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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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04 . June



web拍手用小話に加筆。
ひとつになりたい。のサイドストーリーです。アメリカに亡命した青年のその後。







拍手[14回]





「また、そんなに買い込んで。お腹の具合が気になるからダイエットするんだと言っていたのは誰でしたかね?」

執務室のデスク一杯に溢れかえったカラフルな菓子類を見やり、書類の束を手にヘルマンは溜息を吐く。この地で彼の秘書官となって十年もの歳月が過ぎようとしていた。シェイクをズルズルと啜り、アメリカはヘルマンを見やった。

「ヘルも食べるかい?美味しいんだぞ。これ、今日出たばかりの新作なんだぞ」

鮮やかな緑色をしたグミにヘルマンは眉を寄せた。とても食べたいと思えるような色ではない。合成着色料を多用したそれがとても美味しいとは思えないのは、生まれた場所の違いから来るものなのか、視線を逸らし口を開く。
「遠慮させて頂きます。ミスターに見て欲しい書類をお持ちしたんですが、この机では見ることも出来ませんね。片付けますよ」
辛うじてスペースのあったソファの上に書類を置いて、ヘルマンは机の上のキャンディの包み紙やハンバーガの包み紙、スナックの空き袋を片付けていく。脱ぎ散らかしたままのジャケットをハンガーにかけ、マフラーと手袋を揃える。乱雑に散らかったファイルを元の場所に戻し、雑誌をマガジンラックへと移動させると瞬く間に部屋は片付けられ、机にスペースが出来る。食べかすの落ちたテーブルを拭き終え、ヘルマンはアメリカを見やった。
「…ミスター、あまり、小言も言いたくないのですが仕事中の間食はお控えになったほうがいいと思います」
「…むう。だって、お腹が減るんだぞ」
「だからと言って、食べていたのでは余計に太ってしまいますよ?最近はデスクワークばかりで唯でさえ運動不足気味でしょう」
「…むむ」
「それにこんな高カロリーなものばかり食べていては、お体にも悪いです。食べるなとは言いませんが、少しは量もお考えになった方がいいと思います」
色々と便宜を図ってくれた大恩ある相手に小言を言うのも憚られるのだが、自分より年上で遥か長い年月を生きている筈のアメリカは外見の若さからも解るようにまだまだ子どものようなところがある。まさにこの青年はこの国そのものを具現化していた。
「…何か、ヘルはイギリスみたいなんだぞ」
機嫌を損ねたように口を曲げたアメリカにヘルマンは困った顔をして、息を吐いた。
「サーもあなたを心配されて、そう仰っているのでしょう」
「余計なお世話なんだぞ!」
「余計なお世話かもしれませんが、その余計なお世話すら焼かれなくなったら悲しいでしょう?」
その言葉にアメリカはふいっと顔を背ける。ヘルマンはそれに苦笑する。イギリスの話を持ち出すと必ず最後には拗ねてしまうか、黙り込むかだ。元宗主国であるイギリスに対して、色々と思うことがあるのだろう。歴史は過去だが、それを彼らはリアルに体感し、その身に抱え込んでいくのだ。
(…あなたもそうだったんでしょうか…?)
遠く離れた帰ることなど出来ない分厚い冷たいカーテンに覆われた祖国を想う。終戦からもう、十年が経つ。母国語よりも英語が身に馴染んでいくのを感じるたびにもどかしさを覚える。それでも、生きてゆく場所は今はここより他にはなかった。
「…別に世話焼いてくれなんて、俺は頼んでないんだぞ!向こうがいつも勝手に子ども扱いして、彼はお節介すぎるんだよ」
「子どもの頃から知っていれば、どれだけ大きくなろうとも子ども扱いですよ。いいじゃないですか。大人になれば容易に甘えることなど出来なくなるんですから。甘やかしてくれると言うのなら、甘えてしまえばいいでしょう?」
執務室の奥の給湯室に入り、ミルクを温める。星条旗柄の大きなカップにひとさじ、目の前の彼によく似た人の良さそうな青年の置き土産のメイプルシロップを入れて、濃く沸かしたコーヒーを少量。温めたミルクを注ぐ。トレイにマグカップと棚から今朝、焼いてきたケーゼクーヘン…チーズケーキを一切れ添えて、戻ればアメリカは椅子の上、膝を抱えて、頬を膨らませていた。
「俺はもう立派な大人なんだぞ!ヘルまで、イギリスと同じで俺を子ども扱いするのかい?」
「子ども扱いしたつもりはありませんが、そう、あなたが思うのでしたらそうしているのかもしれませんね」
「してるんじゃないか!」
アメリカのナンタケットが憤慨したように揺れる。それを目に捉え、ヘルマンはトレイを下ろした。
「しているつもりはありませんが、誰かが世話を焼いてやらないと、ミスターは自分を甘やかしてばかりではないですか。…これからは、私がミスターのおやつを用意致しますので、それ以外は召し上がらないようにお願いします。お腹をサーに揶揄われたくはないでしょう?」
ふわりと甘く香るカフェオレに鼻をひくひくさせて、添えられたチーズケーキにアメリカは瞳を瞬いて、ヘルマンを見上げた。
「おやつ、毎日、君が準備してくれるのかい?」
「はい」
「ワオ!君の作るお菓子は凄い美味しいから大好きなんだそ!!」
伸びてきた手から、ヘルマンは素早くトレイを上へと持ち上げた。
「ヘル?」
それにぽかんとした顔でアメリカはヘルマンを見上げた。
「ただし、お約束が一つあります」
「なんだい?」
「私が用意したもの以外は間食しないこと。朝食と夕食は官邸の料理人が準備したものを、昼食は私が準備したものを食べて頂きます。もし、間食された場合は私が準備したおやつは自動的にミスターの上司のお腹に収まることになります」
「ノー!!なんだい、それ!!納得できないだぞ!!」
「別に納得して頂かなくとも結構です。ミスターが子豚のようにまるまる太ろうが私には関係のないことですし、恥ずかしい思いをするのは私ではなく、ミスターとミスターの上司ですし」
「むむ!!ヘル、酷いんだぞ!!」
「酷くありません。敢えて、苦言を呈しています。初めてお会いしたときのミスターは精悍でとても格好良かった。ミスターの言うヒーローそのものでしたが、……今は、」
はあ…と、これ見よがしに深い溜息を落としたヘルマンにアメリカは眉を吊り上げた。
「もー、解った解ったよ!!ダイエットすればいんだろ!!」
「はい。お解り頂けて、私も嬉しいです」
にこりとヘルマンが笑う。それにアメリカはがっくりと力を抜くと溜息を落とした。
「…君、こんな性格だったのかい?」
「上官には飴と鞭は使い分けて、なんぼだと教わりましたので」
トレイを下ろしたヘルマンはにこにこと笑うばかり…。幼い頃、教育係としてイギリスが自分に付けた乳母より、容赦なくやんわりと手ごわい相手の出現にアメリカはヘルマンを睨む。睨まれたヘルマンは「どうぞ」と、アメリカにトレイを差し出した。

