忍者ブログ
「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

07 . November

…マリアさんのキャラクターがどうも掴めていないようです。
書き直すかもしれませんが、取り敢えず続き。






拍手[38回]





いつも父は毎年、新しい手帳をクリスマスに購入する。その真新しい手帳にいつも挟まれるものがある。クリスマスの日に毎年撮る家族の写真と角の擦り切れたモノクロの古い色褪せた一枚の写真。それを時折、取り出して眺めては憂うような顔をして、空を見つめる父の目はどこか遠くを見ていた。それを初めて、目にしたとき、私は父に母以外の好きなひとでもいて、そのひとの写真を眺めているのだと思っていた。父と母は子どもの私から見ても仲睦まじく、母は父を尊敬していたし、父はとても母を大切にしていて、父が浮気をしているようにはどうしても見えなかった。私は写真に写っているものが誰なのか、父に憂いた顔をさせるその写真に写るものを知りたくて、こっそりと父の鞄から手帳を抜いて、写真の差し込まれたページを開いた。写真に写っていたものは将校の軍服に身を包んだ青年が口元を綻ばせて、緊張した面持ちで、真新しい軍服に身を包み、椅子に腰掛け、こちらを…カメラのレンズを睨んでいる若かりし頃の父の肩に手を添えていた。

「…誰かしら?」
「私の大事なひとだよ。マリア」

その声にびっくりして振り返れば、穏やかな微笑を浮かべた父がそこにいて、勝手に父の手帳を持ち出したことを怒られるのではないかと私は身を竦めた。父はそれについては何も言わず、私の手の中にある写真を見つめた。
「彼は私の名付け親で、兄で、父のようでもあり、師でもあった」
「…お父さんの名付け親?」
写真に写る父と青年との年齢は五つ開きがあるかないかに見えた。不思議に思って、父を見上げれば、父は笑い、私に母にも話していない秘密の話をしてくれた。

「…彼はね、私の「故郷」。…今は無くなってしまったが「プロイセン」と言う「国」だった」
「「国」?」
「国の化身って言ったらいいのかな?その国を現すそのものみたいな感じだと言ったら、いいのだろうね。「国家」そのもとでも言ったらいいのか…」
「…じゃあ、私が住んでるこの国にも「国」の化身のひとがいるの?」
「すぐ近くにいるよ。マリアもよく知っているお兄さんだ」
「え?誰?」
「…さあ、誰だろうね?」
父は言葉を濁し、私の頭を撫でた。
「…随分と昔、ベルリンで別れて以来、彼とは会っていない。…この写真は私が士官学校に入学したときに記念に彼と撮った、たった一枚の私と彼を繋ぐものなんだ。…またいつか、…約束を破るようなひとではないから生きているとは思うけれど…、……私の故郷は今は帰りたくても帰れない場所になってしまったからね…」
「…お父さんはドイツのどこに住んでいたの?」
母は戦時中、父は戦後にドイツからアメリカに渡ってきたことは知っていた。母は昔のことは話したがらず、父もまた多くを語らなかった。
「…今はソ連領になってしまって、名前もカリーニングラードと変わってしまったが、プロイセンの古都ケニーヒスベルクで生を受けた。…私の父も祖父も、彼に代々仕えてきたプロイセン軍人で…、祖父も父もその先代も彼に仕えることが誇りで有り、喜びでもあった。私もそうだったよ」
「…お父さんも軍人だったの?」
「ああ」
頷いた穏やかでやさしい父が人を殺す場所に、戦場に居た…ひとを殺してきたのだと言うことが、私にはとても信じられなかった。
「…お父さんが軍人だったなんて、信じられない」
物静かで温厚な、今は政府高官の通訳を務める父が銃を握り、戦場に居たということが私にはとても信じられなかった。
「…彼にも軍人には向かないと言われたな。「学者か、医者になれよ」ってね。でも、私は昔から、父が亡くなってからは何かにつけてずっと色々と自分の面倒を見てくれた彼に憧れていてね。そばにいたくて仕方がなくて、私は軍人と言う職を選んだ」
「…お父さんはそれを後悔していないの?」
「していないよ。その職に就いて良かったと今でも思っている。…敗戦が濃厚で、上層部と揉めて半ば自暴自棄に死にに行くつもりで死地に赴いた彼の心を、足手まといだった私の存在が少しは変えることが出来たからね」
写真の中の青年は屈託のない顔で笑って、父を見つめている。その顔に忍び寄る暗澹たるしたものは見えず、何も知らずにその写真を見ていたならば、私は父に兄がいたのだと勘違いするほどに父と青年とは親しげだった。
「…強くて、ひとの痛みを知っているやさしいひとだ。私は彼に一番近かったから、他の「国」の方達に会ったことがあるけれど、国民をあんなに想い、愛してるひとを彼以外には私は知らない」
「…「国」が戦争を望んでいないのに、何故、戦争になったの?」
痛みを知っていたのなら、何故、戦争になったのだろう。問えば、父は眉を寄せた。
「…戦争にはいくつもの思惑と契機がある。火が点いてしまえば、燃え尽きるまで誰も火を止める事が出来ない。…平和を願っても、ひとりだけの意思ではどうにもならない。渦のような時流に飲み込まれてしまれば、私達にも、またその国自身にも逆らう術がない」
父は写真の青年を見つめた。
「…それでも、彼は逆らっていた。悲しんでいたし、そして、ずっと悔いていたよ…」
私の手から手帳と写真を取り上げ、父は写真を挟むと手帳を閉じた。悲しげに小さく呟くようにそう言葉を落とした父に私は何も言えず、それ以上、写真の青年が何を悲しみ、何を悔いていたのかを問うことが出来なかったのだ。

