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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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04 . June


web拍手小話に加筆。
ひとつになりたい。のサイドストーリーです。アメリカに亡命した青年のその後。







拍手[15回]



 

 


「…赤ちゃんって初めて見たけど、スゴク小さいんだぞ」

それはアポロ11号が月面着陸に成功し、世界が熱狂の渦にあった中、ワシントン郊外の小さな家でヘルマンは産着で包まれた我が子を抱いて、見舞いに訪れたアメリカに笑んだ。
「私も小さい頃に妹を抱いて以来ですかね。…結婚も遅かった所為もあっって、妻共々、子どもは諦めていたのですが…」
「何、言ってるんだい。ちゃんと、授かったじゃないか!…うわ、手とか本当に小さいだぞ!」
産着から赤子がアメリカへと手を伸ばす。その手に恐る恐るアメリカは指を伸ばす。その指を赤子はぎゅっと掴む。それにアメリカがびっくりと肩を震わせるのをヘルマンは小さく笑った。
「ミスター、抱いてみますか?」
「いいのかい?」
「はい。首が据わってませんから、首を腕で支えるような感じで」
「こうかい?」
「はい。なかなかお上手です」
「…何か、小さいし、柔らかくて、壊れそうなんだぞ」
初めて腕に抱く小さな小さなひとの子ども。アメリカは赤子の頬をちょんと突く。柔らかく弾力のある頬にアメリカの目元がやさしくなるのをヘルマンは見つめた。
「…何か、すごくやさしいきもちになれるね」
アメリカの腕に収まった子どもは青く大きな瞳を瞬かせ、アメリカを見つめニコニコ笑うとアメリカの頬を撫でる指を掴んだ。
「なんだい?俺の指が気に入ったのかい?」
ぎゅうっと握って、上下に振る。赤子の動きにアメリカが目を細める。赤子は言葉にならない声を上げて喜んだ。それに頬を綻ばせ、アメリカは小さな重みと赤子特有の甘く柔らかな匂い嗅いで、頬を緩め、ヘルマンの腕へと赤子を戻す。赤子は名残惜しそうにアメリカのジャケットの袖を掴んだ。
「本当に可愛いんだぞ!ところで、この子は男の子?女の子?」
「女の子ですよ」
「アニーに似て、美人になりそうなんだぞ」
「妻に似て、器量の良い子に育てばと思ってますよ」
「絶対、いい子になるさ。だって、君とアニーの子だしね。…名前は付けたのかい?」
「はい。マリアと」
「マリアか。聖母マリアから取ったのかい?」
「はい。かの聖母のようにやさしい女性になって欲しいと思っていますよ」
我が子を見つめるヘルマンの眼差しはどこかで見たことがあるやさしい色をしていて、その眼差しがアメリカの古い、幼い頃の記憶に重なる。

 

『…帰るぞ』
『うん!』

 

差し出された手のぬくもり。自分を見つめた緑色の瞳は目を細め、眩しそうに笑んだ。

 確かにあの瞬間、彼は紛れもなく家族だった。そして、彼が与えてくれるやさしさが本当に嬉しくて仕方がなくて、それが自分のすべてだった。

 

「ミスター?」

「…っ、なんだい?」
「ぼうっとしてらっしゃるようでしたので。…どうかされましたか?」
「…別に…。…昔のことを思い出しただけだぞ!」
「昔のこと?」
「俺が独立するずっとずっと前…、いつも、彼は俺の手を握ってくれたなって。…彼は忙しくって、殆ど、こっちにはいなかったし、いたかと思ったら、すぐいなくなって…。それでも、一緒にいるときは俺のわがままを訊いてくれて、一緒に寝てくれたりとか本読んでくれたりとか嬉し………くなんて、全然なかったんだぞ!! ……、っ、ヘル、イギリスには俺がこんなこと言ってたなんて、絶対、言わないでくれよ!!」
どうもヘルマンといると、いつもは出ない見せない素の自分がうっかり出てしまう。アメリカは顔を赤らめ、ヘルマンを睨む。ヘルマンはただにこにこと笑っている。
「いい思い出じゃないですか。…そう言えば、これは私の知り合いが零していたのですが、その知り合いには三人、兄上がいらっしゃるんだそうで。でも、折り合いが悪く、仲良く出来たことがないと…。そして、自分は友達付き合いも下手で、周囲の皆さんとも上手くいかず、孤立してしまったときに、遠く離れた地で自分を慕ってくれる子どもと会えたんだ言ってましたね。その子どもの存在に随分癒されたそうですよ。自分をちゃんと素直に受け入れてくれることがただ本当に嬉しかったそうです」
「…え?」
「…子どもの手が親の手を離れて行くのは、本当に呆気なくて早いものだ。…お前もすぐそうなるさと毒づかれましたがね」
「それって…」
「私の知り合いのお話ですよ」
「…君の知り合いってさ、口煩くて眉毛が凄く太くないかい?」
「…さあ、どうでしたかね?」
「何で、はぐらかすんだい?」
「はぐらかしてなどいませんよ」
涼しい顔でそう言って笑うヘルマンにアメリカは唇を尖らせた。

「おい、ハーマン、いつまで奥方と客人の俺を放っといてんだ?客は誰だったんだ…って、アメリカ!」

部屋の奥から出てきたイギリスにアメリカは目を見開いた。
「な、何で、君がここにいるんだい!!」
「な、ハーマンに子供が産まれたって訊いたから出産祝い持ってきてやっただけだ!」
「まさか、君、お祝いと称して最終兵器持参で来んじゃないだろうね?」
「最終兵器って何だ、スーコンだ!!バカッ!!」
「本当に持ってきたのかい?信じられないよ!!ヘルとアニーがお腹を壊したらどうするんだい?」
「今日のは上手く焼けたんだ!!」
「そう言って、また焦がしたんだろ!!」
「--------ッ、アメリカのばかああああああああっ!!」
ぎゃあぎゃあといつもの掛け合い…アメリカの言葉に涙目になったイギリスをアメリカが追いかけるのを見送って、ヘルマンは苦笑を浮かべ、腕に抱いた我が子を見やる。赤子は声を上げて笑った。

「…本当に、あのお二人は素直ではないね。素直になれたなら、ミスターも楽になれるんだろうけど、上手くはいかないものだね」

自分の良く知っている兄弟と比べてしまう。本当にあのひとたちは仲が良かった。でも気が付けば、兄と弟の間には修復不可能な溝が生まれ、遂には冷たい壁があの兄弟を隔ててしまった。

「…マリア、これは私の我儘だけれど、私はお前をあのひとに一目会わせたいな。…きっと、驚くだろうけれど、誰よりもお前の誕生をあのひとは喜んでくれるだろうから…」

きっと、自分のことのように喜んで、この子をあのひとは抱いてくれるだろう。随分と遠い昔、幼い自分をあのひとが抱いてくれたように慈しんでくれるだろう。…冷たいカーテンで遮られたその向こうにいる別れたひとを思う。それを無垢な青い瞳は見上げ、無邪気に声を上げ微笑んだ。

 

 







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