忍者ブログ
「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
04 . April
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

19 . December

 3瞼:憧憬 (親父)
「ラスト・ワルツ 3」

三部作最終章。
年内に取り敢えず完結できて、ほっとしている。
 





拍手[8回]



「ラスト・ワルツ 3」
 
 
 
 
「…風が出てきたな」
 
春になったとは言え、朝夕は冷える。プロイセンは手にしていた膝掛けをフリードリヒの膝へと掛ける。それにフリードリヒは目を細め、日が暮れ、閉じ始めた花に視線を移した。それを見やり、プロイセンは口を開く。
「中に戻るか?」
「いや、後少し…。戻りたければ戻っても良いのだぞ?」
「ばか。置いていけるかよ」
プロイセンは言葉を返し、色とりどりの鮮やかな五月の新緑に彩られた庭を一望する。七年戦争前に着工し、戦後に完成した夏の離宮にフリードリヒは「サンスーシ」、「憂いなき宮」と名を付けた。思えば、フリードリヒが即位してから、七年戦争の終結まで、波瀾万丈。この王は心休まる日などなく、国の為に、国民の為に尽くしてきた。
 
「王は国家第一の下僕である」
 
即位式での宣誓に偽りはなかった。フリードリヒの代になり、プロイセンは文化、工業と大きな発展を遂げた。全ては王独りの手腕によって、成し遂げられた偉業。オーストリア、フランス、ロシアと大国に挟まれた小国が欧州に名を馳せ、大国に並ぶなど、誰が想像しただろう?すべてはこの王のたゆまぬ献身があったからだ。その献身は王の体を犠牲にした。襤褸襤褸に体を壊しながらも、王はそれでも、この国の行く先を案じ、憂いを残さぬよう心を砕き続けている。
 
 ただひとり、心から愛する彼女のために。
 
「…後は他の奴に任せてさ、お前のやりたいことをやれよ。音楽会とか、知識人を集めた茶会とか、お前、好きだろ?」
吹いた風にプロイセンのかすれた声が乗る。それにフリードリヒは小さく笑った。
「私は、これ以上にないほど好きなことをさせてもらっているよ」
「…嘘つけ。フルートが一番なクセに」
幼少の頃、手解き受けたフルートはフリードリヒ、生涯の友となった。父と諍いを起こしたとき、悲しいことが遭ったとき自分を支え、慰めをくれたのはフルートだった。
「それ以上に、私には大切なものがある」
車椅子の押し手を掴むプロイセンの指先にフリードリヒは触れる。それにプロイセンは眉を寄せ辛そうに顔を歪めたが、前を向くフリードリヒには見えない。悟られぬよう、プロイセンは息を潜めた。
「…俺のことは、お前が今まで本当に良くやってくれたから、もう大丈夫だ。…たがら、自分のことだけ考えろよ…」
その気持ちだけだけで十分だ。何もいらない。もう受け取れない。近づく最期の時に彼が悔いなく、穏やかにあればいいと願う。誰よりも近くに、傍にいて、フリードリヒの惜しむことのない無償の愛を甘受してきたからこそ、最後は、プロイセンの為ではなく自分の為に時間を使って欲しかった。
「前にも言っただろう?君に尽くすことが、無上の私の喜びだと」
「…もういい。お前は俺が受け取れないぐらい尽くしてくれた…」
触れられた指先が震えるのを、知られてしまっただろうか?フリードリヒに触れられる度に震える心を。…フリードリヒといる間に、長年何事にも揺るぐことのなかった自分の心は酷く弱くなった。脆くなった。目前に迫ったこの王が天へと召される日が怖い。何よりも恐ろしい。来たる日に残される自分が、フリードリヒを失い、取り乱さずにいられるのか、気が狂わずにいられるのか、プロイセンには自信がなかった。
「君が何を思っているのか解らなくないが、私は君の王となってから、今まで、自分の望むことだけをしてきたつもりだ。それに君は良くついてきてくれた」
「…当たり前だろ。俺はお前の忠実なる僕だ」
「…そして、私の王でもある。…君は、絶対にぶれない。それに私は何度も掬われた」
七年戦争中、母が亡くなり、最愛の姉の死に向き合い、コリンでの敗戦から窮地に追いやられ、自身の自死で疲弊するばかりの戦いに終止符を打とうと試みたことがあった。それを止めたのはプロイセンで、窮地にあっても揺るがぬこの苦境を戦い抜くのだと強いプロイセンの意思は、一度揺らぎ諦めかけたフリードリヒをこの世界へと繋ぎ止め、最終的ににはこの戦争の勝者として、生き残らせた。
「それは、俺もだ!…ってか、もー、辛気くさい話はやめろ!」
淡々とした言葉は迫る死期を思わせるようで、プロイセンはフリードリヒの言葉を遮った。
「振ってきたのは、お前だろうに」
「振ってねぇ!日も暮れてきたし、帰るぞ!」
無理矢理、話を切って、プロイセンは車椅子を押す。それにフリードリヒは小さく笑う。春が終わり、夏が来ようとしている。…巡り過ぎ行く日々が今は怖い。いつかは訪れる死神の跫音を恐れて、プロイセンは顔を歪め、唇を噛んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 八月に入り、昨年初秋のシュレージェンの大演習の統監に寄って、フリードリヒの健康は著しく損なわれ、持病の悪化もあり、動くことすら困難になり、日々の諸般の政務を安楽椅子に凭れたまま、こなすようになっていた。プロイセンはそれを心配し、床に着くように嘆願したが、フリードリヒは聞き入れず、自身からプロイセンを遠ざけるようになった。
「如何に君と云えど、私が私の体をどう使おうが、私の勝手だ。邪魔はさせない。聞き分けてくれ」
「そんな襤褸襤褸で、何が出来るってんだ!さっさと床に着け」
互いに強硬姿勢で譲らず、先に溜息を吐いたのはフリードリヒだった。
「私には時間がない。…君が一番それを解っているはずだ」
ずっと寄り添い、一緒に居たからこそ、残された時間があまり長くないことは解っていた。それでも、ほんの数秒でもいい、最期になるその瞬間を引き伸ばしたいと望んでいる。プロイセンはぼろりと涙を零した。
「そんな、こと、解ってる!…だからっ、」
嗚咽が込み上げ、息を殺して、プロイセンはぐいっと袖口で乱暴に目元を拭う。それをフリードリヒは穏やかな表情で見つめ返した。
 
