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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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28 . December

※国名・人名使用

1807年 ナポレオン戦争
ティルジットの和約後


病床のプロイセンと子ども。







拍手[13回]




 

…あー、マジでしんどい。
 
何とか国として残ったものの、フランスに身体半分をもぎ取られ、戦争で経済も民も貧窮し、ベッドから起き上がることさえ出来ないほど、プロイセンは疲弊していた。おまけに既に右目は濁り、良く見えず、片目の不自由さに動く気にもなれない。それにまた疲弊感が募り、どろどろと眠りに落ちては、悪夢に魘され、目を開ける。目を開けても光源の明るさも色も解らない。悪夢の延長のような現実と微熱の続く怠るい身体を捨ててしまいたくなるが、そうもいかない。…あのクソワイン野郎にこの屈辱を何倍にもして返してやるのだ。
 
…のど渇いたな。
 
不意に覚えた喉の乾きに、サイドテーブルに置かれた水差しに手を伸ばそうとするが、片目の所為か距離感が掴めない。空を彷徨う手を見かねたのか子どもの小さな手が伸び、水差しからゴブレットへと水が注がれ、プロイセンの口元へと運ばれる。
「…ありがとな」
冷たい水が焼かれた喉を潤し、プロイセンは息を吐く。子どもは小さく頷くとゴブレットを下げ、ベッドサイドの椅子に腰を下ろし、プロイセンを見つめた。
「…いつから、そこに?」
「…プロイセンが屋敷に戻ってきてからだ」
子どもが応える。

東プロイセンへと逃れた王を追ったナポレオンの軍を追い、救援に来たロシアと協力して、ナポレオンをプロイセンは東プロイセン南部の小さな町アイラウ郊外で討つつもりでいた。吹雪はプロイセンとロシアに味方し、地の利に疎いフランス軍を追い詰めた…が、駆けつけたフランス軍の援軍により、形勢は逆転し、敗走を余儀なくされた。その後フリーラントの戦いでプロイセンの臨時首都だったケーニスヒスベルクを占領され、プロイセンは完全に敗北した。
ナポレオンとロシア皇帝アレクサンドル1世の間にティルジットの和約が結ばれた。和約によって、フランスとロシアとの間には協調関係が成立し、プロイセンはエルベ川以西の領土を失ったうえ巨額の賠償金を課せられた。身体半分を失い、自分でも生きているのが不思議なほどぼろぼろの身体でポツダム郊外の屋敷へと戻ってきたのはつい先日のことだ。

「…俺が戻ってきて、何日になる?」

「一週間は過ぎた。……もう、目を、開けないんじゃないかと思った…」
子どもはぽつりと呟くと、プロイセンの額の上、乾いた布切れを手桶の水に浸して、絞る。それでプロイセンの熱く火照った頬を冷やす。その冷たさにプロイセンはほうっと息を吐いた。
「…心配かけたな」
小さな子どもにこんな自分の姿は見せたくなかったが、出会いからして自分は瀕死だったのだから仕方がない。プロイセンの言葉に子どもは小さく首を振った。
「…悪いが俺は暫くはこんな有様だ。ブランデンブルグにお前のことは頼んであるから、あいつに色々、教えてもらえ。…身体が治ったら、…そうだな。俺がお前に戦術や兵法を教えてやるよ」
「解った」
子どもが頷く。でも、この部屋から出て行く気はないらしく、温和しくプロイセンを子どもは見つめている。それに居心地の悪さを覚える。…この年頃の子どもなどどう扱っていいのか、解らない。
「…そういや、天使、」
この子どもにはまだ名前がない。「ライヒ(帝国)」と呼んではみたものの、それは時期早々な気がする。プロイセンは唯一、自由になる片目をきょろりと動かした。
「…天使じゃない」
「天使だろ。瀕死の俺様をお前は助けてくれたんだからな」
プロイセンの言葉に子どもは子どもらしからぬ複雑な顔をした。
「プロイセンを救ったのは、お前の部下だ。おれじゃない」
「まあ、そうだけど。…俺、お前いなかったら、多分死んでた…いや、今も死にそうだけど」
喋るのはしんどい。でも、目を閉じれば悪夢に魘されそうだ。プロイセンは会話を続ける。
「…なあ、天使。お前、俺でいいの?」
「天使ではないと言っているだろう。いいとは何がだ?」
愛らしい、それこそ天使のような声をしているのに子どもの喋り方は老成した大人のようだ。それが可笑しく、プロイセンは口元を僅かに歪めた。
「…俺はこのままくたばるかもしれねぇ。…今なら、オーストリアの腐れ坊ちゃんとことか行けるぜ?」
「…不吉なことを言わないでくれ。おれはオーストリアの世話になるつもりはない」
「何でだよ?坊ちゃんとこは認めたくねぇが、大国だぜ?」
「…オーストリアでは駄目だ。おれは、…強くなりたいんだ。…昔、守れなかったものを…守れるように…だから、」
子どもの青が空色に揺らめき、また冴えた青に戻る。一瞬、子どもの顔に遠き昔、イタリアの晴れ渡った空の下、皇帝の傍らに立つ黒いマントを羽織った小さな子ども。その空を見上げていたた子どもの目はその空のような青い色をしていた。この子どもはやっぱり、神聖ローマなのではないかとプロイセンは思う。
「…約束したんだ……でも、誰とだった…のかな?…なんで、おれ」
「んで、天使は腐れ坊ちゃんじゃなくて、俺を選んだんだな!流石、天使、見る目が、…ケホッ」
何やらぐるぐると回り始めた子どもの意識を断ち切ろうと、プロイセンは声を張り上げて、咽る。それに子どもは我に返ったように立ち上がると、咽るプロイセンの背中を撫でた。
「いきなり、大きな声を出すな」
「…ハハハ」
子どもは眉を寄せる。その顔に先程まで揺れるようにして現れた青はない。それにひっそりとプロイセンは胸を撫で下ろした。

