はイギリスに用事が出来た。すぐ、帰るから」
「…おう?」
首を傾ける兄さんが俺を見送る。
 


兄さんの一番は、俺だ。
犬にも、誰にも譲ってなるものか!





 
 
 

早朝のロンドン。

イギリス邸の呼び鈴がけたたましく鳴ったのは、また別のお話。
 



 
 
 
…続かない。






PR
NAME
TITLE
TEXT COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]