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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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06 . December


…やっと、終わりが見えてきた気が。後一話で(多分)終わると思います。
しかし、長いな…。








拍手[20回]



 
 イギリスを見送り、ヘルマンはオフィスに一度戻ることにした。車を駐車場に戻し、オフィスに向かえば、随分と遅い時間だと言うのに明かりが漏れている。誰かが残って仕事をしているのかと戻れば、そこに居たのはアメリカだった。
「ミスター」
「おかえり。イギリス、帰ったんだって?」
書類の山を崩し、報告書を読んでいたアメリカが顔を上げた。
「EUの会合が近々、あるそうなので、準備の為にお戻りになられました」
「ふーん。…遅いんだし、明日まで居る予定なんだから、泊まっていけばいいのに。…でもまあ、雨を呼んでたのはやっぱり、イギリスだったんだぞ。イギリス居なくなった途端、雨、上がったし」
イギリスが機上のひととなって暫くして、降り続いていた雨は上がり、空には星が見えた。ヘルマンは苦笑を返すと、給湯室に入った。
「ミスター、スコーンがありますけど、食べますか?」
「イギリスが押し付けていったのかい?」
「時間があるなら、サーにお出ししようと私が作ったものですが」
「食べるんだぞ!」
威勢のいい返事が返ってくる。いつも通りにカフェオレとコーヒーを入れ、アプリコットジャムとメイプルシロップとスコーンを乗せた皿をソファーのあるテーブルに置くと、ばさりと報告書を机に置いたアメリカがソファーに移動して、腰を下ろした。
「…ミスターとこうして、お茶を飲むのも久しぶりですね」
「そうだね。久しぶりだ」
アメリカはスコーンを二つに割るとアプリコットジャムを塗りつけ、口に運んだ。
「うまいんだぞ。本当にイギリスの作るものは何やっても不味いし、スコーンなんていつも真っ黒焦げなのに中身は生焼けだし」
「そうなんですか?サーのスコーンはいつもミスターが先に頂いてしまうので、私はご相伴に預かったことが無いのですが」
「あんなの、俺以外の奴が食べたら、引っくり返るよ」
「酷い言われようですねぇ」
「本当のことなんだぞ!」
コーヒーを口に運び、ヘルマンは苦笑してアメリカを見やった。
「ミスターはそう仰いますけど、文句を言いながらもサーのお菓子は召し上がっていますね」
「他に被害を出さない為だよ」
二つ目のスコーンに今度はメイプルシロップをたっぷりと垂らして、アメリカは口に運ぶ。それを見やり、目元を和らげるヘルマンをアメリカは見やった。
「…アニーが亡くなって、何年になる?」
「…五年、ですね」
「…元気に見えたのに、急だったよね」
「…えぇ。もう少し、早く、気付いて上げえられなかったのかと、悔やむこともありますが」
五年前、長年連れ添ってきた妻を病気でヘルマンは失った。
「…うん」
「…最期を看取ることが出来ましたので。…それが、彼女の最後の望みでしたから」
白いベッドに横たわり、力の無い白い手を彼は最期までずっと握っていた。アメリカは傍でそれを見ていた。彼女が息を引き取る瞬間、小さく彼に笑いかけ何かを呟くのに、彼は微かに眉を寄せたが、口元を緩ませると彼女に囁いた。
 
『Es wird leicht spät, aber ich gehe auch auf alle Fälle in der Nähe von Sie.(少し遅くなりますが、必ず、あなたの傍に私も行きます)』
『Ich warte.Aber ich bin die ganze Zeit in einem Punkt gut.(待ってる。でも、ずっと先でいいわ)』
 
密やかに囁かれた言葉はふたりの祖国の言葉だった。頷いた彼に彼女は微笑すると目を閉じた。苦しむことも無く、彼女は愛した人に見送られ、息を引き取った。悲しい光景ではあったけれど、幸せな最期だったとアメリカは思う。…ああ、彼女が亡くなってからだ。彼が、暇を請うようになったのは。
 
