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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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12 . January

無題のプロイセンと子どもで、もしも、例えばなお話。
冬の始まり~のお話と微妙にリンク。


老フリッツとプロイセン。
プロイセンの望みを知ってしまった子ども。







拍手[46回]



 

 
 長い過酷な戦いのち、訪れた平和。
 

 王は青年時代失ったもの与えられなかったもの全てを取り戻すかのように、甥のハインリヒを寵愛し、傍に置いた。それをプロイセンは間近に見つめ、その輪に自分がいることがとても幸せだった。
 かつて自分が父王に与えられなかった愛情を惜しみなく、少年に与え、それに少年は答え、頬を染めて、王に微笑む。それを満足そうに見つめ、笑みを浮かべる王に漸く、自分は安寧を与えてやれたと。

 幸せな時間、笑いに満ちた安らかでやさしい日々…。
 それは、余りにも短く儚い時間であった。美しいもの、やさしいものは唐突に奪われ、掴んだ手のひらから容易く逃げていく。



 
「…プロイセンよ。お前に私は何も残せてやれないようだ…」
 
子のいない王が自分の後事を託すべく、可愛がっていったハインリヒが連隊演習の帰途、天然痘で急死したと悲報を受け、王は言葉を失くし、すべてのものに絶望し、書斎に籠もった。慰める言葉など、仲睦まじい親子のようなその様子を間近で見てきたプロイセンはどう声をかけていいのか解らず黙り込み、ただ、王の傍に侍る。また、一際、小さくなった王の老いた背中をプロイセンは見つめた。

「…親父…」

そう呼びかけて、プロイセンは口を噤む。慰めの言葉はどれも空々しい。プロイセンは赤い目を伏せた。
「…あれはまだ19歳だった。…丁度、私が国外逃亡を計り、捕らえられた歳だ」
掠れた声が呟くように言い。王は視線を伏せ、顔を覆った。
「…そして、私の為にカッテは死んだ。…ああ、何故、ハインリヒ、お前の為に私が身代わりとなれたなら良かったものを…」
「…親父」
プロイセンは王を呼ぶことしか出来ない。

 ああ、ずっとこの男は俺の為に生きてきた。…そして、俺の先を案じて嘆いている。

胸が詰まるような昏い喜びがプロイセンの胸の中に広がり、飽和する。
「…お前を列強の一員に加え、やがては纏まりのないドイツ諸邦をひとつにすることが私の夢であり、望みだ。…でも、私はひとだ。もう残された時間は僅かしかない。私の夢を、お前を託すことが出来ることが出来る者が……漸く……何故、老い先短い私ではなかった…ハインリヒよ…」
語尾が掠れて、滲む。プロイセンはそっと孤独な王の背中を抱きしめた。

 自分はどれだけこの孤独な王から色んなものを奪っていったのだろう。
 そして、奪い続けていくのだろう。
 疫病神のような自分が傍にある限り、この王はあらゆる幸福から見放され、決して幸せにはなれない。

 それでも、プロイセンは共にいたいと願う。

「…親父、」
許してほしい。そんな言葉を口にすることは驕りだ。自分のエゴに雁字搦めになりながら、プロイセンは王の背中を抱き締める。

 俺は、お前さえいてくれれば何もいらない。お前がいなくなるとき、共に自分もこの世界からいなくなりたい。
 いつまでも、お前と共にありたい。

 悲しみに打ちひしがれる王の背中に小さく呟き、自分亡き後のこの身を案じる王にプロイセンは一滴、涙を零した。
 
 
 



 ひとの一生は、一瞬だ。
 紺青の空を流れていく星のように、瞬きひとつのうちに終わってしまう。

 荘厳な教会の鐘が鳴り響き、プロイセン国王フリードリヒⅡ世の葬儀に国民、皆が喪に服し、偉大なる王を見送った。

「……フリッツ、フリードリヒ、親父、俺の王、俺の子、俺の……」

 倒れたとベルリンの宮廷で知らせを受け、サンスーシにプロイセンは急いだ。
 あの長い戦争で患った病を抱え、ハインリヒ亡き後、憂いを極力残さぬようプロイセンの為に尽くし続けた王は、とうとうプロイセンを置いて逝ってしまった。遥か遠く、プロイセンの手の届かない場所へと。

