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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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27 . May



兄さんと弟。擦れ違う想い。







拍手[33回]



 

 ジュネーブにある国連の本部、国連への加盟の審査を待つ間、プロイセンは中庭のベンチに腰掛け、結果を待っていた。

1966年、国際連盟に加盟すべく申請書を出したがアメリカ、イギリス、フランスが反対に回り、却下された。連盟に入ることは国として認められることだ。政府は申請し続け、七年。西ドイツと共に加盟が認められることになった。その場に西ドイツ代表として弟が出ていることを知り、プロイセンは代理を急遽立て、会議から逃げてきた。合わせる顔など、あの日以来持ち合わせていない。そして、未だに自分が「ドイツ民主共和国」である自覚もない。…ドイツ民主共和国は生まれなかった。名前が変わったのかと思ったが、その名前を自身は否定している。プロイセンが「ドイツ」になることなど、意識下に存在さえしていない。ドイツの「東」を担う自分はやはり「仮初」でしかなかった。…物思いに沈むプロイセンの頭上に場違いに明るい声が降り注ぐ。プロイセンは赤を瞬き、顔を上げた。

「やあ、ギルベルト、久しぶりだね」
「…アメリカ」
「今はアメリカじゃないんだぞ。ただのアルフレッドさ」

隣に腰を下ろし、紙袋を開き、ハンバーガーの包み紙を開き、頬張り始めた青年を見やる。今やその肩に並ぶものなどいない西側の超大国、敵側の国。プロイセンは目を細めた。
「…お前には感謝している。色々と世話になった。……で、一体、何のつもりだ?」
冷たい戦争はまだ続いている。こんなところを東側の人間に目撃でもされたら、ロシアに痛くもない腹を探られることになる。面倒なことは避けたい。プロイセンはアメリカの真意を探るように眉を寄せた。
「…大丈夫。フランスに頼んで、ロシアは足止めしてもらってるし、人気は払ってあるよ。…俺はただ、これを君に渡したかっただけなんだぞ」
プロイセンの困惑を読んだようにアメリカは笑うと、手にしていたハンバーガーを一口で片付け、シェイクを啜った。
「?」
アメリカの意図が読めない。プロイセンは陽気な青年の横顔を伺う。その表情からは何も読み取れない。アメリカはジャケットのポケットを探り、一通の封筒をベンチに置くと立ち上がる。二つ目のハンバーガーを取り出し、包み紙を剥いて頬張ったまま、ひらひらと手を振って議事場の建物に戻っていくのをプロイセンは見送る。アメリカの意図が読めずに眉を寄せる。わざわざ、ロシアの目を避け、人気を払った理由が解らない。意図を探ろうにもアメリカは去ってしまった。プロイセンは息を吐き、そして、あたりに気を配り、自分以外の人の気配がないのを確認し、アメリカが置いていった封筒を用心深く手に取る。封はされておらず、それを訝しく思いながら、開く。中には三枚の写真が入っていた。

「…写真?」

訝しく思いながらも取り出し確認する。一枚目は産着に包まれた赤子の写真。二枚目はその赤子が成長したと思われる3~4歳の女の子がこちらを見て、微笑む写真。三枚目は…、

「…っ、」

プロイセンは息を飲んだ。

 三枚目の写真に写っていたもの。…やさしい顔で微笑む女性とその女性に寄り添い、椅子に腰掛け緊張した顔をする女の子の肩に手を置き微笑む懐かしい青年の顔。

懐かしい、久しぶりに目にした青年の幸せそうに微笑する顔にじんと目の奥が熱くなっていくのを辛うじて堪え、その写真をプロイセンは見つめた。
(…良かった。…ちゃんと、向こうでお前は幸せになれたんだな…)
それが何よりも、自分のことのように嬉しい。プロイセンは小さく鼻を啜り、封筒へと写真を戻す。その写真の裏に書かれた文字に気付き、プロイセンは手を止めた。

「マリア 1969 7」
「マリア 1973 7 4歳の誕生日」
「家族と 1972 12 降誕祭」

ドイツ語で綴られた裏書。子どもの名前は「マリア」と言うのか。かつて、自分が冠した名前。プロイセンは目を細める。

(…ああ、どうか、遠く異国の地に暮らす彼らがいつまでも幸せでありますように!)

