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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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28 . December

史実寄り・国名使用

ナポレオン戦争 
1806年第四次対仏同盟
ベルリン入場

死地を彷徨うプロイセン、ベルリンで名もなき子どもに出会う。






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霙交じりの雨が地上に降り注ぐ。
 
身を切るような冷たさと泥、硝煙の混じり合った死臭が雨に流され、融けていく。薄汚れた軍服は染み出した血で既に重く、地面は血を吸い赤々と汚れて滲む。そして自分も死して、地に還るのだ。
 
…長くも、短い人生だったな。
 
ぼんやりと遠のいていく意識を雨の冷たさが繋ぐ。
 
…坊ちゃんと戦争したときも、死ぬって何度か思ったけど、あんときは親父いたしなぁ…。…でも、今度ばかりは駄目かもしれねぇ…。
 
ベルリンはナポレオン率いるフランス軍に占領されようとしている。今や自分の命運も尽きかけていた。
 
…ホント、マジで有り得ねぇよ。この俺が。

プロイセンは空を仰ぎ、吐息を漏らす。それと同時に軋むような痛みが走り、顔を歪めた。

…1806年…西南ドイツ諸邦の連合体でナポレオンを盟主としたライン同盟が設立。神聖ローマ帝国最後の皇帝となったフランツⅡ世が帝冠を脱ぎ、
 
それと同時に、神聖ローマ帝国は消滅した。

…いや、もうそんな国は随分と前から存在してはいなかった。…成長することを知らず幼いままでいた国はここ数十年、いや百年はその姿すら見せなかった。三十年戦争後、後始末の為に結ばれたヴェストファーレン条約後、神聖ローマを見たものはいない。条約は神聖ローマの死亡診断書だった。国家としての枠組みは条約の前から形骸化し、神聖ローマと言う仰々しい名前だけが残っていただけだ。

…消えんのか。…俺も…。

ナポレオンの覇権が中部ドイツまで及ぶに至って、上司は漸く重い腰を上げ、7月にイギリス、ロシア、スウェーデンなどと共に第四次対仏大同盟を結成し、10月9日、フランスへの単独宣戦に踏み切た。

しかし、10月14日のイエナ・アウエルシュタットの戦いで軍は壊滅的打撃を受け、イエナではフランス軍主力に後衛部隊を撃破され、状況は悪化するばかりだった。アウエルシュタットでは軍主力の2倍の兵力をもってフランスのダヴー元帥率いる軍団に攻撃をかけるが撃退された。已む無く、軍を引いたが容赦なく追撃され、この有様だ。そして、ダウーの追撃の手を何とか逃れ、生き残った兵とベルリンに戻れば、既に王とその家族はケーニヒスベルクに逃れたと言う。

…ルイーゼと王子達が無事なら、いいか。

上司とその王妃はホーエンツォレルン家の中で珍しく仲睦まじい夫婦で家族仲もいい。その中に時折混じり、王妃とその王子達にせがまれて、何度もフリードリヒ大王の話をしてやったことをぼんやりとプロイセンは思い出す。

…ああ、出来ればこんなことには巻き込みたくなかったんだがな。

そう思うが、水面に落ちた雫が描く輪のように戦禍は拡がっていくばかりだ。その戦禍の始末をつけるには最早、自分に力はなく、なすがままに飲み込まれていくしかない。

…あいつがもうちょっと、しっかりしてればな…。…っーか、ルイーゼが王ならな。

美しく聡明。そして、プロイセンを愛していると言う王妃。そして、彼女は戦に赴くプロイセンの身を誰よりも案じていた。

「…プロイセン、どうしても行くのですか?」

「俺が行かなきゃ、誰が指揮を執るんだよ?」
軍服に袖を通し、軍靴の靴紐を結びなおしたプロイセンは、二角帽を脇に抱える。自分を案じる王妃に憂いを帯びた顔をさせるのは忍びなく、プロイセンは強気に笑った。

「大丈夫。フランスなんか俺様の敵じゃねぇよ」

ナポレオンはロシアとの関係の悪化に、プロイセンを味方につけようとしていた。だが、どちらにもつかずな消極的な平和主義に固執した王の態度が、ナポレオンの怒りを買った。進軍してきたフランス軍に名誉を汚されたとした王は無計画に戦争状態へと突入した。…が、今の軍備ではフランスに勝てるかどうか怪しい。それでも、プロイセンは思う。守らなければと。

「…プロイセン、生きて帰ってくるのですよ。あなたは私の愛するプロイセンそのものなのですから」

今、プロイセンという国が立った危機。それを深刻に思っているのは彼女と自分だけだろう。…無事でと祈りを込めたキスを頬に。プロイセンは軍靴の踵を蹴った。

しかし、軍隊を要した国家…と、ヨーロッパ最強の軍隊と言われてきたが旧態依然とし、弱体化したプロイセン軍が破竹の勢いで各国を侵略していく時勢に乗ったナポレオン率いるのフランス軍に敵うはずもなかった。

