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「Axis Powers ヘタリア」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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04 . April

七年戦争末期。

親父をやっと出せた。詰め込みすぎてぎゅうぎゅう。
悪人なのはプーなハズなのに、オーストリアさんの扱いが酷くて、貴族ファンの方には読むのをおすすめしない。

引用・参考 清水書院 フリードリヒ大王 啓蒙専制君主とドイツ

4/5 加筆修正






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 屍の上に築かれた玉座に座る黒鷲は、一羽でいい。
 
 

 お前は覚えてはいないだろう。どんなに俺がお前を憎んでいたか。そこに座るべきはお前ではないと言うのに、お前は玉座に座っていた。その前で傅いた俺がどんなに憎悪を滾らせ、初めて神を憎んだ日のことは昨日のことのように俺は思い出せる。

『東方へ、神に従わぬ者の征伐を命じます』

告げられたのは実に美しい体のいい「追放」の言葉だった。でも、お生憎様とでも言ってやろうか。それで、俺が野垂れ死んだら幸いだったんだろうが、俺はお前のお陰で領土を領民を手に入れた。それに関しては礼を言うぜ。

 お前に苦しい、飢えていた時代があったか?

 いや、ある訳ないよな?お前は戦うことを止め、結婚を繰り返すことで領土を拡大し、戦争を回避する楽な方法を選んだ。そして、あいつの玉座すら奪い、最後には居場所さえ奪った。自分の事だけがすべて、自分の保身がすべて。神聖ローマ帝国の名の権威を振るうのは、臆病者だと思われたくないからだろう?瓦解しかかっている帝国の為?それは嘘だ。すべてはお前自身の保身の為だ。…そして、この戦争もロシアとフランスを頼みとし、戦争に赴くこともなく、城の中で自国の負担を軽くしようなどと策してるお前に、この俺が負けるものか!

 どんなに苦しくとも、俺は諦めない。
 戦場に立つことも出来ない臆病者に負けるものか!!

 俺はひとりなっても戦う。
 俺は騎士だ。
 信じる者の為に命を投げ出すことに、何の躊躇いを覚える必要がある?

 

 王冠を戴く黒鷲は、一羽でいい。
 この戦争はお前から、あの小さな王に王冠と玉座を再び取り戻す為の聖戦だ。


 

 
 

 1759年 クーネルスドルフの会戦。

 この会戦でプロイセン軍は大砲172、死者6000、負傷者1万3000の損害を出し、完全に敗退した。
 

 陣営のテントの中、王は人を払い、手中の毒薬を弄ぶ。それを満身創痍の青年が杖を付き、ただ王を静かに見つめている。しんと静まり返った静寂の中、王は口を開いた。
「…もはや万策は尽きた。祖国の滅亡を私は見たくはない」
「…そうか。お前はこれで諦めるのか」
毒を手にした王にプロイセンは口を開く。王は顔を上げ、疲れ澱んだ目でプロイセンを見つめた。
「兵の大半を失った。明日にでも攻め込まれれば、ベルリンもマルク地方も安全の保障は出来ぬ。シュレジェンにおいても、ザクセンにおいても、敵軍に完全に主導権を握られた。再建の道は途絶えたのだ。プロイセン」
「それで、お前は死のうと言う訳か。笑わせるな。まだ、お前の国は死んじゃいねぇぞ」
青褪めた顔で青年はそう吐き捨てると、王を睨む。そして、口端に薄い微笑を浮かべた。
「別に俺は今、死んだっていい。…本当はずっと心の奥底でこうなることを、お前は望んでいたんだろう?…お前は俺を憎んでた。…そうだよな、お前の親友を奪ったのはお前の父とこの俺だ。まさに、今、俺は、「プロイセン」という国は風前の灯だ。俺の命はお前が握っている。…いいんだぜ?…これでお前の気が晴れると言うなら、このまま俺を、プロイセンを見殺しにしろ。国民も領土も全て失え。俺を今、ここで殺して、復讐を完遂しろ。俺はオーストリアやその連合国に殺されるんじゃない。お前に殺されるんだ。お前はこの国の、俺の王として、俺が死んでゆくのを最後まで見届けなければならない義務がある」
かつかつと杖が地面を叩く。フリードリヒの手にあった薬瓶をプロイセンは掴んだ。
「俺はお前の王であり、僕だ。お前が王であり、俺がお前の僕であるように。お前と俺は一心同体だ。自分だけが苦しいと思うな。お前を信じ戦ってきた兵士達はどうなる?あいつらは誰の為に戦ってる?お前と俺の為だ。死線に恐怖に怯えながらも勇気を奮い戦ってきたその兵士達にこの国は終わりなのだと、仕方が無い諦めろと、お前は告げられるのか?…その覚悟はあるのか?」
「俺を憎みたければ、いくらでも憎むがいい。俺がお前の「国」だ、「プロイセン」だ!戦うことを止めたら、俺には何も残らねぇ。蹂躙されるぐらいなら、今、ここでお前と死ぬことを選ぶ。…さあ、俺が悶え苦しみ、死んでいく様をその目に焼き付けろ、フリードリヒ!!」

