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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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20 . November


次の話ぐらいで終わる…と思いたい。
続きです。









拍手[16回]



 
 
「…そういや、お前、国には帰らないのか?」
 
 
 
イギリスは車に乗り込み、口を開いた。ヘルマンは言葉に困ったように眉を寄せた。
「東西が統一して今年で十年だ。東西の格差は問題にはなっているが、元はひとつの国だ。上手くやっていくだろうし、マリアも向こうにはいるだろう?」
「…帰りません」
イギリスの言葉にぽつりとヘルマンは言葉を返した。
「…どうして?」
「…別れたあのひとと約束をしましたので、望郷の念に駆られますが、…私はこの国に、この国たるミスターに今まで助けられて生きて来た。…それを、最近まですっかり忘れていました。…事情はありましたが、私は結局、国を捨てて逃げてきた。なのに祖国が統一したから帰りたいなんて、私を快く受け入れ、仕事もまで斡旋してくれたミスターを裏切る行為じゃないですか。…今世紀中には、私が生きている間には叶わないと思っていたことが叶って、帰りたい思いで胸が一杯になった。暇を請うても、駄目だとしか言わないミスターを憎みさえした。…私は本当に恩知らずだ。…ミスターの気持ちなど何も考えていなかった。…私はもう、私の我儘でミスターが悲しむのを見たくはありません。…ミスターが私を必要としなくなる日が来るまで、ここを離れるつもりはありません」
淡々とした言葉には複雑な感情が見え隠れする。祖国で過ごした時を遙かに越えて、この地でヘルマンは生きて来た。プロイセンへ対する想いと、アメリカに対する想いは言葉に出来ないほどに複雑なのだろう。
「…見苦しいことを言い申し訳ありません。…このことは、ミスターには言わないでください。余計なことで悩ませたくありません」
「…解った」
アメリカはいい人間に巡り会えた。自分も。…イギリスは思う。…ひとと交わることはいつかそのひととの間に必ず別れが訪れる。それが嫌で一線を引いてきたこともあった。でもそれは、誰のためにもならないこと知った。自分が出会ってきた歴史に名前を残すことない彼らのことを覚えていて、思い出して懐かしむことが出来るのは自分だけなのだ。そしてその出会いが新しい出会いへと繋がって行く。
 
 
 
 
 
