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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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20 . November


…おかしい。当初、壁崩壊記念日に合わせて出来れば、3くらいで終わる…って思ってたのに、何故だ?
後、兄さんが寝てる所為で話が進まず、ほぼ隊長の回想になってしまったぜ…。

参考引用≫観光コースでないベルリン 熊谷徹 高文研






拍手[28回]





あのときのことを思い出すと、ぐっと心臓を鷲掴みされたような痛みと苦しさに襲われる。今まで自然に出来ていたはずの呼吸すら出来なくなって、頭の中が真っ白になる。

「兄さん、これで俺達はまたひとつに戻れるんだな」
「…ああ。そうだな」

淡々と進む式に、プロイセンはうっすらと微笑を湛え、この瞬間を自分と同じように待ち望んでいるように見えた。上司がサインを交わし、二枚の書類に最後のサインが記される。歴史的その瞬間。漸くこの手に、プロイセンが戻って来る。込み上げてくる歓喜に、プロイセンを振り返れば、がくりと膝を折り、その場に崩れてゆくプロイセンの姿がドイツの青い瞳に映った。ふっと宙に向かって投げ出された手が何かを求めるように伸び、指先が透けてゆく。

 それに、心臓がドクンと大きな音を立てて、軋んだ。

 生まれて初めて味わった最大の恐怖。心の奥底に忘れようと仕舞いこんで鍵を何重にも掛けたパンドラの箱が開いた瞬間だった。

 プロイセンを失う。

東西が統一するということは、既に拠り所となる場所も名もこの瞬間失くしてしまったプロイセンの喪失を意味していた。それにずっと目を瞑り、耳を塞ぎ、そんなことは無いのだと自分に言い聞かせて来た。

 奪われた東側を取り戻すことは、悲願だった。
そして、もう一度、この国をふたりで…。

 ひとつになったら、あなたと共にいれないのなら、俺はひとつになんなんかなりたくない。壁に隔てられ、会うことすら出来なくても、あなたが壁の向こうに存在しているならば、俺はそれに縋って生きていける。

 俺から、このひとを奪わないでくれ!!

 このひとを失ってしまったら、俺は生きていくことなんか出来ない。四十年、壁の向こう側、このひとを思いながら生きて来た。

 何を失ったって、いい。俺が変わりに消えたって構わない。

「兄さん、」

これがあなたの言っていた罪の代償か?…あなたを失うことが…。


それほどまでに俺の犯した罪は重かったと言うのか。その代償にあなたを俺は失うと言うのか…。

 指先を掴み、抱きしめたプロイセンの体は軽く、空疎だった。虚ろに開いた赤が青を見つめ、笑った。

「……俺に科せられた罪の償いはまだ終わって、ねぇ…。…まだ、お前とひとつにはなれねぇ……ごめんな…」

ふっと重さを取り戻した体。力尽きたように落ちる目蓋。…ドイツは息を吐く。心臓の音ばかりが煩く、周りの喧騒は届かない。

 ただ、その言葉に安堵した自分に、ドイツは唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 


東西ベルリンの市内に壁が築かれたのは、東側の建設労働者によるデモが発端だった。そのデモは瞬く間に東ドイツのあちらこちらに飛び火した。一部の町では人々が暴徒化し、SED(ドイツ社会主義統一党)の支部を占拠。刑務所、警察署に乱入したり、国営商店に放火したりするものが現われた。労働強化に抗議する為のデモは全国的な規模の暴動に発展した。その暴動は政府首脳がソ連に泣きついた結果、瞬く間に鎮圧された。
暴動を契機とし、政府は反対制派の取締りを強化。支配体制を固めることに成功した。この暴動を経験し、自国に幻滅した市民は次々に西へと亡命していった。人口の流出は東ドイツ政府にとって大きな悩みの種となった。ひとがいなければ国は国としての機能を果たせない。亡命する市民の多くが経済再建に欠かすことの出来ない知識層、エンジニア、医師、大学教授などの専門知識を要する人々だった。…そして、東ドイツの政府は歴史上にも例が無い強攻策に打って出た。

