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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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12 . March


春なので、爺と普に恋してもらった。
日普でも、普日でもどちらでもお好きな解釈で。







拍手[29回]



 


薄い色をした花びらがひらひらと。

 それを飽きるでもなく見上げ、プロイセンは暫し惚ける。花びらがひらひらと緩やかに吹く春風に乗って踊る光景は見たことがない。剥き出しの固められた地面に落ちた花びらが風に煽られ、宙に浮くのをただひたすら赤い目は追う。

「…きれいだ」

こんなに美しい光景は長いこと生きているが見たことがない。美しいもの、きれいなもの、随分とこの目で色々と見てきたが、それはどこか人工的な美しさで、こう圧巻されるようなそこにある自然が生み出す一度きりの美しさはどこかせつなく儚い。すっと落ちて来る花びらを掴もうと手のひらを差し出すが、腕の動きだけで軽いそれはひらりと逃げてゆく。

 強く、風が吹いて、それに目を眇める。

短い髪が風に煽られ、細めた赤を瞬く。足元から白い花びらが上へと舞い上がる。

「…っは、」

感嘆に漏れた声は言葉にはならず、風は止み、一瞬の出来事に暫し呆然としながら、プロイセンは頭上、白い花を重く枝につけた桜の木を見やる。その幹は太く、枝は視界を覆うように張り、風が吹くたびにひらりひらりと花びらが落ちる。そっと自分の鼻先まで伸びた枝に指を掛け、その花の淡く薄い香りを鼻腔に吸う。

「…お前、いい匂いがするな…」

プロイセンは目を細め、その枝を離すとまた風が吹いて、花びらを散らした。淡い香りが一瞬、濃くなったような錯覚。赤を瞬くとこちらを見つめる一対の黒に気付いて、プロイセンは口元を綻ばせた。

「…よう、久しぶり。お前が来て下さいって言うから、来てやったぜ?」

樹齢千余年の桜の下、随分とこの桜に懐かれたらしい花びらをあちらこちらに纏わせたプロイセンは日本に気付くと、きれいな顔でにこりと微笑う。…濃紺のフロックコート姿ではなく、白い水干だったならば、この桜の樹の精ではないかと思わせるほどに。…日本は弾ませた息を飲み込み、口元を綻ばせた。