 食事をする気も失せたのか、アメリカは俯いたままだ。イギリスはすっかり冷えた皿を下げさせ、飲み物を持ってくるように給仕に頼むと、息を吐いた。
「…ひとと関わると、どいつもこいつも俺より早く老いるし、死ぬ。どうしてお前は老いない、お前は死なない、挙句の果てには化け物だ怪物だと謗られたこともある。逆に、一緒にいてやれなくてすまない、俺を置いていく事を許してくれって泣いた奴もいた。…最初はその気持ちが重くて辛くて、悲しいこともあったさ」
イギリスは言葉を切り、運ばれてきた紅茶に角砂糖を一つ投下した。
「…お前も知ってるだろうが、俺は兄貴連中には死ねと思われるほどに嫌われて、命を何度も狙われてきたからな。後、隣国の髭野郎とは年中、殺し合いだ。そんな中で、唯一、俺を必要とし、愛してくれたのは国民だったよ…。まあ、その国民に売られたこともあったけどな。でも、助けてくれたのも国民だった」
ゆらゆらと褐色に砂糖が溶けて滲む。それをースプーンで掻き回した。
「…話変わるけどな、プロイセンはよ、俺たちとはまったく成り立ちが違う。俺たちには初めから領土が会って、国民が居た。でも、あいつはさ、元は遠征で傷ついた兵士達を収容する病院だったんだよ」
「…プロイセンから訊いた。自分は国じゃなかった、て」
「…そうか。…十字軍遠征はお前には解らないだろうが、失敗してな。引き上げることになった。役目を失ったプロイセンはそこに取り残されたんだ。それを見かねて、神聖ローマって国があいつを拾った。…ドイツ騎士団、プロイセン公国、プロイセン王国…、色んな人間の力を借りて国家と言う形になった。…成り立ちは違うけど、お前とプロイセンは似てる」
「…どこが?」
「どちらも人の力を借りて、国になったところが。キリスト教の縛りの強い欧州では、異教徒は忌み嫌われた。それを移民として受け入れ、大きくなったのがプロイセンだ。お前も同じだろう?」
アメリカと言う国は移民によって支えられている。移民が作ったと言っても言い。そして、ふたつの国家は対照的な歩みを見せた。プロイセンは自らが造り上げた帝国に人心を奪われ衰退し、アメリカは人心を一つの旗の下に纏め上げ、イギリスから独立し、圧しも圧されもせぬ超大国へと登りつめた。
「だからか、あいつは国民を大事にしてたよ。プロイセンは過去二度、窮地に陥ったが、それを救ったのは大王だったり、ルイーゼ王妃だったり、大王や王妃に感銘を受けた国民があいつを救った」
「…そうなんだ。だから、俺みたいな若造にも簡単に頭が下げられたんだ…」
アメリカはポツリと呟くようにそう言い、顔を上げた。
「…俺さ、本当に嬉しかったんだよ。壁が壊れたこと。ドイツはずっとプロイセンが帰ってくるの待ってたし…、俺はそれを見てきたから。…上司は何か色々思うことがとあったみたいだけど。…それから、一年で統一して。…本当にドイツはプロイセンを必要としてたんだなって。…五年経った頃だったかな。ヘルが暇が欲しいって、俺に言ったんだ」
「…それで?」
「俺は駄目だって、即答してた。ただ、仕事を辞めたいって言うんだったら、了承してたと思う。でも、彼の暇が欲しいはさ、ドイツに帰りたいって意味だった。…今更、何でって。半世紀も俺と一緒に、俺の国にいるのにどうしてって思った」
アメリカはイギリスに促されるがまま、言葉を吐き出した。
「…春、ポトマック河畔の桜が蕾から満開になるまでの数日間、彼は毎年、俺に請うてきたけど、…まだ、桜は満開になってないのに、昨日から何も言わなくなったんだ…。…それはさ、諦めたってことなのかな?…違うよね。…だって、ヘルは未だにプロイセンと一緒に撮った写真を大事にしてるんだ。…ねぇ、イギリス、俺、本当は笑って、良かったねって、彼をドイツに帰してあげたい。でも、国を捨ててきたくせに、今更、帰りたいなんて虫が良すぎるだろって酷いことも思う。…彼の為を思うなら、プロイセンの元に帰してやるべきだって思う。でも、俺、彼が好きだから最期まで一緒にいたいんだよ…」
ぐすっとアメリカは鼻を啜り、潤んだ目尻を擦る。…知らない間に子どもだとばかり思っていたアメリカは成長している。昔だったら、駄々を捏ねて自分の思い通りに捩じ伏せて来ただろう。
「…ゆっくり、お前がどうしたいのか考えればいい。ハーマンはお前のことをプロイセンと同じ以上に大切に思ってくれてる。…じゃなければ、お前に確認なんか取らずに、さっさと上に辞表出して帰ってるはずだろう?」
「…そうかな?」
「一度、ちゃんと話してみろよ。…ああ、でも、お前、人の話訊かないもんな?」
「訊かなくてもいいから、訊いてないだけだよ!」
「お前な…」
呆れた顔でイギリスはアメリカを睨む。睨まれたアメリカは晴れやかな顔で笑った。
「君のお陰で何か、すっきりしたよ。ありがとう」
「…どういたしまして」
珍しく素直なアメリカの言葉に、イギリスは恥ずかしくなって顔を赤らめると視線を背けた。
 
 
 
 
 午後から場所を移して行われた会談は、いつもならアメリカのごり押しに、ブチ切れたイギリスが罵声を発し、険悪なまま雰囲気の中行われるのだが、珍しくアメリカが譲歩を見せ、穏やかなうちに終了した。会談の予定が予想以上に短縮されたイギリスは夜のうちに帰国すべく、空港にいた。
 
