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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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04 . September

web拍手の三篇に書き下ろしの一篇を追加。

拍手、ありがとうございました!


朝など、来なければいいのに。
日普≫寒い早朝、爺を抱き湯たんぽする兄さんと満更でもない爺。

変わらない、唯一のもの。
独普≫この腕の中にある温もりに幸せを噛み締める隊長。

戦場の夜。
普とその部下≫眠れない兄さんを気遣う部下とのやりとり。

子守唄
普と親父≫親父を寝かしつける兄さん。書き下ろし。






 





拍手[22回]



朝など、来なければいいのに。


 
 
 
 
 白み始めた外の俄かに差し込む頼りなげな陽光に赤い瞳をプロイセンは瞬かせた。しんと静まり返った外気に冷えた部屋。意識すれば、自分のものではない仄かに肌に感じる体温と密やかな寝息に気付く。そっと身じろげば、黒いさらさらと落ちる黒髪が目に付いて、プロイセンは日本の額に落ちる前髪を梳いて、小柄な体を抱き寄せ、暖を取る。じんと冷えた体にぬくぬくとした熱が広がり、スンとプロイセンは鼻を啜って、冷たい黒髪に鼻先を埋める。頭皮に近い部分は暖かく冷えた鼻先にじんわりとぬくもりを伝えてくる。足を絡ませ、抱きつくと言うよりは日本を抱き込んで、布団の外の寒さを忘れようとプロイセンはごそごそと身じろいだ。
 
「…甘えたですね。プロイセン君は」
「…うるせー。寒いんだよ」
 
黒い瞳が眠そうに瞬いて、寝起きで掠れた声が小さく微笑う。羽交い締めにした体から解けた腕が伸びて、プロイセンの髪を撫で、梳いた。
 
「…朝晩はまだ冷え込みますねぇ」
「…あっちはもっと寒いけどな」
「そう言えば、ドイツさんがあなたが犬と一緒に寝てることがあって困ると零されてましたよ」
「…寒いの嫌なんだよ。犬はいいぞ。温いしよー、毛皮ふかふかだぜ」
「確かに、犬はふかふかで温かいですねぇ」
 
ドイツ宅の三頭の気性の穏やかな躾の行き届いた犬たちの顔を日本は思い浮かべる。その三頭に混じって、プロイセンは寒さに震えることもなく犬達のぬくもりに目を閉じるのか。日本はプロイセンの髪を梳く。日本のゆるゆると髪を梳く指先は温かく、プロイセンの目蓋がとろりと落ちるのを日本は見つめた。
 
「犬のようにふかふかの毛皮はありませんが、暫く、こうしていても?」
「…うん。…もっと、撫でろ…」
 
分け与えられる温もりと優しい指先に、赤がゆるゆると融ける。朝が来るまでの僅かな未明に暫しの安息を求めて、プロイセンの目蓋は落ちた。
 
「…起きるのが惜しいですね。…朝など、来なければいいのに」
 
白い頬に銀色の睫毛が影を落とす縁に、日本はそっと口付けを落とした。
 
 





 
 
変わらない、唯一のもの。
 


 
 
 珍しく、本当に珍しく、ドイツはプロイセンより先に目を開いた。いつもは既に空っぽな腕の中に重みと恋い慕うどこまでも欲しいと思う体温があって、自分の腕を枕に穏やかな表情を浮かべ、寝息を立てている。ドイツはそれを暫し見つめ、プロイセンの白い肩を落ちたブランケットを引き上げ、その冷えた肩を抱き寄せる。それにもぞりとプロイセンが動いて、起こしたかと息を詰めれば、プロイセンの手のひらが何かを探すように動いて、ドイツの腕に触れると辿るように動いて、背中へと回され、素肌が密着する。
 
「…ん、るっつ、あったかい…」
 
もそもそと身じろぎ、またすうっと穏やかな寝息が返って来る。ドイツは何とも言えない幸福感に胸が詰まる。…ずっと昔、今よりも幼く、体が未熟だった頃、プロイセンと一緒に居たくて何かと理由を作っては寝室を訪ね、この腕に抱かれ眠った。包み込むように回された腕。耳に響くのは心地の良い鼓動。その鼓動を耳にするだけで、どんなに寝返りをうち、眠ろうと目蓋を閉じることが出来ずにいたのが嘘のように夢の中に旅立てた。プロイセンの腕の中はこの世界で何よりも安全で、もっとも幸福を自分に与えてくれる場所だった。その幸福だった場所を一度は失い、もう二度と取り戻せないと思っていた幸福が今は自分の腕の中にある。それだけで胸が詰まりそうになる。幸せで、幸せすぎて、この温もりを失ってしまったら、今度こそ自分は駄目になってしまうだろう。何年経とうがこの温もりが変わらない、唯一の自分の世界の全てだ。
 
(…離すもんか。…絶対、)
 