…生まれ変わって、神聖ローマとしての記憶を失っているのだとしたら、思い出さない方がいいだろう…。苦しいことばかりだっただろうしな…。

神聖ローマが弱体化していったのは、自分にも責がある。でも世は弱肉強食…弱いものは強いものに食われるのがこの世の理だ。

「天使」
「天使ではないと、何度言えば解るんだ」
ベッドに膝をつき、睨む子どもの髪をプロイセンはぐるぐる巻きに巻かれた包帯の重い腕を持ち上げ梳く。それにびくりと驚いたように子どもの身体が硬直する。それを構うことなく、プロイセンは柔らかで今の自分の目には眩しい金を梳いた。

「…ルートヴィッヒ」

びくりとまた子どもが身体を震わせる。プロイセンはそれに笑みを零す。…ああ、こんなに穏やかなやさしい気持ちになったのは、いつぶりだろうか?さらりと落ちてゆく金糸に思う。
「…今はまだ名前は付けてやれない。でも、近いうちにちゃんとした名前を。…俺のライヒ」
「……解った」
恐る恐るといった感じに子どもが手を伸ばし、プロイセンの身体を抱きしめる。プロイセンはそれに目を細めた。…が、
「…お、お父さん…」
ぎゅっと抱きついてきた子どもが漏らした言葉にプロイセンは目を見開き、絶句した。
「え?!」
思わず、プロイセンはばりっと子どもを引き剥がした。
「…今、なんて?」

「お父さん」

「……それは、やめて!」
結婚した覚えもなければ、子どもを作った記憶もないのにそりゃねえぇだろうとか、そんなの目も当てられねぇ。…ってか、冗談だろう?
「何故だ?」
子どもは不思議そうな顔をして訊いて来る。
「いや、俺とお前じゃどう見ても、ちょっと歳の離れた兄弟にしか見えないだろ」
子どもの肩を掴む。掴まれた子どもは困ったような顔をした。
「……そうか?…じゃあ、なんてプロイセンのことを呼べばいいんだ?」
「…好きに呼べ。お父さん呼び以外なら、何でもいいぜー」
「…むう。そう言われても困る」
子どもが眉間に皺を寄せる。その顔を見て、やはり似ていると思うが、ここにいるのは新たなる国だ。その生まれたばかりの国は真剣にプロイセンをどう呼ぶかを考えている。それが可笑しくて、プロイセンの口元には自然と笑みが浮かぶ。
「…兄さん…と、呼んでもいいだろうか?」
子どもの窺うように上がった青に、プロイセンは頷く。それに、子どもの固かった表情が融けて、ふわりと緩む。

「…兄さん」

やっぱり、天使じゃねぇか!…プロイセンに思わずぎゅっと抱き締められた子どもは驚いてあたふたと慌てふためいたが、プロイセンの傷に触らないように気づかいながら、身体を預けてきた。
 
 
 この子どもに、名前がつくのはプロイセンを主体とした22の領邦からなる北ドイツ連邦の成立を待つことになる。
 
 
 
 
オワリ
※wiki引用





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