「寄せ、プロイセン!!」

瓶の蓋を緩め、プロイセンは叫ぶとその瓶を口元へと運ぶ。その手を王は払う。荒く吐いた息。項垂れる王。砕け散った入れ物と敷布に広がった染みを見やり、プロイセンは視線を上げた。
「…なあ、フリードリヒ、こんもん飲んだって楽にはなれねぇぞ?お前がこの国の王だ。お前が始めたことなら、お前が自殺して終わりなんて、この戦争を過ちであったと思わせないでくれ。俺はこんな終わりは嫌だ。どうせ死ぬのなら、二人で戦場で死のう。お前が自殺して終わりだなんて、こんな馬鹿な結末にしてくれるな。お前が戦争を始めたとき、俺はお前に殉じる覚悟をした。お前が死ぬときは、俺が死ぬときだ。…フリッツ、俺はお前を愛してる。お前を死なせたくはない。だから、俺を信じろ。俺はどんなに辛い戦さも耐え抜いて、「プロイセン」になった。俺には神がいる。その神がいる限り、俺は戦える。お前が俺を信じる限り戦える、諦めるな、諦めてくれるな…!!」
王の軍服の襟元を掴み、叫んだプロイセンの痩せた指先がカタカタと強張り震える。強い光を持って青は輝いている。王は言葉も無くその青を見つめ返した。
 虚ろな王の青い双眸を見、プロイセンは諦めるなと懇願を繰り返す。…この王を今失えば、この戦争は負けてしまう。敗者になどなりたくない。また見下されるなど二度と御免だ。そして、この王を失いたくはない。憎んでいた自分を愛すると言い、その言葉の通り、王はプロイセンを愛した。初めて、「父」と呼び、慕うひとをどうして失いたいと思うものか。
「お前が諦めたら、何が残る?…何も残らない。お前は死して、愚王の謗りを受ける気か?なら、俺の手を振り払え!!」
青は責めるように王を見つめる。王は疲れた声でプロイセンへ力なく言葉を返した。
「…プロイセン、お前はこの厳しい戦況にあって何を望むのだ。万策は尽きた。頼れるものも無い。明日をも知れぬのだぞ?」
「それが何だ?死線を俺は何度も潜り抜けて来た。こんな苦境、屁でもねぇ。俺はあの小さな俺の王を今一度、玉座に据えるために生かされてる。それが俺の天命だ。転機は必ずある。奇跡は起こる。俺を信じろ!フリッツ!親父!!」
王は瞳を閉じ、息を吐く。きつく襟を掴んだプロイセンの指先に王は触れる。…こんなに傷だらけの身になっても、この「国」は諦めないというのか。…この「国」の王として即位し、自分の前、服従を誓ったこの国に、私は誓ったのだ

『私はお前を愛そうと思う。お前のために、私は私のすべてをお前に捧げよう』

その言葉を違えるつもりかと、青い目はそれを責めているのか。…ああ、でもその言葉は嘘ではない。お前を愛することが、私が愛した親友の死の復讐なのだ。…でも、誤算が生じた。私はお前を本当に愛してしまった。だから、失いたくはない。私の命ひとつで、お前が救われるのならそれで良いと思った。でも、それを許さないと言うのか。

「…お前を信じよう。私に残されたものは今や、お前だけだ」

この愛に殉じることが生き残る術ならば、それに縋ろう。この手にあるものは、満身創痍に傷ついた我が「国」だけだ。私を見つめるプロイセンの双眸に滅びの兆しは見えぬ。煌々と深さを増し、青は煌いている。この光が失われたときに、この「国」は終わるのだろう。まだ、この「国」は生きている。活路はある。


 王は自殺の考えを捨てた。
 そして、奇跡は起こった。


 オーストリア軍とロシア軍は連合して、総攻撃に出てこなかったのである。プロイセンは最大の窮地を脱し、王は軍の建て直しを計るべく守勢に回り、この苦境を一年凌いだ。
 王も女帝も後に退くことは出来ず、長く結末の見えなかった戦争は転機を迎えた。冬営中のテントに走りこんできた訃報を伝える伝令が、すべてを終息へと動かしていく。