 ひとの生は短い。交わることがあってもいつかは必ず違えてしまう。
 
イギリスの言葉をアメリカは思い出す。彼は自分の最期をプロイセンに看取って欲しいのだろう。
 
「…国に、ドイツに帰りたい?」
 
ずっと口にすることの出来なかった言葉がするりと滑る。苛立ちも焦燥も無く、穏やかな気持ちで。
 
「…いいえ」
 
アメリカの言葉にヘルマンからは否定の言葉が返って来る。アメリカは青を瞬かせた。
 
「…なんで?」
 
解らないと言う様に首を傾けたアメリカにヘルマンは微笑を返した。
「…前に、日本さんから、桜は出会いと別れを見送る花だと訊きました」
「…うん」
「あのひとと別れ、こちらに来たとき、桜の花が咲いていました。…あのひとは前に一度、日本で桜を見たことがあると言っていました。散り際がいっそ、潔いくらいに美しいと」
「日本も同じこと言ってた」
「あのひとは随分と前から、この世界から切り離されたがってました。あの戦争で一兵士として死にたがってたんですよ。でも、私はそれを許したくなくて、見張るように傍にいた。…父を早くに亡くした私にとって、あのひとは父であり、兄でもあった。そんなひとを失いたくなくなかった。…いえ、それはただの建前だ。私はただ、そばに居たかった。あのひとの役に立ちたかった。…でも、あのひとはそれを許してはくれなかった」
ヘルマンは言葉を切ると、アメリカを見つめた。
「別れの日、あのひとと約束をしました。必ず、ここに帰ってくると。…あのひとはただ、頷いてくれただけでしたが、その言葉がなければ、私はあのひとの元を去ることが出来なかった」
ああ、やっぱり今も、彼はプロイセンのことを忘れられずにいるのだ。
 
「…お前との約束は、お前を生かすための言葉だった。…だから、果たさなくてもいい。でも、もし、まだ約束を覚えているのなら、待ってる。…サーからあのひとの伝言を訊きました。」
 
ヘルマンはアメリカを見つめ笑った。
「…私はあのひとに最期まで仕える覚悟を決めて、あのひとが私達、家族を戦時中に亡命させてくれた後、危険を承知で戻って来た。あのひとが東側に行くと言うなら、私も東側に行くつもりだった。…でも、あのひとはそれを望まなかった。…忘れろと、こんな地のことは忘れて、新しい地でお前は幸せになってくれ…と。…最後まで、本当にあのひとは自分が大変なときにさえ、自分のことなど二の次で…。置いていかないでくれと泣いて縋っても、嫌だと叫んでも、あのひとは私を自分から遠ざけるつもりだったんでしょう。、そして、「さよなら」を言わないことが、あのひとの最後のやさしさだった」
プロイセンはどんな気持ちで彼に忘れろと言ったのだろう。大事なひとを守るためなら、その大事なひとさえ斬り捨てるような強さをどこでプロイセンは手に入れたのだろう。…自分はまだまだだ。子どものように駄々を捏ねて、困らせているだけだ。…イギリスから独立して、強くなったつもりで居た。世界の中心は自分だ。問題はすべて力で捩じ伏せる。それが強さだと信じていた。…自分が窮地に立ったとき、たった一人の国民の為に頭を下げることが出来るだろうか?最善の為に最悪な方法で冷酷になることが出来るだろうか?…自分にはきっと出来ないだろう。
「…その約束がプロイセンを繋いできたのかもね。…彼、君の言うようにこの世界から切り離され自由になりたがった。そして、誰よりも早く東西が分断されることを彼は理解していたよ。その上で、俺たちにドイツを託し、自分はロシアに行くって決めてた。新たな国境を挟んで、ドイツの敵になるっていうのは、彼の本意ではなかったと思う。でも、情勢はそれを許さなかった。壁のこともそう。あれは彼が彼として存続していくために仕方のない方法だった。分かれる前から再びひとつになれる日を望んできた彼にとって、それは希望が鎖された罰にも思えたかもしれない」
アメリカは言葉を切った。
「…壁が壊れたとき、俺、凄く嬉しかったよ。俺はずっとドイツが彼が帰ってくることを信じて頑張っていたことを知ってたし、君が彼をずっと案じているのを知っていたから。でもね、東西が統一してから俺はずっと怯えてたよ」
その怯えは、ぎゅっときつく握った手を「ごめんな」と謝りながら離して、港に向かうイギリスの後姿を「行かないで!」と泣き叫ぶ小さな自分が抱えていたものとよく似ていた。
 
