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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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28 . March


落陽を書いた頃から、密かに、もし、プロイセンが滅びゆく神聖ローマの最後を看取ろうとしてたら…的な妄想を形にしてみました。…いや、単に神聖ローマに「マリア」呼びされて、プーってなってるプロイセンも可愛いかと思ったらみなぎっt…。








拍手[23回]




 
 
 長く続いた戦争の終結。そして、下された死亡宣告。

 
 帝国は、…自分は既に戦争末期には死に体を晒していた。それでも、なお、自分を生かすのはあの子への思慕なのか。…こんな有様で、胸を張って会いにいけるはずもなければ、この身が前のように力を取り戻すことも有り得ない。少しづつ、死んでいくのだろう。この小さい身体のまま。条約が締結すれば、自分は霧散し消失するだろうと思っていたが、何故だかまだこの世界にいる。表舞台からは完全に身を引き、代わりオーストリアが表に立ち仕切り始めた帝国に自分の居場所はどこを探しても見当たらない。なのに何故、自分は存在しているのだろう?

神聖ローマ帝国。

偉大なるかのローマ帝国のようであれと、神の祝福あれよと名づけられたこの名は自分には重すぎたのだ。
 
 


「神聖ローマ、何だ、いるんじゃねぇか。返事しろよな!!」
 



大きな音を立てて開け放たれたドアの前には、薄い金の髪に赤い目をした年の頃16か、17になろうかという軍服を纏った少年。慇懃無礼な大声に思索を断ち切られた神聖ローマは目を眇め、顔を上げた。

「辛気臭い部屋だな。真っ暗じゃねぇか」

入室の許可も待たぬまま少年はずかずかと部屋に入って来ると、日差しを遮っていた部屋のカーテンを引いた。

「…何の用だ。マリア」

暫く目に感じることのなかった眩しさに思わず目を閉じる。部屋に満ちる太陽の光。赤のコランダム。
「マリアじゃねぇ!!今はプロイセンだ!!ってか、お前がこの名前を認めたんだろうが!!」
がっと怒鳴り返してきた無礼者…新しくドイツの北に誕生したプロイセン王国を見やり、神聖ローマは口元を緩める。今や腫れ物扱いの自分に威勢よく物申す者などこの新参者以外にはいないのだ。
「マリアでいいだろう」
「よくねぇ!プロイセンって呼べ!!」
「うるさいぞ。マリア。…で、何の用だ」
「プロイセンだって言ってるだろ。人の話、聞けよ!」
何百年前に会った頃は年下だった外見は成長したものの、中身は子どものままらしい。頬を膨らませこちらを睨むプロイセンに神聖ローマは笑みを浮かべる。それに不機嫌そうにプロイセンの眉が寄るのが可笑しくてならなかった。
「おれには、お前の新しい名よりも、昔の名の方がしっくりくる」
「…むう。お前と二人きりのときなら、別に昔のまんまでもいいけどよ。坊ちゃん、いるときはマリアって呼ぶなよな!!」
プロイセンはそう言い、神聖ローマの前に立つ。神聖ローマはプロイセンを見上げた。
「…それで、お前はおれに何の用だ?」
帝国内で王号を手に入れたブランデンブルグ辺境伯は飛び地をいくつも所有していた。プロイセンという名はポーランドの一地方の名だ。帝国外の地を手中に収めたことで辺境伯は王号を手に入れることが出来た。それは神聖ローマ帝国が力を失っている証拠に他ならない。ただ皇帝という名の権威だけが自分にある。でもその権威は失墜したと言ってもいい。自分には何の力もない。頼れるものもない。ただ、皇帝と言う威光を帝国外の国に誇張するためにいるだけだ。その為に生かされているのだろう。さて、この少年は既に用済みの失墜した威光に何の用があると言うのか。顔を上げれば、すっと影が下がる。プロイセンが膝を折ったのだと解り、神聖ローマは瞳を瞬き、プロイセンを見下ろした。

「…王号を認め頂き、光栄に思っております」

色素の落ちた旋毛。丸みを帯びた後頭部は撫でたらどんな心地なのだろうか…つまらぬことを神聖ローマは考え、プロイセンの言葉を反芻する。
「…いきなり畏まるな。気持ち悪いぞ」
「そうはいかね…いかない…いかないでしょう…」
「お前らしくもない。本当に何だ?」
顔を上げるように促せば、プロイセンは顔を上げ、神聖ローマの青を赤で見つめる。その赤はあの日見た色と同じように美しい。

