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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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28 . December


爺の老いらくの恋。







拍手[24回]





あァ、二進も三進もいかない。
身動きの出来ない間際ならば、いっそこの身を投げ出してしまおうか…。
 
 

「お慕いしております」
 
率直に告げた言葉は、

「おう。俺もお前のこと好きだぜ」

あっけらかんとした言葉で返され、その放たれた言葉の中に望むものは一欠けらも無く、玉砕。いっそ、抱きついて接吻のひとつでもしてやれば、気付くのでしょうか…と、日本は物騒なことを考える。目の前のプロイセンは黙り込んだ日本を不思議そうに見やる。世にも稀な兎のような赤い瞳で。
「…師匠」
「おう。何だ?」
卓袱台の上、投げ出された彼の指先は騎士時代の名残りで武骨でありながら、ひどく蠱惑的だ。爪先は短く、骨ばった古い傷だらけの彼の歴史が刻まれたその手を美しいと思う。その指先に自分の指を絡めれば、びくりとプロイセンは身を竦ませた。
「な、何だよ?」
「さあ、なんでしょう?」
プロイセンは自分からハグやキスをするのが大好きだ。でも他人からの接触に関して何故かひどく臆病だ。それは自分に関しても言えることではあったが、好きなものに触れたいと思うのは、生物的本能だろう。
「なんでしょうって、日本、お前、顔、近いぞ…」
ずずっと手を掴んだまま、畳の上を移動して、顔を近づけると戸惑い気味な顔をする。それでも逃げるような素振りは見せずに、プロイセンはほんの少しだけ眉間に皺を寄せた。
(…ご兄弟、なのですねぇ…)
その顔が良く知るプロイセンの弟ドイツの顔に重なる。少しだけ、日本は口元を緩める。それに、むうっと口が尖る。揶揄われていると思ったらしい。
「…何、笑ってんだよ」
「…いえ、やはり、師匠はドイツさんのお兄さんなのだなと思って」
「何だそりゃ?」
「眉間の皺の寄り方がそっくりです」
「…そーか?」
傾く首。その仕草を追う。傾きに自分の角度を合わせる。
「………」
あっさりと目的は達せられ、余りの物足りなさに上目遣いに日本は見やる。プロイセンは吃驚したような顔をして、口元を抑えていた。
「驚いた顔もそっくりですね」
キスぐらい、欧州のひとはなれているでしょうにと日本は思う。
「……お前な」
むっと次の瞬間、顰められた眉。それにプロイセンの立てられた膝に手を付いて、日本は身を乗り出す。眉間に口付け。硬直する身体。そのまま、頬の輪郭を辿り、耳殻を撫でれば、その耳はひどく熱い。
「おまっ、」
慌てて身を捩るプロイセンをやんわりと日本は押さえ込む。
 
「お慕いしております」

もう一度、言葉を繰り返す。プロイセンは顔を真っ赤にして眉間に皺を寄せた。
「…っ、シタウってそう言う意味なのかよ?!」
「そう言う意味です。私は師匠が好きです」
やはり、直球じゃないと伝わらないものですねぇ。…狼狽するプロイセンの白い肌が紅葉していく。寒いところに暫く居た所為か、プロイセンの一際抜けたような白い肌を昇った赤は目に毒なほどに艶かしい。それに、くつりと日本は微笑う。
「師匠、お返事をください。…答えは、jaしか認めませんが」
例え、Neinと言われようが諦めるつもりなどない。時間だけはこの先も、飽きるほどある。手練手管はこちらの方が上だ。伊達に二千年も生きてはいない。恋愛などもう面倒臭いと思っていたけれど、相手にもよる。手強い程、燃えるというものだ。それに本日は難敵と言ってもいい一番の恋敵がここにはいない。これを見逃してしまっては、男が廃るというもの。いっそ思い切って、次の手を打ってしまおうか?…意外にも、プロイセンは押しに弱い。強引にいけば落ちるかもしれない。搦め手で手を伸ばせば、スターンと小気味の良い音を立てて、襖が開いた。
「…何をしている?」
「ヴェ~?」
状況把握に数秒。威圧感を惜しみなく撒き散らしたドイツの背後から、緊張感のない声が漏れる。それに、日本は小さく舌打ちし、身体を起した。…搭乗機のトラブルで遅れたイタリアを空港まで迎えにいっていたドイツまさかのタイミングで戻ってきてしまった。…なんて間の悪い。後、もう少しでしたのに。そう思いつつ、日本は顔を上げる。
「…立ち上がった瞬間、立ちくらみを起してしまいまして。それを師匠が抱きとめてくれようとしたんですが、バランスを崩してしまって」
日本は何事も無かったかのように、乱れた裾を整え、にっこりと笑みを浮かべる。
「おう、そうなんだよ。いきなり、倒れてくるから吃驚したぜ」
プロイセンもそれに調子を合わせる。長く生きてるもの同士、間の合せ方誤魔化し方など、目を合わせずともだ。まさか、告られて、迫られてましたとは言いにくいだろう。ましてや、自分よりも小柄で、弟子だと思っている相手に。
「ヴぇ~、でもプロイセン、顔赤いよ?」
イタリアの言葉にドイツが勘繰るように眉を寄せる。それを見たプロイセンは身を震わせた。
「え?…あー、風邪でも引いたかな?」
その場を誤魔化すようにプロイセンがくしゃみをすれば、それに乗じてドイツが動く。
「…ったく、あんまり面倒掛けさせないでくれ。日本にも迷惑だろう」
ドイツは溜息を吐くと畳の上に落ちたカーディガンをプロイセンに羽織らせる。何気ないその動作の言葉にならない想いが溢れている。…それが兄を想う弟の優しさではないことを知っているのは私だけでしょうねぇ…と日本は思う。そして、ドイツも日本がプロイセンをどう思っているのかを知っている。
「ありがとな。ヴェスト」
にへらと締まりのない顔でプロイセンは笑う。そんな顔をプロイセンが向けるのは、最愛の弟であるドイツの前だけだ。
「どういたしまして」
それを嬉しく思いつつも、弟と言う枠から抜け出すことが出来ずにいるドイツのジレンマも手に取るように日本には解る。…分はまだこちらにあるが、ドイツが動いてしまったら、プロイセンの気持ちは葛藤の末、容易にドイツの元へと落ちてしまうのだろう。
 
 プロイセンとっての特別はいつまで経ってもドイツであり、自分のことよりも優先されるはドイツのことなのだ。

切っても切れない絆。…そんなもの、叩き斬れるものなら叩き斬ってやりたいと思う。でも、それはしたくないとも思う。

 …私も丸くなりましたねぇ。

欲しいなら奪えばいいとか、そんな手段で手に入るならばそうしている。でも、そんな手を使ったところで、実際は何一つ、この手には欲しかったものは指の間を擦り抜けていってしまう。

 あァ、本当に老いらくの身でどうしようもない恋をしている。

日本はひっそりと溜息を吐いた。
 
 
 
 

オワレ





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