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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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12 . September

兄さんが喫茶店の店主なお話。

隠居して暇つぶしに喫茶店始めたぜー!で、暇つぶしに冷やかしに訪れる国々と、その中に紛れ込んだおっさんみたいな感じの話。


兄さんはコーヒーを淹れるのが変な方向で上手と言う、俺得捏造設定有。






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 ベルリン市内、ちょっと大通りを外れた通りに小さな喫茶店がある。看板も出てない小さなその店が俺のお気に入りの場所だ。コーヒーしか出さないその店の店主は俺よりうんと若い男で22、23歳くらい。銀髪赤目、何年か前、話題になった映画の暗殺者の青年のような感じなのだが妙に人懐っこく、頭に黄色いふわふわした小鳥を乗っけているその店主の淹れるコーヒーが特別な豆を使って淹れられたものでも、秘伝のブレンドのコーヒーでもないのだが、口に合うほどに合い過ぎて、この店のコーヒーしか飲めなくなってしまった。そうなってしまった中毒者は俺以外にも存在するらしく、顔を合わせる常連客も多い。一度、その秘密を探ろうと豆のことを訊いたのだが、普通に市販されているものだった。試しに買って自分で店主と同じ要領で淹れてみたのだが、同じ味には、俺が飲みたいと思っている味にはならない。店主の淹れるコーヒーは来るたびに味が変わるのだが、その味が自分が飲みたいと思っていたもので、気が付くと週に6日は通う常連(日曜日が定休日の為、飲みたくても飲めない)と成り果てていた。
 
「おう、いらっしゃい」
「どうも」
 
古めかしいドアを開ければ、芳醇なコーヒーの香りが店内に満ちている。カウンター席が6つ。窓際にソファー席が2つ。古くどこか懐かしさを感じる店内はアンティークだらけで、室内を照らすライトもカウンターもテーブルも全てが大事に使い込まれてきたと解る質の良いものばかりだ。壁にはいつの時代のものだか解らない抜き身の剣が飾られ、棚にはフリードリヒ大王の肖像画と年季の入ったフルート、何故だか額に文字の書かれた二匹のパンダのぬいぐるみが飾られている。店内はちょっとした図書館のようになっていて、100年前、200年前の古書マニア垂涎の本がぽんと数十冊置かれて、それに混じって最新刊のミステリー小説やら歴史小説やらが無造作に置いてあり、常連客は大概、長居を決め込む客ばかりで持ち込んだ本を優雅に寛いで読んでる客もいれば、この場にそぐわない米空軍のジャンパーを着た若い明るい金髪の兄ちゃんが携帯ゲーム機に熱中している。その横で「紅茶はでねぇのか」と太い眉を寄せ、きっちりとスーツを着込んだ男が文句を付けるが、店主は気にするでもなく自分で淹れろと茶器を平然と出してくる。それを横目で見やりつつ、いつもの指定席に腰を下ろせば、それと同時にカップが置かれた。…今日のコーヒーはミルク入りだ。最近、ブラックばっかり飲んでいて、胃にやさしくないから、今日はミルクを入れてもらおうと思っていたのだが、何故、解った?…顔を上げれば、店主はしてやったり顔でニヨリと笑った。それが小憎たらしい。カップに口を付ければ程よく砂糖で甘味がプラスされていて、自分が飲みたいと思っていたコーヒーの味なのだから不思議で仕方がない。…ちなみにこの店のメニューはコーヒーのみ。カウンターにもテーブルにも砂糖やミルクは置かれておらず、既に程よくミルクと砂糖が配合されたものかブラックしか出てこないのだ。そして、口に合わなかった場合はタダになるらしいが、一度も口に合わなかったことなどない。
「お前、今日は運がいいぜ。今日はデザートが付く!食うか?」
コーヒーを一口口にして、唸った俺に上機嫌な店主が訊いてくる。頷けば、店主は冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。料理が趣味だと言う店主の友人がたまに菓子を差し入れるらしく、そのおこぼれに運が良ければありつける。出される菓子は その辺のケーキ屋で出されているものよりも美味いときた。
「うん?なんだい、その箱は?」
すんと鼻を引くつかせて、携帯ゲーム機から顔を上げた金髪の青年が訊いて来る。
「坊ちゃん特製のザッハトルテだ。今、切り分けてやるよ」
ホールのそれを均等に切り分け、兄ちゃんと眉毛殿、俺の前に1ピースずつそれを置いて、店主はカウンターを出ると、ソファー席で優雅に寛ぐ貴族然とした青年の前に1ピースに切り分けられたザッハトルテの皿を置いた。
「お代わりは?今日はこれに免じてサービスしてやるぜ」
「なら、お願いしましょうか」
本から顔を上げた貴族殿が応じる。店主は空になったカップを下げると、新しいカップにコーヒーを注ぐ。その上にたっぷりとホイップクリームを乗せて。
「…大サービスですねぇ。珍しい」
貴族殿が瞳を瞬いて、差し出されたカップを受け取った。
「食いたかったんだよ」
店主は素っ気無くそう言うとカウンターに戻る。
「…お前ら、仲悪くなかったけ?」
ザッハトルテをフォークで突き、眉毛殿が店主に尋ねる。…仲、悪いのか。店主と貴族殿は我関せずな感じがするが。仲悪いなら、来ないだろうし。
「昔は本当、大嫌いでしたけど、今はそれほどでもないと言うか」
「俺もだな。…ってか、好きでもねぇけどコイツの作るザッハトルテはマジで美味いからな」
「私も同じですね。このひとの淹れるコーヒーが口に合ってしまって…」
貴族殿がしみじみと呟き、店主はカウンターで美味そうにザッハトルテを頬張る。
 
 何と言うか、この喫茶店にくる客の大半は店主の顔見知りらしい。その中に混じって、コーヒーを啜り、たまに美味い菓子にありつけるのが俺の日常のちょっとした幸せだったりする。
 
 
 


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