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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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29 . October



猫二匹とすれ違う東西統一後の兄さんと弟のお話。

「一緒にまた暮らそう」と言えない弟と、「帰りたい」と言えない兄さんを慰める猫二匹。
ドイツ猫の名前が、シュヴァルツ(黒)、プロイセン猫の名前がヴァイス(白)と捏造の名前が付いております。


多分、続きます。

10/30 加筆修正。








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(…いつになったら、一緒に暮らせるのだろうか?)

ドイツは深い溜息を吐く。隔てていた壁が壊れ、別れていた国が再びひとつになった。それから、二年。東側を担っていたプロイセンは東ドイツの最悪だった経済の影響を受け弱っていた体に統一の煽りを食らい、半年程、入院生活を送っていたプロイセンはどん底の体調に体が慣れるやいなやもう大丈夫だと言って、勝手に退院してしまった。プロイセンの退院後、一緒に暮らすつもりで準備をしていたドイツは思い切り肩透かしを食らった。プロイセンはドイツが居を構える西ベルリンの住宅ではなく、東ベルリンのアパートに戻ってしまったのだ。いつ、熱を出すか、体調を壊すかとこちらは気が気で仕方がないと言うのに、暫くしてプロイセンは大丈夫だと土気色をした顔で笑って、有無を言わさずドイツの仕事を手伝い始めた。プロイセンの仕事ぶりは昔と変わらずでそつがなく、文句のつけようがないほど完璧で早い。どうかすれば、終業の二時間前にはその日の業務を終わらせ、他に仕事を寄越せと言ってくる。体調の未だ優れないプロイセンに仕事をさせる気にもならず、「終わったのなら、もう帰宅しても構わない」と遠まわしに気遣う言葉しか出てこない。本当は自分の仕事が終わったら、食事に誘おうと、無理矢理にでも口実を作って、西ベルリンの昔懐かしい屋敷に連れて行こうと思っているのだがどうにもこうにも上手くいかない。定時に仕事が終わっても、プロイセンは自分に話かける隙すら見せずにひとり東ベルリンの小さな部屋に戻って行く。自分の家はそこであると無言で主張しているようにも感じられて、ドイツは昔のように一緒に暮らしたいと言う言葉を喉につっかえさせたまま言えずにいた。

「…言葉に甘えて、帰るわ。…でももう少し、仕事の量、増やしても構わねぇぞ。お前だって、大変だろうが」

「俺は大丈夫だ。兄さんこそ、具合が悪くなったら電話をくれ。すぐに行くから」
確かに体調は思わしくない。でもそれは想定済みの事だ。こんなことで根を上げていては、この兄をこの手に取り戻す為に下げたくもない頭を下げ、浴びせられる言葉に耐えてきた意味がなくなってしまう。そんな瑣末な事など今はどうだって良かった。プロイセンはこの手に帰ってきた。…それだけで満足しなければならないと思う。体調などこの兄に比べればまだマシだと思う。元々、東ドイツという国は磐石ではなかった。ぐら付いていたそこに追い討ちを掛けるように立て続けに起こった歴史的出来事はこの兄を更に弱らせた。統一の調印式の場、プロイセンががくりと膝を折って倒れたことを思い出すだけで背筋が凍る。そして、未だにこの兄は統一のごたごたの負の部分を負って、微熱続きのだるいであろう体を引きずって、官舎に出勤して仕事をこなしているのだ。
「…心配性だな。大丈夫だっての。コレよりしんどいときもあったしな。…今はお前のお陰で何とか立っていられる。…東側もよ、本当はもうちょっとマシな状態で返したかったんだ。折角お前のところは景気も好調だったってのに、しんどい思いさせて、本当にごめんな」
何を言ってるんだと思う。反対にこんなにしんどい、背負わなくても良いものを背負わせてしまったのは自分だったと言うのに、プロイセンは自分を決して責めようとはしなかった。
「何を言ってるんだ。そんなこと…、」
「ごめんな。仕事の量もさ、お前が俺の体気遣って加減してくれてんだろ?そんなこと気にしなくていいからよ。…お前の手伝いもロクに出来てねぇけど、もっと手足のように使ってくれて構わないからな」
ドイツの言葉を遮ってプロイセンは笑い、ドイツの頬を撫でようと無意識に伸ばした手に気づいて下ろすと、ドイツに一礼して、部屋を出てゆく。口調は砕けたものだが態度はこれ以上の接触を拒むように頑なだ。言葉に出来ないまま言いかけた言葉は吐息になって落ちる。乾いたドアの閉まる音に距離を感じる。取り払われたはずの壁がまだプロイセンと自分を隔てている。昔のプロイセンなら躊躇うことなく自分の頬に触れていただろう。そして、その手に自分は甘えていただろうと、ドイツは自分に向かって伸ばされたプロイセンの傷だらけの荒れた指先の残像を描く。ざらりとした手のひらが頬を撫で、髪を梳く。

