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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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22 . March


そのはち。

ネタだけは随分前に出来てはいたが、色々、付け焼刃で勉強してたら今になったがな。
調律には詳しくないし、ピアノにも詳しくないので色々とボロがありますが、突っ込まないで頂ければ幸い。


トルテとじいちゃんとピアニスト。
バイト君のおじいちゃんの昔話と懐かしい人々との再会。









拍手[49回]




 

 

 

 ウチのじいちゃんは珍しい職種に従事していて、親父と兄貴もその仕事をしている。…俺はと言うと、その仕事に興味はあるのだが、誰に似たのか半端なく手先が不器用な上に音感ゼロと来た。音感ゼロだが、小さい頃から、ばあちゃんがピアノの先生をやってたこともあって、弾けはしないが、聴くのは好き、じいちゃんの仕事を見るのも好きで小さい頃はじいちゃんにくっついてあっちこっち行ったりした。小さな学校の音楽室から、お金持ちのお嬢様のピアノ部屋、はたまた大きなコンサートホール…。ウチのじいちゃんはピアノの調律師なのだ。今年で九十になるが、まだ矍鑠としている。お得意様に頼まれれば、遠方でもひとり鞄を手にして出かけることもあるぐらいに元気でとても卒寿には見えない。そんなじいちゃんのお得意様の殆どは高齢を理由に親父が引き継いだのだが、じいちゃんじゃなければ駄目だと言う海外の高名なピアニストが来日した際のコンサートホールのピアノの調律は必ずじいちゃんに未だに依頼がくる。じいちゃんは「耳も遠くなってきたし、そろそろ引退させて欲しいんだがねぇ」と満更でもない様子で出かけていくのだ。俺の自慢のじいちゃんだ。そのじいちゃんが俺がムキムキさんから貰ってきたトルテを皆で食べているときに、

「懐かしいな。ルートさんの作ったトルテと同じ味がする」

と、不思議そうな顔をして言ったのだ。
「ルートさんって、誰?」
「オーストリアに修行に言ってるときに知り合ったドイツ人の青年だ。そのひとが作ったトルテと同じ味がする」
「へぇ。…このトルテ、バイト先に来るドイツのひとから貰ったんだよ」
「…そうか。なら、似てるかも知れないな。…でも、この味は本当にあのひとの作ったトルテと同じ味がする」
そう言いながら、トルテの半分はじいちゃんが食べてしまった。その話をムキムキさんとうさぎさんが来店したので、お礼がてら伝えると、うさぎさんとムキムキさんは顔を合わせ、

「…失礼だが、君のお爺さんは今、いくつになるんだ?ドイツにいたことがあるか?」

と、ムキムキさんが聞いてきた。
「今年で九十になります。オーストリアにピアノの調律の修行に行って、そこで会ったオーストリア人のピアニストに気に入られて、欧州をあっちこっち連れまわされたって言ってました。そのピアニストが政治的な理由からベルリンに居を移したんで、必然的に自分もそこに留まることになったって、…ベルリンには結構長い期間居たそうです。戦況が悪化する直前まで居たって」
それにムキムキさんとうさぎさんがまた顔を合わせた。
「…お前のじいちゃんの名前さ、キュウゾー・アキヤマって名前か?」
「秋山はじいちゃんの旧姓です。何で、知ってるんですか?」
じいちゃんは戦後、欧州から帰って来て旧家のいいとこのお嬢さんだったばあちゃんに一目惚れされ、婿養子に入ったので姓は変わっていた。
「…苗字変わってたのか、じゃあ、探せねぇはずだぜ」
「そうだな。ローデリヒがずっとキュゾーのことは気に掛けていたから、これを知ったら喜ぶだろう」
「だな。アイツ、ピアノはやっぱりキュゾーの調律じゃないと気に入った音にならねぇとか言ってたしなぁ」
うさぎさんとムキムキさんは何やら納得したように頷きあって、俺を見た。
「…あの、ウチのじいちゃんが何か?」
「いや、お前の祖父はどうやら俺たちの知り合いのようだ。祖父にローデリヒ、ギルベルトとルートヴィッヒの兄弟のことを覚えているか訊いてもらえないか?」
「…はい。いいですよ」
なんの事だかさっぱりだったが、ふたつ返事で俺はムキムキさんの伝言を引き受け、連絡先だと個人的なメールアドレスと携帯の番号を書いたカードをもらった。

 

