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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
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12 . November


160000hit キリバン 蔦吉様リクエスト

「「ひとつに―」ではプロイセンを羨ましく思っているアメリカも可愛いので、続編か番外」と頂き、ひとつに~の番外のアメリカとヘルマンの話なんですが、視点を変えた統一をアメリカ視点でと思ったら、思わぬ長さになって来たため、、前編という形でぶつ切りです。後編は今月中には更新したい。

…蔦吉様、メール、有難うございます。完結まで暫し、お時間頂ければ幸いです。


前・後編では終わらない長さになって来たため、ノンブルに変更しました。申し訳!!(11/18)








拍手[19回]



 
「ミスター、お暇を頂けないでしょうか?」
 
彼の故郷が統一を果たし、東西に裂かれた兄弟がぎこちないながらも寄り添うように共に歩き始めた十年目の春。首都ワシントンD.C.のポトマック河畔の桜の蕾が色づき、綻び始めた四月。いつものようにアメリカは執務室に入り、露天で買い求めたホットドックを頬張りながら、どかりと椅子に腰を下ろす。椅子が小さく軋むのと同時にカフェオレを淹れたカップが机に置かれる。これが毎日のこととなって半世紀が過ぎようとしていた。
「…駄目なんだぞ」
大戦終結から、五十四年。青年だった彼を傍に置くようになって、五十年もの時が過ぎた。出会った頃。まだ二十歳を過ぎたばかりだった青年は時間の経過と共に老いて行く。白髪が多くなった栗毛色の髪、皺の増えた目元。老いた彼はアメリカの言葉に困ったように目を細め、何事もなかったかのように今日のスケジュールを読み上げる。
 アメリカと言う国に定年と言う言葉は存在しない。定年とは本人が決めるものだ。七十を過ぎ、体の衰えを気につつ、ヘルマンは乞われるままにアメリカの元で事務官として勤めてきた。だが、彼の故郷である東西ドイツが統一し、五年が過ぎた辺りから、頻りに暇を願うようになった。それをアメリカは許さず、無碍に却下し続けている。桜の蕾が色づき、綻びる数日の間、毎日のように繰り返される遣り取り。心躍る春だと言うのに、妙に落ち着かず、苛々とする。駄目だと言えば、彼はそれ以上は何も言わず引き下がる。それにほっとしつつ、飲みなれたカフェオレを啜り、スケジュールを確認する。アメリカは執務室から見える河畔に視線を投げた。淡いピンクが煙る雨に霞んで見えた。
「…マリアは元気かい?」
アメリカは窓の外をを見つめながら、ヘルマンへと訊ねる。書類を捲る指先を止め、ヘルマンはアメリカを見やった。
「元気にしておりますよ。…孫の顔を近々、見せに来ると言っておりました」
「そうかい。…早いよね。俺の腰ぐらいもなかったのに、あっという間に大きくなってさ…」
生まれた頃より知るヘルマンの娘は旧東ドイツで知り合ったという男性と結婚し、今は統一したドイツに居を構えていた。
「子どもの成長は早いものですよ。ミスター」
「…本当にね。…皆、俺を置いていってしまう」
同じ時間軸を生きることなど出来ない。頭では解っていても、寂しいし、切ない。それをふとした瞬間に感じるたびに、孤独を感じる。それはずっと抱えてきた孤独で、アメリカはずっとその感情を押さえ込んで、気付かない知らないフリをしてきた。それを知るのが怖くて、一線を引いて、人と接して来た。悲しい、辛いと言った感情は気を滅入らせる。自分には必要ない。だって、自分はヒーローなのだ。マイナスな感情はヒーローには必要ない。
「…置いていく方も辛いものですよ」
呟くように返された言葉にアメリカは視線を返し、ヘルマンを見やる。ヘルマンは穏やかな微笑を浮かべ、書類を整え、ブリーフケースに仕舞うとアメリカを促した。
「そろそろ、議事場へ移動の時間です。御支度を」
「…解ったよ」
アメリカは重い腰を上げた。
 
 
 
 
 車での移動。ホワイトハウスから連邦議事場までは直線距離だが、わざと車を迂回させ、ポトマック公園沿いを通る。桜の花が咲くと心が弾みますと笑んだのは年齢不詳のアジアの友人だった。花の美しさなど普段、気に留めることもないアメリカだがこの季節、ホワイトハウスからも望むことの出来る河畔に沿ってピンク色の帯を作る光景は感嘆せざる得ないほど美しい光景だった。この桜が植えられたのは100年は前になるか。この花を日本で見初めた博士が自国へと持ち込んだのが始まりだった。
 公園にはこの時期に合わせ、見物客目当てに露店が並ぶ。それを冷やかして歩く。桜の木の下で頬張るアイスクリームやホットドックは格別で、よく仕事を抜け出してはヘルマンに見つかり溜息と共に小言を食らった。彼の娘がまだ小さかった頃、よく連れ出してはこの公園で一緒に遊んだことを思い出す。
 そんな小さかった彼女は今はここにはいない。アメリカは自分の手のひらを見やる。この手はかつて大好きだったひとの、最後には突き放すように、本当はずっとその手を握っていたかったひとの手を振り払って以来、ずっとぽっかりと空いたままでいる。その手をひと時の間、握っていてくれたのは温かくやわらかい小さな手だった。この手にあった小さな手はアメリカの知らぬ別なひとの手を今は握っている。
「…俺と結婚するんだって、言ってたのにな」
緩くウエーブを描いた栗毛色の髪がふわふわと風に揺れて、その髪に桜の花びらが絡ませ、上機嫌ににこにこと笑い、アメリカの手を掴んだ小さな彼女の口癖は「大きくなったら、アルのお嫁さんになるの!」だった。それを本気にしていた訳ではないし、親や兄弟の存在しない自分にとって、彼女の存在は「妹」のような存在だった。そして、大事な国民だった。そんな彼女の成長を間近に目にしていくのはとても新鮮で、アメリカは彼女に対して兄のように接していた。
 
