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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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18 . April



傍目普日で、寝床の中は日普。

でも前半、切なげ。




拍手[13回]





長い出張から漸く、家路に着いて。日本は深い溜息を吐く。空を見上げれば、日は暮れつつある。長期出張になるからとぽちくんは知人に預けているので、家に帰れど待つ者はない。それが何だかひどく悲しく思えて、疲れが一層酷くなる。家路を急ぐ足に、風が頬を撫でる。

 ふと急ぐ足に赤が映り、日本は立ち止まる。

「…紅花翁草…アネモネですねぇ」

プランターに植えられた花に気付き日本は足を止める。その赤を見て思い出すのは、プロイセンの赤だ。
「…元気でしょうか…」
プロイセンが桜を見に来たのは三月の終わり。四月に日付が変わるや、帰ってしまった。それから半月も経っていないと言うのに、また会いたいと思う。あの白い肌にこの花のような赤を付けたいと思う。

 寝床の中で、強がりながらも震えるあのひとが堪らなく愛おしい。傷だらけの指先がそっと自分の背に恐る恐る回される度に、この胸が打ち震え興奮していくのを、あのひとは知っているだろうか。

「…どうしようもないですねぇ。いい歳をして、初恋とか本当に有り得ませんよ」

その上、一目惚れと来たものだ。片や、欧州の大国。片や、東洋の片隅の島国。並ぶことすら出来ないほど、遠い存在だった。はかない恋、実らぬ想い、望んではならないと自分に言い聞かせて来た。それでも、やはり望んでしまった。

 …あなたが、気を許すから。やさしい顔をして笑うから。こんな、私のような欲張りにやさしくするから、勘違いしてしまう。

「好き」だと言って、それにあのひとは目を見開いて、はにかんだ。「俺も好きだぜ」そう言った。それは、親愛の情で望んでいた言葉ではなかったけれど、嬉しかったのだ。嬉しくて嬉しく、私はもっとあなたを好きになってしまった。

 手段は選んでいられなかった。私とあのひとを隔てるものはいっぱいあった。そして、時勢は残酷で、私とあなたは会うことも出来なくなった。

 あなたと再会出来たのは、20年前。

必死の想いで、想いを告げて、ぐしゃぐしゃな顔になってしまったみっともない私にあのひとはあのときと同じようにはにかんで、額にキスをしてくれた。

「…君を愛す。…恋の苦しみとはなんと甘く苦い」

 アネモネの花言葉。

離れてしまえば、この胸を掻き毟られる。傍にいれば、それだけで良くなる。ああ、あなたに会いたい。

「…プロイセン君、会いたいです」

望めばいつだって会えるし、声を聞くことさえ容易くなった。それでも、やっぱり、直に触れ合いたいと想う。

「…プロイセン君」

ぽろりと切なくなって、涙が落ちる。それはぽたりと赤い花弁を広げた花の上に落ちた。

「…呼んだかよ?」

呟きに返事が返ってきて、日本は振り返る。赤いパーカを羽織り、スポーツバックを肩に担いだプロイセンがそこに立っていた。
「…夢でしょうか。…私にもイギリスさんみたいに幻覚が見えるようになったんでしょうか?」
「お前、それ、イギリスに言うなよ。…ってか、お前、何、泣いてんだ?何か、嫌なことでも…うお!」
抱きついてきた日本に数歩よろめいて、プロイセンは足を踏ん張り、受け止める。小柄な身体はすっぽりと腕に収まった。
「…どうしたよ?」
肩をあやすように叩けば、懐くように日本はプロイセンの胸に顔を埋め、頬を摺り寄せた。そして、二人きり抱きついて、寝床で嗅ぐ、プロイセンの薄い体臭に日本は息を吐いた。
「お会いしたかった」
「ん。俺も。だから、会いに来てやったぜ」
どうも最近、我慢が出来ない。プロイセンはそう言って、日本の濡れた頬を撫でた。
「お前って、意外に涙腺緩いよな」
「歳を食うと涙もろくなるんです」
すんっと鼻を啜って日本はプロイセンを見上げる。

「アネモネだな」

プランターの花に気付いて、プロイセンは赤を細めた。
「…花言葉をご存知ですか?」
「知らない。花の名前も公園の花壇の案内見たから知ってるだけだしな」
「…花言葉は、期待、儚い夢、真実、固い誓い、嫉妬の為の無実の犠牲。色によっても違いますが、赤は、」
日本はプロイセンを見つめる。

「君を愛す」

日本の口から零れた言葉にプロイセンは瞬くと、手のひらで顔を覆う。ああ、ううっと言葉にならない言葉を漏らして、空を仰ぎ、溜息を吐いた。
「お前、出会い頭にそれは卑怯だろ!…ってか、フランスじゃあるまいし、何だよ。もー」
指の隙間から覗く頬が赤い。照れているのだと解り、日本は頬を緩めた。

「…私が想うように、プロイセン君が私を想っていると思ってもいいでしょうか?」

頬に熱りを残し、プロイセンは日本を睨み、乱暴にそれでも手加減して日本をど突く。

「んなの、いちいち訊くな!」

急ぎ足で日本の自宅へと歩き始めたプロイセンの後を、日本は駆け足で追う。立ち止まり振り返ったプロイセンが、差し出したその手を嬉しそうに日本は取る。

 

 それを見送り、風に揺れた赤い花がくすりと微笑った。

 

おわり



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