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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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28 . December


初めて書いた東西。
人名使用。






拍手[19回]




 
 
 
 西と東を隔てていた壁が壊れて、二十年。
 
 隔てられていた長い分断の時間の半分が過ぎ去った。問題も未だに山積みで、西と東を隔てる見えない壁は消えた訳ではない。
  今日のこの日を、二十年前のあの日のように歓喜に肩を抱き、壁が壊れたことを喜んだことが嘘のように思う。全てを飲み込むような興奮は既に冷たく冷めて、壁を懐かしむ人々がいる。

壁があった方が、マシだった、と。

二十年が経つというのに、東側は一向に楽にならない。貧しいままだ。再統一して、何が良くなった?悪化しただけじゃないか…。

燻る不満、後ろ向きの郷愁。

だから、俺はいつまでたっても不確かなまま存在し続けのか…。
 
 
 
 


薄く煙るような雨。

ブランデンブルグ門広場の前は式典の準備で閉鎖されている。
 夕方には大規模な壁崩壊二十周年を祝う式典が執り行われる。
門を遠目にフードを被り襟元を寄せたギルベルトは目を眇めた。

(…喜べねぇよ…)

再統一…それが、悲願だった。長い冬の檻に囚われ、思い描き続けてきた夢。それが叶えば、消えてすらいいと思っていた。
(…なのにこの有様だ…)
身体は弱り、再統一後、暫くは歩くことすら出来なかった。負担は弟にも重く圧し掛かった筈だ。でも弟は苦しいとも辛いとも一言も言わず、俺を責めずに労わってくれた。

最愛の弟と、また一緒に暮らす。

そんな些細な願いをほんの僅かな時間許されるならば。…いや、いっそ崩壊した壁の上で抱き合った瞬間に消えてしまえれば、幸福なままでいられただろうと…この日が来るたびに思う。そうすれば、この無力さから何も出来ないもどかしさに足掻くこともなくいられたのに…と。

願って、叶って……それで、俺が弟に与えたものは何だ?
負担と困難と、埋まらない溝だ。
 
 きつくいつの間にか握り締めた指先を解く。か細く肉の落ちた指先にあるのは過去の名残りだ。自分が経験し、培ってきたこと。自分を自分たらしめているもの。それも今は役には立たない。戦い奪いそれを与える…ことしか出来なかった手だ。その手で今の自分に何が出来る。何も出来やしない。それでも、自分は存在し、褪せていきながらも望み望まれもせずに存在している。

あの門の前に、壁があった。

その壁を作ったのは俺だ。そして、その壁を壊したのも俺だ。
 作り、壊して、また作られて…。いつになったら、あの時と同じように、一緒に喜び合える?見知らぬ者同士肩を抱いて、歓喜を分かち合える?

1、2、3、4、5…、
 壁を築き、有刺鉄線を張ったその先の空は責めるように青かった。

10、11、12、13、14、15…。
 そして、真夜中、冷えた空気の中、瓦礫になっていく壁に群がる人々の喧騒にあって聴こえた声、抱き寄せられた腕の強さも。流れた涙も。

16、17、18、19、
…そして、今、自分がここにいる瞬間も砂時計の砂のように降り積もり、全てを忘れて埋もれて、冷えていく。
 
 
 
「…兄さん」

くいっと控えめにパーカーの裾を引っ張られ、身体を濡らしていた雨が大きな黒い傘で遮られる。
ギルベルトは驚くこともなく小さく息を吐いて、目蓋を閉じた。
「…何でいるんだよ?」
「…朝、起きたら兄さんはもういなかった。…兄さんは毎年、この日になると朝早く、ここに来る」
「…お前は毎年、そうやって俺を探しにここに来るな」
最初の一年は具合が悪いのに何をやってるんだと怒鳴られた。二年目の年も同じように怒られた。…十年目、言葉もなく背中から抱きしめられた。それがずっと続いていた。
「…探しに来ないと、兄さんは帰って来ないような気がする」
ぎゅっと裾を掴む指先が引き止める。

…もう、20年だ…。
20年…俺は何も出来なかった。お前の足を引っ張ってきただけだ。

「…なぁ、ルッツ、俺はもう、お前に何もしてやれないし、与えてやれない。寧ろ、苦痛を与えてるだけだ」

だから、もう、引き止めるな。と、

喉の奥を突いて出かけた言葉は引き止めて欲しいと、相反する思いに遮られる。この自分を引き止める温かな指先を失いたくないと。
あの冬の時代に奪われた体温は戻ってくることはなく死人のように冷たい指先で、ギルベルトは温かなルートヴィッヒの指先を撫でる。
「…苦痛なんかじゃない。俺は本来なら最初から俺が負うべきものを負っているだけだ。だから、あなたが気に病むことなんてない。…あなたは俺に色んなことをしてくれたし、与えてくれた。今度は俺がそれをあなたに返す。あなたはいらないと必要ないと言うだろう。でも、俺は…」
小さく震える手。青は燻る空の色に滲む。唇を噛んで、俯く白い頬をギルベルトは見つめた。
「…そうすることでしか、…兄さんを引き止められない」
冷えた手を掴まれ、血の通った温かな手のひらの体温を奪う。奪うことでしか生きられない。昔も今も…。これからもずっと…。
「…そうか…」
言葉は雨に融ける。この雨が止み、見ない壁が崩れ落ちたとき、俺も必要とされなくなるだろう。そのときが来るまで、

…それまでは、

この繋がれた手を離さずにいられたらいいと。
 あの日と同じように自分を抱き寄せ、引き止める腕にギルベルトは目を閉じた。
 
 
 

おわり



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