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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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01 . November


一日送れですが、ハッピーハロウィン!

…で、親父にお出まし頂きました。いつもと若干、ノリが違います。







拍手[54回]



 
 今日は年に一度の万聖節。死者が下界に降りることを許される日とあって、天界は前日から大騒ぎだ。どこか浮き足立った者達の気に当てられたか、私も妙にそわそわと落ち着かず、下界を見ることが出来る泉を覗けば、天界と変わりなく下界もお祭り騒ぎにあって、魔女やらお化け、蝙蝠や吸血鬼、狼男といいった扮装を身を包んだ人々が街を行く。オレンジ色のかぼちゃを刳り貫き、目と鼻と口を穿ったランタンが玄関や店先を彩る。私がいた頃にはなかったイベントだが、プロイセンが喜んで飛びつきそうなイベントだ。最近、プロイセンが始めた喫茶店も同じで、店先には愛嬌のある顔をしたプロイセンに似た顔をしたウィル・オー・ザ・ウィスプがいくつか積み上げられ、笑っている。そのランタンの明かりに誘われ、久しぶりに間近でプロイセンの顔を見たくなった。
 
 今日は生者に死者が紛れて、菓子を強請っても許される日ならば、私がプロイセンにコーヒー一杯強請っても構わないだろう。
 
 そんな理由を作って、私は泉に身を投じた。
 
 
 
 
 
 
 随分と変わったベルリンの街へと着地する。幸いなことに街を行き交う人々は様々な扮装に身を包み闊歩しているので、私のことを取り立てて気に留める者はいない。王位に着く前の若い頃の暫し自由だった頃を思い出す。自由だったとは言っても、ひとり街中を歩くことなど出来なかったので、随分と新鮮に思えて、ついでにとあちらこちらを歩いて回る。
「…随分と変わったものだねぇ」
見覚えのある建物に混じり、見えるガラス張りのビル。馬車が行き交っていた車道には今は鉄の塊が走る。天上からこの国の移り変わりをずっと見続けて来たが、技術の発展は恐ろしいほどに凄まじい。
「…さて、時間も無いことだし、プロイセンの店に行こうか」
大通りから見慣れた小道へと入る。角を曲がれば直ぐそこにプロイセンが始めた喫茶店が見え、日が落ち、夜の帳が覆う路地を明るいオレンジ色の光が照らしている。私はほんの少しだけ緊張して、ドアノブに手を掛ける。…さて、プロイセンは、私を見て驚いてくれるだろうか。…ああ、そうだ。ちゃんとお決まりの文句を言ってやらねばなるまい。私はドアを開いた。
 
