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20 . May
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04 . December


罪と罰Ⅱ~Ⅲのプロイセンと青年のお話。
まさか、ここまでオリキャラが絡んでくるとは想像もしてなかったよ…。







拍手[27回]



 

 終戦から寝る間も惜しみ、復興と連合国との交渉に走り回っていたプロイセンの顔色は徐々に悪くなっていった。青年はプロイセンに常に従い、傍にいた。

「…上官、」
「…何だ?」

体調を崩したプロイセンをベッドに押し込み、膿んだ傷の手当の為に肌蹴た胸元に十字架はひとつしかなかった。プロイセンは二つの鉄十字を身に付けていた。古く傷の多い鉄十字とそれと比べると真新しい鉄十字。新しいものは確か、弟が帝国になった際に自分にプレゼントしてくれたのだと誇らしい顔をして自慢していた。プロイセンの胸にあるのは今は古いものだけ。青年は眉を寄せた。

「確か、鉄十字、二つお持ちでしたよね。失くされたのですか?」

それにプロイセンは残った傷だらけの鉄十字を撫でた。

「…返してきた。…もう、一緒にいることは出来ねぇからな」
「…すみません。余計なことを」
「気にするな。…でも、これももう、持っていけねぇかもな…」

小さく呟いて、十字架に残る傷を撫でたプロイセンに青年は視線を伏せた。ドイツは二つに分断される。それはもう決定であり、覆ることはない。ソ連を中心とした東側とアメリカを中心とした西側。深まった溝は埋めることすら不可能な地点まで来ていた。
(…もう、あなた達兄弟がふたり一緒にいるところなど、見ることは出来なくなるのか…)
軍の訓練で何度かドイツと青年は一緒になったことがある。プロイセン同様、弱者を思いやることの出来るやさしい青年だった。…それが、どうして、変わってしまったのだろう。第一次大戦の敗戦、賠償、世界恐慌、悪い事柄ひとつひとつがこの国の上に試練として課せられたのか。戦火を開いた、欧州を制するという国民の期待は重く、重圧に耐え切れず、ドイツは内側から壊れていった。砂の城が崩れるように、何も残らず、更地だけが残る。そこにプロイセンが築いてきたものは何もない。その何も無いところから、彼は一から自分を構築していかなければならないのだ。…それを、プロイセンはどう思っているのだろう?青年は視線を上げ、プロイセンを見つめた。
「…大丈夫でしょうか、この国はあなたがいなくなっても」
「大丈夫だ。あれはそんなに馬鹿じゃない。この戦争で何も学べていなければ、俺があいつを食らうことになる」
「…あなたは食われることを望んでいるのでしょう?」
青年の青い瞳を見つめ、プロイセンは口端を緩ませた。
「食われるんじゃない。ひとつになるんだ」
「…ひとつ、ですか?」
「ああ。あいつの血肉となり、魂までも融けて同化することが俺のたったひとつ望みだ。その望みの為に俺は生きる」
一縷の望みがプロイセンをこの世界に繋いでいる。青年は僅かに眉を寄せる。
(…私は、思ってはいけないことを望んでいる)
食われてしまえばいいと…、ひとを愛したことのない国家にこの国の未来のことなど託せない。西側に残るべきはプロイセンだと。…そうすれば、傍にいることを許されるのにと。…それは、傲慢な望みだ。すべては「ドイツ」の為。その為に、生きると決めたプロイセンに従うのが自分の使命だ。一族はそうやってプロイセンに仕えてきた。でも、個人的な感情はどうにもならない。それを押し殺すことが難しい。

「…へルマン?」

包帯を巻く手を止めたまま、動かない青年にプロイセンは視線を上げる。青年はプロイセンの赤を見つめた。

「……私は、」

「何だ?」
「……いえ、何でもありません。包帯を巻きますから、腕を上げてもらえますか?」
「…? おう…」
ひとつになど、なって欲しくない。…なんて、僅かな時間を生きる一介の人間が口にしていいことではない。ましてや生まれ育った国が分断されようとしているのに、不謹慎にも程がある。ただ、彼にこの世界に居て欲しいと望むことが罪になるならば、甘んじて罰を受けよう。