二度と。ドイツはプロイセンを抱き締める腕にほんの僅かに力を込める。それに、赤が僅かに瞬く。
 
「…るっつ、さむいのか?」
「…寒いよ。…兄さん」
 
そう言葉を返せば、あやすように背中を撫でた手のひらが大きくなったドイツの身体を引き寄せた。
 
「…これで、温かいだろ。…夜明けまで早いし、もう少し寝てろ」
「…うん。兄さん」
「何だ?」
「…俺が目を開けるまで、ずっとこうしていてくれ」
 
甘えるように肩に鼻先を擦り付ければ、しょうがねぇなと嬉しげな溜息が零れて、慈愛に緩んだ赤が微笑する。ドイツの体温で暖かくなった指先でプロイセンはドイツの頬を撫でると額に口付けを落とした。
 
 









 
戦場の夜。



 
 
 戦況は日々、悪化し、眠れば悪夢に魘される。眠れない日々が日常になり、眠れないならばと明かりを絞ったテントの中で無駄なデスクワークに励む。何かをしていないと、最悪な結末ばかりを考えてしまう。刻々とこの国を取り巻く状況は悪化している。その悪化を止める手立てなどなく、最悪な結末へと駆け出していく足音を止めることはこの国の終焉でもあった。終わりなど誰が見たいと望むか。少しでも、一日でも一時間でも、数秒でもいい、最悪な結末を後延ばしに足掻く以外に出来ることなど、何もない。最早、この体以外に全てのものを失った。その残ったものを精々酷使し、この国が僅かにでも延命出来るのならば、淡々と己を削っていくことがプロイセンに残されたこの国に対する贖罪でもあった。
 
「…失礼します」
 
しんとプロイセンが書類を捲る音以外は静かだったテント内に声が響く。プロイセンが字を追うことすら億劫になって来た淀んだ赤を瞬かせ、顔を上げれば返事を待たずに、幌が捲られる。中に入ってきた青年にプロイセンは目を眇めた。
 
「…こんな時間に起きてるな。明日は早いぞ」
 
「その言葉、そのままお返しします。あなたのテントから明かりが漏れているのを見て、フランツやハンスが心配しています。…もう何日も寝ていらっしゃらないのでしょう?」
青年の言葉にプロイセンは短い頭髪を掻き毟り、息を吐いた。
「…眠れねぇんだよ。…色々、考えちまってよ」
「…今更、何を色々、考えなければばらないのですか?…この戦争を終わらせる方法など、あなたは当にご存知でしょう。でも、それを敢えてあなたは忌避した。その方法を取らなかったことを非難はしません。…私も、他の兵達も尽きるときまで、あなたに着いて行くだけだ。…あなたもこの国が尽きるところまで体を張る。…そうでしょう?」
青年は静かにそう言い、木箱の上にカップを下ろす。プロイセンは息を吐いた。
「……お前の言葉には遠慮がねぇな。…突き刺さったぜ」
優柔不断に斬り捨てることすら出来なかった心の奥底にあった脆い部分をその言葉は容赦なく裂いた。この戦争を終わらせることはとても簡単だ。最愛の者をこの手に掛ければ、すべてが終わった。これほどまでに多くの命が失われることも、今から失われる命もなかったのだ。
 
「あなたが選んだ選択肢が例え、間違いでも私達は構わない。それに従うだけだ。…でも、頭であるあなたがいつまでも選らんだ答えを悔いて悩んでいられても困ります。私達はあなたの手足だ。頭が動かなくては手足はまともに動くことも出来ない。そんなことでは、明日、生き残れる者も生き残れなくなる」
 
青年の言葉にプロイセンは反論も出来ずに、ただ深い息を吐き出した。
「…上官、あなたに最期まで着いて行くと決めた者がこの隊に集まった。家族と別れ、恋人と別れ、あなたと生死を共にすると皆が望んで、ここにいる。それはあなたを生かす為でもあることを忘れないでください」
青年の視線は強く、眩しい。プロイセンはそれに目を細めた。
「…ああ。そうだな。…俺がもっとしっかりしねぇと…な」
この命は最早、この国のものでも、自分のものでもなくなっていた。自分に着いて来た者たちを生かす為にこの命はあるのだ。一日でも永らえなければ意味がない。
 
「…お前のお陰で目が覚めたぜ。…ダンケ」
「いいえ。出すぎたことを言い、申し訳ありません」
「…いいって。…覚悟したつもりが、全然、覚悟が足りてなかった。…もう、悩まねぇよ。悩んだって、どうにもならねぇしな」
 
青年の謝意にプロイセンは自嘲を返して大きく息を吐くと、木箱の上に置かれたカップに視線を向けた。
 
「…グリューワイン?」
「他の者には内緒ですよ。物資に一本だけ紛れ込んでたのを、テオに無理言って出してもらったんです。それを飲んで、今夜はもうお休み下さい」
 
青年は硬かった表情を和らげると、敬礼しテントを出て行く。それを見送って、プロイセンはカップを手のひらで包む。じんわりと温かい鍍金のカップに目を細める。啜れば、じんわりと腹から温かくなってくる。
 
「…今夜は眠れそうだぜ」
 
プロイセンは小さく呟き、カップの中身を飲み干し、硬い寝台へと身を横たえる。悪夢に魘されることはもうなかった。






 
 
