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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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23 . August



久しぶりに、喫茶プロイセン開店です。









拍手[43回]



 
 
 
 
 ベルリンの市内、大通りから外れた場所に看板も出ていない小さな喫茶店がある。
 
 その喫茶店は変わっていて、メニューは店主が勝手に淹れたコーヒーのみ。口に合わなければお代はタダとなるらしいが、合わなかったことなど一度もない。そんな変わった喫茶店だが、私を含め常連客は多く、いつの時間も客がいる。携帯ゲームに勤しむ青年、紅茶はないのかと文句をつける眉毛の太い男。隣りに座った若い女性を熱心に口説く兄弟に説教を始める若者。持ち込んだクラシックレーコードを勝手に掛け、読書に耽る音楽家らしい男、厨房に入り込んで何やらやり始める優男と野菜(主にトマト)を持ち込み野菜自慢を始める男、店主の自慢話にニコニコと聞き入るアジア系の黒髪の小柄な年齢不詳な青年。…この店を訪れる客は何というか変わっている。その中でも変わっているのは店主で赤目に銀髪と言う容姿もさることながら、何故か妙に場に馴染み、若いくせに達観している。話し始めれば九割自分の自慢話になる店主だ。たまにそれをうざかられてはいるものの、常連客は減る気配はない。妙にこの店は居心地が良いのだ。
 
 さて、私がこの喫茶店を知ったのは幼馴染の骨董屋のバルトルトに面白い喫茶店があると連れて来られたからだ。そして、私はその喫茶店の店主を見て腰が抜けるほどに驚いた。祖父の店に良く来ては、軍服を仕立てさせていた若い将校にそっくりだったのだ。
 
 今でも私はその将校のことをよく覚えている。赤い目、短く刈った銀髪、黒の親衛隊の軍服を纏っていた。その軍服に当時の私は憧れと同時に畏敬と畏怖を感じていた。青年の肩章の飾りから位が大佐だと解る。若いのに随分と高い地位にいるようだ。祖父は店のドアを開いた青年に目を留め、微笑んだ。
 
「これはこれは、お久しぶりでございます。バイルシュミット様、最近、お見えにならないので心配しておりましたよ」
 
「おう、エルンスト、久しぶりだな。暫く、ベルリンを離れてたんで、来る暇がなくてよ」
「そうでございましたか。コートと帽子をお預かりしましょう」
将校は祖父に子供っぽい笑みを見せると、軍帽を取り、コートを脱ぐ。それを祖父が受け取り、客用ハンガーに掛けるの見やり、将校は店内を見回した。
「ここは変わらないな」
「変わったのは私が年を取ったことぐらいでしょうかね。バイルシュミット様は相変わらずでございますねぇ」
「そうか?…そうでもないけどな」
「お変わりなくて、本当に何よりですよ。バイルシュミット様がご健在であることはこの国がまだ正常であると言うことですから」
「…お前、危ないこと言うなぁ。俺じゃなかったらしょっ引かれてんぞ?」
この頃のベルリンはユダヤ人狩りの噂が真しやかに囁かれ、政権を批判するものは容赦なく投獄されていった時代だった。
「あなた以外の前でこのようなことは口にはしませんよ。養わねばならない家族がおりますし、でも私はドイツ国民ではありますが、プロイセン人ですので」
将校は祖父の言葉に苦笑すると、気を取り直したように口を開いた。
「今日は仕立てを頼みたくてよ」
「何をお仕立ていたしましょう?」
「軍服を2着づつ。後、シャツを4枚。軍服は陸軍のヤツな。型紙が必要なら持って来させる。後、寒いとこ行くんで、防寒コートも頼む」
「承知致しました。採寸は如何致しましょう?前回のご来店から、大分間が開いていますので、お測り致しましょうか?」
「頼むわ。最近、減量に成功しすぎて、すげぇ痩せたからよ」
青年は軍人と言う地位からは思いもしない気さくな口振りで祖父と会話を交わしている。それを私は物陰に隠れて見ていたのだが、疾うの昔に祖父に気づかれていたらしい。祖父が私を呼んだ。呼ばれておずおずと出ていく。
「カミル、ご挨拶なさい」
「こんにちわ」
恐る恐る顔を上げる。将校の赤い目が柔和に細められた。
「エルンスト、お前の孫か?」
「はい。あなたに可愛がっていただいたアリーセの子です」
「アリーセか。あのじゃじゃ馬娘の…。年が経つのは早いもんだな」
「えぇ。本当に」
祖父が微笑む。将校は黒革の手袋を外すと軍服のポケットに手を突っ込み、ニヤリと笑うと私に手を出せと言ってきた。言われるがままに右の手のひらを差し出すと、両手を出せと言う。言われるがままにそうすれば、降ってきのはキャラメル、キャンディ、チョコレートの小さな塊。私の小さな手のひらいっぱいになった。
「軍部で出た茶菓子を後で食おうと思ってくすねて来たんだ。…っと、これはお前と俺だけの秘密だぜ?」
秘密だと耳元で囁いてきた将校にコクコクと頷くと、将校はまたニヤリと笑って、私の頭を撫でたのだ。その手は傷だらけでゴツゴツしていだが、やさしい手だったのを覚えている。…その将校に目の前の青年は本当にそっくりだった。将校は店に訪れるたびに、当時、既に貴重になった菓子をこっそりと私に内緒だと言っては私の手のひらに落としてくれた。
 そして、祖父が仕立てた軍服を着、若い将校は東武前線に出征して行った。それから、随分と時は経ち、祖父は亡くなり、祖父の店は私が引き継いだ。あの将校が無事に戦地から戻ったのかは解らないままだ。ただ、私の手元にはその将校の採寸を記した二百年前からの台帳がある。一度、祖父にあの将校は何者なのだと訊ねたことがある。祖父はただ一言、
 
「先祖代々からの大事なお得意様だよ」
 
と、笑って、私にそう言ったのだ。
 
 
 
 
 
「爺さん、手、出せ」
 
物思いに耽っていると、声が降ってくる。顔を上げれば、あの将校によく似た店主がにっこりと笑った。
「日本の菓子だぜ。美味いぞ」
言われるがままに、右の手のひらを差し出せば、店主は両手を出せと言う。
「バルトルト爺さんには秘密だぜ?」
 
『軍部で出た茶菓子を後で食おうと思ってくすねて来たんだ。…っと、これはお前と俺だけの秘密だぜ?』
 
手のひらにカラフルな包装紙に包まれた菓子が落ちて来る。あの日の光景が蘇る。
「…あなたは、あのときの…?」
店主はそれには答えず、口元に指を運んだ。
 
 
 
 
「秘密だぜ?」
 
 
 
 
店主はそう言って、あの日と同じ顔でニヤリと笑った。
 
 




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