ベルリンで別れた青年をプロイセンは想う。ずっと、気にかけていた青年が幸せに暮らしていると解り、ひとつ、胸にあった重石が外れて軽くなる。

 …ああ、これでひとつ。俺の望みはたった、ひとつになった。早く、お前と、

会場のどこかにいるだろうドイツを思う。会わせる顔など既にない。引き留め、泣き叫ぶその姿を振り切るように背を向けた裏切り者が、どの面下げて会うことが出来るだろう。

 思うことは、ただ、ひとつだけ。

 

 

 お前とひとつになりたい。

 

 

自分が描いてきた美しく完璧な理想の形の中に今度こそ、還りたかった。

 

 

 

 

 


「…っ、あ…」

ふっと意識の浮上に誰よりも早く気付いたのは猫達だった。心配そうに覗き込む赤と青にプロイセンは何回か瞬いて、小さく微笑った。
「…心配かけたな。…もう、大丈夫だからよ」
その言葉に白猫はぐりぐりと頭をプロイセンの頬に擦り付ける。それにプロイセンは困った顔をして笑う。黒猫が諌めるように鳴けば、物音に気付いたドイツがキッチンから出てきた。
「…ドイツ、」
「…大丈夫か?…具合は?」
昔のように自分を愛称でプロイセンは呼ばなくなった。それに一瞬だけ、眉を寄せ、ドイツはプロイセンの枕元へと歩み寄った。
「…ごめんな。心配かけて。…もう大丈夫だからよ」
他人行儀過ぎるプロイセンに未だに消えることのない隔たりを感じて、ドイツは首を振るとプロイセンの額の上に置かれた乾いたタオルを取って、新しく取り替えてきた氷水に浸すと絞る。それを額へと乗せた。
「…三日、休暇を取った。ゆっくり休んでくれ」
「いや、もう大丈夫だから、明日から出勤する」
「熱を出して寝込んでいたくせに何を言ってるんだ。寝ていてくれ。そんな状態で仕事をされても迷惑だ」
ドイツの言葉にプロイセンは顔を歪め、視線を逸らすように顔を背ける。それにドイツは唇を噛んだ。
(…こんなことを言いたいんじゃないのに…)
「…俺、お前の足引っ張ってばっかだな…。…ハ、…ホント、情けねぇ…」
「何を言ってるんだ?俺はそんなことは思ってない。…東と西の格差が直ぐに埋まるなんて思っていないし、それはこれかから埋めていけばいいんだ」
「…統一しなければ、お前んとこの景気が冷え込むこともなかっただろう。…色んな問題を抱えることもなかった。…俺はお前の重荷にしかならねぇよ」
「あなたを重荷などと思ったことはない。統一を急いだのは俺だ。馬鹿な事を言うのはやめてくれ。これから、ふたりで頑張っていけばいいだけの話だ」
今まで、弱音を吐くプロイセンの姿をドイツは見たことがなかった。それほどまでにプロイセンは弱っているのか。…全て、自分の所為で…。ドイツは視線を伏せた。
「…あなたが当たり前のように俺の傍にいて、それがなくなって、どれだけ自分があなたに依存していたのかを知った」
「………」
「あなたは俺に言ったな、「嘆きの淵に立ち続け、贖えない罪を悔い、悲しみ続けることになるだろう」と。あのときの俺にはその言葉が理解出来なかった。あなたが俺から去っていこうとすることが許せなかった。約束を違えるのかと…。俺は本当に愚か者だ。あなたは約束を違えたりはしていなかった。あなたの言葉の意味を思い知ったのはあなたが北に連れ去られてからだ。…この四十年、本当に辛かった。何度も心が折れそうになった。…俺なんか、あのときに消えてしまえば良かったんだ。あなたをこんな目に合わせる位なら、俺が」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前が消える?…お前が消えたら、俺は今まで何の為に存在してたんだ?」
「………」
「お前がいるから、俺が存在した意味がある。二度と馬鹿なことを言うな。俺はお前の僕だ。僕が王の為に犠牲なることを厭う必要がどこにある?王が僕に何かを想う必要はない」
「その前に、あなたは俺の「家族」だ。家族を想うことはいけないことなのか?」
斬り捨てるような言葉はあのときと同じで、ドイツは膝を掴む。

「…もう、家族なんかじゃ、ねぇだろ…」

視線を合わせることなく、放たれた言葉に心臓を抉られる。ドイツはぎゅうっと心臓を押さえた。
「そんなこと、」
「もう、元には戻れねぇんだよ」
「そんなことはない!」
何が遭っても、プロイセンは自分の唯一の家族だった。それを否定されることは自分をも否定されたような気がして、ドイツは顔を歪めた。それに黒猫が小さく鳴き、白猫がぱしりとプロイセンの頬を尾で叩く。
「…っ、何すんだよ!」
「にゃあ!!」
叩かれた頬を押さえ、プロイセンが白猫を見やれば白猫は赤い目をプロイセンへと向ける。
(…心にもないことを言うな…ってか…)
プロイセンは赤を伏せ、ちらりとドイツを見やる。ドイツは青を潤ませ、何かを堪えるように俯いていた。それに、ずきりと心臓が痛む。

 泣かせたい訳じゃない。
傷つけたい訳でもない。

 ただ、

 裏切り者の自分を、この弟にだけは許して欲しくないのだ。

 


ここに居ることが果たして正しいことなのか?