 
 
 
子守唄


 
 
 
「まだ、起きてるのかよ?」
「…もうそろそろ、休もうと思っていたところだよ。プロイセン」
 
夜中にふと目が覚めて、部屋を抜けだした。夜の気配が支配する暗い廊下をランプを頼りに、厨房まで行って、グラス一杯のワインをくすねた帰り道、王の私室から明かりが漏れているのを目に留めて、プロイセンはドアを開いた。顔を上げた王が書類から顔を上げ笑むのをプロイセンは溜息を吐いて睨んだ。
「今、何時だと思ってやがる。ザントマンが目玉を穿りに来るぜ」
「こんな老いぼれの目を取っていくとは思えないがね」
羽根ペンをトレイに戻し、頬杖を付いて王はプロイセンを見やる。
「そう言うお前はこんな時間に何をしているのかね?」
「俺か。目が覚めて眠れないんで寝酒をちょっと」
「…眠れそうかね?」
「俺は基本、すぐ眠れっからな。それより、早く、ベッド入れよ」
くいっと顎で寝室を指せば、やれやれと王が腰を上げる。寝室のドアを開き、王がベッドに腰を下ろす。プロイセンは徐にベッド脇の椅子を引き寄せると腰を下ろした。
「早く、横になれよ」
「私が寝るまで見張るつもりかね?」
「お前、俺がいなくなったら仕事する気だろ」
書類は片付けられることなく机の上にあったし、ペン先のインクを拭ってもいない。いなくなった途端、起き出して、仕事をする気なのは目に見えていて、プロイセンは横たわった王を睨み付けた。
「…眠れないのなら、ベッドの上にいるよりも仕事をするほうが時間に無駄がないだろう」
「そう言う問題じゃねぇだろ。ちゃんと休めよ。…ってか、身体、労わってくれよ」
「…老いた私に残された時間は多くはない。出来ることは出来るだけやっておきたいのだ。お前の為に出来ることはなるべくな」
「…そう言ってくれるのは嬉しいけど、…いや、やっぱ嬉しくねぇ!…俺の事なんかなるようにしかならねぇんだから、親父はもっと自分のことに時間使えよ。今まで出来なかったことをやればいいじゃねぇか」
「…若い頃は自分が王になったら好きなだけフルートを吹いたり、知識人を招いてサロンを開いたりして楽しもうと、そう思ったこともあったが、今はお前のために何をしてやれるのか、この国を良くすることが私の生き甲斐になってしまった」
その言葉に複雑そうな顔をするプロイセンを見上げ、皺の増えた目元を王は緩ませた。
「…親父が俺のためを思ってくれてるのは本当に嬉しいぜ。…でもよ、それで親父が身体を損なうのは本末転倒だろ?…俺、お前には長生きして欲しいんだよ」
いつかは必ず訪れる別れの日を少しでも長く先延ばしにしたい。この王がいなくなったとき、果たして自分が歴代の上司たちを見送ってきたときと同じように平静でいられるのか、プロイセンには自信がなかった。今までこんなにも自分の中の深いところまで踏み込んできた人間はこの王が初めてで、親の情を知らぬプロイセンに、親の情を受けられなかったこの王がそれを教えてくれた。お互い欠けていたものを補うように寄り添ったこの関係が終わってしまうことが、プロイセンには恐ろしくて仕方がない。
「…長生きするさ。少しでも長く、お前のためにありたいからな」
するりと乾いた冷たい指先が慈しむようにプロイセンの頬を撫でる。それに泣きそうになるのを誤魔化すようにプロイセンは鼻を啜って、その手を掴んだ。
「…そう思うなら、寝ろ。眠れねぇなら、子守唄でも歌ってやるぜ」
「…お前、子守唄を歌えるのかね?」
「お前が小さい頃ぐずって寝付かねぇのを寝かしつけてやったのを忘れたのかよ?」
「残念ながら覚えていないな」
「んじゃ、歌ってやる。朝までぐっすりだぜ」
掴んだ王の手をブランケットの下に、肩まで引き上げて、プロイセンは寝室のランプの明かりを絞ると小さく息を吐き、今は自分だけしか知らない、遥か遠い昔、自分が生まれた場所で修道女が歌ってくれた今は忘れ去られてしまった子守唄を小さな声で歌う。優しい響きを持って紡がれる言葉は王の耳にしたことのない古い言葉で、その歌は確かに昔、耳にしたことがある歌だった。
「…昔、聴いたことが、確かにあるな…」
赤い目が慈愛に満ちた色をして、自分を見下ろしていた。今よりもあの声は、少し高かった。…深い眠りへと誘うその声に王の目蓋がゆっくりと落ちる。やがて、王の唇から静かな寝息が漏れ始めるのをじっとプロイセンは見つめて、歌を止めた。
 
「…俺もずっと、お前と一緒に…」
 
それが叶わぬ願いだと解っていても、せめて、その時が来るまではずっと寄り添い、そばにいることが出来るなら…。
 
 プロイセンは王の額に祈るように口付けを落とした。
 
 





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