不憫?…あいつ、別に不憫じゃねぇだろ。ドイツに物凄く愛されてるじゃねぇかよ。日本とかも師匠とか言って、慕ってるし……別に羨ましくなんか、ないんだからな!!…まあ、そんなことはどうでもいんだよ。…プロイセンに一週間、目隠しで、とある一室でひとりで過ごしてもらうことになった。
ヤツは寂しがり屋なクセに「一人楽しすぎるぜー!!」…ヤツなので、一日一回、部屋に誰かが訪問することになった。
制限時間は、一時間。
訪問してきた俺を当てることが出来たなら、プロイセンの勝ち。
当てられなければ、俺の勝ち。
勝った方の言うことをひとつだけ、どちらかが訊くと言うルールだ。
さて、今日は火曜日。火曜日は俺だ。
絶対不敗の英国紳士。賭け事は得意中の得意だぜ。…さて、プロイセンには何を聞いてもらおうか。新作のレシピの料理を…。別に、プロイセンに食べさせたいわけじゃないんだからな!!
[25回]
イギリスは部屋の前に立つと、部屋の鍵を開けた。この部屋は外側からしか開けられない。部屋に入るとプロイセンはベッドの上、ごろごろとしている。こちらを気にするでもない。それにイギリスは眉を寄せ、テーブルに持参してきた紅茶セットとスコーンの入った籠を置いた。
「イラッシャイマセ。ナンノオカマイモシマセンガ、ゴユックリ」
それに、プロイセンがなれない日本語でそう言い、イギリスがいると思われる方向に一瞬だけ顔を向け、また、ぶらぶらと足を躍らせる。イギリスは思わず返事をしそうになって、ぐっと言葉を飲み込んだ。一体、どういうつもりだ?…プロイセンを伺うが、プロイセンはイギリスを気にするでもなく、足をばたつかせて、時折、歌っている。耳からは細いコード。どうやら、何かを聴いているらしい。イギリスはプロイセンを一瞥すると、持参してきた籠を空け、ティーポットとカップ、手製のスコーンを取り出す。そのスコーンはイギリスの自信作だが、アメリカがこの場にいたならば、間違いなく「兵器」と称していたに違いないほどに真っ黒に焦げていた。…それが出された瞬間、スンとプロイセンの鼻が動いたことには気付かず、イギリスはお茶を入れ始める。
ティーカップはふたつ。
その分量通りに紅茶を注ぎ終えたイギリスはプロイセンに視線を投げる。プロイセンは相変わらず、こちらを気にするでもなく足をバタつかせている。声をかければこちらの正体がばれてしまう。しかし、紅茶は淹れ立てが美味しいのだ。…どうしたものかとイギリスが思っていると、むくりと突然、プロイセンが起き上がった。
ピッ!
と、プレイヤーを止めると目隠しされた状態で辺りをきょろきょろと見回す。それから、徐にベッドから床へと足を下ろすと立ち上がる。それから、危なっかしい足取りで何かを探すように手を左右に彷徨わせながら、こちらへとやってくる。それを見ているとプロイセンの指先がテーブルに触れ、表面を撫でるように指先が這う。かつんとその指先がティーソーサーが触れる。カップの輪郭を辿り、取っ手を掴む。そっと慎重にカップを持ち上げ、口元に運ぶ。
「お前、イギリスだろう」
紅茶をぐいと飲み干した。プロイセンが言う。それにイギリスは眉を寄せた。
「な、何で、解ったんだよ!」
「…え、何か、四月にお前に殺されかけたときの同じ匂いがするから」
「殺そうなんてしてねぇよ!!ばかぁ!!!」
イギリスは思わず怒鳴って、ぐずりと鼻を啜った。
「…まあ、それは冗談で、やっぱ、お前の淹れる紅茶は美味しいな。自分で淹れたのは何か、渋くて砂糖入れないと飲めないし」
「…コツがあるんだよ」
「へぇ」
プロイセンが頷くのと同時にアラームが鳴る。それをイギリスは止めるとプロイセンを見やった。
「んで、お願い事は何だ?」
「紅茶、おかわり」
「…おう。お茶請けもあるぞ」
スコーンの皿を勧めるイギリス。プロイセンは眉を寄せた。
「…食えるのか?」
「食えるに決まってるだろ!!ばかぁ!!」