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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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20 . December


久しぶりに続き。

文章が纏まらず、ここに至るまで何回書き直しては投げたか…。
その割には纏まってないですが、次辺りで最終話…となったらいいな…。






拍手[20回]





 空も海も青かった。

 白いケープを羽織った淡い金髪の小さな子どもが十字の前、膝を折り、祈っている。子どもをやさしく見下ろすのは聖母の慈愛に満ちた微笑。そして、衣の青。その青が子どもに色を付ける。 

 透明。
 純粋な、白。
 赤にも、黒にも染まる色。

 子どもの色はまっさらな白だった。
 ふっと祈りを捧げていた声が途切れる。立ち上がった子どもがゆっくりと振り返った。

「誰?」

警戒するでもなく子どもは不思議で神秘的な赤のコランダムを思わせる瞳を瞬かせ、教会の扉の前に立つ神聖ローマを見つめた。

「…おれと一緒に来い。マリア」

神聖ローマは手を差し伸べる。その手を子どもはじっと見つめた。

「おれはお前の兄だ。さあ、一緒に行こう。お前に居場所を与えてやる」

神聖ローマの言葉に赤が揺れる。子どもは戸惑いを隠せぬままに神聖ローマへとおずおずと歩み寄った。

「…にいさま?」

赤い瞳が神聖ローマを見つめる。それに神聖ローマは小さく頷いた。
「ここはもうすぐ失われる。お前に相応しい場所を与えてやる」
「…いばしょ?にいさまがくれるの?」
「ああ」
子どもは神聖ローマをじっと見つめ、決心したかのように荒れた小さな指先を神聖ローマの差し出された手のひらへと乗せた。その手を神聖ローマは握る。子どもは聖母を振り返った。

 

「さよなら、マリアさま」



子どもは小さく呟いて、聖母に手を振った。

 

 

 

 

 

 出された飲み物を啜る。じんと腹に熱く広がる。それにひと心地ついて、神聖ローマは吐息を漏らし、椅子に凭れる王を見やった。

「…あなたのことは色々と、マリアから訊いている」
「何と申しておりましたかな?」

深い藍色に染まった瞳を細め、王は神聖ローマを見やった。
「殺したい程、自分を憎んでいると言っていたが、……どうも違うようだ」
プロイセンの枕元に立つ王はひとの親のような顔をしていた。憎んでいたならば、そんな顔はしないだろうし、自らが病床の看病に立つことないだろう。
「…昔は憎んでおりましたよ。大嫌いでした」
緩んだ藍色を見やり、神聖ローマは目を細めた。
「…あなたに憎まれても仕方のないことをしたと…、あなたの親友を手にかけてしまった。また、罪を犯してしまったとマリアは言っていた」
「あれの罪ではありませぬ。…私の親友、カッテの死は私の所為。私が至らなかったからです。私は酷い男なのです。あれを憎めば自分の犯した罪から目を逸らすことが出来た。罪と向き合うことよりも、誰かを憎むほうが楽だ。私はそうやって、目を逸らしてきた。私は父が嫌いでした。そして、父のそばに常にいたあれも嫌いでした。高慢で無粋、野蛮。我慢がならなかった。私はプロイセンと言う国が大嫌いだった。何故、この国に生まれたのか、何故、この国の次代を継がねばならぬのか…私は、逃げたくて仕方がなかった。私のそんな想いを解っていたのは、カッテと…大嫌いなプロイセンでした。カッテは私の我侭の為に犠牲になった。プロイセンは私に言いました」

「いくらでも俺を憎めばいい。それでお前が楽になれるなら」

 嘆き悲しみ、涙も枯れ尽くした。配膳に出されたナイフを握り締め、プロイセンを殺して自分も死のうと思った。震える手にナイフを握り締めたフリードリヒにプロイセンは静かにそう言ったのだ。何の感情も映さない青い瞳を僅かに滲ませて。