「…まだ、一度も、あなたは俺の名前を呼んではくれないのだな」

「ヴェスト」、「ルッツ」と掠れた、それでいてどこか柔らかいトーンを随分と耳にしていない。…気付きたくなかったことに気付いて、ドイツは深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 官舎を出、買い物を済ませて、境界線だった場所を横切る。そこから先はカラーからモノクロに切り替わる。華やかな西側とは違い、どこか鬱屈とした息の詰まるような憂鬱さが東側を支配している。木枯らしに舞う枯葉が足元を掠め、急ぎ足でプロイセンはアパートの錆びた階段を登る。西側の美しい町並みと比べ、自分のいる東側は色が無くモノクロに見えた。冬の薄曇色の空の所為か気が滅入る。足を止めて、プロイセンは空を見上げた。冷たい風が頬を撫でて、プロイセンははあっと息を冷えた指先に吐きかけ、部屋へと急ぐ。

 何もかもが順調に思えた経済は破綻するのも早かった。

 気がつけば、奈落の底にいた。奈落の底でどう足掻いても、人口の流出は留まらず、人がいなくなれば物流の流れは著しく滞った。そして、経済は更に悪化した。悪循環の無限ループに逃げ道などどこを探しても見つかるはずなどない。西側に流れていった知識層の流出は酷く、残ったのは権威に固執した自分さえ良ければそれでいい奴らばかり。…目の前に流石にもう無理だと諦めの二文字が浮かんで、もうなるようになればいいと自棄になって、内側から扇動するように一党支配の体制に不満を募らせていた国民を煽ってみれば思いもしない形で壁は内側から壊された。壁が壊れただけなら良かった。自由に行き来出来るようになれば、多少は国内もマシになり、西側からの物資が回りだせば経済も好調するのではないかと思ったのだ。でも思ったように上手くは行かなかった。馬鹿な上司達は国民の統一を望む声と、期を急ぐような西側に押されるがまま、東ドイツは吸収される形で突然無くなった。統一は急ぐ必要はない。まだ先でいいと進言したが誰も聞いてはくれなかった。統一には多大なコストが掛かる。自分と一部の知識人だけはそれを理解していたが、統一すれば、今の暮らしが格段に良くなるのだと東側にいた国民の誰もが信じて疑わず、西側にあったのはひとつの国へと戻った喜びだけだった。それがこの結果だ。資本主義は所得の格差が大きく、貧富の差が激しい。社会主義は失業率が低く、国が労働者を雇用するので賃金は低いが食うには困らない。そこを生かしつつ、西の援助を受けて、東西の経済の溝を埋めてから、ひとつに戻れば良かったのだ。別に統一したくなかった訳でもない。ただ、時代の流れがあまりにも、自分を置いて速過ぎたのだ。

「…っと、上手くいかねぇなぁ」

呟いてみても、所詮、自分は民意に流されることしか出来ない。…既に得た名も失い一体自分は何者なのかと自分でも解らなくなる。「プロイセン」では当になく、「ドイツ民主共和国」も亡国となった。…どうして、自分はここにいるのか?何故、亡国でありながら、現に留まっているのか?答えは見つからず、取り合えず生きている。まだ、何かの役目を持って生かされているのか?…もう何年もだるい状態のまま、棺桶に半分足を突っ込んだ死なずの病に侵されながら息をしている。…でもそろそろ、本当に息が苦しい。楽になりたいと思う。

「ただいま」

プロイセンは憂鬱な気持ちのまま、ドアを開く。二匹の猫がプロイセンの帰宅を迎える。それに少しだけ鬱屈とした何かが軽くなる。プロイセンは足元に寄って来た白い猫と黒い猫の頭を撫でてやる。黒い猫が小さく鳴き、白い猫もまた「おかえり」と言うように「にゃあ」と鳴いた。
「いい子にしてたか?ヴァイス、シュヴァルツ。…腹、減っただろ。今、飯にするからな」
抱えた紙袋を手に小さなキッチンに入れば、その後を二匹の猫は付いてくる。それにプロイセンは目を細める。プロイセンの家族は今はこの二匹の猫だけだった。

 

 

