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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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23 . March


ドイツ帝国成立後、しばらく後のお話。


ドイツを不幸にしたいのか。と、言われればそうではないのですが、兄より弟が不憫な方が萌えるんだぜ!…としか言えん。

…てか、本編を書けよ。俺…。






拍手[29回]



 

 
 自分の居場所が緩やかに失われていく。
 それを望んだのは自分ではあったが…。


 
 亡き王が残した宮殿の、王が過ごした部屋で、その王が一日中座り続けた椅子の上に腰を下ろし、プロイセンは外を見やる。当時と変わらない景色がそこにあり、白い花が花壇に揺れる。
 それをぼんやりと眺め、プロイセンは一日を過ごす。そして、空を見上げ、かの少年を思い出す。
(…あいつはどんな気分だったんだろうな?)
自分の居場所が徐々に奪われて、やがて訪れるであろう終焉に彼はどんな想いでその流れに身を任せ、或いは逆らっていたのか。プロイセンは赤い目を細める。

 緩やかな衰退。

 オットーは自分が宰相の地位に在る限り、プロイセン優位の立場は変わらないと言ったが、それは無理なことだとプロイセンは思う。

 ドイツ帝国。

 一宰相の手に負えるものではなくなってきている。最早、プロイセンの手を必要とすることもなく、この国は独り立ちしてしまった。現に国と言う形をなくし、王国ですらなく、自分は一州都まで成り下がった。果たして、自分はいつまでだらだらとこの地に「プロイセン」として留まり続けることが出来るだろう。また名を変え、生き延びていくのか。「ドイツ騎士団」から「プロイセン」と名を変えたように。

「…いつか、いつか立派な騎士になったら、お前を王だと思って仕えってやってもいいぜ…って、俺、アイツに言ったんだけなぁ…」

その約束は果たされなかった。暫くして、ハンガリー王に招かれ、敵対する蛮族と戦い、そして野望を持った為に追い出され、ポーランド王に招かれた。そこで領土を簒奪し、公国へと伸し上がり、小競り合いを繰り返し、ブランデンブルグと併合し、王号を手に入れた。王国としての体を成すために飛び地のばかりのばらばらな身体を繋ぎ合わせるのにどれだけ必死だったか…思い出しただけでも、涙が出そうだ。神は何も自分には与えてはくれなかった。それなら、他人が持っているものを奪う以外の生きる術があっただろうか?

 他人に追従なぞ、御免だ。
 媚び諂って、おこぼれに預かるなんざ、反吐が出る。

 そう思いながら、あるときは媚び、或いは利用され、流れ着いてやっと手に入れた羨望していた「国」と言う形。それをもっと強固に、見下されることもなく見くびられることのない強さを手に入れたかった。

 最初から、与えられ恵まれてた奴らに、俺の何が解る?

 虫唾が走るほど、隣国が嫌いだった。そして、その隣国に屈した幼馴染みに我慢がならなかった。気が強くて喧嘩早く、それでも一緒にいるのが大好きだった初めての友達だったマジャルは死んだ。あんな女、俺は知らない。だから、あいつらは俺の敵だ。

 国になって、自分は卑屈になった。
 この貧相な身体を見下されたくなくて大きくすることに固執し、回りは見えなくなっていた。
 見えないまま、色んなものを捨てては拾い、最後に信仰すら捨てたら、酷く生きるのが楽になった。

 亡命者を受け入れ、移民を受け入れ、望む者全てを自分の中へと取り込んでいた。俺は純然たる「ゲルマン」ではない。異端の者だ。異端の者は異端者を受け入れ、異端の国を築く。

 そうして、俺は大きくなった。
 もう、流離うのは嫌だった。温かい食べ物と風と雨を避ける家が欲しい。
 本当はそんな小さなことを望んでいた。…それが、どうして。こんなことになってしまったんだろう。それが、時代の流れだったのだろうか?