「お疲れ様でした。今回は混乱も無く、無事に終わりほっといたしました」
「だな。…アメリカがいつもああだといいんだけどな」
「…そうですね。でも、そうなるとミスターではないですから」
「はは、違い無いな」
イギリスは笑うと、ヘルマンから鞄を受け取った。
「…アメリカ、お前といて、いい顔するようになった。…俺には教えてやれなかったことをお前がアメリカに教えてるんだと思う」
「私がミスターに教えることなどありませんよ」
「あるさ。それはな、国じゃ教えてやれない。ひとが国に教えるものなんだ。…アメリカはさ、悲しいのも怖いのも辛いのも大嫌いだからな。いつもどこか、一線引いてるようなところがあったが、お前に対してはそれがないみたいだ」
「…そんなこと…」
「アメリカはな、同じ人間をずっと傍には置いてこなかった。何でだと思う?…一緒にいれば情が湧く。情が湧けば、最期を見るのが辛くなる。どうやったて、先に人間は俺たちより早く死ぬからな」
イギリスは言葉を切った。
「お前が好きだから、アメリカはずっと一緒にいたいと思ってる」
ヘルマンはその言葉に顔を歪めた。
「…お前もアメリカが好きだから、迷ってるんだろ?…恩義があるとかは抜きにして」
「…はい」
頷いたヘルマンにイギリスはふーっと息を吐いた。
「でも、プロイセンのことも忘れられない」
「…私は、我儘ですね」
「そんなことはねぇよ。……言おうか言うまいか迷ってたんだが、言っとくか」
イギリスは居住まいを正すと、ヘルマンを見つめた。
 
「…お前との約束は、お前を生かすための言葉だった。…だから、果たさなくてもいい。でも、もし、まだ約束を覚えているのなら、待ってる。…って、よ」
 
その言葉が誰の言葉なのか言わずとも、解る。ヘルマンは目を見開き、イギリスを見つめた。
「…あのひとは、この世界に存在しているのですか?」
「ああ、存在してるぞ。くたばりそうにないな、アレは。ドイツが同化することを望まなかったみたいだ。…統一式典後ぶっ倒れるのを目の前で見たし、その後、ぱったりと表に姿を見せないわ、ドイツがプロイセンのことを何も言わないわで、消失したんじゃないかって欧州の連中も思ってたんだが、ドイツのただの過保護だった。人騒がせだよな。今は体調も悪くないらしくて、ドイツの仕事を手伝ってるぜ。…お前、マリアからは何も訊いてなかったのか?」
「…何も。…訊けば良かったのですが、怖くて訊くことが出来なかったんです。壁の崩壊後から、あのひとの安否を知ることが、私は一番、怖かった」
「…そうか。…プロイセン、アメリカからもらったとか言うお前の娘と家族写真、大事に持ってたぞ」
「…え?」
「国際連盟に加盟申請に来てたとき、アメリカがこっそり、プロイセンに渡したらしい。…ったく、接触がバレたら一悶着どころじゃ済まなかったってのにな」
イギリスは肩を竦めた。
「…ミスターに写真が欲しいと言われ、渡したことがあります。…こんなものをどうしてと不思議に思ってましたけど、そんなことを…」
「お前がプロイセンのことを案じているのを知っていたから、自分に出来ることをしてやろうって思ったんだろうな」
「…本当に、ミスターはこんな私に良くしてくださる…」
イギリスの言葉を詰まらせたヘルマンの目尻に光るものが見えた。それに気づかないフリをして、イギリスは視線を逸らす。搭乗案内を知らせるアナウンスがロビーに流れ、ヘルマンは目尻を拭い、顔を上げた。
「…色々と本当に有難うございます。サーには慰めてもらってばかりいますね」
「気にするな。俺も、お前には愚痴ばっか零してるしな」
イギリスは笑う。それにヘルマンは微笑を返した。
「次、お越しの際は自宅にも寄ってください。サーの好きなフレーバーを友人から融通してもらいましたので」
「楽しみにしてる。じゃあな」
「はい。お待ちしております」
一礼したヘルマンに見送られ、イギリスは機上の人となった。
 
 
 
 
 





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