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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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26 . September


二杯目
ドイツさんの部下視点。フランス兄ちゃんは今日も絶好調です。







拍手[45回]



 
 「リヒャルト、この近くに俺の兄さ…、兄貴がやっている喫茶店があるんだが、先日、5名様限定でランチも始めたと言っていてな。一度、偵察…いや、様子を見に行きたいんだが、付き合ってくれないだろうか?」
 
首相公邸から書類を受け取り、官庁へと帰る信号待ちで停まった車内、僕の上司である室長…ドイツさんが口を開いた。
「はい。僕は構いませんよ。お店はどちらでしょうか?」
「この近くだ」
丁度空きのあった駐車場に車を止め、人通りの多い大通りから少し逸れた脇道へと室長の後を付いていくと、レンガ造りの看板も店名すらない建物の前で室長は立ち止まった。褪せた緑色のドアには「営業中」の札が下がっているだけで何の店なのかはさっぱり外観からは想像もつかない。でもほんのりとコーヒーの香りがする。室長は躊躇うことなくドアを開く。カラランとドアに取り付けられたカウベルがいい音で鳴った。
 
「いらっしゃいませ。…って、ヴェストか」
 
カウンターから銀色の頭がぴょこりと覗き、赤い目が特徴的な青年が室長の顔を見やると嬉しそうに笑う。それに室長は頬を緩みかけて、僕が居ることに気付い慌ててて表情を引き締めた。
「お、見ない顔だな」
僕に気付いて、青年が笑う。その青年の頭の上には黄色いふわふわした小鳥が乗っていて、いらしゃいませとピィと鳴いた。…可愛い。
「最近、俺付きの秘書になったリヒャルトだ。…リヒャルト、俺の兄貴のプロイセンだ」
「初めまして。室長にはお世話になっています」
室長に紹介され、ぺこりと頭を下げる。
「おう。お兄様だぜ。ここじゃ、ギルベルトって呼んでくれ。マスターでもいいぜ!こっちこそ、弟が世話になってんな。真面目で融通が利かねぇ奴だが、勤勉で人の話はちゃんと訊く奴だし、根はお人よしで世話好きだからよ。よろしくしてやってくれよな!」
「にいさ、…っ、兄貴!」
顔を真っ赤にする室長を初めて見た。それにプロイセンさんがニヨニヨと笑みを返す。古参の同僚から何度か室長のお兄さんの話は訊いていたけど、微笑ましいぐらいに仲がいいと言うのは本当だったようだ。
「…ったく、兄さんは一言多すぎる。余計なことは言わないでくれ」
「いいじゃん。これから、お前と仕事していくんだろ?挨拶しとかないと」
「兄さんは仕事には関係ないじゃないか」
ぼやくようにそう言って、室長はカウンター席に腰を下ろす。その隣にお邪魔して僕も腰を下ろすと、さっとカップが二つ差し出された。そのカップを当たり前のように室長は口にし、ほうっと息を吐いた。それを見やり、果たして注文もしていないのに出されたコーヒーに手を付けていいものか躊躇していると、室長が口を開いた。
「兄さんの店ではコーヒーしかメニューがないんだ」
「…そうなんですか」
今時、有り得ない喫茶店だ。
「…砂糖とミルクは?」
カップには何も添えられておらず、カウンターにもそれらしきものは見当たらない。
「それは兄さんが勝手に入れる」
「…え?」
「普通の喫茶店とは違うんだ。まあ、飲んでみてくれ」
「口に合わなかったら、お代はいらねぇからよ」
そう言われて、カップを手に取り口に運んだ。
「…あれ?」
「どうした?」
「いつも自分が飲む甘さで、苦味もなくて美味しいです。僕はコーヒーには砂糖じゃなくて、蜂蜜を入れるんですけど」
「蜂蜜入れたぜ」
「何で、僕の好みが解ったんですか?」
「うーん?勘?」
あっけらかんとプロイセンさんはそう言って笑う。
「兄さんの特技なんだ。飲みたいと思っていたコーヒーを淹れられる」
「凄い特技ですね」
「だろ。この特技を生かさない手はねぇと思ってよ」
ちらりとプロイセンさんが棚の上に視線を投げる。その先には何故かドイツ人なら誰でも知っているフリードリヒ二世の肖像画と年季の入ったフルートがあった。それに室長が一瞬、複雑そうな顔をしたのに僕は気づかないフリをした。
「ランチ、やってるんですよね?室長と食べに来たんです」
「おー、やってるぜ。お前らついてるぜ。今日はスゲー美味いオムライスが食えるぞ」
「どういうことだ?」
視線を戻したプロイセンさんが僕と室長に向かってにんまりと笑う。