「君が、いつ帰りたいと口にするのか不安で仕方がなかったよ」
 
その言葉にヘルマンは僅かに眉を寄せた。
「…アニーが亡くなってからだったね。君が暇が欲しいって俺に言うようになったの」
「…はい」
頷いたヘルマンにアメリカは小さく息を吐いた。
「ポトマック河畔の桜の花が満開になるまでの数日が堪らなく嫌いな日々になったよ。…イギリスが帰国しなきゃいけない日をカレンダーを睨みながら、時間が止まればいいと本気で願ってたあの日々に戻ってた」
「…ミスター…」
顔を歪めたヘルマンにアメリカは肩を竦めた。
「…どうして、桜が満開になるまでなんだい?」
その問いかけにヘルマンは口を開いた。
「…あなたと再会した場所は、ポトマック河畔の桜並木でした。覚えていらっしゃいますか?」
「覚えてるんだぞ」
満開だった。桜の花が風にひらひらと舞う中、それをぼんやりと見上げる青年に気がついた。気になって声を掛ければ、ボストンの港で丁寧に礼を述べ、別れたプロイセンの元部下の青年だった。…縁、だったのだと思う。仕事を探しているという青年にアメリカは自分の元で働かないかと声を掛けた。まったくの気まぐれだった。その気まぐれが深く、この青年の人生の大半を共に過ごすことになるとは思いもしなかった。…やさしく、時には厳しく、突拍子も無い提案に真面目に意見を述べたり、諌めたり、強引な自分のやり口に反感を持たれぬようにと裏から手を回していてくれたのは、アメリカの部下である彼だった。…個人的な悲しみも怒りも、すべてを許容し受け入れ、アルフレッドの友として傍にいてくれたのは彼だった。
「桜が出会いと別れを意味するなら、別れも桜の咲く季節にしようと私なりのけじめのつもりでした」
「…そっか」
「…でも、もう良いのです」
ヘルマンは息を吐くようにそう言って、微笑した。
「…私は結局は故郷を捨ててきた。そして、あなたに出会って、あなたに私は生かされてきた。それをすっかり私は忘れて、ひとりで生きて来たような気になっていた。…本当に恩知らずだ」
「何言ってるんだい!」
アメリカはヘルマンを睨む。睨まれたヘルマンは苦笑すると、冷めたカップの褐色に視線を落とした。
「…いつだったか、あなたに乞われて、マリアと私達家族の写真をお渡ししたことがありましたね」
「…うん」
「その写真を、あのひとは未だに手元に大事にしているそうです。それを訊いて、物理的な距離などどうでも良くなった。あのひとが私を忘れないでいてくれてる。なら私は、今、私を必要としてくれているあなたの傍にいたいです。…アルフレッド」
ヘルマンは視線を上げ、アメリカを見つめた。…部下と上司と言う関係になってから。ヘルマンはアメリカを決して名前では呼ばなかった。そう、ヘルマンに呼ばれていたのはほんの数週間の間、自分を「アメリカ」だと知らなかった間だけだ。久しぶりに彼の声で訊く名前。アメリカは涙が出そうになる。ツーンと鼻の奥が熱くなるのを堪えるように唇を噛んだ。
「…俺はさ、君に自分が小さい頃のイギリスの面影を重ねてた。…だから、君の言葉が受け入れられなかったんだ。…イギリスにはイギリスを待ってるひと(国民)が居る。解ってても、好きなひとと離れ離れになるのは辛かったし、ずっとイギリスが来るのをただ待つ日々が嫌だったから、いつでも自分から会いに行けるようになりたかったら、俺はイギリスから独立したんだ。…独立してすべてが上手く行くって思ってたけど、そうはならなくて俺とイギリスは相変わらずぎくしゃくしてるけどね、会いたいときに自分からイギリスのところに行けるようになった。それだけは本当に良かったよ。…だから、」
何が言いたいのだろう自分は。…アメリカは言葉を吐き出しながら混乱してくる。
「君が君のあるべき場所に帰りたいと思うのは、当たり前のことなんだ。それを俺も君も勘違いしてる。俺、君がドイツに帰ったら二度と会えないって思い込んでた。でも、違うんだよ。君がドイツに帰ったて、俺がドイツに君を訪ねればいいし、君が俺の家を訪ねたっていいんだ。空を飛べば、いつだって会える。遮るもの何かはじめからないんだから。…だって、俺とヘルは友達だろう?違うかい?」
何で、そんな単純なことに気付けなかったのだろう?物理的な距離など今は空を飛べば直ぐにでも失くすことが出来る。壁は無くなった。西も東も無い。自由なのだ。
 
「だから、プロイセンのところに帰りなよ。きっと、彼、君に会いたいと思うよ」
 
随分と遠回りして、この言葉を口にすることが出来た。アメリカは久方ぶりにアメリカらしい笑顔を見せた。
 
 
 
 
 
 





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