「カフェオレが冷めないうちに。おやつが終わりましたら、書類に目を通して頂けますか?」

「…解ったんだぞ。明日のおやつはアップルパイがいいんだぞ!」
「了解しました。帰りに林檎を市場で仕入れて置きます」

流石、あの彼の部下、隙もなければ油断もない上にどうすれば自分が折れるのかを熟知してしまっている。…だが、それが嫌ではない。気の置けないやり取りは常に気を張っていなければ立っていられない自分をリラックスさせてくれる。
(…だから彼は、最後の最後、ギリギリまで君を傍に置いていたのかな…)
張り詰めたあの場所で自分を保ち、少しでもドイツの為に有利に事が運ぶように彼は動いていた。孤立したその中で唯一、この青年だけが彼の味方だったのだろう。
(…羨ましいな)
国民と生死を共にするほど深く関わったことが、アメリカにはない。そして、その国民から寄せられる尊敬や愛情を深く、身近に感じることが出来たなら、国とひととの繋がりも変わっていくのだろう。だから、彼はたった一人の国民の為にこんな若造である自分に頭を下げることが出来たのだ。

(…俺は、君の第二の祖国になれるのかな?)

上目遣いに見上げれば、にこりと笑みを返してくるヘルマンにアメリカはそんなことを思う。自分の好みを熟知した甘さのカフェオレを啜り、素朴ながらも美味なチーズケーキをアメリカは二口で片付けた。

 

 

 






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