「…俺を、騎士として取り立てて頂けませんか?」

プロイセンが何を言っているのか解らず、神聖ローマは瞬いた。
「何を言っているんだ?」
王号を手に入れた今、騎士の称号など必要あるまい。神聖ローマは思惑を探ろうとプロイセンを見やった。
「昔、俺が立派な騎士になったら、あなたに仕えると俺はあなたに言った。俺は国になった。あなたに仕えるに相応しい名も手に入れた。あなたが認めてくれたからだ。だから、俺はあなたに誠心誠意仕えなければならない」
じっと見つめる赤い瞳に嘘はない。また自分を利用してやろうと言う思惑も見て取れない。神聖ローマは溜息を吐いた。
「…そんな約束、お前は覚えてたのか」
「忘れるわけねぇ…ないでしょう。あれが俺の心の支えだったんだ…んです」
初耳だ。あんな言葉を真に受けて、あの子とどもはここまで来たのか。神聖ローマは小さく息を吐いた。
「敬語はやめろ、マリア。お前の敬語は聞き心地の悪さに笑ってしまいそうだ」
「な!、何だよ!人が、頑張って使ってんのによー」
ぶすりと頬を膨らませたプロイセンに神聖ローマは小さく笑い、口を開いた。
「おれの残された命はもう直ぐ尽きる。お前はお前の上司に誠心誠意仕えればいい」
「……それはそうするけどよー。……あー、まどろっこしいのはやっぱ面倒臭い。簡潔に言うぜ」
短い頭髪を掻き毟り、顔を上げたプロイセンは神聖ローマを見つめる。
「ああ。そうしてくれ」
それに鷹揚に神聖ローマは頷いた。一体、プロイセンはどういうつもりでそんなことをわざわざ言うために、人目のつかない古城に居を移した自分に会いに来たのか。知りたいと思う。

「じゃあ、言うぜ。お前の残りの時間を俺にくれ」

意を決して口を開いたプロイセンを神聖ローマは真正面に見つめ返した。
「……何だ、それは?おれにもう権威はないし、利用しようにも既に帝国の実権はオーストリアが握っている。おれに利用価値なぞないぞ。プロイセン」
ああ、プロイセンは名ばかりになった自分を利用しようとしているのか…酷く歪んだ顔をしていたであろうに、プロイセンは目を逸らさなかった。赤い瞳が卑屈に歪んだ青を真っ直ぐに見つめる。
「権威とか何とか、そんなものには興味はねぇ。欲しかったら奪うだけの話だ。ってか、そんなものに縛られるのは御免だ。信じなくてもいいけどよ、俺が単純にお前と一緒にいたいだけなんだ」
赤い瞳がふっと緩む。それを神聖ローマはじっと真意を探ろうと見つめた。
「…聖地を巡って、蛮族と戦って、次の日は生きてるだろうか、その次の次の日、俺はまだここにいるだろうかって、そんな日々がずっと続いていくのが怖かった。でも、弱音なんて吐けなかった。吐ける奴もいなかった。…でも、そんな日に終わりが来てよ…終わらせてくれたのはお前だった。お前が帝国に招いてくれたから、俺はここにいるんだ。お前のお陰で俺は生きてる。念願だった国にもなれた。…だから、その恩に報いたい」
真っ直ぐすぎるその赤を痛いと思う。神聖ローマは未だ膝を着き、自分を見上げるプロイセンの頬に触れた。

「…律儀、だな」

ぽつりと漏れた言葉にプロイセンは誇らしげに笑った。
「それが騎士だろ。ミンネを捧ぐ騎士のように、お前に忠誠誓うぜ。俺は」
「捧ぐ相手が違うだろう。ミンネとは淑女や乙女に捧げるものだ。おれに捧げてどうする」
神聖ローマは苦笑を浮かべ、プロイセンの頬を撫でた。それに擽ったそうな顔をして、プロイセンは目を細めた。
「いいじゃん。俺、お前のこと好きだぜ」
「お前に好きだと言われてもな」
「むー。誰ならいいんだよ。あの子かよ?」
「…あの子か…いや。、もう、おれのことなど忘れてしまったかもしれないな」
そうだったらいいと思う。そうであればいい。
「…神聖ローマ?」
見上げる赤。神聖ローマは柔らかい笑みを返す。

「…後、どれだけ時間がおれに残されているか解らないが、お前が望むなら一緒にいよう」

望まれることが幸福であるならば、望まれないのは不幸なことだ。些細な幸せを死に逝く間際に望んでもいいだろう。


この異端の騎士の願いを叶えることが、終端の王たる自分に出来る最後のことならば。



「…本当か?」
「ああ」



頷いて、その赤に安らぎを見る。

 


ああ、おれが還り、眠る場所はここか。
…悪くはない。




 
神聖ローマはプロイセンの前髪を掻き上げ、その額に口付けを落とした。
 
 



 
 

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