忍者ブログ
「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

30 . December



これにて、完結。蔦吉様、お待たせして申し訳ありませんでした。
鉄十字の話は本編にて出てくる予定です。しかし、年内に完結出来て良かった…。










拍手[25回]



 
 
 
 
 
 
 
2010年 晩秋。アメリカはベルリン郊外にある小さな教会を訪ねた。
 
「…君と顔を合わせるのは、何年ぶりになるかな?…マリアも元気そうだね。ちょっと老けたかな?」
「失礼ね。…アルは全然、成長してないのね。ティーンズのままじゃない」
自分は年相応だと嫌味を返して、マリアは笑う。彼女の目元は父であるヘルマンに良く似ていた。ふたりのや取りを黙って見ていたプロイセンが口を開いた。
「…直接、会ってお前には礼を言いたかったんだ。わざわざ、足を運んでもらって悪かったな」
「いいんだぞ。こっちに来る用があったし…。俺も忙しくて、彼を訪ねられなかったからね」
この小さな教会の墓地に彼は眠っている。帰れないと渋る彼をアメリカは説得し、その為の手続きに奔走した。ドイツの働きかけもあり、帰国の話はとんとん拍子に進み、十月の初めに帰国が決定したその日が近づくにつれ、寂しくなり、アメリカは我儘を言ってはヘルマンを困らせた。彼が祖国に戻る日の朝、彼の淹れた最後のカフェオレを飲んだ。
 
「また会うんだぞ!」
「お世話になりました。遊びに来てください。待っています。私もあなたに会いに行きます」
 
辛気臭いのは性に合わないからと空港に見送りには行かなかった。行けば、やっぱり、我儘を言ってしまいそうだったから。
 ヘルマンがドイツに帰り、年に数回ドイツでヘルマンに会った。彼がアメリカを訪ねたのも、年に数回。最後に会ったのは二ヶ月前、東西ドイツが統一した10月3日。二十年目の記念のささやかな内輪のお祝い事に招かれたのだ。
 それから間もなく、ヘルマンは体調を崩し、肺炎で息を引き取った。彼の最期を看取ったのは彼の家族とプロイセンで、穏やかな幸せな最期だったと言う。それを訊いたとき、アメリカは少しだけ泣いて、近くの教会で彼の為に祈りを捧げた。アメリカで彼と別れたときよりもずっと、心にぽっかりと穴が空いたような気がして、ひとりではいたくなくて、余暇の殆どはイギリスの家に入り浸っていた。…その間、いつもなら浴びせられる皮肉は無く、むしろやさしく接してくるイギリスに随分と慰められてしまった。
 
「…で、俺に話ってなんだい?」
 
プロイセンではなく、ギルベルトとして個人的なメールが届いたのは十二月に入ったばかりのことだった。「会えないか」と言うメッセージに、「いいよ」と返信を返して、この日になった。…この教会はヘルマンの引き合わせで、初めてプロイセンと自分が顔を合わせた場所でもあった。
「…病状が悪化する前なんだが、自分の先がそう長くないのを察していたのか、合間を見てはヘルマンは何かを綴っていた。その何かは手紙だったみたいでな。…亡くなる前日、俺はヘルマンから手紙を預かった」
ジャケットの内ポケットから取り出されたのは一通の手紙。見慣れた封筒には自分の名前が記されている。プロイセンから差し出されたそれをアメリカは見つめた。
「お前宛だ。受け取ってくれ」
差し出されたそれを受け取る。アメリカはその手紙を見つめ、意を決して封を切った。
 
 
 
 
 
 
親愛なるアルフレッド・F・ジョーンズへ
 
 
 
 
 
 この手紙をあなたが読んでおられると言う事は、既に私はアニーの元へと旅立っているということでしょう。死んでいる私が心配をするのもおかしな話ですが、あまり、エディや上司、サーを困らせるような真似をしてはいけませんよ。あなたは本当に時々、突拍子の無いことをしてくださるので、私は随分と肝を冷やしたものです。後、食べすぎはいけません。気をつけないとあなたは直ぐにピザやホットドッグ、ハンバーガーと言った栄養は度外視した高カロリーな食べ物を好まれるのでとても心配です。ちゃんと野菜を取り、バランスの良い食事を取って下さい。…こんなことを書くと、お小言は十分だよとあなたに怒られそうですね。
 本題に入りましょう。私の生きてる間は誰にも言うことの出来なかったことをあなたに訊いて欲しいのです。
 
