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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
19 . May
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02 . March


(色んな意味で)救いようのない話ばかり続いたので、初心に返ってほのぼの。
和め~。







拍手[26回]



 

 …一週間、兄さんに会えないのがこんなに堪えるとは、思わなかった。

 

 遠くドイツより離れたアメリカの地で、ドイツは憔悴した顔で深い溜息を吐く。…たかが一週間、されど一週間…。40年の断絶を経て、取り戻したプロイセンに深く依存しているのはドイツである。回りは逆だと思っているが、プロイセンは存外、けろりとしたもので、構えと煩いくせに構われすぎるのも嫌なようで、すぐに逃げてしまう。自分が構う分には構わないと言うのだから、どれだけ天邪鬼なのだ。
プロイセンは自分が居ようが居まいが、一人で楽しくやっているのだろう。寧ろ、口煩い自分がいないことをいいことに羽根を伸ばしているかもしれない。もしかしたら、どこかに行っているかも知れない。たまにふらりと書置きもなく携帯も持たずにいなくなって、心底、心配させるような人だ。子どもではないのだからと思うが、自分の手の届く範疇に居て欲しいと子どものような我儘を思ってしまう。

 しかし、まとまらない会議は漸く、…否、無理矢理終わらせた。

ドイツは慌しく荷物を纏めると、引き止めるアメリカを振り切り、我が家に戻るべく急いだ。

 

 

 


フランクフルトからベルリンの我が家に漸く帰り着いた頃には日はとうに沈み、日付も変わろうとしていた。
(…兄さんはもう寝てしまっただろうか?)
街灯の明かりはぽつりぽつりと足元を照らすが、辺りは暗く、しんとしている。そんな家路を急ぎ、ドイツは鍵を取り出し、ドアを開く。その微かな物音に真っ先に駆けつけたのはドイツの愛犬達である。その犬たちの頭を順に撫でていると廊下の奥のバスルームのドアが開いた。それにドイツは視線を上げる。シャワーを浴びていたらしいプロイセンがタオルで頭を拭きながら出てきたところで、ドイツに気付いてちょっと驚いた顔をすると、嬉しそうに破顔し、たたっと寄って来ると大きく腕を広げた。

「お帰り、ヴェスト!お疲れ!」
「ただいま。兄さん」

素肌を抱く。風呂上りの石鹸の柔らかい香りがドイツの鼻を擽る。思わず、ぎゅうっと抱き締めれば、同じようにぎゅうと抱き締め返された。
「…何か、すげー久ぶり」
「ああ。…俺もだ」
両頬にキスを交わす。まだ水分を含んだ髪が頬を滑り、ドイツは手にしていた鞄を下ろすと、プロイセンの首に掛けられたタオルを手に取った。
「ちゃんと拭いてから出て来いといつも言ってるだろう?」
「お前が拭いてくれるからいいじゃん」
丁寧に恭しいものに触れるような手つきでドイツはプロイセンの髪を拭う。帰ってきた当初、酷く痛んでいた髪は今は柔らかく指触りの良いものに変わった。赤い目を細め、プロイセンはどうにかすれば猫のように喉を鳴らしそうな顔をしている。それを見やり、ドイツは自分の中にあった不安だとか、寂しいといった負の感情が薄れていくのを感じる。未だ上半身を晒したままのプロイセンにドイツは手を止め、二階に上がる。プロイセンも後を付いて行く。プロイセンの部屋のクロゼットを開け、ドイツはパジャマの上を取り出すとプロイセンに羽織らせ釦をひとつひとつ無骨な指先で止めていく。それをプロイセンはされるがままに見下ろした。
「一週間、兄さんは何してたんだ?」
「…ん?…犬連れて、スイスんとこに行ってた。演習を手伝えって。アイツ、人使い荒ぇんだよな。…んで、先、帰ってきたとこ」
「…だから、電話に出なかったのか…」
家の様子が気になって…と言うより、プロイセンの声が聴きたくて何度も何度も電話を掛けたし、メールもした。出ないから躍起になってかけ続け、送り続けた履歴は自分の名前で埋め尽くされているだろう。ドイツは溜息を吐いた。
「…あ、わりい。携帯持っていくの忘れた」
ドイツの心配などやはり何処吹く風でプロイセンはちらりとテーブルサイドのアイスブルーの携帯に視線をくれ、悪びれもせずにケセっと小さく笑った。
「……そんなことだろうと思った」
深い溜息を吐いて、一番最後の釦を留め終えたドイツはプロイセンを見やった。
「仕方ねぇだろ。スイスの奴、急に言ってくるんだぜ。俺だってヒマじゃねぇのによ。…で、お前は?会議はどうだった?」
暇だろう、あなたは…と言う言葉を飲み込み、ドイツは首を絞めているネクタイを漸く緩める。プロイセンとの他愛のない会話に少しだけ気が抜けた。
「いつも通りだ。イギリスがフランスとくだらないことで喧嘩を始める。それに、アメリカがちょっかいを出す。日本はそれをおろおろと見てるし、ロシアはにこにこ笑って見ているだけだ。イタリアは昼寝を始める。中国は中国で料理人を会議室に連れ込んで……思い出すだけでも、頭が痛い」
プロイセンはドイツの眉間の皺をぐりぐりっと解すとキスを落とした。
「お疲れ。…シャワー浴びて来いよ。久しぶりに一緒に寝るか?お兄様が添い寝してやる。疲れも吹っ飛ぶぞ?」
「…そうだな」
嗅ぎ慣れた石鹸の香りに混じるプロイセンの体臭はいつだって、自分を安心させてくれるし、落ち着かせてくれる。ここが、このひとのいるところが帰るべき場所なのだと思う。…ドイツは離れがたく思いながら、階下のバスルームに向った。