 1762年 ロシアのエリザベータ女帝崩御。ピョートル三世即位。

 これにより、クーネルスドルフの敗戦後、苦戦を強いられていたプロイセンを取り巻く戦況は大きく変わった。ロシアの敵意はエリザベータのフリードリヒに対する個人的な憎悪であったが、これに反し女帝の甥である新帝はかねてからフリードリヒに深く心服しており、即位後すぐにオーストリア軍と協力していたチェルニシェーフ軍団を召還し、かついっさいの領土的要求を含まずにプロイセンと講和条約ならびに同盟を結ぶことに同意した。 

 ロシアがプロイセン側に付いたことにより、戦況は変化。この情勢の好転に気を緩めることなく、王はロシア軍の来援もあり、攻勢を強めていった。…が、事は上手くは運ばぬものである。ピョートル三世が皇后の手により廃位、弑逆され、皇后エカテリーナ二世が即位。ロシアは講和条約は承認するが、同盟条約は批准せず、軍を引き上げる旨を伝えてきた。再び、プロイセンは独力で戦うことになったが、王は決して退こうとはしなかった。
 この間、イギリスとフランスとの間で講和交渉の進捗により、フォンテンブローの仮条約の成立。これにより、フランスはドイツにおける戦闘を停止した。
 フランスも手を引いた。これにより、オーストリア軍の士気は著しく低下し、疲弊した兵士たちを最早戦争に駆り立てる術を女帝は持たなかった。


 翌年二月、フベルトゥスブルク条約調印。
 女帝は要所を諦め、最後まで諦めず、この七年間を戦い抜いた小国の王に屈した。

 


 ザクセンの仲介に寄り、ライプツィヒ近郊フベルトゥスブルクで講和条約調印の為に場が設けられた。

 大きなテーブルを挟みオーストリアは開かれたドアの向こう、椅子に腰を下ろした王とその傍らに微動せずに立つ満身創痍の青年に目に留め、足を留めた。オーストリアに気づいた王が顔を上げた。深く澄んだ青い瞳がオーストリアを捉える。

(…これが、プロイセンの王か…)

オーストリアは足を進め、テーブルを挟んで、王と対峙した。
「…テレジアは気分がすぐれないとのことで、私が代わりに調印に伺いました。お初にお目に掛かります。オーストリアと申します」
「…貴君が…。構わないよ。彼女は私には会いたくないだろうからね」
王は鷹揚に頷くと、用意されていた二通の調印文にサインを入れ、オーストリアへと差し出す。それにオーストリアはサインを入れ、そのうちの一枚を手に取った。それを傍らで青年は見つめている。その青年の身体からは血の膿んだ匂いがし、軍服の袖口からは白い包帯が見えた。重傷の身でありながら、何故、彼はここにいるのか?オーストリアは初めて、正面に青年を見やる。青紫色の瞳がぎょろりと動き、オーストリアを見つめる。血の気の引いた薄い唇が弧を描く。

「戦場では終ぞ会わなかったな、オーストリア。俺が怖くて、城にでも籠もっていたのか?」
「…失礼な。口の訊き方がなっていないようですね」

揶揄の籠もった言葉にオーストリアは眉を上げる。「国」が表立って戦場に立つ必要などない。オーストリアが青年を睨めつければ、青年は可笑しそうにくつくつと笑った。
「…失礼?…口の訊き方がなってない?…フン、何で俺が、敗者のお前に諂わなきゃならねんだ。でも、俺は今、とても気分がいい。…どうだよ、昔飼ってた犬に手を噛まれた気分は?」
オーストリアは王に視線を向けるが、横柄で無礼な口を訊く青年を諌める気はないらしい。成り行きを見守るように口を閉ざしている。オーストリアは眉間に皺を寄せた。
「私はあなたのような躾の悪い犬を飼ったことなどありません。あなたの勘違いでしょう」
「ああ。そうだろうな。拾っておいて、用が無くなくなり次第、即座に捨てたなら覚えてもいないだろうさ」
獰猛な犬が吐き捨てるように笑い、青い双眸が炎のように揺らぎ憎悪を滾らせる。オーストリアは初対面にも等しい青年にこのような口を訊かれ、憎しみを持って睨まれるのか解らないままに青年を見つめ返す。こんな目で見つめられたことなど一度もない。恨まれる覚えも無い。寧ろ、恨むとしたら要所を奪われた自分の方だろう。オーストリアは口を開いた。
「あなたの仰ることが理解できません」
その青い双眸を恐ろしいと思う。だが、怯む訳にはいかない。自分は女帝の名代であり、「国家」なのだ。神聖ローマ帝国を仕切る自分が失墜を認めれば、他国に、この国に更に侮られる。オーストリアは青年を見つめ返した。
「理解出来ません…か。理解したくねぇの間違いだろ?…でもまあ、オーストリア、本当に残念だったな。二度もチャンスがあったのに、俺を殺すことが出来なくて」
にやりと薄い唇を歪めた青年に、あの日の子どもの姿が不意に重なる。

