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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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31 . March


…続いた。

宗教とか色々、史実絡みなので、不快に思ったら窓を閉じるか、ブラウザバックで。
後、浅く本を浚っただけなので、突っ込みどころ満載ですが、目を瞑っていただければ幸い。






拍手[23回]



 

 俺は強くなる。今よりもっと、ずっと。
 


 オーストリア、だから、絶対にシュレジェンは返さない。ここを足がかりに覇権を手に入れ、列強の末席に加わる。俺があいつをまた王にしてやる。お前が持っているあいつのものをあいつに返してもらう。

 俺は、あいつの騎士だ。
 何も怖くない。あの柔らかく小さな手のひらが、俺の手を握り返してくれる限り、俺は戦える。

 守るものがある。

 それは騎士にとって、何とも誇らしいことだ。その為に命を落とすことになっても、俺は悔いなど残さない。

 オーストリア、俺は一歩も引く気はないぜ。
 奪い返したいのなら息の根止める気で、かかってくるがいい。
 微温湯に浸かりきって、他に頼らねば俺一人と満足に向かい合う事も出来ない、戦い方を忘れたお前にそれが出来るのならな。


 向かい合った軍勢。しんと波打った静けさに皆が息を飲み、戦いの合図を…どちらが先に動くのかを見守る。
 プロイセンは空を仰ぎ、蒼天に白く浮かぶ太陽を見やる。一羽の黒鷲が旋回している。それにプロイセンは目を眇め、手を振り上げる。


 
「プロイセン軍は、俺様に続けぇぇぇぇ!!」
 


 怒号。
 軍旗が翻り、丘を下り騎兵が立てる土埃が舞う中、先陣を切って黒馬が駆け抜けて行った。
 
 
 





 馬の嘶く声を聴いた。
 神聖ローマは顔を上げ、窓の外を見やる。


 シュヴァルツヴァルトの古城から、プロイセンが用意したベルリン郊外の屋敷に移り、何年が過ぎたか…。
 プロイセンの王は今や三代目だ。噂に寄ると中々のやり手であるらしい。そして、その王の名は昔、自分が戴いた皇帝の名と同じ。その皇帝は神を信じぬひとであった。

「…ライヒ、お前は神を信じるかい?」

自分にそう問いかけたのは皇帝であった。
「信じている。…だから、おれがいるのだろう」
その問いに答え、見上げた皇帝は小さく笑みを浮かべ、神聖ローマを見やった。
「お前は信じていないのか?」
「信じられるものか。神に仕える聖職者である教皇に私は日々、悩まさせられているのだからね」
溜息とともに吐き出された言葉。皇帝は言葉を続ける。
「神の威を借り、権力を行使しようとする。…宗教なぞ無ければひとはもっと救われるのではないかと思うことがあるよ。でも、為政者にとって宗教は統治の手段だ。同一のものを信じまとまっている者は動かしやすい。破門はされたが、私はキリスト教徒だ。キリストを信じ、神の次に仕えねばならない王が、キリストの名の下、キリストを信じている者を動かすのは容易い。神がそう命じたのだと言えば、彼らは信じるもののために動く。それが正義だと思う。…では、他の神を信じているものを動かすためにはどうしたらいいと思う?」
目を細め、問うてきた皇帝を神聖ローマを見上げる。
「キリストに改宗させればいい。それが出来なければ追放するしかないだろう」
そうすべく自分たちは戦争を繰り返して来た。
「それは、間違いだ」
皇帝は神聖ローマの言葉を否定した。
「何故?」
「押し付けはね、大きな反発を招く。十字軍遠征の散々たる結果がその証拠だと、お前は思わないかい?」
皇帝は神聖ローマを見つめた。
「血を流すのは本当に無駄なことだ。自分にも相手にも何の理もない。残るのは憎悪だけだ。相手を知り、理解し、相手からも自分たちが理解されることが重要だ。共存出来る様に物事を考えれば、無駄に血も流れることもないだろう?」
「…そうだが、あいつらは聖地を蹂躙する蛮族だと聞いたぞ」
「彼らに実際に会って、そう思ったのかい?彼らの考え方は色々と機知に富んで面白い。私はね、別に誰が何を信じていても構わないと思う。それで人々の心が満たされるならそれはそれで良い事だ。宗教的に統一をと考えるから、話がややこしくなるんだよ。宗教は支配に関係ない。それはローマ帝国が証明している。政治的に統一出来ればいいんだよ。同化出来ないものは「外部」のまま「内部」に取り込めばいい。…どうして、皆、それが解らないのか、私は不思議で仕方が無いよ」
目を細めた皇帝は赤いマントの裾を翻す。
「ローマ帝国にはその柔軟性があった。だから、他の国を自分の中に取り込んで、領土を広げてなお、反発を招かずに他民族の領土を支配することが出来た。そして、帝国は平和を保ち、その治世は長く続いた。元は多神教だったと言うことも大きい。でも、キリスト教が入って来た事により変わってしまった。その為に滅びたとも言える。そして、今まで神の座にいた古代の神々は異端とされてしまった。人々の身近にあった神々はその座を追われた揚句、悪魔扱いだ。あんまりだと思わないかい?」
すっと背を伸ばし、皇帝は足を踏み出す。