「…私が死んでも、続いていく君の歴史に私の名は残る」
 
赤く擦れたプロイセンの目元を老いた指先が撫で、その指先をプロイセンの涙が濡らした。
「…私はずっとどうやったら、君の中に深く、自分を残すことが出来るのかを考えて来た。そして、これがその長考の答えだ」
 
生の永遠を願うのは錬金術でも不可能だ。ならば、別の方法で永遠を得れば良い。続いていくこの国の歴史に、記憶に自分の名を刻む。君の名声とともに私の名が残るならば、私の肉体は滅びても、君と私が積み重ねてきたものは君の中で生きていく。別れる訳ではない。私はただ、君に還るのだから。
 
ぼろぼろと溢れ溢れる涙はフリードリヒの指を濡らし、衣服に落ち、染みを増やしていく。それを愛しげにフリードリヒは見つめ、プロイセンの短い髪を撫でた。
「私はもっとも君を愛し、君に愛された王として、後世に名を残すと決めたのだ」
「…ばか、恥ずかしんだよ。…話、擦り替えんなよ…」
「擦り替えてなどいない。泣かないでくれ、プロイセン。君の泣く顔など見たくはない。そして、誰にも見せたくはない」
「…勝手に出てくんだ。しょうがないだろっ…。泣き止むまで後少しかかるから、お前はペン握るの止めて俺の頭でも撫でろってんだ!」
有無を言わさずフリードリヒの膝にプロイセンは顔を伏せる。それにフリードリヒは苦笑すると、短いプロイセンの髪をそっと梳いた。
「プロイセン、」
「…何だよ?」
 
「髪はもう伸ばさぬのか?」
 
髪を切ったのは、「決意」だとプロイセンは言った。戴冠式のあの日から、プロイセンは微かに残っていた女であることを捨て、男らしく振る舞うようになった。切られた髪はその証だった。自分がそう彼女を追い詰めた。そばに居て欲しい、愛してると言う言葉を「国」としては受け入れても、「女」としては私の愛を彼女は受け入れなかった。それは、王妃クリスティーネへの配慮がそうさせ、彼女の「国家」としての立場が踏み出すことを思い留まらせた。
 
「…もう、伸ばさない。手入れ、面倒だし…」
「…そうか。残念だ。お前の髪は美しかった。私は今でもあの夜を夢に見る」
 
フリードリヒは目を閉じる。プロイセンの手を取り、円を描いた最初で最後のワルツを。
 
「…俺も、たまに見る。…お前だけだろうな、こんな男女とダンスを踊りたいなんて言う馬鹿は」
「私以外の男の手を取ってはいけないよ。プロイセン」
「変わり者のお前以外、誰が俺にダンスを申し込むって言うんだ?」
「私以上の変わり者が現れるかもしれない」
「そのときは、踊れないって断る。変わり者はお前だけで十分だぜ」
 
他愛のない応酬。殺るか、殺られるかの死地を乗り越え、共に過ごしてきた関係は何ものにも代えがたい関係へと昇華した。もう、何も言わなくてもいい。最後に伝える言葉も必要ない。ただ、願うのは……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 1786年8月16日。
 
 
 その日、長年、フリードリヒを苦しめた病魔はフリードリヒの気力を圧し、屈服させた。声を発することも出来なくなり、高熱で呼吸も困難となり、意識は朦朧とし、呼ばれた医師も手のうちようがない様となった。
 
