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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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18 . November



…書けば書くほど、長くなっていくなんてこんなことは初めてだ。と思いつつ、続き。
完結してなくて申し訳ない。後、1~2話続きそうです。

イギリスが今回、かなり出張っております。

以前、どこかでも書きましたが、イギリスがヘルマンのことを「ハーマン」と呼んでますが、Hermann(独語綴り)をHerman(英語綴り)で、英読みしてるからです。









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 今日も雨が降っている。ジャケットの肩が濡れる。また、彼の口からあの言葉を訊くのが憂鬱で仕方がない。桜が咲けば、彼はあの言葉を言わなくなる。なら、早く咲けばいい。そうすれば、元通りになる。
 
「お早うございます」
「…おはよ」
「ジャケットを預かります」
 
オフィスのドアを開けば、毎日、早く出勤し仕事を始めているヘルマンが書類を仕分ける手を留め、アメリカの濡れたジャケットを受け取った。ジャケットの雫を拭い、型を整え、ハンガーに掛ける。彼はアメリカの仕事がしやすいようにと細やかな気遣いを持って、すべてを整える。
 給湯室に入っていたヘルマンを見送り、アメリカはデスクに置かれた新聞を広げ、記事に目を通す。取り敢えず今日の記事に目を引くようなものはない。ばさりと大きな音を立てて、アメリカは緊張を悟られないように新聞を捲る。その音に合わせるようにことりとカップが置かれた。
「…本日の予定ですが、午前中、午後とフリーになっていますが、目を通して頂きたい書類が溜まっていますので、決済をお願いします」
「…解った」
「では、秘書室に居りますので、御用の際はお呼びください」
一礼して、彼は部屋を出て行く。アメリカは緊張を解くと、ほっと息を吐いた。彼は何も言わなかった。
(…まだ、桜は満開になってない。見たら、五分咲きだった)
連日、降り続く雨の所為か、桜は綻ばない。それでも、あの言葉を訊かずに済んで、安堵している。言われたら今度こそ、傷つけるような冷淡な言葉しか出てこない気がする。その言葉を口にして、彼との間に今まで築いてきた信頼関係を、絆を失うことのほうが怖い。
 
 アメリカは外を見やる。雨はまだ止みそうになかった。
 
 
 
 
 
 
 
 雨は一向に止む気配を見せない。アメリカは憂鬱な気持ちで空を見上げ、オフィスへと急ぐ。ドアを開ければ、先に出勤していたヘルマンが変わりなくアメリカを出迎え、カフェオレを注いだカップを机に置いた。
「…本日の予定ですが、午前中はフリーになっていますが、午後からUKとの会談が入っています。会談前にサーから昼食を一緒にと打診を受けて、いくつかレストランをピックアップしてあります。予約もありますので、早めに決めていただければ助かります」
テーブルを滑るレポートにはイギリスが好みそうなレストランがいくつかピックアップされている。それにアメリカは視線をくれた。
「んー。任せるよ。…ってか、自分の作るものは壊滅的、しかも味音痴なクセに妙に舌が肥えてるんだよね、イギリスはさ」
「お隣がフランスですからね。よく、試作料理をフランスさんに試食させられるとサーは仰っていまいたが」
「そのフランスに敵いもしないクセに料理でも張り合ってんだから、始末に終えないんだぞ!」
アメリカは顔を上げた。そして、ヘルマンを見つめた。
「…では、こちらでレストランは手配しておきます。午前中はこちらの書類の決裁をお願いします。時間になりましたら、お声をお掛けします。秘書室におりますので、御用の際にはお呼びください」
いつもと変わらぬ穏やかな微笑を口元に浮かべ、一礼すると、ヘルマンは部屋を出て行く。それを見送り、アメリカは視線を窓の外へと投げる。
「…もう、いいのかい?」
今朝も桜の花がどれだけ開いたのか気になって見に行った。桜の花は昨日と変わらない開き具合だった。この雨で綻びるのを遅らせている。アメリカは真正面にあるドアを見つめる。
 
「…どうして、今日も何も言わないんだい?」
 
アメリカの問いかけは一人残された部屋に静かに落ちた。
 
 
 
 
 
 
 