『いつか、お前を足元に這い蹲らせてやるぜ。覚えてろ!』

そう言い、自分を見上げてきた子どもの瞳は憎悪に滾った血の色をしていた。でも、この目の前の青年の目の色は、青い。

「…あなたは、」

目の前の青年が「プロイセン」自身なのか。聖母の名を持った子どもだったと言うのか。…オーストリアは青年を見つめ、言葉を失くした。

 国でもない、ひとでもない、得体の知れぬ存在。神聖ローマに帝国に現れた異端の黒鷲は、まさに禍の象徴として、自分に襲い掛かってきた。

『お前を脅かし、その身をいつか食らってやる!』

異端の赤い目をぎらつかせ、叫んだ甲高い子どもの声がオーストリアの中を反響する。教養も持たず剣を奮う意外、何の役にも立たない粗暴で厄介者の「ドイツ騎士団」。用済みとばかりに帝国から東の未開地へと追い出した。初めて会ったときから、嫌悪と憎悪しか感じなかった彼が、あの子どもが今、自分の前に立っていると言うのか。

 この戦争の、「勝者」として。

「…プロイセン…」
「ああ。俺がプロイセンだ。オーストリア」
全身から濃い血の匂いを放ち、今にも倒れそうな青ざめた顔をした瀕死の青年が、あのときの子どもだと言うのか。

 ああ!何故、私はあの子どもをあのとき殺しておかなかったのだ。あのときならば、私は何も損なわずに済んだ。そうすれば、プロイセンという国など、存在すらしていなかっただろうに!

「…幸運がいくつか重なったが、俺は生き延びた。俺が勝った。…俺には仕える神がいる。だから、俺が負けるなんて有り得なかった。そして、俺にはフリッツがいた!」
誇らしく高らかに上げた声。青い瞳が煌々と輝き、オーストリアを見つめ笑う。

「オーストリア、シュレジェンをどうも有難う。この身の糧にさせて頂く。お前は目先の利益に目が眩み、あのとき俺に止めを刺さなかったことをずっと悔やみ続けろ。そして、女帝と女々しく嘆くがいい。それがお前には似合いだ」

恭しく一礼し、顔を上げにやりと低く笑った声に侮蔑が混じる。屈辱にオーストリアは唇を噛み、踵を返し、振り返ることなく部屋を出て行く。それを見送り、王は口を開いた。

「…和平公約だと言うのに、講和相手を怒らせてどうする気だ? 戦争はもう御免だよ。プロイセン」
「フン。アイツは戦場に出て、剣も取れない腰抜けだ。吹っ掛けてくるものか。ロシアもフランスも手を引いた。国境には協約の期限の満了したトルコ軍が集結している。俺と一戦交える余力すらねぇだろ。何だったら、トルコと協力して一戦交えて、今度こそ這い蹲らせてやりてぇくらいだ」
面白くなさそうにそう言い、プロイセンは息を吐く。それを王は見やる。
「…お前はあの青年が嫌いなのかね?」
「ああ、大嫌いだ。偽善者面しやがって。ひとりじゃ何も出来なくせによ」
吐き捨てるようにそう言い、プロイセンは瞳を閉じ、息を吐く。…オーストリアの何もかもが嫌いだ。その存在すら認めたくないほどに。…でも、オーストリアはあの小さな王の身内だ。オーストリアを弑い、ハプスブルクの栄華が辛うじて生かしている小さな王を失うことは出来ない。…すべてを掌握し、玉座と王冠と奪うには時間が必要だ。まだ、時機は来てはいない。耐えなければならない。…でも、この勝利は大きい。…プロイセンは心を落ち着かせるように息を吸うと、王の前、静かに膝を折った。それを王は見下ろした。