「死期には立ち会ってくれるな。君を苦しませるのは忍びない」
 
フリードリヒが言ったその言葉を聞かず、フリードリヒの周囲を慌ただしく行き来する侍従たちを部屋の片隅から、プロイセンは見つめる。…フリードリヒの言いつけを破り、自分に課していた禁さえ破った。
 
 上司の死には立ち会わない。
 
 最初の上司が死んだときに、心を疲弊させないためにそう決めた。人の生は短く儚い。半永久を生きていく自分の前で繰り返される生と死に一喜一憂することは、精神を疲弊させる。どこかで折り合いを付けなければ、「国」としての存続など出来ない。解っていても、これはけじめなのだと、プロイセンは自分に言い聞かせる。
 本当はこの部屋を逃げ出して仕方がない。死神が愛した人の枕元で鎌を振り上げ、その鎌を落とす瞬間を誰が見たいと思うものか。それでも、見届けなければ、後悔する。この想いを引きずることになる。…唇を噛み締め、指を組み、祈る。せめて、最期は悔いなく、苦しむことなくフリードリヒが天へと旅立てるようにと。
 
「…国家殿、」
 
声を掛けられ、プロイセンは顔を上げた。侍従たちが床に伏す王の前、プロイセンの為に道を開ける。プロイセンは促されるまま、王の枕元へと歩み寄った。
 
「…フリッツ」
 
プロイセンの呼びかけにフリードリヒは重い瞼を開き、既に濁った青をプロイセンへと向けた。それにプロイセンは泣きたくなるのを堪え、微笑を浮かべた。
 
「お前に会えて良かった。私は幸せだった。フリッツが私の王で本当に良かった」
 
「愛してる」と最期に告げることが出来るのならば、どんなにいいだろう。その言葉をフリードリヒが望んでいることを知っている。その言葉を口にすることは憚られた。せめてもの想いを込めて、プロイセンはフリードリヒの手を取る。プロイセンのその手をフリードリヒは解っていると微かに力を込めて握り返した。
 
「フリッツ…」
 
ふっと息が乾いた唇から漏れ、瞼が落ちる。その瞼にプロイセンは最初で最後の口づけを落とす。フリードリヒの口元が安堵に緩むのを見届け、プロイセンは立ち上がった。
 
「…御逝去されました」
 
脈を慌ただしく取った医師が静かに告げる。
 
 
 
 日付の変わった夜半、フリードリヒは静かに息を引き取った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 月は代わり、九月。
 偉大なる王を送る盛大なる葬儀がベルリンで営まれている。
 
 プロイセンは別れは済んだと、葬儀には参加せず、フリードリヒの生涯の大半を過ごしたポツダムのサンスーシの執務室のドアを開いた。
 主のいなくなった執務室は静かで、プロイセンは執務室の椅子の背凭れへと掛けられたままの赤い裏地の青いマントを手に取り、その身に羽織ると深い息を吐いた。執務室の机の上は執務が困難となった前夜までの書類がそのままに、乾いたペン先の羽ペンが転がっている。お気に入りのシュレージェン産の緑石英でつくられた嗅ぎたばこの箱。未だに残るフリードリヒの気配にプロイセンは目を伏せる。伏せた赤に、その目に劣らぬ鮮やかな赤が映る。僅かに開いた机の引き出しから見えるもの。プロイセンは引き出しの取っ手に手を掛ける。
 
「…これ、あのときの…」
 
白いドレスと共にフリードリヒから贈られ、あの夜、フリードリヒが拐っていった赤い薔薇の髪飾りがそこにはあった。
 「…こんなもの、後生大事に取っとくものじゃないだろ…」
 その髪飾りを短い髪へとプロイセンは飾り、背筋を延ばす。主を失った部屋、プロイセンはすっと指先を宙へと差し出した。
 
 ドレスの代わりに、マントの裾が翻る。
 
 聴こえるのはあの日、聴こえたオーケストラの奏でるワルツ。フリードリヒの思い詰めたような青と冷たい指先。
 
 
『君を愛してる』
 
 
あの日言葉にはしなかった、フリードリヒの見つめる青に込められたその想いだけが、プロイセンの中でゆらりゆらりと回る。
 
 
「私も、あなたを愛してる…」


返すことも、言葉にすることも出来なかった想いが溢れだし、愛しさに胸が詰まる。きっと、忘れることなど出来ない。その身の全てを捧げ、愛し、形のない永遠を約束してくれた彼を。
    
 
 プロイセンはマントの裾を取り、一礼する。
 彼とふたり、ずっと踊り続けてきた最初で最後のワルツが終わった。





 
 







 
 
 
 
PR
NAME
TITLE
TEXT COLOR
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Schalter
mail
メールアドレス記載の場合はメールにて、記載が無い場合はサイトにてお返事いたします。
P R
ACT
Powered by NINJA BLOG  Designed by PLP
忍者ブログ / [PR]