 彼は今日、血を一滴も流さずにして聖地を奪還し、エルサレムの王となるのだ。

「私はね、またあの帝国を新しく甦らせたいのだ」
晴れ晴れしく笑った皇帝は言った。

「…ライヒ、お前の名に相応しいものを、私はお前に与えよう。お前は誰よりも柔軟であれ。その身に全てを取り込んでなお、寛大で許容できる国であれ。それでこそ、帝国だ」

そう言った彼の皇帝はこの世を去り、その後、混沌が訪れた。自分の頂にもうあのような傑出した未来を見据えた者を戴くことはないのだ。
 



 ああ、最近やけに古い記憶が巡る。そして、抜け落ちていく。
 気が付けば、もう夕暮れだ。

 マリアは今日も、戻らないのだろう。
 深い傷を負わねば良いが。



 神聖ローマは広げられ、ページを捲られぬままの本を閉じた。


 
 


 日はゆっくりと確実に時を刻む。あれから、何日、何ヶ月、何年経ったのだろう。時間の概念が薄れてゆく。古い記憶と新しく蓄積された記憶が曖昧に混濁していく。

 記憶を綴る。忘れないようにしなければ。

 最近付け始めた回想録は混沌とする思索に引きずられ、行が進まない。また、ぼんやりと曖昧に甦る過去に引きずられかけて、いつもはしんと静まり返った屋敷の階下が騒がしいことに気づく。神聖ローマは瞬き、紙面から顔を上げた。

「…戻ったのか」

呟きを待たず、この部屋を目指し駆け上がってくる足音。ノックも無く騒々しく開いたドアに、神聖ローマは紙面を伏せる。血の匂いが濃く鼻に衝く。薄汚れた軍服に血の黒く滲んだスカーフ。片目は布で覆われ血が滲み、足にはボロボロになった包帯が巻かれ、乾いた血が変色しもとは白かったそれを黒く変えていた。
「どうした。その傷は」
「…ん。ちょっとな」
「ちょっとな、ではないだろうが。この馬鹿者が」
まったくこの馬鹿は、おれに怒られると嬉しそうに笑うので始末に負えないな。…神聖ローマはプロイセンにソファに座るように促すと、家人に手当ての準備を頼み、傷口を洗っていく。…負って来た怪我の手当てをしてやりながら、生々しい血の匂いには自分は本当に無縁であったと思う。十字軍遠征も三十年戦争の最中もこの子どもの形の所為で、戦場に立つことは許されなかった。マリアは生れ落ちたそのときから、戦に身を投じて来たというのに。

「…終わったぞ」

「ありがとな」
新しいシャツにプロイセンは袖を通した。…ここ最近、口止めされているのか、または知らぬのか、家人は口には出さないが、マリアはオーストリアと戦争をしているらしい。…何のために?…と、今更、問う気もない。既に自分は亡国なのだ。その証拠に自分が居ずともすべてが万事順調に時間は進んでいる。神聖ローマはプロイセンを見やる。ふっと視線が交差し、交わった色は青。神聖ローマは眉を寄せ、プロイセンの双眸を見つめた。