 1961年8月13日 午前一時。

 既に多くの人々が眠りについた夜の東ベルリンに、トラックの騒音が響き渡った。

 一夜にして、築かれた壁。その壁は徐々に広がり、隔てられた国境へとドイツ全土に広がっていった。


「…ベルリンに壁…?」

報告を受けた瞬間、眩暈がした。繋がっていたものが遮断していくのが、自分の中でも解った。西ドイツの飛び地となった西ベルリンが壁に囲まれてゆく。心臓が軋みを上げる。東側の兄に「何故?」と問うことも出来ず、壁の建設にイギリス、フランス、アメリカはソ連との戦争を避けるために何の対抗策も取ろうとはしなかった。そして、ドイツ自身もどうすることも出来ず、ただ着々と淡々と、灰色のコンクリートの高い壁が視界を覆うように作られていくのを見ていることしか出来なかった。

  いつか、またひとつに戻る日がくることを信じて、唇を噛み、堪えることしか出来なかった。

 東側の強硬手段は仕方のないものだと解っている自分もいた。だから、誰も何も言わなかった。それを非難すれば、また戦争になることを誰もが恐れた。人口の流出は、流血と一緒だ。流れ続ければ、何れ訪れるのは「死」だ。壁は巻かれた包帯だった。そう思えば、余計に壁の向こう側のプロイセンをドイツは想った。

『「人」は「国家」にとっては「宝」だ。国が存続していくためには、「人」がいなければ駄目だ』

そう言っていた兄から、ひとの心は離れ、流れてゆく。何と言う皮肉だろう。かつて、それを否定した自分の元へとの兄の国の人々は自由を求め、流れてくるのだ。

 壁でひとを囲い、壁の向こう側のプロイセンはそれをどう思っているのだろう?

誰よりも自分に近く、すべてを理解し共有してきたプロイセンはあの日の別離から、自分の手を遠く離れ、その手を伸ばしても届かない遠い遠い場所にいた。

 

 

 

 

 状況は変わり、四十年の長い時間を経て、プロイセンを自分の元へと取り戻した。望めばすぐそこに、プロイセンの手はある。

 

 

 


近いのに酷く遠いと思う。ドイツは息を吐く。その吐息に重なるように陶器の立てる音が小さく響いた。


「どうぞ」
「…ありがとう」

サイドテーブルに置かれたマグカップと添えられたサンドイッチにドイツは視線を伏せる。マリアは踵を返すとキッチンの隅にある小皿に猫の餌を小鍋から装う。じっとドイツの様子を伺っていた猫達の鼻がひくりと動くのをドイツはぼんやりと見つめた。
「ヴァイス、シュヴァルツ、おいで」
マリアの呼ぶ声に白猫は一瞬逡巡するような顔をする。黒猫はそんな白猫をじっと見つめている。白猫は一度、ドイツをじっと見上げ、それからふいっと長い尾を翻した。それに黒猫も続くようにベッドを降りた。かつかつと餌を食べ始めた猫達を見やり、マリアは視線を上げた。
「バイルシュミットさんにはコンロの鍋にお粥を作ってあるから」
「有難う。何から何まで、気を使って貰ってすまない」
「気にしないで。…あなたも顔色が悪いわ。大丈夫?」
気遣うマリアの言葉に、ドイツはマリアを見つめた。
「…俺は大丈夫だ」
ドイツの言葉にマリアは目を細めた。
「…そう。でも、無理はしないで」
「…ありがとう」
「じゃあ、帰るわ。何かあったら、隣の305号室のドアを叩いて」
「本当に色々と気を使わせてすまない。後で、お礼に伺う」
「気は使わなくていいわ。…感謝してるの」
ショールを肩に纏ったマリアにドイツは瞳を瞬いた。
「感謝?」
「ずっと、会って見たかった。今も、私の父が愛する祖国に」
マリアの言葉にドイツは目を見開いた。

「…だから、この幸運にとても感謝してるの」

にっこりと微笑んだマリアにドイツは何も言えずに、言葉を発そうと開いた口を閉じる。栗色の髪が緩く波打つのを見送る。ぱたんとドアの閉まる小さな音にドイツは息を吐いた。

 


 






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