 重大なことを引き受けてしまったような気がして、バイトを終えて帰宅し、早朝の散歩に出て来たじいちゃんを捕まえ、散歩に付き合いながらムキムキさんの言葉を伝えた。
「じいちゃん、ローデリヒ、ギルベルトとルートヴィッヒの兄弟のことを知ってる?」
「知っておるとも。良く飯を食わせてもらったし、ローデさんのピアノの調律は私がしてたんだ。屋敷には良く出入りさせてもらったよ。ギルさんが良く、ローデさんのピアノに合わせて個性的な味のあるフルートを吹いていたが。ギルさんとローデさんは顔をあわせれば喧嘩ばかりしていたが、そのときだけは静かだったな」
じいちゃんが目を細めてそう言う。それに、アレ?っと俺は首を傾けた。…確か、うさぎさんの名前って「ギルベルト」だった。ムキムキさんは「ルートヴィッヒ」…って?…アレ?
「…知り合いなんだ?」
「知り合いと言うか、命の恩人だ。彼らが脱出させてくれなければ、私はここにはいなかっただろうしね」
「…脱出って?」
「あの頃は大戦も末期でな。空襲も酷く、東側からはソ連、西側からは連合とドイツは包囲されて、占領も時間の問題だった。そんなギリギリのところを色々助けてもらって、スイスに逃げて、そこで三人の知り合いだというバッシュさんに終戦まで世話になった」
ざっと七十年くらい前の話だ。名前は偶然の一致だろう。じいちゃんの話から察するに、じいちゃんより年上ぽいし…、年上だとしたら百歳超えてる。
「…しかし、お前、どうしてその名前を知ってるんだ?」
「ウチに来たお客さんにお礼がてら、じいちゃんが懐かしいって言って、頂いたトルテを食べてたって言ったら、じいちゃんのことを訊かれて…。知り合いかもしれないって言ってた」
「…ふむ。どんな御仁だった?」
「銀髪赤目のお兄さんと、金髪碧眼の体格のいいお兄さんなんだけど…」
「…あぁ。それは多分、私の知り合いだ」
「へ?」
「今度、家に連れてきなさい」
じいちゃんはそう言うと、にっこりと笑った。俺はそれに何だか頭が混乱してきた。どう見ても、年が合わないと言うか、つり合わないというか、…俺は考えるのを放棄して、取り合えずムキムキさんのメールアドレスに連絡を入れた。そしたら、直ぐに返事が来て、一週間後にウチに来たいと言う。じいちゃんにも確認を取って、「大丈夫です」と返事を返すと、「三人でそちらに伺う。ありがとう」というメールが来たのだった。

 


一週間後…。うさぎさんとムキムキさんと後、俺の知らない、欧州の貴族ってこんな感じ?な焦げ茶色の髪に菫色のきれいな瞳のお兄さんが我が家に来た。…ってか、三人ともデカ!

