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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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19 . January



無題のお話を絡めつつ、兄弟の誕生日を祝うお話。
現地時間では18日だから、セーフだ。

…ってか、タイトルに悩んでたら時間が過ぎてたよ…。








拍手[24回]




 

 その日は忘れ去られてしまった。

いつもと変わらぬ365日繰り返される日々の日常。降り積もっていった日々の中、その日は本当に特別だった。

 煌びやかな宮殿の一室、金の刺繍が襟や袖口に誂えた礼服に身を包み、引きずるほどに長い赤いマントを羽織らされた子どもは落ち着き無く部屋の中をうろうろしていた。外からはドンドンと大砲が鳴り響き、鳴り止まぬ銃声が遠くに聴こえる。
エムス電報事件に端を発したフランスとの戦争は終端に到ろうとしていた。デンマークとのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国を巡る戦争から、プロイセンは周到にこの日に向けて着々と布石を打っていた。オーストリアを怒らせ、戦争に持ち込むこと。そして、この戦争でオーストリアのドイツ統一への不干渉を約束させた。総仕上げとばかりにスペインから舞い込んできたスペイン王位継承権を利用し、フランスを煽り、戦争を吹っかけさせた。全ては万事、この日の為に。どこまでも恐ろしく狡猾で緻密な計算のうちに、ドイツ統一をプロイセンは今、成し遂げようとしていた。

「大砲の音が祝砲に聞こえるぜ」

ノックも無く開いたドア。この宮殿の住人は別であるのに、住人のように振舞う。プロイセンは窓際に立つ子どもににこりと微笑み掛ける。ここ数日、本当にプロイセンは上機嫌だ。それとは反対に上司の表情は曇って行くばかりであったが。…子どもはプロイセンを見上げた。
「…兄さん」
「おう。衣装似合ってるぜ。俺の見立ても悪くないな」
二週間ほど前だったか、戦場から慌しく戻ってきたプロイセンが贔屓にしている仕立て屋を屋敷に呼び、礼服を注文した。サイズを測られ、その場で広げられた生地の見本にプロイセンは細かな指示を出し、袖口と襟の刺繍案にも注文を付けていた。ベルベットの美しい光沢のこの赤い裏地の青いマントもその時にプロイセンが注文したものだ。…爪先から頭のてっぺんまで赤が辿り、満足そうに細められる。それがくすぐったくって子どもは首を竦めた。

「…俺のライヒ、やっとお前を玉座に据えることが出来る。こんなに嬉しいことはない!」

伸びて来た腕が子どもの体を抱き締める。子どもはそっとプロイセンの背中へ腕を回す。…国になるのだと言う重い実感と、ふわふわと地に足が付かない浮遊感と何かを失う喪失感と色んな感情がぐるぐると子どもの中を巡る。
「…本当にいいのか、俺で。…今なら、兄さんが帝国になれる。…上司もそれを望んでいる」
きゅっとこの日の為に新調したらしいプロイセンの濃紺の軍服の生地をぎゅっと掴み、子どもは問う。プロイセンは赤を瞬き、不安げに瞳を揺らす子どもの頭を撫で、荒れた指先で髪を梳いた。
「何を言ってるんだ?帝国は俺ではなく、お前こそが相応しい。…お前はドイツ国民の総意に寄って生まれたんだ。もっと、自信を持っていい。…そんな、顔をしないでくれ」
ふにっと頬を撫でられ、子どもは目を細める。プロイセンは赤を滲ませ、姿勢を正した

「兄さん?」
「…俺が、前にお前に言ったことを覚えてるか?」

それに子どもはこくりと頷く。それに満足げにプロイセンは頷き、腰に下げていたサーベルを引き抜き、子どもの手に握らせた。それに子どもは戸惑った顔でプロイセンを見上げた。プロイセンはすっと膝を降り、真正面に子どもを見つめた。

「誓約をしよう」
「え?」
「もう一度。…お前、不安を取り除いてやるから」

ずっと抱えていた不安を見透かされていたのか。子どもは息を吸い、頭を垂れたプロイセンの肩にサーベルの剣先を触れさせた。

「…俺はここに誓う。…ドイツ、お前を王と仰ぎ、お前の身が危機に晒されたときには、この身を持って守ると。未来永劫、お前が俺の王である限り、俺はお前に尽くすと忠誠を誓う」