 あなたと出会った春の日、私は何件目になるか数えるのも嫌になった就職を断られ、色々とすべてのことが嫌になり、死のうと思っていました。仕事は決まらず、妹の働きを宛てに糊口を凌ぐように生きている自分が嫌になったのです。幸いに妹には、私がいなくなっても任せられる男性がいましたし、寧ろ、その男性と結婚できない理由は職に就けない自分にありました。私がいなくなればすべて上手くいく…今思うと、随分と悲観的になっていたものです。でも、それで頭が一杯になってました。
  国に帰りたいと思っても、亡命してきた身で出来ず、何もかもが自分に合わないこの国に絶望していました。何が、自由の国だ、元々、来たくて来た訳じゃない、どうして、あのひとは私に「幸せになれ」と言ったのか。「死ね」と言われれば、喜んで死ねた。寧ろ、そう言って欲しかった。
 
 そうすれば、私は不幸にはならなかった。
 
 私は自分が誰よりも不幸だと思いこんでいましたよ。戦時中に砲弾が頬を掠めていき、仲間の死体が転がり、ひととして尊厳など踏み躙られ、戦車に轢かれ、無惨な有様を晒し、飢えと寒さに苦しんだこの世の地獄とも言える戦場に居た時よりも私は不幸だった。戦場にあったときには、私は生きる指標があった。あのひとを守る。それだけを思っていれば良かったので、私は幸せだったのです。それが失われて、あのひとは私を遠ざけ、ひとりで行ってしまった。私は守るべきものを失い、それと同時に自分の存在意義をも失ってしまったことに気がついた。目の前が真っ暗になりました。絶望するということは目の前からすべての色が消え、音すら聴こえなくなる、自分のことすら解らなくなることだと、そのとき初めて知りました。
 私にはポトマック河畔の誰もが美しいと惚ける満開の桜が見えなかった。ほのかに漂う花の香りすら感じることが出来なかった。聴こえるのは河の水の流れる音だけ。ここから、身を投げれば、海に出る。海に出れば、潮の流れに乗って、あのひとが居る場所にいつか流れ着くこともあるだろうか?…そんな馬鹿な事を思いながら、柵を越えようとしていたときでしたよ。あなたに声を掛けられたのは。風が吹いて、花びらが舞い上がる中、あなたが私を見ていた。懐かしい友達に会ったときのような気さくさで、あなたが私の腕を掴んで、引き寄せた。今でも覚えてますよ。その手が酷く冷たく震えていたこと。平静を装いながら、あなたが怒っていたこと。私は暫く呆然として、あなたの顔を見ていた。あなたは小さく息を吐いて、私に色々と訊いて来た。…要領を得ないであろう私の話にあなたは辛抱強く付き合ってくださった。あのとき、あなたにあっていなければ私はここにはいなかったでしょう。そして、あなたと共にあることで、私はあのひとを失った喪失を埋めることが出来た。そうしなければ、私は生きていけなかった。あなたの傍にあることで私は自分の存在意義を、生きる理由をまた見つけることが出来たのだと思います。
 
 アニーと出会い、結婚して、子供が産まれ…、これがあのひとが私に望んでいた幸せだと私は知った。その幸福はあのひととあなたに出会わなければ、得られなかったものでしょう。
 
 あなたには本当に感謝しています。あのとき、あなたと出会えた幸運を偶然を、どれだけ言葉を尽くしても、感謝しきれない。あの満開の桜の中、あなたに出会えて、私は本当に良かった。そして、ドイツ、アメリカ、私は二つの故郷を持ったことを誇りに思います。あなたの補佐役でいられたことは私にとって何ものにも換え難い、私がこの世界に生きる理由でした。
 
 どうか、あなたが永遠でありますよう、あなたが幸せでありますよう、私の愛した二つの、あのひとが愛するドイツとアメリカが続いていきますよう、私はずっと願っています。
 
 
あなたは、私が一番辛いときに、私を救ってくれたヒーローでした。
 
ありがとうございました。
どうか、お元気で。
 
 
 
 
ヘルマン・アインハルト
 
 
 
 
 
母国語ではなく、英語で綴られた、彼の見慣れた右に跳ねる神経質なアルファベットの羅列に、アメリカはぽつりと涙を落とした。彼が好んで使っていたブルーグレイのインクが僅かに滲む。アメリカはずずっと鼻を啜ると、手紙を折りたたんだ。
 