「こんにちは。わざわざ、すみませんね」
「いや、こちらこそ無理を言ってすまなかった。ご在宅か?」
「はい。案内しますので。すみませんが、スリッパに履き替えて頂けますか?」
履き替えて貰って、母屋からじいちゃんとばあちゃんが居る離れへ移動する。ウチは二世帯住宅で敷地内に廊下を繋いで、家屋が二棟ある。
「おお、池がある。何か、飼ってんのか?」
小さな渡り廊下は庭に面していて、小さな池がある。それを目に留めて、うさぎさんが口を開いた。
「じいちゃんご自慢の錦鯉が泳いでますよ」
「錦鯉ですか。興味深いですね。後で見せていただきましょう」
「ああ。ウチでも取り扱ってる業者があるが、本場は間近で見る機会もないしな」
「餌やりとかしてみてぇ!」
大人三人なのにひとり子どもが混じってます。うさぎさん、姉ちゃんとこの子どもみたいなこと言ってるし。
「どうぞ」
ばあちゃんの音楽室のドアを開くと、ばあちゃんが丁度、お茶を淹れ終えたところだった。
「Willkommen zu langem Weg, mein Heim.Entspannen Sie sich bitte(遠路、遥々、我が家へようこそ。ゆっくりして行ってくださいね)」
ばあちゃんは何やら、俺には解らない言葉(多分、ドイツ語)でそう挨拶し、三人もそれぞれ挨拶を返すのをぽかんと俺は見ていた。ばあちゃんはにこやかに笑うと俺に「久蔵さんを呼んでくるわね」と部屋を出て行った。ばあちゃんの流暢なドイツ語に感心したように、ムキムキさんが口を開いた。
「随分と流暢なドイツ語だったな」
「ええ。とても品のある方ですね」
「若い頃は美人だったんだろうな。後、五十年早く会いたかったぜ」
俺は最後のうさぎさんの言葉にコメントしようもないと言うか、確かに若い頃のばあちゃんは美人だけど。でも、ばあちゃんがドイツ語喋れるなんて知らなかった。家族の新たな一面に驚いていると、貴族さんが口を開いた。
「こちらのピアノはキュウゾーが調律したものですか?」
「ばあちゃんのピアノはじいちゃんが調律してますから。…弾いてみますか?」
「いいのですか?」
天井から陽光が差し込み、照らす真下にはグランドピアノがある。このピアノはばあちゃんが子どものころからあるピアノであの大空襲の難をも逃れ、じいちゃんとばあちゃんが出会うきっかけにもなった思い出のピアノだ。貴族さんは蓋の閉められたピアノに目を細め、息を吐いた。
「…ウチのメーカー、ベーゼンドルファーですね。インペリアル…状態は…」
蓋を開け、手袋を外した貴族さんが鍵盤を叩く。澄んだ音色が響くのに、感極まったように貴族さんの指先は鍵盤を叩き始めた。まるまる、短い曲を弾き終え、ほうっと息を吐く。
「ああ、確かにキュウゾーの調律したピアノです。この音は彼にしか出せない」
貴族さんは感嘆と共にもう一曲短い曲を弾く。曲が終わり、ぱちぱちと拍手の音に振り返れば、じいちゃんが立っていて、懐かしそうに目を細めた。
「懐かしい音色だと思ったら、やはり、ローデさん、あなたでしたか。お元気そうで。ご無沙汰しております」
「ご無沙汰どころではないですよ!何故、連絡してこないのです!…本当に、心配していたのですよ!」
「申し訳ない。…色々と私の方もゴタゴタとしておりまして。…でも、また、生きてお目にかかれるとは思ってもいませんでしたよ」
貴族さんがじいちゃんをぎゅうっとハグする。じいちゃんは貴族さんの背中を抱き締め返すと、苦笑した。
「…まったくです。あなたがいなくなっってから、私の理想の音は遠くに逝ってしまった。その理想の音をまた奏でることが出来る。こんなに嬉しいことはありません」
「大袈裟ですな。私よりもあなたの意に沿った調律を出来るものはおるでしょうに」
「何を言ってんだ。坊ちゃんのどうでもいいような我儘をちゃんと訊いて、根気強くチューニングに付き合ってた調律師はお前ぐらいだったぜ。他のは根を上げて皆、逃げちまった」
「ああ。あの根気強さには本当に敬服する。フェリシアーノに見習わせたいくらいだ」
「ギルさんも、ルートさんもご健在で何よりです。まさか、孫からあなた方の話を耳にするとは思ってもいませんでしたよ」
貴族さんから解放されたじいちゃんはムキムキさんとうさぎさんのハグを受けて、笑う。…知り合いらしい。…でも、何か色々、おかしくない?おかしいのは俺の頭なのかな?戦時中の知り合いなら、年齢が全然合わないんだけど。
「…あの、」
「何だ?」
「じいちゃんとどういったお知り合い何ですか?」
俺は空気読めよ!と思いつつ、好奇心に勝てずに口を開いた。
「ピアニストと調律師とピアニストのその親戚だ」
簡潔な回答を有難う。…って、そうじゃなくって!
「知り合いにしては、年齢が合わない気がするんですが…」
異様に若作りなオチか。それにしたって、無理がある。
「…あー、そういや、知らないのか」
「普通はそうでしょう」
「そうだな。中々、他国の国民と仲良くなると言うのも俺たちにしては稀であるし」
頭の中は「?」だらけ。俺は助けを求めるようにじいちゃんを見やった。
「何だ?…てっきり知ってて、お連れしたのかと思っていたが」
じいちゃんの言葉にますます「?」が増えていく。
「知ったときには私も驚いたものだが…。この世界にはその国を象徴、具現化した国家(ひと)が存在するんだ。それで、紹介するとこちらが「オーストリア」さん、「ドイツ」さん、今は国はないけれど「ドイツ」さんのお兄さん「プロイセン」さんだ」
貴族さんが「オーストリア」さん、ムキムキさんが「ドイツ」さんで、うさぎさんが「プロイセン」さん?…プロイセンって世界史でならった今はない国じゃなかったけ?

「え!?」

世界が、色んなものが逆流する。

「うええええ!?」

俺の疑問符が音楽室にこだました。

 

 

 

「…落ち着きましたか?」

脳みそが情報処理を放棄し、暫く、呆然としていた俺をムキムキさんが椅子に座らせてくれた。リアルに脳みそパーンってなることあるんだな。すっかり冷めてしまった紅茶を飲んで、我に帰って、俺は「ハッ」となる。この三人が「国」の「具現化」で「国家」そのものならば、もしかしたら、…本田さんや眉毛さんや、ハンバーガー君とかも「国家」?