 些細な幸せを願い、ひとは生きる。

 では、「国」になった自分は何を望んで生きればいいのだろう?些細な幸せを生きる人々の為に自分はあればいいのか…でも、その役割を自分は終えようとしている。領土を奪い、それを糧にしていく時代は終わったのだ。

「…神聖ローマ…、何で、俺を選んだ?」

答えの返らぬ問いを繰り返す。

 役割を終え、終焉を迎えるその間際まで、彼は何を思い、どう生きたのだろう。
 そして、何もかも忘れ、新しく生まれた自身を何故、自分に任せようとしたのか。
 生きながらにして、死を宣告され、死へと続く道を延々と歩き続けるしかなかったあの少年は、何を思い、何を自分に託そうとしたのか。

「…夜明けの色…」

血の色にいつしか濁ったこの目を見て、少年はそう言った。そんなに美しく、荘厳なものではない。神の名の下に異教徒を殺害し、教えに背いた異端者の証として、この目は赤く染まったのだ。そして、もう二度とこの目の色が初めて目にした修道院の聖母の背にあった青い色に戻ることなどない。

『マリア』

その名前を誇らしく思っていた。シスターに柔らかい声音でその名前を呼ばれるのが好きだった。教会に運ばれてくる怪我を負った騎士たちの世話をし、名を呼ばれ、無骨な手のひらで頭を撫でられるのが好きだった。 騎士たちから、故郷の話を見知らぬ土地の話を訊くのが好きだった。
 夕方になると、大鍋で煮込んだ具の薄いスープだけの皿がテーブルに並び、神に一日、何事もなく過ごせたことを感謝し、明日もそうであるように願い祈り、食事につくそんな日々を繰り返していた。今思えば、ひどく平和で幸せな時間だった。
 そんな日々がずっと続いていけばいいと思っていた。幸せな日々は長くは続かない。それでも、新しいものを見たいと知りたいと、子どもの好奇心がその平凡を拒んだ。

 留まることより、流れることを。
 そして、慈しみの名を捨てた。

 望んだのは自分だった。そして、瞳の色は神に背いたが故に、血の色に変わった。でもこの目を見て、少年は「夜明けの色」だと言った。でもそれは少年にとって斜陽の色ではなかったのか。そして、この色は自分にとっての斜陽に変わった。

 夜は明け、眩しい太陽が空を照らす。
 その空は、澄んだ青い色をしている。

 新しい色をこの世界は手に入れた。神聖ローマの青が傾き、自分の赤へと変わり、夜が明けドイツの青になった。
 ただ、それだけのことだ。

「…ああ、だから、俺を選んだのか…」

酷く苦しく続く身を苛む昼から逃れる為に夕暮れを願い、長く恐ろしい暗いばかりの夜が明けることを望んだ。そして、少年にとって夜は明けた。…今までの記憶を全てを失うことを引き換えに、「ドイツ」という明日を手に入れた。

「…間違ってなかったな」

夜は明けた。ドイツの栄光はプロイセンの斜陽である。こんなに素晴らしく美しい最期はない。そして、唯一自分が愛し、父と慕った王の願いも叶った。



 ああ、実に素晴らしい。
 こんなに美しい最期を迎えられる自分はなんて幸せ者なのだろう。



プロイセンは柔らかい笑みを浮かべ、庭を見つめる。白い花が風に揺れる。




 

 それを遠目に、成長した子ども…ドイツは見つめる。
 






 いつから、こんなに穏やかにこの兄は微笑うようになったのだろう?
 斜陽の色を纏い、終焉に向うひとが浮かべる穏やかな微笑を湛え、俺を残して、去り逝くつもりか。

 それを俺が許すとでも、思っているのか。

 あなたは言ったな、
 未来永劫、俺があなたの王である限り、あなたは俺に尽くし、忠誠を誓うと。

 何一つ、今度は失ってなるものか。その為の帝冠だ。今度は失わない。諦めない。欲しいものはこの手に掴む。掴めないのなら、何としてもこの手に手に入れる。それだけの力を自分は手に入れた。

 与えられたものを失くすのも御免だ。

 プロイセン、俺にはまだあなたが必要だ。あなたは俺の半身なのだ。あなたはまだ気付いていないのだろう。俺とあなたの心臓が繋がり、ひとつになってしまったことに。

 あなたが死ねば、俺も死ぬ。
 俺が死ねば、あなたも死ぬ。

 あなたは気付かないまま、そうしてしまった。そうなるように俺が仕向けたと知ったら、あなたは泣くだろうか、喜ぶだろうか?
 きっと、こうなることを俺はあなたの手を取ったときから、漠然と望んで来たのだ。ひとは誰かと寄り添うことで孤独から救われる。ひとりでは駄目なのだ。



 俺とあなたは、ふたりでひとつだ。
 


 どうか、早く気づいて欲しい。
 世界がいつか終端を迎え滅びるときは、斜陽であり、夜明けである騎士と共にあることを、王は望んでいると。
 
 





おわり


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