「私が立てたイギリスへの逃亡の計画は本当にお粗末で杜撰なものでした。もし、失敗すれば処罰は免れない。…私は解っていた。事の重大性を理解してはいなかった。私は私のの無謀の為に親友を犠牲にした。私はまず自分を憎むべきだった。でも、安易な方法を選択した。プロイセンを憎めば、呵責から逃れられた。胸の痛みから救われた。…私は何一つ、本当のことを見ようとはしていなかった」
王は昔を思い出すように、言葉を重ねた。それに神聖ローマは静かに耳を傾けた。
「私は父とプロイセンへの復讐心から、心を入れ替えたフリをした。監獄の中ではカッテの無念は晴らせない。私は最期にカッテが残してくれた言葉の意味を取り違えた。カッテは父をプロイセンを許せと言ったが、私は許すことなど出来なかった。心を入れ替え、反省を示せば、父はいずれ私を許すだろうと。従順な態度を示すことが、プロイセンという国への復讐だった。いずれ、父は老い、自分が王になる。王になればこの国は私の意のまま。滅ぼすことすら容易くなる」
「…何故、そうしなかった?それがあなたの復讐だったのだろう?」
神聖ローマは青を瞬いた。
「…父が死に、私は初めて悲しくて泣きました。本当はその死を笑ってやろうと思っていました。一国の王である重さを解ってはいなかった。私は本当に愚かだった。父が死んで、やっとその重さが自分の肩に圧し掛かってきたことで自分がどれだけ愚かだったか、私の為に死んだカッテの言葉を無駄にしてしまうところだったことに気付かされた。……戴冠式の朝、プロイセンが私の足元に跪いた瞬間から私の復讐は始まるはずだった。でも、あれの目を見て、私は自分が間違っていたことに否応なく気づかされた」


 夏の淡い兆しを見せ始めた庭とは裏腹に人気を払った教会はしんと静まり返り、空気は外の陽気とは裏腹に真冬の空のように張り詰めていた。淡い日差しの差し込むその下、十字架の壇上にフリードリヒは立ち、その壇の下、プロイセンは立っていた。
 プロイセンの顔を見るのは、カッテが処刑されたキュストリンの獄中以来で、良く見れば見るほどにプロイセンは幼い頃に見上げていた恐怖の対象ではなく、華奢で自分よりもはるかに体格の劣る少年にしか見えなかった。
 プロイセンはフリードリヒを見つめる。その目は青く澄み、敬虔ですらあり、ずっと昔に感じた高慢さや無粋さは影ひとつ見当たらない。フリードリヒは長いことその青を見つめ続けた。そして、気づいた。

「…お前は鏡なのだな」

漏らしたその言葉にプロイセンは僅かに首を傾けた。そして、すっと膝を折り、フリードリヒの纏ったマントの裾を取った。
「…あなたが俺の王だ。俺を生かすのも殺すのもあなた次第だ。俺はあなたに何があっても従う。あなたが俺の王である限り、俺は盾となり、剣となり、その身を守ると誓う」
その裾にプロイセンは口付ける。伏せられた睫毛が頬に影を落とす。フリードリヒは裾を取ったプロイセンの手へと触れた。触れた瞬間、荒れた傷だらけの指先が震える。それに気づかぬフリをし、フリードリヒは顔を上げるように促した。顔を上げたプロイセンの瞳は怯えていた。

「私はお前を愛そうと思う。お前のために、私は私のすべてをお前に捧げよう」

立ち会った父の臨終、私は怯えていたのだろう。初めて、父は自分を認めてくれた。安らかな顔をして目を閉じた。

 怯えていたのは、私が弱かったからだ。逃げることばかりを考えていた。プロイセンが高慢に見えたのは自分が卑屈だったからだ。今、私の目の前にいる国は幼く、未熟だ。そう見えるのは、私が幼く未熟で、不安を抱えているからだ。

「…フリードリヒ?」

青紫い瞳。その瞳を見つめ、フリードリヒは膝を着く。そっとプロイセンの手の甲へと口付けを落とした。


「私はお前の従順たる僕だ。私もお前の盾となり、剣となろう。どうか、共に」


その瞳が見開かれ、それから泣きそうに歪んだ。堪えるように歪んだ青は伏せられ、頷いた。

 

「プロイセンを愛すると誓うことが、私のプロイセンへの復讐でした」

王は微笑する。神聖ローマは眉を顰めた。
「復讐?」
「…愛すれば愛するだけ、情を注げば注ぐだけ、あれは私に献身する。…心の奥深く、傷のように私と過ごした日々が刻まれればいいと思った。私はひと、あれは「国」。悠久の時を生きる者。私を愛せば、私がこの世を去ったとき、あれの心に深い傷となって残るでしょう。私がいなくなって、あれが私のカッテを失った悲しみを思い知ればいいと思った」
王は息を吐いた。

「…酷い男でしょう?」

「…いや。そうは思わない。先に逝かねばならぬあなたの方が深い傷を負うのではないか?」
神聖ローマの言葉に王は瞬いた。
「…そうかもしれません。私の復讐は失敗しました。あれは私以上に孤独でした。孤独でありながら、強がって見せる。…幼少よりずっと抱えていた私の埋まらなかった孤独はあれが埋めてくれた。でも、あれの孤独は私では癒すことが出来ない。…私はプロイセンに幸せになって欲しいと誰よりも願っております。…昔はあんなに嫌いで憎かったプロイセンが、この国が、私は本当に愛しい」
王は言葉を切ると神聖ローマを見つめた。