「顔色が急に悪くなってきたな。大丈夫か?」
「脳みそ、混乱してんだろ。…まあ、甘いもん食って落ち着け。ルッツ、坊ちゃんのトルテ出せ」

俺は何か知らない間に無礼なことをしてしまったりしてたんじゃないだろうか?…国際問題に発展したら責任取れねぇよ!と、赤くなったり青くなったり。そんな俺の口元にずいっと茶色い塊が。

「口、開けろ。あーん」

言われるがままに反射的に口を開く。チョコレートの濃厚な甘さが舌を刺激する。それと同時に脳も正常に戻る。

「…美味しい」

「だろ。認めたくねぇが、コイツの作るトルテは美味ぇんだよ」
「あなたに認めて頂かずとも結構ですが。…お口に合って良かったです。さあ、残りもお食べなさい」
勧められるがまま、うさぎさんからフォークを受け取って、一口分崩されたザッハトルテを頬張る。…確かにこの味を知ってしまったら、コンビニで売ってるザッハトルテを買うのは躊躇するぐらいに美味しい。
「懐かしいですな。また、この味を味わえるとは」
俺の隣でじいちゃんもザッハトルテに舌鼓を打っていた。
「こんなものでよければ、いつでも作りますよ。それよりも、キュウゾーにお話があります」
貴族さんは居住まいを正すと、じいちゃんを真っ直ぐに見つめた。
「高齢であることは承知しているのですが、仕事を頼みたいのです」
じいちゃんはその視線を受けて、皿をテーブルへと戻した。
「仕事、ですか」
「はい。来月になりますが、こちらでベルリンフィルの演奏会があります。それにピアニストとして参加することになりました。会場のピアノの調律をあなたに頼みたいのです」
じいちゃんは貴族さんの言葉に眉を寄せた。
「…近頃はめっきり、年の所為か耳も悪くなりましてな。…あなたの望むようなチューニングが出来るか…。自信がない」
弱気なじいちゃんの言葉に貴族さんはだんとテーブルに手を付いた。
「出来ますとも!このピアノ、キュウゾー、あなたの調律でしょう。私の望む音がここにある。…一度だけで良いのです。あなたのチューニングしたピアノをもう一度、私に弾かせてください。その音をこの国の人々に聴かせたいのです。…戦後、絶望の中にあってあなたのチューニングしたピアノの音色だけが私と私の国民の慰めだった。それをあなたに返したいのです!」
貴族さんの熱意にじいちゃんは困った顔をした。それにうさぎさんが口を開いた。
「俺はホント、音楽には無知だが、確かに音色が違うんだよ。どんだけ、坊ちゃんが弾いてもヘタらないのがキュウゾーの調律だ。他のは何て言うか、違うんだよな。もう一度、聴きたいぜ。キュウゾーの調律したピアノを坊ちゃんが歌わせるのをよ」
「俺ももう一度聴きたいと思っている。無理をさせるとは解ってはいるのだが…」
ムキムキさんが眉を下げて言う。それを黙って訊いていたじいちゃんをじっと六つの目が見つめる。じいちゃんは溜息を一つ吐いた。

「…そこまで言われては引き受けざる得ませんな。…精一杯、努めさせていただきますよ」

熱意に押されて漏れたじいちゃんの言葉に、貴族さんは感極まったように立ち上がった。

「この喜びを今から、ピアノで表現します。心してお聴きなさい!」

ピアノの前に座った貴族さんが嬉々として、鍵盤を叩く。音楽室にうっとりするようなきれいな音色が満ちる。じいちゃんの調律したピアノはまさに「歌う」ような音色だ。貴族さんの技巧も凄くて、耳が至福だ。
「…これは何とも贅沢な時間ですなぁ」
「そうだな。…懐かしい。兄さんのフルートもあれば、いいんだが」
「ですな。あの演奏会は楽しかった」
「じゃあ、次、こっち来たとき聴かせてやるよ。…あー、でも長いこと弄ってねぇから、期待はすんなよ?」
「楽しみにしておりますよ」

何だか、見えない時間の流れと親密さを感じる。俺はじいちゃんがちょっと羨ましくなった。

 それから、ちょっとした演奏会になったのだが、漏れたピアノの音色を聴いた耳の肥えた近所の人々や帰ってきた親父に兄ちゃん、母さん、ばあちゃんと音楽室はいつの間にかコンサートホール状態。「ブラボー!」の声と拍手に気を良くした貴族さんが弾くわ弾くわ…。ピアノ演奏会は夕方まで続き、その後は飲めや歌えやの大宴会になったのは言うまでもなかったのだった…。

 

 

 






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