…まあ、上司は選べねぇしな。今までちょっと恵まれ過ぎてたんだな。…でも、せめて、最後にあのクソムカつくフランスの奴の横面ぶん殴ってやりたかったぜ…。
 
睡魔のようなどろどろとしたものに意識を奪われそうになりながらも、刺すような冷たい雨の所為で、落ちる意識はぐるぐるとと回り続ける。
 
…親父、早く、迎えに来いよ…。
 
祈るように思う。
 
…楽になりたい、と。
 
体は悲鳴を上げることすらやめ、死に近づく静寂を保っている。その静寂が何よりも恐ろしく、目を逸らし、在りし日の、父とも慕った大王の柔らかく温かい手のひらを想う。自分を息子と呼び、自分の為に尽くし、全てを捧げた大王の手。その手の温もりを思い浮かべ、目を閉じ、プロイセンは唇を緩ませる。

…本当はあのときからずっと、この日が来ることを望んでいたのかもしれない。

『…プロイセン、我が主、我が友、我が子よ。…どうか、悲しまないでくれ』

そう言って、先立ったいつまでも忘れられない王を、亡き後もずるずると彼の与えてくれたぬくもりを忘れられずに引きずりながら生きてきた。

…過酷な戦いの中、何度も死の淵に二人で立った。七年間続いた戦争は過酷ではあったが、プロイセンの中で、敬愛し心酔した上司と共に過ごすことが出来た、それはもっとも幸せな時間だった。その至福の思い出の時間を今一度手に入れられるならば…このまま、目を瞑ってしまおうか…。

…親父…。…俺、そっちに行ってもいいですか…?

祈りが通じたのか、不意に頬を濡らしていた雨が遮られ、暖かな何かが頬に触れて、プロイセンは血で張り付いた重い目蓋を開いた。
 
「…親父…?……あれ、神聖…ローマ…?」
 
視界に映ったのは懐かしい深い皺の刻まれた顔で微笑む大王ではなく、異国の地で一度だけ顔を合わせたことのある神聖ローマに良く似た五、六歳になろうかと言う幼子。戦場に似つかわしくない子どもが自分を見下ろしている。頭からすっぽりと被った襤褸から覗くのは金色の柔らかそうな髪、青く澄んだ冬の空の色を映す瞳。…あの小さかった彼は、こんな目をしていただろうか…?それとも、神聖ローマは自分を迎えにきたのだろうか?…プロイセンは目を細めた。
 
「…俺を迎えに来たのか、神聖ローマ?」
「…違う。…おれはそんな名前じゃない」
 
子どもが小さく首を振る。その動きにさらさらと細い金糸が揺れる。子どもの白く柔らかい指先が汚れることも厭わずプロイセンの目蓋や頬にこびり付いた血を拭う。その暖かな体温が触れる頬に徐々に熱を戻していくような温かさを覚え、プロイセンは吐息を漏らした。
「…じゃあ、天使だな。天使だろ。お前が俺を親父んとこに連れてってくれるんだろ?」
「…違う…」
「…違うのか…」
思わず漏れた残念そうなプロイセンの吐息に、子どもは悲しそうな困ったような顔をした。
「…なら、お前、俺に構ってないで逃げろよ。もうすぐ、ここにはナポ公の軍が攻め込んで来るんだぜ」
それは間もなくだろう。自分の命運は尽きかけているのだ。それにこんな小さな子どもを、自分の大事な民を巻き込むつもりはない。
「…嫌だ。…やっと、見つけたのに」
首を振る子ども。それにプロイセンは困ったように眉を寄せた。

「…おれと同じ存在…」

プロイセンの目に子どもの青が落ちる。すとんとその言葉に目の前の子どもが、何なのかをプロイセンは知った。
 
「国家殿!!」
 
それと同時に馬が地を駆ける蹄の音が響く。その音のする方へ視線を向ければ、プルシャンブルーの軍服。馬を降り、駆け寄ってきたのはプロイセンの側近、ヘルマンとその部下達だ。…どうやら、命を拾ったらしい。まだ、親父は俺に来るなと言っているのか…プロイセンは口端を歪ませた。
「国家殿、大丈夫ですか?」
「…おう。何とか、生きてるぜ」
襤褸切れ同然の身体を抱き起こされ、担がれれる。それを小さな子どもは見上げ、プロイセンを仰ぐ。
「国家殿、この子どもは?」
戦場に似つかわしくない小さな子どもを見咎め、ヘルマンは肩を貸したプロイセンを見やる。
「…俺の…そうだな、天使だ。丁重に扱えよ」
この子どもは自分にとって天使なのだろう。自分に生きる意味を与えたのだから。

…親父、俺、お前の遣り残したことをまだ果たせてなかったな。…だから、まだそっちには行けそうにねぇよ。

プロイセンは微笑うと血の巡り始めた神経の戻った重い腕を上げた。
 
「…お前が俺を望むと言うのなら、この手を取れ……。……Ein Reich」
 
迷うことなく子どもは手を伸ばし、汚れることも構わず血に土に塗れたプロイセンの手を取った。
 
 
 
 
 
ああ、これが俺の生きながらえた意味か。
 
 
 
 
 
握り返された手の温もりに新たなる拠り所を見出し、プロイセンは目を閉じた。
 
 

 
 
 
 
 
 
おわり
※Ein Reich(独語)=帝国





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