「…どうか、私の亡き後もあなたはプロイセンのそばに」

王の言葉に神聖ローマは瞳を瞬いた。

「…おれは、」

自分はその願いを叶えてやることなど出来ないのだ。自分の中で、さらさらと砂の流れていく音がする。その音は徐々に早くなっている。

「…出来得る限り、共にあるつもりだ」

そう答える。それに王は微笑を浮かべる。

「どうか、プロイセンのことをお願いいたします」

王は低く頭を垂れた。

 

 

 

 

 

 

 王の客人として正式に招かれた神聖ローマはその後、プロイセンの病床の看病に当たった。それに辺り、王から「好きにお使い下さい」とプロイセンの寝室に近い部屋の提供を受けた。プロイセンが回復後も、神聖ローマは王に請われるままサンスーシに留まり続けることになった。
王は良き話相手を得た。そして、神聖ローマにとっても、王と語ることは自分の長く曖昧な記憶を整理していくのに役立った。話の内容は哲学や音楽、歴史と多岐に渡り、王は夢中になり神聖ローマの話を聴いた。神聖ローマの語る話は歴史書に記された歴史とは違い、神聖ローマがその目で見てきた偽りのない真実であった。ふたりが話に熱中していくのを傍らでプロイセンは見やり、ずっとこんな日々が続いていくことを願った。

 親と慕う王と、尊敬し敬愛する兄と、ずっと、三人でこのまま…。

 

 

 

 

 

「俺が代行するって」
「いや、大事な演習だ。私が行かねばなるまいよ」
「なら、俺も行く!」

 1785年初秋、辛く厳しかった戦いの果て手に入れたシュレージェン地方にて軍の大演習が行われることが決まった。視察も兼ねた軍務に着いた王はこのとき七十三歳。かつて、この地を巡り争った女帝は既にこの世を去った。しかし、その後も王を憂慮させる出来事が続き、戦争で患った病を更に重くしていた。プロイセンは案じるように眉を寄せた。
「お前にはベルリンに残ってもらう。万が一のことはないとは思うが、王と国家、双方がベルリンを空にする訳には行くまい」
旅支度を終えた王にプロイセンは口を尖らせ、王を睨む。それを傍らで見つめていた神聖ローマは口を開いた。
「フリッツ、体の方は大事無いのか?」
「今のところは。処方された薬が効いておるようです。…私があの地に足を運ぶことになるのはこれが最後になるでしょう。見ておかねばなりません」
王は藍色に滲んだ瞳を神聖ローマへと向ける。神聖ローマはそれに頷いた。
「そうか。大事無いのなら、好きにされるがいいだろう」
悔いのないように憂いを残すことなく、万事は全てプロイセンが為に。王はその言葉に笑みを浮かべた。
「そうか、じゃねぇよ!最後なんて縁起でもないこと言わないでくれ!俺も行く!!」
「最後」と言う言葉に最近のプロイセンは過剰に反応する、その言葉を恐れるように、泣き出しそうな顔をして怒る。ひしひしと迫り来る死神の足音が聴こえると言うのか。その言葉を口にすれば足音が早まるように聴こえるのだろう。
「プロイセン、私はちゃんとお前の元に帰って来る。戦に行く訳ではない。ただ、日頃の軍隊の訓練の成果と領土を視察して来るだけではないか」
「…そう、だけど、」
「私には私の、お前にはお前の、為すべきことがある。…解ってくれるな?」
諭すように告げられ、プロイセンは口を何か言おうと口を開いて、王の柔らかな笑みに屈して、頷いた。
「…すぐに帰って来いよ?具合が悪くなったら、直ぐに医者を呼んで、安静にするんだぞ?」
「解った。…お前も私がいないからと言って、大臣たちを困らせぬようにな」
「! 困らせてんのはお前だろ!!」
「おや、そうだったかね?」
惚ける王にプロイセンは溜息を吐く。そのプロイセンの頭を王は撫でた。
「…後のことは頼む。大事あらば、馬を」
「解った。後はちゃんとやる。…必ず、帰って来いよ」
「ああ、必ず戻る。案ずるな」
皺だらけの大きな手のひらがプロイセンの淡い金の髪を乱して離れる。それを名残惜しそうに見つめるプロイセンに神聖ローマは目を細める。

(…フリッツ、お前の復讐は思わぬ形で完遂しそうだ。それをお前は望まぬのだろう。でも…)

 


 お前を失ったら、マリアはどうなってしまうのだ?




 大臣や侍従達に見送られ、王を乗せた馬車と近衛兵の隊列は動き出す。神聖ローマは凱旋門を抜け遠くに見えなくなった馬車の姿を未だに追うプロイセンを見上げた。見つめるその青には僅かな翳りが見えた。

 


 






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