『…プロイセン、我が主、我が友、我が子よ。…どうか、悲しまないでくれ』

悲しむなと無理なこと言う。…何人ものひとを自分は見送ってきた。それは仕方のないことであり、割り切っていた。…この王の死も自分はいずれは受け入れ、時間が過ぎてば悲しみも癒えていくのだろう。でも、このぽっかりと自分を穿った喪失感と恐ろしいほどの静寂に身体が震えて、まともに立つことすら出来ない。

 お前がいないと、立てない。見えない。暗い。何も聴こえない。声も出ない。
 どうやって、呼吸していた?…解らない。…俺は息をしているのか?

「…フリッツ、親父、…どうして…」

執務に使われていた椅子には亡き王が愛用していた裏地の赤い、青いマント。プロイセンは縋るように手繰り寄せ、顔を埋める。
「…俺も連れて逝ってくれ。…俺を置いて逝かないでくれ…」
叶わぬ望みだと知りながらも、プロイセンは縋り、慟哭する。

 ああ、お前のくれた愛が俺を変えてしまった。
 愛されなかった子どもが、俺を憎んでいた子どもが、どうして俺を愛するようになったのだろう。
 
「…どうして、」
 
知らないままでいたならば、こんなにも辛く胸を掻き毟られるような想いに打ちひしがれることなどなかっただろうに…。
 
 
 





 
 

「…兄さん、兄さん」

不意に肩を揺すられ、プロイセンはぼんやりと目を開く。靄がかかったような視界に青が映る。
「…フリッツ?」
美しい濁ることのない青い目をしていた。心持ち横に傾いた頭。口元に浮かぶ柔らかな笑み。プロイセンは手を伸ばす。
「…兄さん」
小さな手のひらがプロイセンの手を掴む。おずおずと細く頼りない指先がプロイセンの頬を撫で、濡れた頬に柔らかい唇が押し当てられる。
「泣かないでくれ。兄さん。…兄さんにはおれがいる。おれはあなたをひとりにはしない。…おれはずっとあなたのそばにいるから…」
濡れた瞳に映るのは柔らかな陽の光。美しい青。…親父が、俺が望んだ、「ドイツ」。

「…ドイツ」

俺の血肉の受け皿。俺と親父が望んだ美しい器。それに俺のすべてを注ぎ込もう。そうすれば、更に器は満たされ、完全なものとなるだろう。
 
 ああ、とても、ひどく穏やかな気分だ。
 この器が完成したなら、親父は喜んでくれるだろうか?俺を誉めてくれるだろうか?
 そうしたら、俺はあなたの元へと逝けるだろうか?

「…Ich liebe es …Mein schönes Reich…」

白くまろやかな頬を夢見心地に撫でる。子どもは今にも泣き出しそうな顔でその手のひらが与える愛撫に目を閉じる。

「…Ich liebe Sie auch.」

微笑んだプロイセンの目蓋が再び眠りに落ち、頬を一滴、涙が伝う。それを子どもは唇で掬い、舌で受けた。
「…あなたを愛してる。プロイセン、だから、おれを置いて行こうとしないでくれ」

 プロイセンが何を望んでいるのか知っている。知ってしまった。
 おれにあなたが忠誠を誓うのは、あなたがただ一人愛した王のの為。
 おれにあなたがすべてを与えるのは、愛した王の望みを果たす為。
 おれをあなたが愛するのは、おれがあなたの器だからだ。
 


「…誰にも渡さない。プロイセンはおれのものだ」

 
 生かすのも殺すのも、この青年の生殺与奪権はこの手の中にある。
 子どもはプロイセンの頬をやさしく撫でる。
 

「…死にたかったのなら、おれの手を取らなければ良かったんだ…」
 
 
切ないほどこの身を苛む、痛み。…子どもはプロイセンの唇に口付け、浅ましく、惨めなまでに縋るように手を伸ばし、プロイセンの身体を抱きしめる。
 



 後にも、先にも、
 引けぬ奈落の底に、子どもは身を投げ出した。
 



 
 
 
おわり


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