 


ずっと自問自答してきた。

 統一したドイツに、ふたりもいらないだろう?

 俺は必要ないだろう?…家族の情で切れないというのなら、お前に俺がしたことを思い出せばいい。お前と別れてから、どれだけお前を裏切るような真似ばかり、俺がしてきたか。

 斬り捨ててくれれば、楽になれる。
お前のそのやさしさが苦痛で仕方がない。
それなのにその、やさしさを嬉しく思う自分もいる。

「裏切り者」よといっそ、謗ってくれた方が楽になれた。悪役を演じるのには慣れているからな。そして、俺は「東ドイツ」だったことを後悔してなんかいない。…でも、悲しいもんだ。俺はここでは愛されなかった。いつも、危機に遭ったときに手を差し伸べてくれた誰かはいなかった。国として、俺はやっぱり役目を終えていたのだと思い知らされた。…なのに、どうして俺は息をして、この世界の重力から逃れることも出来ずに、地に這い蹲り、生きているのか。

 思えば、いつも弾き出されているような疎外感が、俺の中にはずっとあった。確かに「プロイセン」と言う国であったし、領土も民もこの手の中にあったけれど、どこか違うといつも感じていた。

 自分は、「異質」だと。

異質だからこそ、あの引継ぎは上手く行ったのか。…ああ、緩やかに穏やかに。自分の身上には到底吊り合わぬやさしさを持って。

 愛してはいけなかった。それを悟られてはならなかった。あの子どもに愛されたいと少しでも望んでしまったから、こうなってしまった。

 憎まれなければ、憎まれて嫌われて、最期にはこの心臓に銃弾を以って、「ドイツ」は「プロイセン」を殺さなければならなかったのに。それが、俺には相応しい最期だったのに、…馬鹿だな。結局、この様で。

 突き放すことがやさしさだと、もっと、早く気付くべきだった。

望み望まれるがまま、留まってはならなかった。…憎まれたいと思う。存在を否定されるほどに。

 何度でも、俺はお前を裏切るだろう。その度に、お前は傷つくのか。
どうしたら、お前は俺を憎んでくれるのだろうな?殺したいと思うほどに。

 


ひとつになりたい。

 

 それだけなのに、この身体は邪魔過ぎる。すべてから解き放たれれば、思う存分、お前を愛することが出来るのに、柵みが邪魔をする。
壁が壊れても、見えない壁が壊れた訳ではない。東と西を隔てていたそれをなかったことには出来ないのだ。

 

「お前は俺がいなくても、ひとりでやって来れたんだ。俺はもう、お前にはいらないんだ。…だから、さっさと俺を切り捨てろ。…そうすれば、西と東の隔たりも少しはなくなるはずだ」

 


そばにいるのが辛かった。でも、それが本当の罰だ。いや、違う。…ただ、もう息をするのが辛いのだ。楽になりたいとそればかりを望んでいる。あのとき、やっと楽になれるのだと、許されたのだと思った。体がふっと軽くなった瞬間、ドイツの顔を最期に見ておこうと目を開いた。その目に映ったのは、喜びから絶望へと叩き落された歪んだ顔をしたドイツだった。
(…置いては行けない…)
そう思った瞬間、身体はこの世界の重力に囚われた。

 ここに留まることを望んだのは自分だったクセに、矛盾したことを口にしている。

「……だったら、あなたが俺を切り捨ててくれたらいい。あなたのいない世界なんて、俺には考えられない。…もう、二度と、あなたの手を俺は離したりなんかしない。あなたが振り払ったとしても、俺はその手を掴む。…あなたが消えるときは、俺も消える。…切り捨てろなんて、言わないでくれ」

温かな手のひらがプロイセンの乾いた手を掴む。それにプロイセンは顔を歪めた。

 

 

「…寝る」

 

 

「…ああ。俺はずっとここにいいるから。…兄さん」

久しぶりに触れたドイツの体温は昔と変わらず、温かく心地が良かった。それに涙が出そうになるのを、プロイセンは堪えて、目を閉じた。

 

 






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