「…いらっしゃるなら、連絡して下されば横濱までお迎えにあがりましたのに」

髪に肩に、腕に、あらゆるところに花びらを懐かせたプロイセンが日本の元へとやって来る。ふわりとプロイセンの動作に合わせるように舞う花びらに日本は目を細めた。
(…ああ、このひとは本当に美しい…)
欧州での出会いから、その認識は日本の中で変わることはない。
「お前も色々、忙しそうだからよ。…まあ、明日には挨拶に行こうと思ってたんだ。…でも、お前、情報早いな。俺、今先、こっちに着いたばっかだぜ?」
「ドイツさんから、書簡を頂き、あなたがこちららにいらっしゃることは、早々と知っておりましたので。船が着くのは横濱だとは解っていましたし、まだかまだかと…お待ちしておりました」
「…何だ、知ってたのかよ。折角、お前を驚かせてやろうと思ってたのによー」
プロイセンは口を尖らせる。それに日本は微苦笑を浮かべた。
「驚いてますよ。…お会いするまで、本当にこんな辺鄙な島国にいらして頂けるのかと、半信半疑でしたので…」
「辺鄙じゃねぇだろ。オランダ辺りから流れてくる情報で昔から、お前の国のことはちょっと知ってたけどよ。…来て見て、何て言うか、びっくりした」
「びっくり?」
「木が多い、草木も多い。空気が何か、向こうとは違うな。澄んでる。皆、何か笑ってるし、幸せそうだ。小さい川に魚が泳いでるのなんか見たの、久しぶりだ。水がきれいで、沿道はゴミひとつ落ちてねぇし、道端のなんだっけ、石の人形みたいなヤツに花とか、何か食いもん?みたいなのが置いてあってよ。それを年寄りが拝んでて、その横で子どもが同じように手、合わせててよ。何してるんだって聞いたら、沿道を往く人たちが無事に目的地まで行けるようにオジゾウサマにお願いしてるんだって!あらゆるところにこの国には小さな神様がいるのよって、年寄りが言ってた。お前の国はどうなってるんだよ?本当、すげぇな。…道中は異人が珍しいのか、お前の国民はおっかなびっくり俺を見てたけどな。んで、沿道に咲く花が見たことない花できれいだから、馬を降りて見てたらよ、子どもがさ、怖がりもせずに寄って来てよ、「異人さんのお目々と同じよ」って、硝子玉くれた!」
一気に語って、プロイセンはコートの内ポケットの中から、ハンカチに包んだそれを取り出して、宝物のように広げて見せる。小さな赤いビー玉は嬉しそうに笑う赤と同じ色をしていた。
「師匠の目と同じ色ですね」
その目の色を美しいと思う。見る者に寄って、その目は恐ろしくも、優しくも色が変わる。
「きれいだろ。帰ったら、ルッツに見せて自慢するんだ!」
子どものように無邪気に笑って、いそいそとそれをまたハンカチに包んで、プロイセンはポケットに仕舞うと日本を見つめた。
「…それと、サクラ、とてもきれいだ。こんなの欧州じゃ見たことねぇ」
「気に入っていただけましたか?私のところでは春の訪れを知らせる花なんですよ」
「うん。すげー、気に入った。見てて飽きねぇ、ふわふわ、風に揺れるのが面白ぇ。…後、なんつーか、控えめによ、私はここに居ますよって香るのがお前んとこの花って感じがして、いいな」
…このひとは、なんて顔をしてこの心臓を止めてしまいそうになる言葉を口にするのだろう。…目を細めて微笑うプロイセンに、告げられぬと、忍ばせた想いが幾重にも鍵を掛けた箱の中から溢れ出す。
「…私の好きな花なんです。…気に入って頂けて、良かった」
「お前の好きな花か。覚えとく。俺も好きになった」
「…はい」
その言葉に胸が締め付けられる。
(…ああ、私は本当にこのひとが…)
「国」であるとか、色んなこの世の理や柵みを抜きにして、愛しいと想う。この手に触れたいと想う。こんなにも美しいひとがこの世界にいることを知らずに居た自分が本当に嘆かわしい。
「…いつまで、こちらに」
「んー、遠路遥々来たからな。取り合えず本国から帰国命令が来るか、俺が飽きるまでは居るつもりだ。ついでにお前の勉強を見てやるからな!」
その言葉にいつまで引き止めておけるだろうかと、日本は思う。ずっと、傍にいてほしい。出来れば、この腕の中に囲って、離したくないと思う。
「…ありがとうございます」
「…ん。あ、そうだ」
「何ですか?」
「土産があるぜ。色々、持ってきたからよ。楽しみにしてろよ!」
「はい」
屋敷に戻ろうか、そう言ったプロイセンを引き止めるように風が吹き、枝先が器用にプロイセンの短い髪に絡む。それに足を止めて、プロイセンは絡んだ枝に指を掛けた。
「短いのに絡まっちまった」
枝を手折れば容易いが、それが嫌なのか、プロイセンは困ったように眉を寄せた。
「あなたを気に入ったから、行かせたくないんですよ」
手折ることをしないのもまたプロイセンらしいと思う。それにしても、随分と器用に枝は絡まったものだ。桜の樹もこのひとを気に入ってしまって、自分のそばに留めておきたいのだろう。
「気に入った?誰が?」
「この桜の樹が、あなたを」
樹齢千年も超えれば、魂が宿る。日本の言葉にさわさわと花を付けた枝が揺れる。
「サクラの樹が?」
不思議そうな顔をして、プロイセンは桜の樹を見上げた。
「私の国には八百万の神がいます。年月を重ねれば、樹にも物にも魂が宿る」
「タマシイ?」
「心が宿ると解釈していただければ、解り易いですかね」
「そりゃ、すげぇ。…俺、懐かれたのか?」
プロイセンは驚嘆するように赤を瞬き、桜の樹を見上げた。
「ええ。だから、枝もあなたにわざと絡まって、離したくないのでしょう」
それにプロイセンは困ったように息を吐いた。
「…ずっと見てたいけどよ、ちょっと体、冷えてきたし。…また、明日、会いに来るから離してくんねぇかな?」
春先の夕暮れに足元から冷えてきて、プロイセンは小さなくしゃみをひとつ。それにさわさわと枝が揺れて、するりとプロイセンの髪に花一つ残して、名残惜しそうに枝先が銀糸を撫でて離れる。それに、小さく息を漏らして、プロイセンは日本を見やった。
「…すげぇな。お前んとこの樹は俺の言葉が理解出来るのか?」
「かれこれ、千年近くここにありますから、人の言葉も解るかもしれませんね」
「へー。…ってか、お前、俺より年上なのか。美人だから、そうは見えなかったぜ。…また、明日な」
ちゅっと枝の花びらに口付ける。褒め言葉と口付けに桜の枝が恥らうように揺れて、花びらを散らす。それに、プロイセンは目を細めた。
「…サクラは奥ゆかしいな。お前に似て」
伸びてきた指先が日本の黒髪に絡まった花びらを摘む。ふっと息を吹き、ひらりと踊る花びらにプロイセンは小さく笑うと、くしゃくしゃと日本の髪を撫でた。それに、日本は目を閉じる。

