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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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02 . November


続き。

サイトを隈なくご覧いただいている方には、「あれ?」って思うようなひとが出てきます。
男にしようか女にしようか迷って、女性にしましたが至って健全ですのでご安心ください。

もう暫く、続きそうです。






拍手[23回]



 


雨音に目を開ける。だるい体を起こせば、白猫が抗議するように小さく鳴いて、プロイセンを見上げた。それを宥めるように頭を撫でてやる。ベッドを降りて、カーテンを引けば、煙るように雨が降っている。

「…雨か。どうりで頭が痛いと思ったぜ」

常にだるい体は天候に直ぐに左右されるし、気分も滅入る。プロイセンは椅子に掛けた薄いカーディガンを羽織り、ストーブに火を点けた。冬はまだ始まったばかりだが体の底から冷えるような冷気は弱った体に堪える。鼻を啜り、暫く、オレンジ色に灯るその場所から動けずにいれば、黒猫が心配するように身を寄せてきた。
「にゃあ」
「…ん、心配してくれてんのか。大丈夫だぜ。…今、飯、準備して…や…」
立ち上がった瞬間、酷い眩暈に襲われ、その場にしゃがみ込む。息が出来なくなる。胃液ばかりの吐瀉物を吐き出して、そのまま崩れる。冷たい床の感触に肌が震えるが力が入らず、指先すら動かない。それを見やり、白猫が慌てたようにドアへと向かって走っていくのを見送り、プロイセンの意識は事切れた。

 

 

 

 

 

「…遅いな」

始業開始の五分前には席に着いて仕事を始めているプロイセンの姿がない。いい加減そうに見えてプロイセンは時間には正確だ。…まさか、何かあったのではないか…?、…そんな想像に背筋を冷たい汗が流れていく。近くに居た部下にプロイセンのことを尋ねるが、休むと言う連絡は受けていないと言う。ドイツは眉間に皺を寄せ、デスクの電話の受話器を取った。
一度も掛けたことのない、それでも覚えてしまった繋がれた番号にコールする。ジリジリと鳴り響くコールに気が急ぐ。
(…早く、出てくれ…)
何事もないなら。祈るように、プロイセンが電話を取るのをドイツは望む。…ガチャリ、と、受話器の外れる音が聞こえ、ドイツは声を上げた。

「兄さん?」
『兄さん?…あなたはバイルシュミットさんの家族?』

電話に出たのは、プロイセンではない。ハスキーな声の女性。それに、ドイツは言葉を忘れ、押し黙った。

『もしもし?』
「…え、あ、すまない。…その、あなたは?」

誰だ?どうして、兄さんの部屋に女がいるんだ?ぐるぐると混乱する情報に声を絞り出して、問えば、受話器の向こうで溜息がひとつ落ちた。
『私はバイルシュミットさんの隣の部屋に住んでるマリア・アインハルトよ』
「隣人?」
『学校に行こうと思って部屋を出たら、バイルシュミットさんの部屋から凄い猫がドアを引っ掻く音と鳴き声がするの。何か遭ったんじゃないかって、大家さん呼んで、鍵開けて部屋に入ったら高熱出してバイルシュミットさん倒れてて、大家さんと二人でベッドに寝かしつけたところよ』
「な?」
『一応、処置しといたけれど、医者に見せた方がいいかもしれないわね』
「…そうか。その、兄が迷惑をかけてすまない」
『迷惑なんて思ってないけど。…あなた、ここに来れる?』
「今すぐ、行く」
『そう。じゃあ、待ってるから。…出来れば、ここに来るまでに消化に良さそうな食べ物と氷枕、水、それと着替えとかもお願い出来る?汗が凄いから着替えさせようと思って、クロゼット勝手に開けさせてもらったんだけど、着替えになりそうなものがなくて』
「解った。…その、」
『何?』
「俺が行くまで、兄さんを頼む。…俺はルートヴィッヒ、そのひとの弟だ」
『解ったわ。ルートヴィッヒさん』
ドイツは電話を切ると、庁舎の上階にある上司の部屋に向かい、早退することを伝え、三日の休暇を貰い、自分の抱えてる仕事を部下に割り当て、庁舎を出る。ドラッグストアと衣料品店で品物を揃え、分断してから一度も足を踏み込むことも出来ずにいた境界線をドイツは越えた。

