フルートを片手に庭に息抜きがてら出てみれば、小鳥の歌う声がする。程好い木陰に置かれたベンチには見慣れたプルシャンブルーのコートの裾と淡い色をした金の髪。そのベンチの背もたれには小鳥が止まり、プロイセンに子守唄を聞かせるように囀っている。
(…前から思っていたのだが、何故か小動物によく懐かれるな。我が国は…)
小鳥だったり、兎だったり、プロイセンがこうやって寝ていると寄ってくるのだ。…起きれば、直ぐに逃げ出してしまうのだが…。
「こら、プロイセン、風邪を引いてしまうぞ」
すーすーと寝息を立てて、眠るプロイセンを見下ろし、フリードリヒは小さく笑い、金の髪を梳く。それにへにゃりと崩れる表情。
「仕方のない奴だ」
起きる気配はない。日が暮れるまでには時間があるし、寝かせておこうか?フリードリヒは羽織っていたマントをプロイセンの身体を覆うように被せてやり、フルートを構えた。
ドイツの場合
「また、こんなところで。兄さん、風邪を引くぞ、兄さん!!」
リビングのソファはプロイセンのお気に入りである。そこで雑誌を読んだり、DVDを見たり、携帯を弄ったり、ゲームをしたりと…一日の大半をそこで過ごす。そして、昼寝の場所もそこである。
「…はあ」
(どうして、飴を咥えたまま寝てるんだ?)
スペインからもらったらしいチュッパチャプスを咥えたままで、肩を揺すろうがプロイセンはびくりともしない。それにドイツは諦めの溜息を吐き、寝室からブランケットを手に戻ってくる。それを掛けてやる。
「…ふあ」
頬を掠めたブランケットの起毛がくすぐったかったのかプロイセンは声を上げた。一瞬、起したかとドイツはプロイセンを伺い、赤面した。
「…んっ、あみゃ…」
眠っているはずなのにもぐもぐと動く唇。赤い飴玉をしゃぶる赤い舌先。口端を流れる涎。
兄さんは俺の理性を試しているんだろうか?
その涎を拭った指先に口付け、ドイツは顔を赤くしたまま深い溜息を吐いた。
日本の場合
「師匠、眠いなら布団を敷きましょうか?」
炬燵の中でごろごろ。温もって眠くなり始めたらしいプロイセンの目蓋がとろりと落ちるのを見て、日本は声をかける。
「…あー、布団冷たいからヤだ。ここで寝る」
「気持ちは解りますけどね。風邪を引きますよ」
「…冷たいの、嫌なんだよ」
「我儘言わないで。ほら、布団敷いてきますから」
「…うー。じゃあ、日本、俺様に添い寝しろ!」
「なんて、拷問ですか?それ」
「拷問じゃねぇ!!添い寝だ!!お前が温いことを俺様は知ってるぞ。嫌だと言うなら、俺はここを動かねぇからな!!」
炬燵を抱え込むようにして、天板に頬をぺたりと張り付かせたプロイセンが唇を尖らせ、日本を見上げる。
(…ああ、可愛すぎます!師匠!!萌るんですけど!!)
デジカメを手にしていないことを悔やみつつ、日本は口を開いた。
「…布団の中で、色々してもいいと言うことでしたら、喜んで添い寝してさしあげますが」
にっこりと日本が笑みを浮かべれば、プロイセンの表情は反対に一気に硬化した。
「…やっぱ、添い寝はいらねぇ」
「それは、残念。その代わり、湯たんぽを準備してあげますから」
日本はお湯を沸かすべく立ち上がった。