 白と黒、ヴァイスとシュヴァルツと名付けた二匹の猫を拾ったのは丁度、今から二年前、壁が崩壊したあの夜のことだ。

喧騒を他人事のように遠くから眺め、開け放たれたゲートに人々が蟻のように群がっているのを見ていた。…扉は開かれた。後は流れて行くだけだ。後、何年かすれば自分は今度こそ、この世界から切り離される。大戦以前から続くだるさからも解放されると思うと、いっそ清々しく感じられた。
歓声を上げ、壁に向う人の流れに逆らい、プロイセンは上着の襟を書き合わせ、家路に着く。その喧騒の中、助けを求めるように聞こえたのは猫が必死になって鳴く声だった。その声に気付くものは誰もおらず、その声のする方へ足を向ければ、小さな黒猫が声を張り上げ鳴いていた。
「…どうした?」
何だかその声が、あの日の東と西とに別れたときのドイツの叫び声にも似て、放ってはおけなかった。黒猫が鳴くのを止め、青い瞳でプロイセンを見上げる。プロイセンはその青を見つめた。街灯の薄暗い明かりに見えたのは、ドイツと同じ冬の晴れ渡った空の青。その空の青がふいっと逸らされる。黒猫は路地の奥へとたたっと駆け出し、プロイセンを振り返った。
「何だ?」
路地に誘われるがまま足を踏み出せば、また黒猫はたたっと足を進め、プロイセンをまた振り返る。それを何度か繰り返して、行き詰った暗い路地、血で真っ赤に汚れた白い猫が息も絶え絶えに横たわっている場所へと辿り着いた。白猫に黒猫は駆け寄ると白猫の頬を「もう大丈夫だ」と言うように舐める。薄っすらとそれに白猫は濁った目を開け、黒猫を見やると小さく鳴いて、目を閉じた。
「にゃあ!」
黒猫が必死に鳴いて、白猫に呼びかけるのを見つめる。
(…ああ、こいつを助けて欲しいのか…だから、あんなに鳴いていたのか)
プロイセンは上着を脱ぐと、赤く汚れた白猫を包んだ。それを小さな黒猫が見上げた。
「…助けて欲しかったのか?」
「にゃあ!」
「まだ、息がある。大丈夫だ。俺が手当てしてやるよ。お前も一緒に来い」
踵を返し、自分のアパートへと急ぐ。黒猫は後をちゃんと付いてきた。部屋に戻り、お湯を沸かし、昔取った杵柄で背中の大きく切り裂かれた白猫の傷を縫う。幸いにも傷は骨に当たったお陰で内臓に到達するほど深くはないが、出血が酷い。そして、もっと酷いのは右目だ。傷が眼球に到達していれば、失明しているだろう。明らかに故意に人間がナイフで付けた傷だった。誰が一体こんなことを。小さな生き物にこんな仕打ちをする奴がいることに腹が立つ。プロイセンは唇を噛んだ。…そして人に怪我を負わされたのに、黒猫はひとである自分に助けを求めた。そのことが遣る瀬無い。…プロイセンが白猫の傷口を洗い、消毒している間、黒猫は白猫を心配そうに見つめて、決してその場を離れようとはしなかった。

「…こんなもんか。後はコイツの生命力次第だな」

白猫の心臓は弱い心音を確かに刻んでいる。…プロイセンがじゃがいもの入っていた箱に古着を突っ込んだ即席のベッドに横たえられた白猫を黒猫は少しほっとしたような顔をして見つめ、小さく鳴いた。それをプロイセンは昔のドイツと自分を重ねて、見つめる。…怪我をして帰ってくればあの小さな弟は一晩でも二晩でも、自分の意識が戻るまで、ずっと自分のそばにいた。自分を心配してくれる誰かがいることはくすぐったくて、同時に胸が締め付けられるほどに幸せで、自分の冷たい頬を小さなあの手が触れるだけで何もかもが癒された。

「…大丈夫だ。そいつはきっと死なねぇよ」

死ねないと思った。この手を置いてなど逝けるはずがない。…プロイセンの言葉に黒猫は青い目を上げた。

「…お前を置いて、そいつは遠くに何か逝ったりはしねぇよ」

頭をそっと撫でてやれば、それに頷くように黒猫は小さく鳴いた。

 

 