「…使って」
「…ありがとう」
 
マリアから差し出されたハンカチを受け取って、アメリカは溢れた涙を拭い、顔を上げる。ふとプロイセンを窺えば、プロイセンはあの日と同じように青いステンドグラスのマリアを見上げていた。その視線がふっとアメリカに落ちる。
「…お前には感謝しても仕切れないな。お前のお陰であいつは幸せな生涯を終えることが出来た。俺には与えてやることが出来なかったからな」
「…何、言ってるんだい。彼が幸せになれたのは、君が幸せになれって、彼の背中を押したからさ。俺はその手助けをしただけだよ」
そう、手助けをしただけだ。…今まで自分はこんなにも深くひとりのひとと時間を共有してきたことはなかった。彼がドイツに帰ってからの十年。ネットが普及し、メールでやり取りするのが当たり前となったが、メールは苦手だと言う彼は月に一度、アメリカに手紙を書いてきた。手紙を書くのは随分と久しぶりで、小さかった自分がイギリスに書き綴った会いたいと言う手紙以来だった。彼が自分に送ってくる手紙は近況と一緒に居たときと何一つ変わらず、アメリカの身を案じるやさしい手紙だった。
「…そうか。…でも、ありがとう。俺もあいつもお前には随分と救われた」
赤が柔らかく融けて笑う。それにアメリカは目を細める。
(…こんな顔が出来るんだ…)
険しい、悲壮な顔しか知らなかった。あのとき身に纏わせていた寂しい冬へと至る秋の終端を辿る気配は失せて、穏やかな春のような安らぎと安寧がプロイセンを取り巻いていた。…彼はそれに安堵しただろう。離れてからずっと、彼はプロイセンの身を案じていた。
 
「俺はヒーローだからね!困っている人がいたら助けるのがヒーローの役目さ!」
 
アメリカはにっこりと晴れやかな気持ちで笑う。…悲しくはない。自分の中で彼は生きているのだ。忘れない限り、ずっと…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ミスター、また、そんなものを!」
 
もしゃもしゃと頬張っていたハンバーガーを咀嚼していたところを見つかって、アメリカはばつの悪い顔をして、顔を上げた。
「…クラウス」
クラウスと呼ばれた青年は溜息を落とすと、手にしていた書類をテーブルに置いて散らかった机の上を見やり、また溜息を吐いた。
「先、片付けたばかりでどうしてもう散らかってるんですか?」
「…うーん。何でだろう?」
「…はあ。片付けますよ」
てきぱきと机上に散らばったハンバーガーの包み紙と菓子の空き袋を片して行くクラウスの姿が、彼に重なる。アメリカは目を細めた。
「クラウスはヘルに似てきたなぁ」
「…そうですか?」
顔を上げ、見つめる青は彼と変わりの無い色をしている。この青年は彼が自分に残してくれたものだ。
「…父があなたが心配だと言うので、こちらに帰ってきましたけど、あちらに残れば良かったですね」
クラウスは片付けた机の上を拭くとアメリカを見やった。
「何でだい?」
「あちらには姉もいますし、上司に持つならドイツさんみたいな方が理想的ですよね」
「むう、ドイツと比べるなんて酷いんだぞ!!」
「言われたくなかったら、食べ散らかさないでください。食べ終わったら、ゴミはゴミ箱へ。机の上は整理整頓ですよ」
テーブルの書類を移動させて、クラウスがにっこりと笑う。その顔は父親譲りらしい。柔和に見えて隙の無い顔をしている。
「…キミのおむつを替えてやったのは俺なんだぞ!ミルクもあげたのに!」
生まれたときからクラウスを知っているアメリカはむうっと口を曲げた。ヘルマンの子どもたちはマリアといい、この青年といい口が達者なようだ。
「それはそれ。これはこれです。覚えていないことを言われても困ります」
そう返されて、アメリカはむすりと眉を寄せ、クラウスを睨んだ。
「昔、良く遊んでやったのを忘れたのかい?」
「覚えてますよ。姉と一緒に良く、球場に行きましたよね。後、この季節に屋台でホットドックやアイスクリームをあなたにご馳走になりましたけ。…アルフレッド、この書類の決裁が終わったら、休憩にしてポトマック河畔の桜を見に行きませんか?」
給湯室に入り、マグにカフェオレと何かを乗せたトレイを手にして戻って来たクラウスが微笑う。
「悪くないんだぞ!ところで、それはなんだい?」
「ケーゼクーヘンです。姉にレシピを訊いたので作ってみました。…父が良く作ってくれましたよね」
随分と懐かしいあの日のひとこまがふっと甦る。
 
 
 
 
 感謝してもしきれないのは、俺のほうだ。
 俺はキミに出会って、かけがえのないものを手に入れることが出来た。
 
 
 
 
「…うん。明日はアップルパイが食べたいんだぞ!」
「…間食をミスターがお控えになるのでしたら、準備しますよ」
「…むう」
あの日の彼と同じようにクラウスが笑う。
 
 
 
 
 外は、春。
 
 
 季節は巡り、時は過ぎていっても変わらないものは、確かにある。アメリカは窓の外を見やる。青く晴れ渡った空の下、春色の淡い帯が広がっていた。
 
 
 
 
 





PR
NAME
TITLE
TEXT COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]