 花になりたい。

一瞬だけでも、あなたに愛でられる花に。…この桜の樹に嫉妬したと言ったら、あなたは笑うだろうか、呆れるだろうか…?

「明日は色々、お前のところを俺に見せてくれよな!」
「はい」

無邪気で可愛いひと。これ以上、あなたを好きになりたくない。息が詰まって、死んでしまう。

 

 

 

 私はこのとき、あなたの中にある覚悟を知らなかった。いずれ訪れるであろう消失の時、悔いを残さない為に、遠路遥々と私を訪ねてきてくれたことを。

 それを知ったのは随分と後になってから。

 あなたが今、ここにいること。私の傍にいる。…それは、本当に「奇跡」なんでしょうね。

 

「…お前、相変わらず、俺のことが好きで仕方ねぇみたいだな」

 

行く度に、プロイセンは髪を枝に引っ掛けられては、「約束よ」と花を一輪その髪に絡ませる。それに満更でもなさそうな顔をして、いつものようにその約束に口付けを返す。さわさわと重たげに花を付けた枝を揺らした。それに、目を細めたプロイセンの赤が緩む。その赤が日本の黒を捕らえ、それと同時に伸びてきた指先が頬を撫でた。

「…お前も、」

ざらついた指先が頬を撫でて、近づいてきた顔にぎゅっと目を瞑れば、唇に柔らかい感触。驚いて、一歩、後退れば、してやったり顔でプロイセンが笑う。

「いきなり、何、するんですか!!」

耳まで一気に火照った頬を抑え、日本はプロイセンを睨んだ。

「んー?お前もキスして欲しそうだったから、してやったんだろ?」

しれっとそう返されて、火照った顔が更に火照る。
「控えめなのもいいけどよ。もっと、こう、何て言うんだ?お前も、「私を見てくれなきゃ嫌です!」ってぐらい言わねぇと、俺様、どっか行っちゃうぜ?」
「…何ですか、それは…」
「解ってねぇなぁ。お前、この桜の樹を見習えよ。好きなら、ちゃんと口でそう言うか、態度で示せって。…時々、お前、控えめすぎて、ちょっと不安になるんだからよ」
口を尖らせて、プロイセンが言う。
「…不安なんですか?」
「…ま、なかなか会えなけりゃな。…仕方ねぇことだけど、俺はもう国じゃあねぇし、お前のお手本にもなれねぇし…、恋人って繋がりの糸を切っちまえば、本当に何もなくなるからな」
何でもないことのようにそう言う赤には焦燥は見えず、淡々と事実を口にするその唇が憎たらしいと思う。
「…伊達に、百年ちょっとあなたに片想いしてた訳じゃないです。やっと最近、両想いだって解ったのに、易々と私がその糸を切ってしまう訳がないでしょう。何でしたら、その糸、切っても切れないワイヤーに換えて差し上げますよ」
眉間に皺を寄せて言ってやれば、赤は驚いたように瞬いて、口元が緩む。
「お前の、そういうとこ好きだぜ」
「そういうとこ、ではなく、私が好きだとはっきり言ってください。あなたこそ、具体的な言葉など何一つ、私にくれたことなどないでしょう」
「…ワガママな爺だな、おい。…ま、いっけど…。もう一回、キスするか?」
「…返事になってませんよ」
「いいじゃん。俺が口にするキスはお前だけなんだから、光栄に思えよな!」
頬を撫でる手のひらに手のひらを重ねる。銀糸に花びらを絡ませて、プロイセンは小さく微笑った。

 


「…Ich liebe es.」
「私も、あなたを愛してます」


 

ああ、まったく、なんて、憎たらしくて可愛いひと!

 

 







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