あの日、プロイセンが自分の足元に跪き、自分に誓った言葉。身に詰まるような言葉にならない歓喜が内側から溢れ、満ちる。子どもは淡い色をした唇を震わせた。

「…許す」

その瞬間から、何かが変わった。

表舞台から、プロイセンは潔く身を引き、こちらが助言を請えば色々と親身になって助けてくれたし、困ったことがあれば真っ先に駆けつけ傍にいてくれた。…そして、プロイセンは「ヴェスト」と西を意味する名で、ドイツを呼ぶようになった。

「俺は東だから「オスト」、お前は西だから「ヴェスト」だ」

意味を一度、問うたとき単純明快な答えが返って来た。

プロイセンは帝国成立後、初代皇帝がこの世を去り、プロイセンと懇意だった宰相が表舞台を退いたのと同時にドイツの東、彼の王国が誕生した古都ケーニヒスベルクへと居を移した。ずっと傍にいてくれると思っていたが、プロイセンは今度の上司とは折り合いが悪かった。「傍にいれば、お前が苦労するだろう」と身を引いたのだ。思えば、その頃から、少しずつ掛け違えた釦のようにずれていった。純粋に慕う気持ちは歪に歪んでいた。確実に少しずつ、自覚することも出来ず…。そして、それはあの戦争で大きな歪みを生んだ。

「…忠誠など、望んではいなかった。ただ、そばに居て欲しかった」

自分の言葉にプロイセンは嘘を吐かなかった。誓約の言葉は騎士にとっては絶対だと言う。ドイツを切り捨てておきながら、最後の最後になって身を挺し、プロイセンはドイツの危機を救い、冬の監獄へと連れて行かれた。

「東」と「西」、「オスト」と「ヴェスト」。

これも万が一のことを考えたプロイセンの布石だったのか…。切り離された東側がなくなっても、瑕疵を負うこともなく、裂かれる痛みに喘ぐこともない。…心の痛みばかりが癒されること無く増大して、募る想いは益々、歪んで、汚れていった。

 

 戻れるならば、あの日に。

 

忠誠を誓う誓約ではなく、そばに居て欲しいと我儘な子どもの懇願にプロイセンは頷いてくれるだろうか。

 

 

 

 


「兄さん」
「ん?」

相も変わらず猫を膝に犬を両脇に侍らせたプロイセンは雑誌から顔を上げ、ドイツを見上げる。ドイツはそれを見下ろした。
「ザッハトルテを作ったんだ。…オーストリアの様には美味くはないかもしれないが、食べないか?」
「食う!お前が作ったんだったら、何でも美味ぇよ」
満面の笑みを見せるプロイセンが立ち上がる。プロイセンの膝の上で微睡んでいたヴァイスがラグの上に転がり、プロイセンに抗議するように鳴いた。
「悪ぃ、怒るなよ。後で、ブラッシングしてやるからな」
ヴァイスとそのヴァイスを宥めるように寄り添ってきたシュヴァルツの頭を撫でて、プロイセンはドイツを見やる。ドイツは目を細めた。
「兄さん」
「何だよ?」
我儘な子どもの懇願を聞き入れて、プロイセンは今、ここにいる。…もう、ずっと昔の話になってしまったけれど、何があってもきっと、自分だけは忘れない。

「誕生日、おめでとう」
「お前もな。誕生日おめでとう」

 あなたの王国が産声を上げたその日、あなたを母体に今度は俺が生まれた。

あの日と同じように、プロイセンは赤を滲ませる。ドイツは胸のうちに込み上げてくるあの日の歓喜に満たされ、プロイセンをぎゅうと腕に抱き締めた。

「どうか、ずっと…」

あなたと同じ時間を共有していきたい。この日を何度も二人だけで祝っていこう。

「お前が望む限り、ずっと。…愛してるぜ。俺の可愛いライヒ」

唇が重なり、赤が笑う。荒れた指先があのひと変わらず髪を梳く。それに、ドイツは甘えるように頬をすり寄せた。








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