 時間だと、執務室に呼びに来たのは数年前にアメリカの元へ配属になったエディだった。アメリカの机に詰まれた書類の山が嵩を減らしていないのを見て、眉を顰めたが深くは問わず、アメリカを促した。
「…ヘルは?」
「ヘルマンさんはカークランド卿を出迎えに空港まで同行しています。レストランまで送るよう私が指示を受けています」
「…そうかい。…お腹空いたんだぞ!イギリスの顔を見ながらの食事なんて、最悪だけど」
軽口を叩きながら、用意された車に乗り込む。アメリカは車窓の外に視線を投げる。
(…どうして、今日も言わなかったんだろう?…言い忘れた、なんてことは彼に限ってはないだろうし…)
あの言葉がなかった以外はいつも通りの日常。アメリカは眉を寄せる。でも、あの言葉を訊かずに済んで、ほっとしている自分もいる。
 レストランまでは数分ほどので到着し、ドアが開き、傘が差し向けられる。レストランの奥にある個室に案内されば、先に到着していたイギリスが足を組み、新聞を片手に紅茶を啜っていたが、アメリカに気付き顔を上げた。
「何かあったのか?」
カップを下ろし、新聞を畳んだイギリスがアメリカを見上げ、新緑を思わせる瞳を僅かに曇らせる。アメリカはそれに首を振った。
「君が来るって言うからさ、ここ最近、雨ばかり降って憂鬱なだけだよ。君、先に雨だけ寄越したんだろう?」
「な? てめぇ、ひとが心配してやってんのに!」
「別に心配して欲しいなんて、頼んでないんだぞ!」
アメリカの言葉に何かを堪えるようにイギリスは押し黙る。それを待っていたかのように給仕がメニュー表を持って来た。アメリカはそれに視線を落とした。
「俺は肉にするんだぞ。イギリスは?」
「俺も同じでいい。…食後に紅茶のお代わりを頼む」
「俺はコーヒー」
「かしこまりました」
給仕が下がり、ふたりになる。イギリスは溜息を一つ吐いた。
「…本当に何もないのか?」
真っ直ぐに見つめられ、アメリカは居心地悪く視線を逸らした。
「ないんだぞ」
「…そうは見えねぇけどな。…ハーマンのこととか」
核心をずばりといきなり衝かれて、アメリカは目を開いて、イギリスを見やる。イギリスはそれに先程の溜飲を下げたか、紅茶を一口、啜った。
「…当たりか」
イギリスは一言、そう言い、窓の外を見やる。窓の外はまだ雨が昨日と同じように煙るように降っていた。
「…彼、君に何か言ったのかい?」
イギリスとヘルマンは気が合うらしい。彼がプロイセンの元に居たときより顔を合わせ、彼がアメリカに渡り、アメリカの仕事を手伝うことになってから、今のように親しくなったようで、個人的にイギリスは「アーサー」としてヘルマンの自宅にこちらの用事が出来る度に訪ねているようだった。
「…何も」
「…本当に?」
「ハーマンは自分から自分のことは喋らない。お前が一番良く知ってるんじゃないのか?」
それにアメリカは押し黙る。そこに注文したメニューが運ばれてくる。イギリスはナプキンを広げた。
「…そうだけど。……訊きたくないんだよ。だから、訊かないんだ」
彼は何も語らない。訊かれれば、話すのかもしれない。でも、一番訊きたいことは怖くて訊けずにいる。訊いてしまえば、きっと、どれだけ駄々を捏ねても、我儘を言っても、決定事項になって覆らなくなる、そうなることが解っているなら、訊かないほうがマシだ。
「…訊きたくないから訊かないって、お子様かよ」
「煩いな。子ども扱いしないでくれるかい?」
解っているのだ。自分でも子ども染みていると。暇が欲しいという彼に「どうして?」と訊けばいい。でも、その答えを聞きたくないのだ。運ばれてきたステーキにナイフを入れる。口に運ぶも何だか酷く味気が無い。
「そういうとこが子どもだって言ってんだよ。大事に思ってるんだったら、訊いてやれ。あいつはお前に恩があると思ってる。お前が自分を必要とする限り、ここに留まると決めたそうだ」
同じようにナイフを入れたイギリスが言う。それにアメリカは手を留め、イギリスを見やった。
「…え?」
イギリスは息を吐いた。
「…口が滑ったな。ハーマンにお前には言うなって言われてたんだ。…今のは忘れろ」
「…忘れられる訳ないだろ…」
諦めたのか。だから、今日はもう口にしなかったのか…。
「…良かったじゃないか。お前の望んでいたことが叶って」
イギリスの言葉にアメリカは目を見開き、叩きつけるように手を付いた。テーブルが揺れ、水の入ったグラスが倒れ、クロスに染みが広がっていく。それを見やり、イギリスは倒れたグラスを戻すと、アメリカを見やった。
「ひとの生は短い。交わることがあってもいつかは必ず違えてしまう。…それは、解ってるよな?」
「…何が、言いたいんだい?」
アメリカはイギリスを睨む。
「お前の頭で考えろ。全部説明されなければ解らないほど、お前は馬鹿じゃないだろう?」
イギリスはテーブルの呼び鈴を手に取った。
 
 
 
 数時間前。
 
 ワシントン・ダレス国際空港に到着したイギリスを出迎えたのは、ヘルマンだった。イギリスの姿を認め、ヘルマンは会釈すると、イギリスの荷物を受け取った。
「お久しぶりです」
「おう。久しぶりだな。…ってか、老けたな」
「もう、七十を過ぎましたので。サーのほうは相変わらず、ご健勝のようで何よりです」
「お前、もうそんな年だったのか。七十は行ってないと思ったぜ」
「若く見られるのは嬉しいのですが、中は結構、ガタが来てるんですよ」
「何か、俺の友人みたいなこと言うな」
イギリスはアジアの小柄な友人の顔を思い浮かべた。
「そういや、この間、ドイツに行く用事があって行ったら、ドイツ側の同行者にマリアが居てびっくりしたぜ」
「あちらの外務省に次官として勤務しているようです」
「子どもの顔、ついでに見てきたぜ。お前に似てるな」
「そうですか?私は妻に似ていると思いましたが」
ロビーから駐車場まで移動する傍ら、他愛の無い会話に興じる。元は敵国の軍人。彼がプロイセンに終始従い、献身的に尽くしている姿を目にしてきた。プロイセンの身の振り方が暗黙の了解のうちに決まり、それが公になる前にはプロイセンの傍に常にいた彼の姿は無くなっていた。
 