「…東ドイツに行きたいの」
 
相談に乗って欲しいと彼女が電話をしてきたのは、1987年の春のことだった。会って話そうかと、オフィスから近いポトマック河畔の公園で、そう言葉を切り出したのは彼女だった。桜の花びらが風に吹かれ、ふわふわと彼女の髪に絡むのをアメリカは見ていた。
「…唐突だね。どうして?」
ドイツ民主共和国との間に正式な国交はない。西側であるドイツ連邦共和国とアメリカは協力関係にあったが、冷戦状態にあるソ連側と協力関係にある東ドイツはアメリカにとってはソ連同様、仮想敵国に認識されていた。
「…父の祖国を一度、見ておきたくて」
「…それだけ?」
その言葉にそう返せば、マリアはそっと視線を伏せた。
「…アルは父の手帳の写真を見たことがある?」
「家族写真なら、あるんだぞ」
クリスマスに彼は来年の手帳を購入し、その日には必ず家族写真を撮った。その写真が新しい手帳に挟まれる。毎年、その家族写真をアメリカは見てきた。
「…もう一枚、父はその手帳に写真を挟んでるの。…士官学校時代に撮った写真だと言っていたわ」
「誰と撮ったものなんだい?」
両親か、友人と撮ったものなのだろうとアメリカは思った。
「…大事なひとで、故郷だって…」
マリアの言葉にアメリカは沈黙する。彼が祖国に居た頃より、長く、彼は自分の国にいると言うのに、想う故郷は未だに彼の地だと言うのか。帰ることの許されぬ、人々の心は離れ、自由を求めて逃げる者の絶えない、冷たい壁と拒むように張り巡らされた有刺鉄線で自衛する国を。
「…まだ、彼を想ってるんだ…」
アメリカはぽつりと呟く。
 
 古ぼけた小さな礼拝堂で会った青年に国としての終わりを告げたのは自分だった。青年は潔かった。逃げ道はあったのに逃げもせず、言い訳もなかった。青年の弟が犯した過ちの半分を引き受け、冬の監獄へと連れて行かれた。「行かないで」と、泣き叫ぶ弟を一度も振り返ることなく、痛んだ姿を見せまいとする様に背筋を張って、ロシアに連れて行かれた。
「…アイツは本当に馬鹿だ。そんなに可愛いのかよ。弟が…」
ドイツの慟哭ばかりが残された部屋に響く。子どものように声を上げ、泣き叫ぶドイツを見やり、複雑な顔をしてイギリスがぽつりと呟いた。イギリスの言葉が、あのときのドイツの姿がアメリカの中で飽和する。後にも先にも、ドイツが狂ったように泣き叫び、人目を気にすることもなく子どものように泣きじゃくるのを見たのはあれが最初で最後だった。アメリカにはドイツの気持ちが解らなかった。兄弟とは名ばかり、実際には血の繋がりなど無いに等しい。養い親の手を振り払うように独立した自分には。…ドイツはプロイセンを必要としていた。アメリカはイギリスを必要としていなかった。…そう言うことなのだろう。心に僅かに残ったもやもやを、アメリカはそう思うことで納得させた。
 
「…父が居た国は当の昔に瓦解して、存在しない国だって知ってるわ。東ドイツが父の故郷ではないことも解ってる」
 
そうだ。プロイセンと言う国はこの世界には存在しない。歴史書に名はあっても、今の地図にその名を探すことさえ出来やしない。彼もそれを知っているはずだ。東ドイツは「東ドイツ」と言う「プロイセン」とはまったく違う国だ。
 
「父が言う「祖国」は「国」ではなくて、「プロイセン」と言う青年なのだと思う。私は、その青年に会ってみたい」
 
「プロイセン」…初めて会った彼の印象は、今でも鮮烈だ。初夏の日の差し込む礼拝堂のステンドグラスの明かりに染まっていた。国である者にしか解らない終端を思わせる褪せた、甘美で切なくなるような匂いがした。それでも、自分を振り返った赤い目は自分が出来ることを為そうという強い意思を持っていた。
 ドイツの「兄」に興味があった。ドイツと自分は似ていると思っていた。年が近く、同じように「兄」がいた。でも、立場はまったく違っていた。プロイセンもイギリスも慈しむように「弟」を育てた。イギリスはいつまでも「弟」を自分の庇護下に置こうとした。プロイセンは自分の居場所を「弟」に譲り、独立させた。
 
 何が違ったのか?
 