「…っと、悪い。今日はもう閉店…、」
 
カウベルの音にカウンターから顔を上げたプロイセンの赤が大きく見開かれ、そのまま固まってしまう。あんぐりと口を開け、こちらを見つめるプロイセンに私は口を開いた。
 
「Trick or treat!」
 
「ふぇ、ふあ?!」
間の抜けた声を漏らして、プロイセンは赤を何度も瞬かせ、頭を振り、目を擦る。そして、自分の頬を抓り、悲鳴を上げた。
「…げ、幻覚か?…ってか、お迎え?」
プロイセンは嬉しいのに困ったような器用な表情で私を見つめる。…私もプロイセンも現実主義者だ。まあ、信じられないのも無理はない。私だって、いつも眺めているこの場所に自分が居るのが不思議で仕方がないのだから。
「迎えに来たのではない。今日は万聖節だろう。生者に死者が混じっていてもおかしくあるまい。菓子を頂けなければ、悪戯をするが構わないかね?」
おどけつつ、脅しをかける。プロイセンは一瞬泣きそうな顔をして、ぐにゃりと笑った。
「菓子なら、俺の弟が拵えたかぼちゃのクーヘンがあるぜ!ちょっと待ってくれ。店、閉めてくる!」
カウンターを出てきたプロイセンがドアノブに下げた札を返して、また戻って来ると私に席を進め、棚を漁り、コーヒーを淹れ始めた。なんとも懐かしい香りがする。執務中に、飲みすぎだ何だかんだと文句を言いつつ、私にコーヒーを淹れてくれていたのはプロイセンだった。
「…おや、このカップは」
「お前が使ってたカップだぜ。形見分けに俺が貰ったんだけどよ。…もう使うこと無いって飾ってたんだけど…」
そのマイセンのカップはわざわざ、ドレスデンから無理を言って取り寄せたもので、縁を金で彩り、東洋から入ってきた白地にコバルトブルーの美しい装飾はマイセンの初期の意匠でその美しさに惹かれて求めたものだ。
「…お前の物持ちの良さには感心するな」
日常的に使うものはいずれは壊れてしまうものだ。長年使っていくうちに一つづつ壊れ、五客のうちの最後のカップとソーサーが今出されえているものだ。
「お前のだからな。…でもまぁ、ちょっと取っ手んとこ罅、入ちまったから知り合いに頼んで直してもらったけどな」
取っ手をよく見れば金で接いであった。
「私が使っていたときに少し入っていたんだが、直してくれたのか」
「…うん」
子どものようにプロイセンが笑う。こんなものまで大事に取っておいてくれたのかと…、まだ、私を慕っていてくれるのかと思うと嬉しい。コーヒーの香りを嗅ぐとサンスーシでの日々が脳裏に浮かぶ。
「…懐かしい香りだ」
「あの頃、お前が飲んでいたものより、豆は上等だぜ。お前、コーヒー大好きだったもんな。…あ、でも唐辛子は入れろって言っても入れてやらないからな!」
「そんなことは言わんよ。寝る間を惜しむほど多忙ではないからな。…あぁ、良い香りだ。…お前の味がするな。美味い」
「…ケセセ!」
褒めてやれば照れたようにプロイセンが笑う。執務室でのやりとりが昨日のことのように思い出される。私がこの世界を去り、随分と時は流れ、交わることが出来なくなったと言うのに、プロイセンと向かい合い、共に居た頃とは何一つ変わらず同じ時間が、ここに流れていた。
「これ、俺の弟が作ったんだ。食べてくれよ」
プロイセンが差し出して来た皿にはオレンジの鮮やかなパウンドケーキ。プロイセンが全ての愛情を持ってその身を捧げた弟君の趣味は立派な体躯に似つかわしくない菓子作りだと私は知っている。その弟君の作ったケーキを頬張り、幸せそうに笑うプロイセンを見る度に、見ている私も幸せになれるのだ。
「どうだ?」
一口、運んで咀嚼する。伺うように眉を下げて訊いてくるプロイセンに私は笑みを返した。
「とても、美味しいよ。良い弟を持てたな」
「だろ!俺なんかにはもったいないくらい良く出来た弟なんだぜ!」
自慢げに胸を張り、プロイセンは相好を崩すと、ふっと息を吐いた。
「…何か、本当にさ、毎日が幸せで…、時々、怖くなる」
「幸せだと言うのに、怖いとはおかしなことを言う」
「親父も知ってるだろうけどさ、俺、戦うことばっかりしてきたんだぜ?…なのに今は、剣の変わりにコーヒーポット手にしてさ…、どっかで寝ている俺が見ている夢なんじゃねぇかって思う」
「夢なものか。私は嬉しいがね。お前が剣を持たずに幸せに笑っていられるのだから」
剣を手にしつつ、献身し、生きて来た。そんな子を神様が見ていないはずがない。この幸せは与えられるべくして与えられたものなのだ。そう言いえば、プロイセンは顔を歪めて笑い、カウンターを出てきて、私の前に立った。
「…親父、」
「なんだね?」
問えば、プロイセンはじっと私を見つめた。
「…ぎゅってして欲しい」
今まで、そんなことをプロイセンから言われたことはなかった。
「…嫌なら、いい」
思わぬ言葉に驚いていると、恥ずかしいことを口にしたと思ったのか、プロイセンが俯く。
「嫌なものか。ほら、おいで」
腕を広げてやれば、恐る恐る抱きついてくる。幾分、衰え、薄くなった背中を抱き締め、撫でてやるとほっとしたようにプロイセンは力を抜いた。
「…随分と甘えたになったものだ。出来れば、私が生きているときに甘えて欲しかったのだがね」
「…出来るかよ」
拗ねたような言葉が返ってくる。生前は触れることの少なかった髪を梳いて撫でてやれば、プロイセンは赤を細め、胸に懐いた。…暫く、そうしていただろうか。プロイセンが突然、何かを思いついたように顔を上げ、赤を輝かせた。
「親父!」
「なんだね、プロイセン?」
 
「トリック・オア・トリート!」
 
ニヤニヤと言うべきか、プロイセンは悪いことを企んでいる顔をしている。…思い付きのまま、着の身着のままで来てしまった為に菓子など持ち合わせているはずも無い。困ったなと視線を彷徨わせれば、銀色に光るフルートが目に留まった。
「生憎と菓子は持ち合わせがなくてな。菓子の代わりにお前の好きだった曲を吹こう」
「あの曲が良い!」
カウンターに戻り、棚からフルートを取り出し、戻ってきたプロイセンがきれいに磨かれたフルートを差し出す。これも生前、私が愛用していたものだ。私の知る限り、プロイセンは音楽には疎く、興味も無かった。でも、私がフルートを奏でるときは必ず傍にいて耳を傾けていた。…いつの間にか寝ていることも多かったのだが…。
「では、お前の好きだった曲を」
フルートを構える。プロイセンはカウンターの椅子に腰を下ろし、目を閉じる。ふっと息を吹き込めば、共に過ごした日々が走馬灯のように甦った。…何とも、充実し懐かしい日々。お前のことだけを想い、お前の為にすべてを捧げ、生きた。…私はとても、幸せだった。隣にお前がいたのだから。私はお前の良い友であり、父でいられただろうか?
 
「…幸せにおなり。私はずっとお前を見守っているよ」
 
死者に許された遊びの時間が終わる。最後にと頭を撫でてやれば、プロイセンはくしゃりと顔を歪めて笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…兄さん、兄さん!」
 
 
「ふお?!」
「携帯に連絡を入れても出ないと思ったら、寝てたのか。もうパーティーは始まってるぞ」
「え?、あ、悪い。全然、気が付かなかった…」
ドイツに揺り起こされ、プロイセンは目を開いた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。顔を上げれば、カウンターのテーブルに空になったケーキ皿とマイセンのカップとフルート。プロイセンは赤を瞬いた。
「…夢じゃ、なかったのか…?」
視線を上げれば棚の上に飾られた肖像画の王はいつものようにやさしい笑みをプロイセンへと返す。
「兄さん、何を寝ぼけてるんだ?…まったく、こんな薄着で転寝なんてしないでくれ。風邪を引くだろう。衣装の準備は出来ているのか?…皆、待ってる。早く、行こう」
ドイツに急かされ、プロイセンは重い腰を上げ、もう一度、王の肖像画を見つめた。
 
 
「…ありがとな。また、来てくれよな!…待ってる」
 
 
 
 
 
 
『…ああ、またお前の淹れたコーヒーを飲みに来るよ』
 
やさしい声が聞こえたような気がした。
 
 
 





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