「…付き添いは今日はいないのか?」
「…もう必要ないからな」
 
プロイセンからは簡潔な言葉が返って来ただけだったが、東側に同行させるのを忍びなく思って逃したのだろうとイギリスは思った。どこの国も自分に献身的に尽くしてくれる相手を無碍に扱えるものではない。プロイセンは青年を気に入っているようだったから、これからのことを思って余計に自分の傍から遠ざけたかったのだろう。
 その彼と再会したのは、アメリカでのことだった。彼は戦後、アメリカに亡命し、アメリカの秘書官として第二の人生を歩き始めていた。最初、それをイギリスは良くは思わなかった。祖国を捨て、元は敵国であるところで素知らぬ顔をしているなど、不快にしか思わない。アメリカにあれは敵国の軍人だった男だと言えば、アメリカは承知の上だと言う。
「プロイセンに彼のことを頼まれたんだ。彼が信頼している人間なら、俺の傍に置いても問題ないと思って」
「プロイセンに会う機会なんか、お前にはなかったはずだが」
「君たち、いや、主にロシアか。…俺に引き合わせたくないみたいだったから、彼を通じて、プロイセンに会わせてもらったんだよ」
「な?」
「プロイセンは自分の代わりに頼みごとを代行してくれる人材を探していたから、渡りに船だったよ。…彼にはずっと会ってみたかったしね」
「…プロイセンに何を頼まれた?何故、それを俺たちに言わなかった?」
「言う必要がなかったからだよ。彼の個人的な頼み事だったからね。先に言っとくけど、ヘルマンもプロイセンも俺が「アメリカ」だって言うことは、会うまで知らなかったよ」
アメリカは何でもないことのようにそう言い、手にしていたハンバーガーに齧り付く。それにイギリスは眉を寄せた。
「プロイセンの個人的な頼み事って何だよ?」
「彼から頼まれた事は三つ。フリードリヒ大王の棺の移動、ヘルマンの亡命の手助け、ドイツと仲良くしてやって欲しいってことだけだよ」
「…あいつ、そんなことを」
フリードリヒ大王は未だにプロイセンが慕い敬愛する上司だった。ベルリンの空襲が激しくなる間に棺は何者かの手によって移動され、デューリンゲンの岩塩坑に隠されたことは掴んではいたが、その後そこから運び出され、マーブルグのエリザベート教会、最終的には祖先の城であるヘッヒンゲンのホーエンツォレルン城にたどり着き、大王の棺は城の礼拝堂に安置されることになった。
「大王には俺も恩があるから喜んで協力させてもらったよ。ドイツのことは前から、年も近いし仲良く出来たらなって思ってた。ヘルマンのことは頼まれたのは亡命の手助けだけだったんだけど、一緒に居るうちに気に入ったから、傍においてる」
何でもないことのようにアメリカはそう言い、シェイクを啜る。気に入ったから、…そんな理由で事情のある人間をそばに置くなど何を考えてるんだ、東側のスパイかもしれないと説教をすれば、鼻で笑われ、干渉するなと言う。なら、せめて、自分が気をつけてやらねばと思い、部下を使って、ヘルマンの身辺を探らせたが、先に亡命していた母親は既にこの世を去り、妹とふたりで慎ましく暮らしていた。身寄りは妹のみで、身内は居らず、叩けば埃が出てくるようなところは何も無く、プロイセンに使えていたことを除けば、普通の市民だった。東側との繋がりは確認できなかった。
 アメリカを通じて、接するうちにアメリカが彼を信頼し、上司と部下以上の関係を越えて友人の「アルフレッド」として、自宅を訪ねるまでになっていることを知った。そして、気が付けば自分も国と他国民と言う枠を超えて彼と付き合うようになっていた。
 
 こういう人間がたまにいるのだ。
 
 信頼を置けば細やかな気遣いを持って、与えられた信頼に応えようと、自分の身を削って献身的に尽くそうとする。
 
「…ハワードに似てるのか…」
 
ハワードはかつて、自分がイタリアに捕らえられた時に手を尽くして、偶然居合わせたドイツから自分を逃してくれたイタリアに秘密裏に派遣されていたスパイだった。スパイと言うには随分と大らかで、抜けたところも多く、スパイとしての素養を疑ったりもしたが、ギスギスした当時の時勢と窮地にあっても失われない、祖国とどこまでも自分を慕い尽くしてくれる無償の信頼と彼の大らかさにイギリスは随分と救われたのだ。そんな彼とヘルマンは同じ雰囲気を持っていた。



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