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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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23 . December


三夜連続でお題「いつかのメリークリスマス」で小話三篇。

第一夜 手紙編









拍手[22回]





あれはそう、随分、昔のクリスマスの話だ。

 漸く、俺が「ひとり」に慣れた頃。泣いて叫ぼうが、喚いて、壁を叩いてもどうにもならなかった時代の話。
住居をベルリンからボンへと移し、何年も過ぎた。兄さんが敵対する国となり、ベルリンが東西に裂かれ、それでも兄さんを慕う気持ちが憎しみに転化することはなく、会えない寂しさは思慕となって募っていった。…せめて、同じ空の下、会えないけれど近くにいたい。そんな想いから、クリスマスから年始、長い休暇を取って西ベルリンの家に戻る。誰も居ない部屋はひとりで過ごすには広く、気が滅入るが思い出に浸るには丁度いい空間だ。そこで、兄さんが残していた気配を探すのが滞在する間の日課となっていた。
この家は俺が来る前から兄さんが物置として使っていた家だった。俺が兄さんのもとで生活するようになって、ここは初めて「家」になった。俺は南の日当たりの良い部屋を与えられた。そして、改装した広い書斎と地下の書庫を自由に使っていいと言われたときには本当に嬉しくてはしゃいで兄さんに抱きつき、キスをしたことを思い出す。俺がはしゃぐほど喜ぶとは思ってなかった兄さんは面食らった顔をしたが、目を細めて俺を抱きしめてくれたことを思い出す。もっとも幸せだった時代の記憶。その記憶の中には必ず、兄さんがいた。幸福な記憶の全ては兄さんが俺に与えてくれたものだった。
外から戻れば、兄さんは真っ先に俺に会いに来て、お帰りのキスを強請る。そして、俺の為に取り寄せた本を、小さな虫の入った琥珀の文鎮をプレゼントしてくれたりした。そんなものよりも何よりも、ただ、傍にいてくれるのが嬉しかった。俺の話に頷いて、大げさに褒めて、髪を乱暴に梳くように撫でる手のひらや、見つめる眼差しのやさしさが何よりも。…でも、それは失われた。その手は遠く、届かない所にあるのだ。





ぼんやりとドイツは物思いに耽る。パチパチと暖炉の薪が爆ぜ、オレンジ色の明かりがドイツの白い頬を照らす。テーブルの上のとうに冷えたコーヒーのカップに指先を伸ばして、来客を知らせるチャイムの音に指を止めた。

「…誰、だろう?」

ここにドイツが滞在していることはほんの一部の者しか知らない。
(何か、緊急事態でもおこったのか?)
ドイツは腰を上げ、玄関へと向かう。少しだけ警戒して、ドアを開けば、見知らぬ老人がそこに立っていた。
「ルートヴィッヒ・バイルシュミットさんですかな?」
「…ああ、そうだが…。あなたは?」
「私はヤンと申します。こちらに住む娘が結婚することになりましてな、政府の許可がおり、西に行くという話しをしたら、時々、公園で世間話をする青年に手紙の配達を頼まれまして参りました」
薄曇の空の下、老人は首もとのマフラーを緩め、コートのボタンを外し、内ポケットから一通の封書を取り出し、ドイツへと差し出した。
「…青年?どんな?」
東側に知り合いなど、ひとりしかいない。ドイツは老人を見つめた。
「珍しい容姿の御仁で、銀髪に赤い目、年の頃は二十二か三くらいでしょうかな。ギルベルトと名乗っておられましたが、お心辺りはお有りですかな?」
老人の語る言葉にドイツは息を呑む。呼吸をするのを忘れる。時が止まったような錯覚に落ち、ドイツは口を開いた。
「…兄、です」
「そうですか。言われてみれば、あの御仁に貴君は似ておられる」
老人は納得したように頷くと、呆然とするドイツの手を取り、封書を渡した。
「…では、確かにお渡ししましたぞ」
老人は居住まいを正すと、ドイツに背を向ける。それを呆然と見送って、ドイツは手のひらに残された封書を見やる。表には宛名は何も書かれておらず、裏を返しても差出人の名前は無い。…プロイセンからドイツが手紙を受け取るのはこれで二度目だ。

 一度目はこの家の鍵が入っていた。
二度目は…?

ドイツは震える手で、ドアを閉め、家の中へと、書斎へと駆け上がる。デスクの引き出しを焦り、未だ震えの留まらぬ指先でペーパーナイフを掴む、そっと封書に慎重にナイフの刃を当てる。軽い音を立てて、封書が開く。その封書の中のものを取り出すのを暫し躊躇って、それでもそっと開けば、中に入っていたのは一枚のポストカード。

「liebe Ludwig

Außerdem bete ich ein Tag lang, um einer das Kommen der ganzen Zeit davon weg weit zu werden.

Gutes Weihnachten.」


(親愛なるルートヴィヒへ

またひとつになる日が来ることを、俺は遠くからずっと祈っている。

良いクリスマスを。)


聖母マリアのステンドグラスのフォトグラフに走り書きされたメッセージ。紛れもなく見慣れたプロイセンの文字に、ドイツの目からぽたりと涙が溢れて滲む。

「…兄さん」

あの日の別離以来、一度も泣かずに歯を食いしばって涙を堪えてきた。それなのに、たった数行の文字が容易く全てを壊してしまう。

 

 

 あのひとは、俺を許しているのか。

 

 

それはいつかのクリスマスに最初で最後、別れたあなたから届いたクリスマスカードだった。

 

 


オワリ

 

 

 

 






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