庇護下にあるのを良しとせず、手を振り払い、大好きだったひとを裏切るような形で自分は独立し、庇護下にあって、安穏と争うことも無く、兄から居場所を譲られたドイツと自分は何が違ったのだろう?…もし、イギリスがプロイセンと同じように独立させてくれたなら、イギリスとの間に今も残る歪みはきっとなかった。
 プロイセンはドイツを愛していないと言った。ずっと慕い愛した王の御許に召されることが望みだったと。…国は簡単には死ぬことは出来ない。なら、新しい国が自分を淘汰してくれるならば、望みは叶うのではないか。…ただ、それだけの思いつきで、ドイツを拾い育てたのだと。…でも、それが愛でなければ何だと言うのだろう。…ロシアと共に去っていたプロイセンを見送り、慟哭するドイツを悲しげに見つめ、ポツリと呟いたフランスの言葉が今も耳に残る。
 
『…弟の為に生きることを選んだのか。本当にお前は慈愛の塊だよ。…楽になるチャンスを捨ててさ…』
 
プロイセンは、プロイセンがあの日見上げていたステンドグラスの瀕死にあったイエスを抱いたマリアだった。マリアを見上げるプロイセンの赤はあの日の緑に重なって見えた。
 
「…東ドイツは経済が混乱して、情報規制が徹底していて、情報が入ってこない。…市民レベルでシュタージが浸透して、市民が市民の密告によって検挙されているらしい。ベルリンの壁では西に逃れようとした市民が警備兵に銃殺される…そんなところに行く気かい?」
 
楽になるチャンスを捨て、弟の為に生きる選択をした彼は望まない、用意された交わることの出来ない道を歩き出した。用意されたその道には彼の過去も栄光も積み重ねてきた歴史も何も無い、誰よりも慈しんで育てて来た「ドイツ」を「ドイツ連邦共和国」を拒否し否定する、「プロイセン」ではなく「ドイツ民主共和国」として。
 
「…酷い状態にあるのは理解してる。外国人は歓迎されないことも承知よ」
「なのに、どうして?」
「…会えるかどうかもわからないけれど、父が慕うひとの国の空気を肌で感じたい。…私は見てみたい。…父の祖国は戦犯国で、酷いことを隣国にしてきた。それから目を逸らすつもりはないわ。…でも、それは戦勝国から見た見方にしか過ぎないと思う。…私は戦争を知らない。写真や映像でそれを見て、「可哀想」と思うことは出来ても共感できない。…私はドイツ人じゃない。アメリカ人だ。アメリカと言う視点からしか世界を見ることが出来ない。私は父の、父の祖国の視点で一度、世界を見てみたい」
 
彼女のアメリカを見つめる視線は痛いほどで、彼女の決意が固いことを語っていた。そして、彼女は母親の反対を押し切り、次の年に東ドイツへと留学した。
 
 彼女が鎖された国へと渡って、一年が過ぎ、霜が降り始めた晩秋。東と西に兄弟を隔てていた壁が崩壊した。
 
 今世紀中には無くならないだろうと、誰もが思っていたひとつの国をふたつに分けていた壁が。
 
衝撃的な出来事はニュースとなって、テレビはその歴史的なニュースを伝えようと壁に鶴嘴が打ち込まれる光景を、壁の上で東西の市民たちが抱き合って喜ぶ姿が映像となって世界中を駆け巡った。
 
 その出来事から間もなく、ソ連が崩壊。
 冷戦が終結し、その象徴とも言える式典にアメリカは招かれた。
 
 東ドイツの地域を州として、西ドイツが吸収する形で、ドイツは統一を果たし、ひとつになった「ドイツ連邦共和国」として、兄弟は再び手を取り歩き始めた。誰もが祝福の言葉を送るその中でアメリカは憂鬱で仕方がなかった。
 
 
 統一した祖国に「帰りたい」と、彼が口にすることが。
 
 
帰ることは出来ないだろうと、半ば諦めてはいても、それでもと祈るように彼は願っていた。死ぬときは祖国の土に、出来ることならばあの青年に看取られて、眠りたいと。…アメリカは知っていた。でも、それを許したくなかった。
 
 国でもなく、上司でもなく、傍にいる一介の国民。ささやかな愚痴も、喜びも悲しみも、誰にも言えずにいたイギリスに対する想いを、自分の中に抱え込んだ矛盾を吐き出すことが出来るただひとりの友人を失いたくない。彼はもう自分の国民だ。
 
 国を捨ててて、ここに来たくせに今更、帰りたいなんて、虫が良すぎないかい?
 
いつも喉元を衝きそうになる酷い言葉をアメリカは飲み込む。ヒーローなら笑って、
 
 良かったね。たまにはこっちにも顔を見せてくれよ!
 
と、言うべきなのだ。でも、それが出来ずにいる。アメリカは顔を歪める。雨に濡れた車窓に映る自分の顔は見っとも無い程、歪んで見えた。
 
 
 
 
 





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