「親父、最後まで諦めずよく戦い抜いてくれた。礼を言う。有難う」

「何を言う、プロイセン。戦争を始めたのは私だ。そして、私は長引く苦境に一度は戦い抜くことを諦めた。お前があの時、私を止めたから、今があるのだ。お前はその身体で、軍の先頭に立ち続け、兵を鼓舞し続けてくれたからこそ、この勝利がある。お前はよくこの苦境を耐えてくれた。そして、無理をさせた。…すまなかった」
椅子から下り、王は膝を着くとプロイセンの青褪めた頬を撫でる。その慈愛を持ったやさしい瞳と指先が擽ったくも嬉しい。
「今更、何言ってんだ!謝んなよ。謝るくらいなら俺様をもっと誉めろ!讃えろ!!」
「ああ、お前はよくやった。頑張ったな」
肉厚な手のひらがプロイセンの頭を撫でる。それにケセっと小さくプロイセンは笑い、目を細めた。
「坊ちゃんの悔しそうな面見れただけでも、この戦争には価値があったぜ。…早く、帰ろうぜ、ベルリンへ。みんな、お前の帰りを待ってる」
「ああ、そうだな」
立ち上がり、ふらついたプロイセンの身体を王は手を差し出す。
「大丈夫。凱旋だ、胸を張って帰ろうぜ。親父!」
それを制し、プロイセンは背筋を伸ばすと自分の足で立ち、負傷した足を引きずりながらも王の傍らに立ち歩く。

 本来ならば立ち上がることも、歩くことも出来ぬ身体でありながら、それでもなお自分の足で立とうとする国が、王には堪らなく誇らしく愛しくてならなかった。
 


 
 
 王とその国がベルリンに凱旋したのは、木々に固い蕾が付き始めた三月のことであった。
 
 


 
 春の訪れに、神聖ローマは目を細める。

 四季はゆっくりと確実に移ろいゆく。王とプロイセンが戦場より凱旋したとは訊いたが、プロイセンは屋敷に戻る気配がない。真っ先に戻ってきてもおかしくないと言うのに。…それを心配しつつ日々を過ごしていた神聖ローマの元にポツダムのサンスーシからの使いが訪れたのは、凱旋から一週間が過ぎた日のことであった。

 

『親愛なるプロイセンの兄上殿へ

無理が祟りましたようで、プロイセンは床に着いて下ります。頻りに譫言で貴君の名を口に致します。無理にとは申しませぬが、我が宮殿まで、プロイセンの為に御足労願えぬでしょうか。

フリードリヒ』

 

王からの書状を開き、返事をする手間をも惜しみ、神聖ローマは用意された馬車に乗った。
 
 

 宮殿に着いたのは日もとっぷりと暮れた頃だ。馬車を降りた神聖ローマは侍従に案内され、宮殿の奥へと向う。

「こちらです」

案内された部屋のドアを開けば、枕元、壮年の男の背中。それに足を留める。男は神聖ローマに気づき、立ち上がった。
「…貴君が神聖ローマ帝国殿か」
「ああ、そうだ。あなたが、フリードリヒ王か?」
「そうです。御足労、痛み入ります。…プロイセンは今は眠っております。どうぞ、こちらへ」
場所を譲られ、神聖ローマはプロイセンの枕元へと立つ。顔色は戦時中に比べ、大分、マシになったものの、戦争は国力を疲弊する。痩けた頬を撫で、髪を梳く。それにプロイセンの寄せられていた眉間の皺が緩み、荒かった息が収まっていく。それに神聖ローマは硬かった表情を緩ませた。

「…愚弟が。心配をかけるな」

ああ、生きて戻ってきた。この手に。…それだけで、ほっと胸にあった不安が払拭されていく。神聖ローマは安堵の溜息を吐いて、フリードリヒを見上げた。
「…よくぞ、耐えたな。オーストリア率いるハプスブルク家に」
「プロイセンも私も、悪運が強かったようです。色々と小さな幸運に恵まれた」
フリードリヒは神聖ローマに笑みを返す。
「…プロイセンから話は訊いております。一度、貴君にお会いしたかった。よろしければ、お泊りください。部屋を用意してあります」
「有難う。おれもあなたに一度、会ってみたかった」
「それは光栄です。…夜は長い。よろしければ、私の部屋でお話でも」
「喜んで」
神聖ローマはそれに頷き、プロイセンの頬を名残惜しげに撫でると立ち上がる。
 


「Schlafen Sie langsam.Preußen」
 


この手に騎士は命を落とすことを無く戻ってきた。それだけで心が安らぐ。ささやかな安寧に幸福を感じ、心穏やかに終焉を待つ神聖ローマの口元に浮かぶ笑みに、フリードリヒは目を細めた。
 
 
 


おわり



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