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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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24 . December


三夜連続でお題「いつかのメリークリスマス」で小話三篇。

第二夜 幼馴染み編






拍手[14回]





東と西に分かれてからのそれは習慣で最初の年からずっと、その日はハンガリーが部屋を訪ねてきた。

「…こんな日にひとりで過ごしたくないだけよ。…相手がアンタなのがイラっとするけど」

散々な言いようなのは根も腐りかけた長い付き合いだからだ。思えば付かず離れずこの目の前の幼馴染みとはど突きど突かれの付き合いだ。…ハンガリーが女だと解ってからはプロイセンはど突けなくなってしまったが。
自分以上に暴れん坊で剣の腕も立つ、まさに相棒。…お互いの背中を預けて、ずっと一緒にいるんだなんて…、昔は漠然と思ってた。それはあの日に崩れ去った。今でもはっきりと思い出せる。手のひらに残るあの得体の知れない柔らかい感触を。

「何、変な顔してんのよ。気持ち悪いんだけど?」

だんっとテーブルに鍋をおいたハンガリーが怪訝そうな顔をして、プロイセンを見やる。…ああ、幼馴染みよ、何故、お前は女だったんだ?何かの間違いで気の所為だったと忘れたままでいたかったぜ。…プロイセンは何でもねぇと首を振ると鍋の蓋を持ち上げた。
「鍋の中、何?」
「ハラザーレよ」
「お前んとこの定番の魚のスープか」
「そう。クリスマスにはこれを食べないとね。メインは隣のおばさんがガチョウをくれたから、アンタんとこ風に調理してやったわよ」
「おお!」
オーブンから出されたガチョウは飴色に輝き、空き腹にきゅうっとくる。狭いテーブルに所狭しと料理が並び、プロイセンはいそいそと滅多に出さない対のワイングラスを取り出し、東ベルリン郊外にこっそり所有している屋敷の地下室からとっておきのワインを四・五本、この日の為に先日、取って来たのだ。コルクを抜いてグラスに赤を注ぐ、芳醇な香りが部屋に満ちる。ハンガリーは目を細め、グラスを手に取った。

「取りあえず、今年もアンタと過ごす羽目になった可哀想な私に乾杯!」
「俺の方が可哀想だっての!…ってか、フライパン仕舞えよ!…乾杯!」

グラスの縁を軽く合わせて、口付ける。長いこと寝かされ貯蔵されたワインはまろやかな味わいで、喉を潤す。魚のダシがきいたスープを啜り、ローストに舌鼓を打つ。ハンガリーは昔、剣を振り回し、今は剣の代わりにフライパンでひとを殴るような奴だが料理の腕だけは確かなようだ。オーストリアの家で下働きをしていたこともあったから、その時に身についたスキルか。プロイセンはローストを口に運び、租借する。
「ロースト美味ぇ」
「そう。良かった。初めて作ったから、心配だったんだけど」
「そうなのか?」
「うん。アンタ、この話するの嫌かもしれないけど、オーストリアさん、アンタんとこに暫く一緒に住んでたでしょ」
「…ああ」
「そのときにさ、丁度、イタリアちゃんとか日本さんとか皆一緒に珍しくクリスマス過ごしたことあったじゃない」
「…あー、そんなこともあったな。あのときは本当に賑やかだったな。イタリアちゃんのパスタとか菓子とか、…ドイツが張り切って色々作ったな。坊ちゃんがオーブン爆破したりとかな」
「うん。…そのときにね、この料理はドイツに教わったのよ」
「そっか。どうりで何か懐かしい味がするって思ったぜ」
ドイツがどこでそんな料理を覚えたのか、プロイセンは知らない。閉ざされた壁の向こうにいるドイツをプロイセンは想う。自分が心配せずとも、きっと上手くやっていることだろう。西側の経済は好調だと訊く。
「…何か、昨日のことみたいに思い出せるのに、あれから随分経ったよね」
「…ああ。…悪かったな。巻き添え食らわせて」
「…何を今更。…アンタも知ってるだろうけど、私、アイツ嫌いだったから屈したくなかった。それだけよ」
手酌でワインを注ぎ、ぐいっとハンガリーはグラスを煽る。それを見やり、プロイセンは息を吐く。誰も、枢軸側だった者は弟を責めたりはしなかった。それに少しだけ、プロイセンは許されたような気になる。
「…時々、昔に戻りたくなるのよね。アンタとバカやってたときが一番、自由だったかもしれない。…私が男だったらって考えたりもするんだけど、そうだったとしたら、私はオーストリアさんのことを嫌いなままだっただろうし、アンタともこうやってのんびりご飯食べたりはしてなかったかもね」
酔いが回ったのか草色の瞳が融ける。それを見やり、プロイセンは空になった皿を下げるべく、席を立った。
「バーに酒飲みに言って、馬鹿話で盛り上がってただろうよ」
「アンタの悪友みたいに?」
「かもな」
それにハンガリーが笑って、ワインを煽る。今日は羽目を外すつもりらしい。プロイセンも席に戻り、新しいワインを開ける。

 ハンガリーとプロイセンの間に既に性別の垣根は意味などない。女でも男でも、どうでも良かった。この空間を、永く過ごした時代を語れる者がいる。それだけで随分と、ハンガリーも自分も救われているのだ。


「…また、皆でこの日を祝える日がくるといいわね」
「…ああ。そうだな」

 

 曇る窓の外は、灰色の壁。
いつか、きっと…。

 

 






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