「フランス、ランチ2つな」
「出来てるよ。ちょっと待って!」
カウンターの裏は棚で見えないけれど、キッチンになっているらしい。そこから返事が返って来る。…プロイセンさん、フランスって言った気がするんだけど、思い違いでなければ僕のスケジュール帳に午後から会談が入っている隣国さんではなかったけ?
「はい。おまたせ!…って、ドイツじゃん」
「…何で、お前がここにいるんだ?午後から、会談予定だろう?」
「会談まで時間あるから、プロイセンのところで時間潰そうと思って」
「…それは解ったが、何でお前がランチを作ってるんだ?」
「プロイセンが作るより、お兄さんが作ったほうが美味しいから」
しれっと緩く波打った金髪を束ねた優男な感じのフランスさんがバチコーン☆とウィンクを室長に返し、僕にもウィンクをくれた。室長はそれに眉間に皺を寄せ溜息を吐いた。
「…兄さん、いくらフランスだからとは言え、客にランチを作らせるのは店側としてどうなんだ?」
「ツケ払えって言ったら、体で返すって言ったからよ。ギブアンドテイクだろ?」
「俺的には、そっちの意味じゃなかったんだけどねぇ」
「…フランス、俺はその手の冗談は嫌いだ」
「…おお怖い怖い。…相変わらず過保護だねぇ」
じろりと室長がフランスさんを睨む。気の所為か店内の温度が2、3度下がった気がする。それを気にするでもなくフランスさんは室長と僕の前にふわふわの卵で包まれたオムライスを置いた。
「日本で食べたあんかけ風を真似て作ってみたんだけど、食べてみてよ」
とろりとしたきのこソースがかかったそれはとても美味しそうだ。
「俺には?」
それを見たプロイセンさんがフランスさんにせっつく。
「はいはい。ちょっと待ってね。今、持ってくるから」
フランスさんはキッチンに引っ込む。室長と僕が来た時間はランチには少し早い時間だったのだけれど、正午を過ぎた頃から常連さんと思わしき老人や、学生さんが入って来る。あっと言う間にランチの限定数をオーバーし品切れになってしまった。それを知った何人かのお客さんは「お茶の時間にまた来るよと」残念そうに店を後にして行った。
「…む。今日のは美味いな」
気難しげな老人がオムライスをスプーンで掬い、感心したように言葉を漏らす。それにプロイセンさんがにかりと笑みを返す。
「今日は料理が趣味のフランス人が作ってるからな」
「ほう。そのフランス人をコックに雇うことにしたのかね?」
「今日は偶々。明日からは俺の作った飯だよ。爺さん」
「それは残念だ。まあ、お前さんの作る飯も不味くはないし、懐かしい味がするがね」
老人はオムライスを平らげ、コーヒーをもう一杯注文し、プロイセンさんとの他愛のない応酬を交わし、会計を済ませると出て行った。
「あのお爺さん、常連さんなんですね」
「あの爺さんはそこの角の骨董品屋の店主。気に入った奴にしか品物売らない偏屈爺だぞ。ま、その爺さんとこの店頭にあったあった時計がどうしても欲しくてよ。三年粘ってやっと買えたぜ」
くいとプロイセンさんが指差した先には柱時計。随分と年季が入った代物らしく真鍮の振り子が飴色に鈍く光っている。その時計の針はもう直ぐ1時を示そうとしていた。
「室長、そろそろ戻らないと」
「そうだな。フランス、ついでだ。乗っていくか?」
「そうだね。ちょっと話しときたいこともあるしね」
支払いをしようとすれば、室長に「俺が払うから」と遮られる。それにプロイセンさんが、
「今日は俺のおごりだ。また来いよ」
と、室長を遮った。
「有難うございます。でもいいんですか?」
「いいって。また遊びに来いよ」
カウンターからひらひらとプロイセンさん手を振る。室長が先に出ていてくれと言うので、フランスさんと先に店を出た。
「室長のお兄さんだから、凄い厳格なひとなんだろうって思ってたんですけど、気さくなひとですね」
「まあ、昔に比べると大分、プロイセンもドイツも丸くなったよねぇ」
「そうなんですか?」
「そう。まあ、平和っていいことだよね」
そう言いつつ、何気に尻を撫でられ、思わず「ぎゃっ」と声を上げてしまった。僕がセクハラされたところを出てきた室長は目撃したらしく、目を吊り上げた。
「俺の部下に手を出すな!この変態が!!」
「ちょっとしたお兄さん流の挨拶じゃない!」
室長の剣幕に逃げるフランスさんを鬼の形相で追いかける室長を僕はぽかんと見送る。…午後はとてつもなくハードワークになりそうだ。僕は溜息を吐くと、室長の後を慌てて追いかけた。
 
 
 





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