 

 兄がどこに住んでいるのか、分断される前から知っていた。未だに兄がひとり戻って行く部屋に繋がれた番号も。電話は傍聴の恐れがあって、一度も掛けることが出来なかった。その代わりに、手紙だけは毎日のように綴って、送った。それに一度も返事が来たことはない。届いたのか、届いたものの、読まずに捨てられたのか…。手紙は兄の元に届くことはなく捨てられたのだろう。高い壁に隔てられた向こう側がどうなっているのか、情報として知る立場にあったが気にしつつも、目を逸らしてきた。自分の中に東ドイツと言う国を認めたくない気持ちと、「東ドイツ」と名を変えたプロイセンを慕う気持ちに折り合いがずっとつかなかった。占領下から、ソ連に東半分奪われたまま、「ドイツ連邦共和国」になった。それから五ヵ月後、ソ連主導の下「ドイツ民主共和国」成立した。奪われた半身が敵対する側として目の前に立った。苛立ちと歯痒さと…どうにも出来ない自分の無力感に苦しんだ。裂かれてから初めて、「西」と「東」と言う形で互いの上司が顔を合わせた時、プロイセンは決して目を合わせようとはしなかった。それがあの戦争から自分と兄とを隔てた埋まらない溝のように思えた。

 壁が壊れたあの日、ドイツはボンから車を飛ばして、ブランデンブルクの門の前に行った。群集の波を掻き分け、プロイセンの姿を探した。でも、プロイセンはそこにいなかった。真っ先に駆けつけて、自分を兄は探しているかもしれないと思っていた。…それは、俺の思い違いだったのだ。

 プロイセンを最後に見てから、次の再会までどれだけ時間がかかっただろう?壁が壊れたあの日から、一週間を経て、ドイツは漸くプロイセンと再会し腕に抱くことが出来た。記憶とは違い、褪せた色をし、痩せたプロイセンの体はドイツが憧れて追い続けた背中からは程遠く、こうさせてしまったのは自分なのだと呵責ばかりがドイツの中で大きくなる。

「…統一は急がなくていい。…ゆっくりやって行こう」

プロイセンは弱った声でそう言い、笑った。…悠長なことを言うと思った。急がなければ更に兄は弱っていくだろう。機を逃せば、この兄を取り戻すことは不可能になる。ソ連は今、中がごたついてる。そして、ソ連側の上司は珍しく物分りのいい人物だ。反対するであろうイギリスやフランスに手を回し、アメリカに味方に付いてもらった。先駆けて、ポーランドやハンガリーがソ連の枠組みから独立したばかり、これ以上の条件が揃うことはこの先ある筈がない。

(…あなたは、この状態を見透かして、そう言ったのだろうな…)

建国時に憲法は作らなかった。ただひとつに戻るためだけに作った基本法。基本法は統一の為の保険のようなものだった。兄が戻ってきて、やっとひとつの「ドイツ」になるのだ。基本法146 条に基づく正式の憲法制定の手続によるものではなく、旧東ドイツに新しい5 つの州を編成して、それらがドイツ連邦共和国に編入するという、基本法23条の州の再編が一番手っ取り早かった。それにプロイセンは難色を示した。どうして、憂うような顔をプロイセンがするのか、ドイツには解らなかった。
東側の経済状況は相変わらずで、失業率は高い。税金の額を上げ、多額の資金を東側の開発に力を入れてはいるが良くはならない。でも、それは時間が解決してくれると信じる以外に自分に何が出来るだろう。

「…ひとつになりたい。ただ、それだけなのに…」

どうして上手くいかないのだろう。…壁は取り払われ、一つの国になった。それなのに、まだ自分たちの間には隔てる壁がある。

 雨に肩を濡らし、ドイツは急ぐ。

壁はなくなった。隔てているものはもうないのだ。…もし、まだ壁があるとするならば、四十年と言う間、離れ離れでいた、その四十年の時間が作り出した空白があるからだ。

 その空白を今から、埋めていけばいい。

 