「ほら、飯」

ふたつの皿に小さく千切ったパンをスープに浸し、スープの具の肉を足して冷ましたものを入れてやる。遠慮なしにかつかつ白猫が食べ始めるのを見やり、プロイセンが促して黒猫が漸く口をつける。それを眺めながら、プロイセンも遅い夕食を食べ始める。食器を片付け、新しく深皿の水を変えてやり、それからシャワーを浴び、ベッドに腰を下ろせば、白猫が床を蹴ってベッドに飛び乗り、プロイセンの膝で寛ぎ始めた。それを黒猫は床から、じっと見つめる。白猫は奔放で甘え上手だが、この黒猫は甘え下手でプロイセンが名前を呼んでやると漸く甘えて来る。そんなところまでこの黒猫は弟に似ていた。プロイセンはおいでと手招いた。
「シュヴァルツ、お前も来いよ。今夜は冷えるからな。一緒に寝ようぜ」
それに黒猫は漸く、ベッドの上にやってくる。そっと身を寄せてきた上物の絹のような光沢を持った黒猫の背をプロイセンは撫でた。
「お前、ホント、俺の弟、そっくりだな。…んで、お前は俺そっくりだぜ。ヴァイス」
にゃあと鳴いて、白猫がプロイセンを見上げる。右目に縦に傷が走る。幸いなことに傷は浅く失明を免れた赤い瞳がプロイセンを見やり、撫でろと言う様に頬を擦り寄せてきた。それに仕方がねぇなと言う顔をして、プロイセンは白猫の耳の付け根を撫で、喉を掻いてやると上機嫌にゴロゴロと喉を鳴らした。それに黒猫が目を細める。白猫がじゃれるように手を出してくるのをされるがままに黒猫は受け止める。

「…お前らはいいよな。一緒にいれてよ」

猫たちの睦まじいじゃれあいにプロイセンはぽつりと呟く。…毛色は違うがこの二匹は兄弟なのだろう。拾ったとき、白猫は既に成猫に近かったが、黒猫はまだ生後半年は経ったか経たないかだった。黒猫は甲斐甲斐しく、漸く目を開けた白猫の毛づくろいをし、白猫も黒猫に丹念に毛づくろいしてやる様子は見ていてとても微笑ましかった。アパートはペット禁止で、怪我が治ったら、二匹を元居た場所に戻すつもりでいた。でも、その前に統一の煽りを食らい体調を崩し、半年程入院する羽目になったしまった。アパートに置いてきた猫はどうなったかと気が気ではなく、医者が引き止めるのを振り切って、アパートに戻れば猫はまだ部屋に居て、プロイセンを見とめて駆け寄ってきた。餌をやることも出来ずにいたし、衰弱して、死んでいるのではないかと思ったが、隣人がこっそりと餌を与えたり、足りない分は自分で鼠を取って補っていたらしく、大家に内緒で猫を拾って世話していたことがバレて怒られ、部屋を追い出されるかと思っていたのだが、この二匹の猫のお陰でアパートに出没しては家を荒していた鼠が減りったことに反対に感謝され、特別に飼うことを許された。それから、もう一年が経つ。

「…俺にはもう、帰る場所も、待ってる奴もいないけどな」

しがらみなど無ければいい。この猫のように自由になりたい。でも、そうは出来ない。今更、どの面下げて、反体制側に付いていた自分が弟の元へと帰れるだろう。今の東西の格差を思えば、どれだけ自分の存在が弟の重荷となっているのか思うだけで胸が苦しい。弟はやさしいから自分を簡単に許すのだろう。いっそ、邪魔だと、消えてくれと罵ってくれる方が楽になれた。負担を掛けているのにそれを責めることもせず、弟は不器用なまでに自分を気遣い、優しい言葉をかけてくれる。それが嬉しくて、それだけで自分の罪を許された気になる。でもそれには甘えられないと思う。自分だけがさっさと楽になることなど出来ない。そう思うと、昔のように「ルッツ」と呼ぶことも「ヴェスト」と呼ぶことも出来なくなってしまった。

「…何だ、お前ら俺を慰めてくれんのか?」

昔は悲しくても辛くても泣くことも出来なかったのに、今は感情が昂ぶると直ぐに涙腺が緩む。流れた涙をざらりとしたふたつの舌が濡れた左右の頬を舐めた。
「にゃあ」
「…ありがとな。ヴァイス、シュヴァルツ、お前達がいて本当に良かった」
きっと、この二匹の猫がいなければ、重圧に心が折れて、引き出しの奥に隠したリボルバーで頭を撃ち抜いていただろう。プロイセンは二匹の猫の頭を撫でてやり、両腕に抱えて横になる。左右の肩に猫たちは頭を凭せる。プロイセンはブランケットを引き上げると、小さくおやすみと呟いて、目を閉じた。

 

 

 






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