そして、青年に与えられた罰は、プロイセンとの別離だった。

短い春が終わりを告げ、夏の気配が忍び寄る中、プロイセンと青年は向き合っていった。

「…頼んだぜ」
「はい。命に懸けましても」
「命は懸けんな。生きてる奴の方が大事だ」

青年は名残を惜しむようにプロイセンの赤を見つめ、プロイセンは青年の青を見つめ、徐に軍服の下から、残された鉄十字を取り出した。

「お守り代わりだ。持ってけ」

差し出されたそれに青年は首を振った。

「大事な物なのでしょう?頂けません」

ずっと、それをプロイセンが肌身離さず身につけていたことを、それを取り出し、祈る姿を知っていた青年は首を振った。それにプロイセンは青年の手を取ると、それを握らせた。
「これはあっちには持っていけねぇ。持っていたところで捨てられるだろうしな。お前に持っていて欲しい」
「……でも、大事なものなのでしょう?」
「ああ、大事だ。そのクロスに彫られているギルベルト・バイルシュミットの名前はこの鉄十字の本当の持ち主の名前なんだ。……そいつは俺のために死んだ」
プロイセンは小さな笑みを浮かべると、ぎゅっと青年の手を握った。
「忘れないことがギルベルトへ、俺がしてやれるたったひとつの約束なんだ。その約束はこれがなくても俺の中にある。…これはギルベルトが確かに生きていた証で、形見なんだ。捨てられたくない」
伏せられた赤に青年は頷いた。そして、手のひらの中の鉄十字の持ち主を羨ましく思う。いつまでも、プロイセンの中に彼は在り続けるのだ。
「…解りました。お預かりしますので、必ず、また…」
「…ああ、必ず、ひとつになれたら、取りに行く。それまで頼む。…有難う。お前には、何か、我儘言ってばかりだな…。……お前が親父に似てるからかもな」
プロイセンは笑うと頭を掻いた。それに青年は口元を綻ばせた。
「ロシアさんにも言われましたよ。似てると。本当に恐れ多い限りですよ」
「…ハハ、そりゃ、すげぇ。でも、偏屈なとこは似てねぇけどな。…でも、本当にお前が居てくれて良かったぜ」
「私も僅かな間ではありましたが、祖父、父同様、あなたにお仕えすることが出来て幸せでした」
「…お前の一族は継承戦争の頃から、骨身を削って俺を支えてくれた。…何度、感謝の気持ちを重ねても足りないぐらいだ」
「何を仰います。あなたがいなければ、私の一族は生き延びることが出来なかった。あなたがいなければ、私も母も妹ももう五体満足でこの世にはいなかったでしょう。あなたに感謝するのは私の方です」
収容所に送られ、ガス室行きか、強制労働に従事させられていたか、どの道、明日をも知れぬ身であっただろう。青年はプロイセンを見つめた。
「…目に付くものしか、俺には守れなかった。礼なんか言うな」
自嘲するようにプロイセンは言い、青年の肩を抱き寄せた。

「…どうか、こんな地のことは忘れて、新しい地でお前は幸せになってくれ」

ぎゅうっ一瞬、きつく抱きしめられ、離れていく腕。青年はプロイセンを見つめる。赤は慈愛に満ちた色をしていた。

「私は忘れない。必ず、あなたのもとに帰る。そして、これを必ずあなたに返します」

その赤を見つめ、鉄十字を握り締め、青年は誓う。それに赤は確かに頷いた。


さよならは言わなかった。


ただ、また、いつか必ずと…だけ、約束した。

 

 

 

 

「…お父さんのずっと、逢いたかったひとに逢えたわ」

マリアはそっと細いチェーンに通された鉄十字を胸元から取り出し、手のひらに握る。傷だらけの鉄十字の裏には「Gilbert Beilschmidt」と名前が彫られている。東ドイツに留学が決まった際にマリアの父がお守りだと手のひらに乗せてくれたのだ。

「…いいの?これ、お父さんが大事にしているものでしょう?」

出発前夜、部屋を尋ね来た父が私の手のひらへと乗せた鉄十字は父が肌身離さず、身につけていたものだった。
「お守りだよ。危ないことが何かって遭っても、マリアを守ってくれるはずだ。…もし、この鉄十字の名前の青年に逢えたなら、これを返して欲しい」
「…お父さんが、渡した方がいいんじゃない?」
「祖国に居た年数を超えて、私は時をこちらで過ごした。…いつかは帰りたいと望んでいるが、あのひとのいる国には私は戻ることが出来ないだろう」
東と西と隔てる壁が消えない限り、戻ることは出来ないのだと父は言い、私の手を握った。

「お前の目であのひとを見ておいで」

そう言って、渡してくれたそれをマリアは手のひらで包む。


東ドイツの経済は最悪で、言論統制も酷く、自由を求めてひとが逃げてゆく国だった。


それを、彼はどんな思いで、自分の中からひとがいなくなってゆくのを見つめていたのだろう?

 

 

マリアはそっと目蓋を伏せた。

 

 

 






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