 

 

 

 

「…っあ、」

「気がついた?」
「「にゃあ」」

猫と若い女の声。プロイセンは重い目蓋を持ち上げる。枕元、赤と青の瞳。栗色のウェーブを描いた髪がニットの肩を流れ落ちる。白い指先が伸びてきて、プロイセンの頬を撫でる。額に乗ったタオルを水に浸してそっと汗を拭う。その冷たさに息を吐けば、ほっとしたように若い女が吐息を零した。

「…えーと、アンタは?」

プロイセンは赤を瞬いて、女を見上げた。
「隣の部屋に住んでるマリア・アインハルトよ。あなたのところの猫が凄い勢いでドアを引っ掻いて、鳴いてるから、大家さん呼んで、鍵は開けたもらったわ」
「…あー、それは有難う。迷惑かけて悪かったな」
「どういたしまして。でも、ありがとうを言うのは私よりその白猫と黒猫にね。ドア、引っ掻きすぎて、白猫は爪がぼろぼろよ。黒猫もずっとあなたの頬を舐めていたわ」
女…マリアはそう言って、プロイセンの枕元じっと大人しく見つめて来る猫たちを見やった。
「…そっか。…ありがとな。ヴァイス、シュヴァルツ、ごめんな。心配かけて」
それに「気にすんな」と白猫が鳴き、頷くように黒猫が鳴いて、プロイセンは目を細めた。
「賢い猫ね」
「本当にな」
マリアは白猫と黒猫の頭を撫でて、手桶を手に立ち上がる。それを見送って、プロイセンは息を吐き、枕元の時計を見やる。時計の針は既に十一時を過ぎている。慌てて、プロイセンは身を起こす。それに猫たちが抗議するように鳴いた。
「仕事ッ!」
連絡も入れていない。無断欠勤したとなれば、ドイツがまた心を痛めるだろう。軋む体を引きずって、クロゼットを開ければ、マリアがプロイセンを睨んだ。
「何をしているの?」
「…仕事にいかないと…」
「四十度も熱がある癖に何を言ってるの?ベッドに戻って」
「…だけど、」
「あなたの弟さんから、先、電話があったわ。もう直ぐ、ここに来るはずよ。大人しく、ベッドに戻って」
プロイセンは大きく目を開くと、はっと息を零してその場にへたり込んだ。来て欲しくないひとがここに来てしまう。…また、不必要な心配を掛ける。それだけのことに息が詰まりそうだ。自分のことなど、もう気になど掛けてくれなければいい。…と思いながら、胸のうちに昏い喜びが満ちていくのに、プロイセンは顔を歪めた。
「…拙かったかしら?」
「いや。…仕方がないだろ。…俺の弟は心配性だからな、心配かけたくなかっただけだ」
「…なら、いいけれど。ベッドに戻りましょう?」
「…ああ」
差し伸べられた手にそっと手を凭せる。マリアは微笑するとプロイセンの背を支えた。

「……?」

ふっと見上げたマリアの眼差しが誰かに重なる。寝かしつけられ、肩まで引き上げられたブランケット。マリアは手桶を手に戻ってくると浸したタオルを絞り、プロイセンの額へと乗せた。
「…前に、どこかで、会ったことがあるか?」
面影が誰かに重なる。青い瞳、栗色の髪。…でもそれが誰だったか、熱の所為か記憶が酷く歪む。
「…いいえ。私はあなたを知っているけれど、あなたは私を知らないわ」
「?」
そっと銀色の髪を撫でたマリアの口元が緩む。ひんやりと冷たい指先にプロイセンは目を細める。

「…まさか、父の言うことが本当だったなんて、思ってもいなかったけれど」

目蓋が重い。マリアの言葉の意味が解らない。急に襲ってきた睡魔に意識を引っ張られる。

 

「…眠って下さい。あなたの大事なひとが来るまでは、私があなたのそばにいますから」

 

…ああ、この声は、いつも俺が辛いときにそばにあった声だ。

 

プロイセンの意識はその言葉に引きずられるように落ちた。

 

 

 






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