 

 


バスルームから出てくると、キッチンが明るい。ドイツはキッチンを覗く。鼻歌を歌いながら、プロイセンが何かを作っているらしい。

「兄さん」

声を掛けると、プロイセンはドイツを振り返り、笑う。
「出たか。カップ、二つ取ってくれ」
「ja」
食器棚から色違いのお揃いのマグカップを二つ。プロイセンはそれに温めたミルクを注ぎ、棚からブランデーを取り出すと、小さじ一杯。それをドイツのカップに入れ、掻き混ぜた。
「…ホットミルクか」
「よく眠れるだろ」
温かいカップを手のひらで包む。プロイセンとドイツはリビングに移動し、照明を落とした部屋のソファに腰を下ろした。
「兄さんとゆっくりするのは久しぶりだ」
「んー、そうだな。お前、忙しそうだったしな」
まるで昔と逆だなと笑って、プロイセンはカップにふーふー息を吹きかけ、ミルクを啜る。それにドイツは目を細めた。
「…昔は、兄さんがいつ帰るか気が気じゃなくて…玄関で、待ってる間に寝てしまって、気が付いたらベッドの上で…「おかえり」も「いってらっしゃい」も言えなくて、随分とへこんだこともあったんだ」
甘い香りにつられていつもは言えないようなことも言える気がする。少しは甘えてみようかとドイツは口を開いた。
「玄関でお前、寝てるし、俺、よく吃驚したんだぜ。何か擽ってぇ感じに嬉しかったなぁ」
ケセセ…と、プロイセンは懐かしむように小さく笑った。
「…小さい頃のお前の気持ち、今になってよく解ったぜ。…でも、待つのも悪くないよな。お前はちゃんと俺のところに戻ってくるんだって解ってるから。それだけで、安心できるし、俺がどこかに出かけても、お前が「おかえり」を言ってくれると、今でもほっとする」
「…そうか」
「ん」
どちらからともなくほんの少しだけ空いた距離を詰める。それにプロイセンは目を細めた。
「……お前は昔も今も、温かいな」
「……兄さんはいい匂いがする」
昔は硝煙と血と…それから常にプロイセンに纏わりついていた滅び逝くものの甘美でそれでいてせつなくなるような匂いは、すっかりとその身から薄れていた。今、プロイセンから匂うのは石鹸の淡い香り、ミルクの仄かな香りのみだ。ドイツは目を閉じる。

 


「ただいま。兄さん」
「おう。お帰り。ルッツ」

 

 

オワリ






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