  そのモノクロの写真は今も、父の手帳にあるのだろう。



 

 


すっと寝入ったプロイセンの顔を見つめ、マリアはプロイセンの頬を撫でる。写真の青年の面影には程遠く、痩せて、顔色が悪かった。あの写真の青年よりも目の前に眠る彼が褪せて見える。

 東ドイツに留学したのは、壁が壊れる半年前。漸く、ビザを獲得し、このアパートに住み始めた。父の故郷を見て見たかった。そして、知りたかったのだ。自分のルーツである祖国「プロイセン」のことを。

 東ドイツの内情は不安定で、度々、小規模な市民デモが起こっていた。ハンガリーで起こった凡ヨーロッパピクニックでの多数の東側の市民が西側へと自由を求め逃れた。それを受けた政府の出国規制緩和策は不十分として市民からの批判を浴びた。その批判を受け、発表された新しい出国規制法案の記者会見の発表が冷たく聳え立つ壁の崩壊に繋がっていくなど、誰が思っただろう。
壁が崩壊し、一年が経ち、「東ドイツ」は「西ドイツ」に吸収される形で消滅した。この混乱に母からは何度も帰国を促されたが、見届けたいという思いがこの場所に足を留めた。全てを目にし、この歴史を体感することがマリアにとって使命のように思えたのだ。そして、もう一つここに留まり続ける理由、写真の青年に出会えたのなら、伝えたいことがあった。

「…まさか、隣に住んでるなんて思いもしなかったわ。…Geehrt unser Mutterland」

熱が少し下がったのか、プロイセンの息は穏やかだ。それに、マリアは目を細め、温くなったタオルを取り替え、十二時を知らせる教会の鐘の音に顔を上げた。それと同時に来客を知らせるブザーの鳴り響く音。二匹の猫の耳がピンと立つ。玄関に向かい、ドアを開けば、そこには雨に肩を濡らした金髪に青い目をした若い男…ドイツが荷物を抱え、スーツの肩を濡らして立っていた。

「ルートヴィッヒさん?」

「そうだ。…その、兄さんが迷惑をかけてすまない。…兄さんは?」
心配そうに部屋の奥を覗き込むドイツにマリアは道を開ける。ドイツはそれに足を踏み出し、フーッと威嚇するように睨む二匹の猫に気付き、足を止めた。
「…猫?」
「バイルシュミットさんが飼ってるの。ヴァイス、シュヴァルツ、このひとはあなた達の飼い主の弟さんよ。警戒しなくても大丈夫」
毛を逆立てる猫の背をマリアはそっと撫でる。それに白猫が警戒を示しながらも「解った」と言うように短く鳴いて、それに従うように黒猫が爪を引いた。それでも幾分を警戒をしているのかプロイセンが眠るベッドに二匹の猫は移動し、ドイツを見張るようにじっと見つめた。

「…兄さん」

二匹の猫を気にしつつ、ベッドに歩み寄って、ドイツは言葉を落とす。横たわり、こんこんと眠る白い顔はあのときの悪夢を容易くドイツの脳裏に甦らせた。調印文にそれぞれの上司のサインが記されたあの瞬間、本当は最高の瞬間となるはずだった。それが、その場で崩れ落ちたプロイセンの指先が今にも消えそうに敷かれたカーペットの赤が透けるのに心臓が壊れるほどの恐怖を味わった。それは、ほんの一瞬のことだったが、あのときの恐怖を一生、忘れることなど出来ないだろう。ドイツは恐る恐る呼吸を確認するようにプロイセンの口元に手のひらを翳し、そっと首筋に滑らせた。

「…コーヒーを淹れてくるわ」

マリアは視線を外す。ドイツはそれには気付かないまま、指先に伝わってくる血の流れにほっと息を吐き、その場に膝を着いた。

「…兄さん」

四十年と言う時間はとても長かった。壁が築かれたときにはもう、自分の元にプロイセンは戻っては来ないのだと、絶望すらした。…人が月にまで行くようになったと言うのに、壁が隔てるたった数メートルの距離が酷く遠かった。でも今、その距離はここには存在しない。隔てるものは何も無いのだ。

「…あなたが元気になったら、ちゃんと話をしよう。…あなたにあのとき言えなかった言葉があるんだ」

言いたいこと。訊きたかったこと。四十年の空白を埋める言葉。


あの日、本当に断罪されるべきは、自分だったのだと。

 

ドイツはプロイセンの頬を壊れ物に触れるように撫でる。




それを静かに二匹の猫は見つめていた。

 







PR
NAME
TITLE
TEXT COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]