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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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01 . October



鬱々しい米英の小話。
普以外のカプを書くのは初めてだ。









拍手[3回]



 
 
 
 呂律も回らぬほど酔いつぶれて、肩を貸す腐れ縁の隣人を薄汚く罵りながら、覚束ない足でベッドへと辿り着く。呆れ果てて物も言わずに隣人に投げ出された綺麗に整えられた糊の効いたシーツの上はヤケに冷たく、イギリスは人肌が恋しくなる。酒で火照った肌が感じる空気が冷たい。視線を上げるも隣人の姿は疾うに失せ、ドアの閉まる音が鼓膜に寂しく響いた。
 
 キスがしたい。
 濃厚な脳まで融けるような、刺激的で獣臭い、肉塊を貪るような口付けが欲しい。
 
 望んだところで、隣人は自分を置いて部屋を出ていってしまった。一人ではキスは出来ない。イギリスは口寂しさに指を食む。ふやけるまでにしゃぶった指。唾液が尾を引く。イギリスはそれにひっそりと笑みを浮べた。その指を可愛い、可愛くない、それでも愛おしい、殺してやりたい、愛してる、愛してない…、自分の手を離れて、遠くに行ってしまった彼の唇へと押し付けたら、嫌な顔をして、自分をありったけの汚い言葉で罵ってくれるだろう。
 
 寂しい。
 
 そんな感情はあの雨の別れからずっと麻痺してしまってる。一時、荒れに荒れたあの時期を、自暴自棄に腐りかけたあの膿んだ日々を思い返すと、頭が痛くなる。忘れようとすればするだけ、嫌いになろうと思えば思うだけ、微笑みかける子どもの顔や、自分に触れた小さな指先の感触を思い出し、美しく幸せだった過去に縋り、過去の優しくも美しかった日々にこの身を押しつぶされそうになるのだ。
 
 美しいものなんかいらない。思い出は黒く塗りつぶしてしまえばいい。
 
 夜毎、娼館に入り浸り、阿片窟に籠り、与えられる快楽に酔った。あの頃、辛うじて残っていた人としての理性はふつりと切れた。紳士を気取ったところで、中身はだらしなく、淫乱。その場凌ぎだと解ってはいても快楽に流される方が楽だと骨の髄まで知ってしまっている。それでも、あの子どもの前では自分は清廉潔白でいたかった。清らかでいたかったのだ。…散々、男を咥え込んで、日毎、快楽に溺れていた男が笑わせる。滑稽だ。自分の本性がバレたから、あの子どもは手を振り払い出ていった。
 
 雨降る中、自分を見下ろしていたあの子どもはどんな顔をしていただろうか?
 
 雨で視界が煙って、霞んでしまって思い出すことも出来やしない。きっと、蔑んでいたのだろう。だって、自分は嫌われてる。まともに目も合わせやしない。返ってくる言葉は自分を引き裂くような鋭利なナイフのような言葉ばかりだ。汚い真っ黒な血がぼたぼたと切り裂かれる度に滴り落ちる。すべての血を失えば、真っさらな自分に戻れるならば、それも本望と煽るような言葉を吐いて、自分で自分を傷つける自傷行為を快感に思う。アメリカは言葉で自分を殴り、突き放す。殴るために触りたくもないだろう。どうしようもなく、自分は汚れているのだから。
 
 ふやけた指は乾き、その指を再び、イギリスは赤子のように咥え、目を閉じる。
 
 酔いは覚めた。今更な後悔と懺悔の言葉を唇は綴り、アルコールで高揚した感情を殺していく。…死にたい、今直ぐ。この世界から消えて無くなってしまいたい。そうすれば、アメリカは笑ってくれるだろう。幸せになれるんだろう。自分は真っ白な紙に一滴滲んだ黒いインクの染みだ。その染みはあってはならないのだ。ああ、消えたい。死にたい。死ねたらいいのに。内に籠り遠くなっていく耳に軋む音が響いた。
 
「…ああ、君は本当にどうしようもない奴だな。また、そんなことを言っているのかい?」
 
呆れた声。不意に手首を掴まれる。唇から滑り落ちた指から唾液が尾を引いた。何が起こったのか解らず、イギリスは視界を黒く覆う影を見上げた。
 
「そんなに、死にたいなら、殺してあげようか?…ま、君は殺したって死ななそうだけど」
 
巫山戯た言葉がイギリスの皮膚を裂いていく。イギリスはうっとりと目を細め、黒い影を見つめた。レンズの向こう、冷えた青い目がイギリスを見下ろしていた。
 
「…アメリカ」
 
可愛い、可愛くない、それでも愛おしい、殺してやりたい、愛してる、愛してない…、やっぱり愛してる。支配者である自分を支配した男、自分が慈しみ愛した可愛い弟…。
 
「…俺が死んだら、笑ってくれるか?」
 
あのきらきらとした優しい笑みを浮かべてくれるだろうか。だったら、死んでもいい。死にたい。アメリカに殺されるのなら、それもいっそ本望だ。
 
「笑ってあげないよ。俺は君を傷付け足りないんだ。死なせてなんかやらないよ。残念だったね」
 
アメリカは笑うと口端を引き上げた。それに、イギリスは微笑を返す。
 
「お前になら、いい…。何されたって、何だって…」
 
濡れた指でまだ幼さの残る輪郭をなぞる。アメリカはそれに目を細めた。意識を失うように落ちる瞼と指先。湿ったその指先をアメリカは赤子のように口に含んだ。
 
 傷つけても傷付け足りない。

 やさしく美しかった偶像は見知らぬ男の白濁で既に汚されていた。それを知ったと同時に自分の中にある薄汚い欲望に気がついた。それから目をそらし、イギリスを嫌いになろうとすればする程、憎めば憎むだけ、愛しくなる。欲しくなる。自分の欲望のままにイギリスを犯して、自分のものにしたくなる。そのくせずっと、彼にこのまま慈しむように愛して欲しいと望んでいる。この矛盾をぶつける矛先は、イギリスしかなかった。
 
 
「蔑みならも愛してるよ、君を…」
 
 
純粋ではなくなった汚れた愛情の行く先を、アメリカもイギリスも誰も知ることは出来なかった。
 
 
 





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