「…お前の目は」

自分がここに居を移してから、マリアの目の色は日が経つに連れ、赤から青へと色を変えていく。赤いコランダムに青が混じり、その目の色は今や青紫色の目になった。その目も不思議と深く美しい色をしている。傷を負い、疲弊し戻ってきても、マリアのその目はいつも澄み切って濁ることがない。

「目の色は何故、変わった?」

唐突な神聖ローマの問いかけにプロイセンは青紫色の瞳を瞬かせた。
「…あー、なんでだろうな。……目の色はさ、昔は赤じゃなくて、生まれて暫くはこんな色してたんだぜ」
「色が変わるなんておかしいだろう」
「おかしいって、俺に言うなよ。俺が知る訳ねぇだろ。でも、多分、お前がいるからじゃないか?」
「? どういう意味だ?」
「お前が浄化してるんだよ」
「何をだ?」
「俺の罪を」
そう言って、プロイセンは口を噤む。それを神聖ローマは見つめ返し、唇を開きかけてやめた。罪とは何だと問いたかったが、それは問うてはならないのだろう。

「…疲れた。…兄上」

自分を兄と呼ぶようになった、マリア。その響きに今や覚えるのは安らぎだ。神聖ローマはプロイセンの頬を撫でる。
「…なら休め。マリア」
ソファからずるりと身体を滑らせたプロイセンは神聖ローマの小さな膝に頭を凭せる。痛んだ埃っぽく血のこびり付いた髪を神聖ローマは指先が汚れるのも構わずに梳く。それに目を細めると、プロイセンはゆっくりと目を閉じ、寝息を立て始めた。それに神聖ローマは小さく息を吐く。

 愛とは押し付けるものではない。

 愛ではなくとも、押し付けは何も生まない。相手に混乱と反発を与えるだけだ。そんなことに今頃、気づいてももう遅い。過ちに気づくのはいつも後だ。あの子は正しかった。それをおれに気づいて欲しかったのだろう。でも、もう手遅れだ。

 愛とは与えるものだ。

 マリアが言った。神の愛は無条件に人々に与えられるものだ、と。…なら、何故、お前は何も与えられなかったのだ。領土も領民も、何も持たずに生まれた?そして、おれはすべてを与えられながら、何故、領土を領民もいつの間にか失った?…神の愛が無条件に久しく与えられるものならば、何故、ひとはそれに満足しない。争いは何故、生まれる?
 
 信じるあなたのために、おれは戦った。
 そして、何人もの兵士が犠牲になり、地に還った。

 あなたの為に、後、何人、犠牲になればあなたはおれに愛を与えてくれるのだ?
 何を犠牲にすれば、あなたはおれに安らぎを与えてくれるのだ?

 長い戦いは身を疲弊させていくだけだった。いつ終わるのだろう。この戦いが終わるなら、滅んでもいいとさえ思った。そして、何も望まないとあのときに誓った。望めばまた、戦になるだろう。そうすればそうするだけ、あの子の手は自分から遠くなっていく。

『押し付けはね、大きな反発を招く』

ああ、本当にその通りだ。フリードリヒ。お前の言葉の意味が今になって良く解った気がする。

 争いは争いしか生まぬ。
 愛すれば、そこには愛が生まれる。

 マリア、お前の手は温かかった。
 お前だけだった。おれを「国」としてではなく、「個」として必要だと言ってくれたのは。

 愛を与えてくれた。おれはそれを精一杯、お前に返していこう。愛とは与え、それをまた誰かに繋いで、循環し、誰にも久しく平等に巡るものなのだろう。本当は。そんな簡単なことなのに、誰もそれに気づけない。…それにおれは気づくのが遅すぎた。でも、まだお前がいる。

 お前が辛いときには、おれがそばにいてやろう。
 お前が笑うときには、おれも笑おう。
 お前が泣くときは、おれはその涙を拭おう。
 あの子を想うように、おれはお前を愛そう。




 それが、おれに出来る最後のことなんだろう。




 神聖ローマは髪を梳く手を止め、ソファに投げ出されたプロイセンの外套を広げ、その肩へと掛けてやる。束の間の休息に安らいだ顔をして無防備にプロイセンは目を閉じている。それが、愛おしくてならなかった。
 
 






おわり
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