自覚無しにドイツの理性を煽るプロイセンと、煽られてもぐっと耐えてしまうドイツの日常のひとこま。
[41回]
この兄は、俺の理性を試しているんだろうか?
目の前、目を閉じ心持ち、キスを待ちわびるるようなプロイセンにドイツはこっそりと溜息を吐いた。
ことの始まりは夕食後、プロイセンがやたらと唇を気にしているので、声をかけたのがいけなかった。
「どうしたんだ?」
「あー、唇、切れたみたいでよぉ。血の味がする」
赤い舌が薄い色の唇を舐める。それに一瞬、ムラッとくるが理性で押さえ、悟られないようにとドイツは眉間に皺を寄せた。
「舐めたら、余計に荒れるだろう。今、クリームを持ってくるから」
「おう」
プロイセンは素直に頷いた。ドイツはリビングを出、容器を手に戻るとその容器をプロイセンへと差し出した。生憎と男所帯な為、リップスティックはないが蜜蝋クリームならある。このクリームは手足の荒れや唇の荒れにも使える。ハンドクリーム代わりにドイツが使っているものである。
「手、汚れるから嫌だ。お前、塗ってくれよ」
差し出されたそれにプロイセンは億劫そうな顔をする。部屋は散らかし放題でも気にならない癖に、手や服の汚れをプロイセンは神経質に気にする。…昔は返り血浴びた軍服を着て、二・三日風呂に入らなくても平気そうな顔していたくせに…そう思いつつ、仕方無しにドイツは容器の蓋を開けた。クリームを指先で掬い、プロイセンにドイツは向き直る。プロイセンは何を思ったのか、目を閉じ、唇を僅かに尖らせ、顎を少しだけ上向けた。
「ん!」
(…って、何だ!!兄さんは俺にキスを強請ってるのか?!…ああ、くそう。押し倒してやろうか、本当にもう!!)
ムラムラッ…。
ミキミキッ…。
ドイツの眉間の皺はより深くなっていく。
…そして、冒頭に返る。
「?…まだかよ?」
「…あー、今、塗ってやるから…」
「ん!」
指先に触れたプロイセンの唇は予想に反して柔らかく、湿っている。
(ああ、この口に吸い付いて、口腔を嘗め回して、ぐちゃぐちゃにしてやりたい)
嬲るように二、三回、プロイセンの唇をなぞり、ぐにぐにと弄くり回してやりたいのを鉄の理性でドイツは押さえ込むと、クリームの蓋を閉めた。
「……終わったぞ」
「おう。ダンケ!」
つやつやとした唇で、嬉しそうに笑うあまりにも無防備なプロイセンに、
(ああ、本当にどうにかなってしまいそうだ!!)
またムラッとしてしまった自分の有り余る若さも持て余しつつも暴走出来ない自分を嘆き、ドイツは深い溜息を吐いた。