「…マリア、重いぞ。寝るなら、ベッドに戻れ」
本を読んでいたらいつの間にか寄ってきて膝に懐いて離れないプロイセンを神聖ローマは小突く。小突かれたプロイセンは眠そうに目蓋を擦った。
「…じゃあ、一緒に寝ようぜ」
「いい歳して何言ってるんだ、お前は馬鹿か?一人で寝ろ」
「…お兄様…冷たいぜー」
邪険な神聖ローマの言葉にぶうぶうと唇を尖らせる様はどう見ても子どもだ。形に中身が追いついていないと神聖ローマは思い、溜息を吐く。それにしても邪険にしてもめげることなく、プロイセンが自分に懐きあれやこれやと世話を焼きたがる理由が解らない。…プロイセンにとって自分が持つ形ばかりの権威など価値もないに等しいそれをも必要ない、いらないと言った。…果たして自分はプロイセンにとってどれほどの価値があると言うのか…。
「…マリア、寝るな」
うとうとと余程、眠いのか目蓋が落ちる。色素の褪せた睫の下の赤い瞳は融けそうな色をしている。熟れた果実のようだ。その赤を舐めてみたい。不意に湧いた欲望に神聖ローマは瞳を瞬いた。
(…何を馬鹿なことを。甘いわけでもあるまいに…)
それを打ち消すように頭を振って、プロイセンを見下ろす。赤は融けそうな色をして神聖ローマを見つめている。
「…マリア」
「…んー?」
今にも目蓋が落ちそうだ。神聖ローマはプロイセンの頬を撫でる。
「…お前の目は、甘くて美味しそうだ」
擽ったそうに眉を寄せたプロイセンは撫でられたことが嬉しかったのか、赤を緩ませた。
「…なめてみっか?」
ゆらゆらと赤が揺れる。それに誘われるように神聖ローマはその赤を見下ろし、顔を近づける。目元を撫でると反射でプロイセンは目蓋を閉じ、伺うようにそっと目蓋を開く。薄く水の膜を張った赤い飴玉。神聖ローマは落ちる睫毛の先に触れ、舌を突き出す。その舌を目に留め、プロイセンは吐息を漏らして弛緩する。突き出された柔らかい赤い舌先が潤んだ眼球の上をぬるりと滑った。
「…んっ」
何とも言えない感触にプロイセンは身を捩る。歓喜にも似た何か。ぞわぞわと背筋を駆け抜けていく。
(…やば、い。…きもちが、いい…)
神聖ローマに触れられると、どこを触られても気持ちがいい。勝手に身体が弛緩して、何もかも許してしまう。触れられるだけで、歓喜に息が詰まる。その息を逃せば、眼球をひと舐めした赤い舌が小さな音を立てて離れていく。目元を拭われ、プロイセンは神聖ローマの唾液に濡れた瞳を瞬いて、ぼんやり見上げる。神聖ローマは眉を寄せていた。
「…あまかったか?」
「…しょっぱい」
神聖ローマは答えて、プロイセンの赤を見つめる。
「…俺の目玉はしょっぱいのか…」
甘かったら、融けるほどに舐めて欲しいと思う。…そんなことを思う自分に、苦笑して、プロイセンは目を閉じる。そのうち寝息が漏れ始め、神聖ローマは眉間に皺を寄せ小さく呟いた。
「…甘かったら、ずっと舐めていたくなるだろうが…」
舌に残るは塩分を含んだ何か。胸が微かに疼くようなその味に、もう一度と誘惑に駆られるのを溜息を吐くことで逃がして、プロイセンの頬を撫でると神聖ローマは広げられたままの本を閉じた。
おわり